ずっと恐れていた。
いつか来るその日を。



誰かを愛する―――それは自分の業に相手を引きずり込むことを意味していて。
苦しめ悩ますことと同義でしかない。
だから、何度となく誰も愛さないと固く誓った。

それでも、心は求めつづける。
いつか巡り合う唯一の人を。
苦しめるだけしかできないことを承知で、心を満たしてくれる誰かを。



そして、訪れた刻。



刹那、全てを理解した。
叶うべくもない恋。絶対に相手を苦しめることはない恋。
恐れなど初めからなかったかのように霧散した。それは、まるで夢から覚めた感じ。


人は、自分にないものを相手に求める。
だから、愛した人は正反対の位置にいる。
これから先、何かを欲することがあっても結局それは無いもの強請り。


なんて。
本当は、心のどこかでわかっていた。
執着もなく、あっさり手に入れることはできないと答えを出すくらいだから。
最初から自分に掴めるものなど何一つなく。望み欲することすら、許されてはいないのだと。
これまで何にも心を揺るがさなかったのは、全てを諦めきっていたからに他ならない。


それこそ、夢を見ていた。
いつか誰かを愛する日が来るという物語を。
白い衣装と引き換えにしたモノを直視したくなくて、"いつか"を仮想し恐れることさえ楽しんでいた。

暗闇に独り。
いままでも、これからも。ずっと変わらないこと。
己の正義のためでも、罪を犯せば科せられる罰。
だけど、救いを見出した。
蒼い瞳と出逢った瞬間、心の奥底から溢れ出た感情。

闇のなかで生きていくオレの、足元を照らしてくれる光。
愛するひとが幸せでいてくれれば。穏やかな微笑みを見せてさえくれれば。心は満たされ凍えることはない。


きっと、幸せとはこんなもの。
それだけで、十分だった。













April Fools' serenade 2 














月日は流れても、変わることなく輝いている月と。
地上の喧騒とは裏腹に、静かでひっそりとした空間。


いつも、何かを期待したり何かを与えてもらいたいと思って来ているのではない。
ただ、虚構の仮面を脱ぎ捨てて、自分自身でいられる場所というだけ。
犯した罪を忘れ、安息を得る。
それは、自分の中で唯一きれいといえるものを生み出したところだったから。

愛した人の姿を思い描き、幸せであることを祈って。
苦しめるものがないことを願って。

そうやって過ごす時間が自分にとっての救い。
また暗闇で独り、歩きつづけられる。


だが、それも今日で終わり。



淡々とした口調で語られたコト。
それは、彼女が感情を混ぜずにありのままの事実だけを伝えようとしたからだ。

どんなカオをしていただろうか。
ポーカーフェイスなんて微塵もなく、みっともないほど青ざめていたような気がする。

「もう一度言うけど、あなたのせいじゃないのよ」

慰めるように言われても、どうしてそう思えるというのか。
事の発端は、間違いなくオレにあるのに。
何故、怪盗をやっているか全てを見抜いていた彼に。あの時、血に汚れた姿を見せさえしなければ。
彼と同じく闇に潜む組織を相手にしているから、どこか気持ちが通じるものがあったのだろう。目的を貫けるように、身を呈して邪魔する輩を追い払ってくれて…。

もしかしたら、縋るような目で彼を見ていたのかもしれない。
心のなかだけの救いなのに、実際の彼に対しても知らずに求めて。


だから、もう止める。
今日。彼と出逢ったこの日に。
ここに自分の中の全ての気持ちを置いていく。 








「あ…」


微かな声。
自分の他には誰もいない空間に。
振り向くと、そこにいたのは彼だった。



淡い月の光を全身に浴びて、佇む姿。
青白くほのかに輝く肌、煌く蒼い瞳は、夢のように美しい。


夢―――そうか。
大体、彼がこんなところに来るはずがないのだから。
哀れに思った月が見せてくれている幻。
それとも、心のなかにあった想いがカタチになって抜け出たのか。幻でもいいから、最後に逢いたいという想いの成れ果てか。
往生際が悪いのに苦笑してしまう。


でも、幻でなければできないことがある。
一度でいいから、想いを告げてみたい。
いつまでも自分の想いだけに溺れていたかったから、叶わないまでも気持ちを伝えたいなんて思いもしなかった。
そう。成就しないとわかっても、やはり拒絶は怖かったから。
幻なら平気。それに、最後だ。


「オレ、アンタのことが好きだった。ここで、出逢ったときからずっと」


ああ、やっぱり驚いたカオをするんだな。
信じられないって、大きな瞳を瞠って。
願望が作り出した幻なら、少しは良い目を見せてくれたっていいのに。

「どうしてなんてわからない。初めて逢ったのに、前から知ってるような感じがして。気配っていうか…存在そのものがすっと心に溶け込んできた」

そんな呆然としたカオじゃなくて、笑ってくれないだろうか。
実際、見たことがないからダメなのかな。

「オレみたいな人間でも、アンタを見てるとすごく幸せな気分になれた。そして、アンタの幸せを願えることが嬉しかった。傍迷惑な話かもしれないけど、生きていくうえでの希望みたいなものだったんだ」

影が落ちる。
月が…雲に隠れて……魔法の時間が終わるのか。
まさにピッタリなエンディング。彼の姿も、闇に紛れていく。
でも、もう少しだけ。まだ、謝ってないから。
待ってくれ。

「なのに、あんなことをさせてしまって…。オレは、アンタなんかに助けてもらえるような人間じゃないのに……あんな…あんな大怪我をさせて…。ゴメンな…謝ってすむことじゃないけど……苦しい思いをさせて、すまなかった…」

情けない。
嗚咽が…なんで、涙が出るんだ。
こんな、泣いたことなんかないのに。


「…っ?!」


何かが頬にあたる。
あたたかくて。やさしく触れてくる――――知っている手だった。






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