いま、ひとり /scene.1
「名探偵」
唯一、その人だけが呼ぶ名前。
心が休まる瞬間。
大好きなコト。
「コナンくん」
違う、そんな名前じゃない。
心で否定しながらも、返事を返す。
返せば返すだけ、どんどん自分が工藤新一ではなくなっていく気がした。
「工藤」
本当の名前で呼ぶヤツが現れて、もっと苦しくなった。
「だって、工藤は工藤やん。せやからコナンとは呼べんわ」
他人に知られるわけにはいかないのに、堂々とごく当たり前のように呼んで。どんな危険が見舞うかなんて考えもせず融通すらみせず、自分の心と折り合いがつかないからとその名前を呼ぶ。
それはまるで、今ここに存在している自分が間違いだと宣言されている気がした。
あるいは、存在の拒絶。
偽りの名前と自分自身。
偽りの体と本当の名前。
イコールで結ばれることはなくて、バランスが壊れていくだけ。
心のバランスが。
でも。
「名探偵」
偽りの自分と本来の自分をイコールで結ぶ名前。
"自分自身"を呼ぶ名前。
いつもいつも、柔らかくやさしい声音で、心を包み込んでくれた。
消失してしまいそうな自分の存在をつなぎとめて、壊れそうになる心を保ってくれて。
いつしかそう呼ばれる瞬間が好きになった。
元の姿に戻ってからも、変わることなく。
好きだった。
だから、「名探偵」と呼ばれるに相応しい探偵であることに、必死になっていた。
……だから、差し伸ばされた手を受け取らなかった。
01.09.19
≫scene.2
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