涼 子  【3】
「わたしに、奥さんのオマンコを見せちゃもらえませんかね」
「……え?」
 一瞬澤田が何を言っているのか理解できず、涼子はポカンと口を開けて呆けたような顔
をした。
「わたしには、どうしても信じられないのですよ……奥さんみたいな人が、たとえ旦那だ
ろうと、男の目の前で大股開いて自分でいじりまくるなんてね」
 にやにやといやらしい笑みを浮かべ、白いものが混じった無精ひげを撫でながら澤田は
言う。
「だから、奥さんのいやらしい部分がいったいどんなふうになってるのかちょっと見せて
くださいよ」
 ぬけぬけととんでもないことを言いだすこの男に、涼子は驚きのあまり何を言っていい
のかわからなくなってしまった。
「澤田さん……な、なんてこと言うんです……」
「なあに、誰もオマンコに突っ込こませろと言ってるわけじゃありません。ただちょっと、
見せてくれるだけでいいんですよ」
 草食動物のように柔和な自分の夫以外、まともに男を知らない涼子には、肉食動物を思
わせる澤田の性欲剥き出しの目は、初めて見る牡のものだった。
「そんなこと……で、できません……」
 澤田の傍若無人な態度に圧倒され、小さな頭の中を疑問符と感嘆符が飛び交っている。
 今にも泣き出しそうな顔で、小さくいやいやするものの、ここまで言われても怒りだす
こともできない。
「おや、そうですか……残念だなあ」
 やれやれと首を左右に振り、澤田はもったいつけてソファから腰をあげる。
「では、自力で犯人を探すんですね。この写真を持ってマンション中を一軒一軒、わたし
のオナニー写真を撮った人を知りませんかって尋ねまわるのもいいかもしれませんね」
 青ざめて細かく震えている涼子を楽しげに眺め、追い討ちをかけるように続ける。
「それとも、やっぱり警察行きますか。わたしがおいしそうにおしゃぶりしている写真を
撮った犯人を、捕まえてくださいってね。ま、がんばってください」
 そう言って、澤田はさっさと立ちあがり、玄関に向かって歩き出す。
 その背中に追いすがるように、涼子は言う。
「ま……待ってください、澤田さん」
 澤田にはもう、自分の恥ずかしい写真を見られてしまった。だが、これ以上は絶対誰に
もそんなものを見られるわけにいかない。そして涼子は、澤田が帰ってしまったらどうし
ていいのか、まったくわからなくなってしまっている。
「はい、どうしました?」
 がっついている様子をあまり悟られてしまってはおもしろくない。澤田は涼子に自分か
ら痴態をさらさせることにこだわっていた。
 そして、涼子にあまり考える時間を与えてはいけない。少し考えれば、夫に相談するべ
きだと気づかれてしまう。藤崎に話がいけば、おそらく澤田は即刻ブタ箱行きだ。
「あの……あの、わたし……わたしそんなこと、できません……」
 消え入りそうな声で、頼みの綱とばかりに写真を撮った張本人である澤田をなんとかひ
きとめようとする涼子。
「そうですか。では、どうします?」
 あくまで涼子自身の口で言わせようと、澤田はなるべく冷静な口調で問いかける。
「ですから、その……」
 真っ赤になってくちごもってしまい、涼子はそれ以上言葉を続けることができない。
 ――ま、これ以上言わせるのはまだ無理かな。
 少し考えてから澤田はそう思い直し、涼子に助け舟をだしてやることにした。
「わたしに奥さんの恥ずかしいところを見てもらいたい、と、そういうわけですかね?」
 ――べ、別に見てもらいたいわけじゃあ……
 あまりの羞恥に目がくらみそうになる。
 それでも涼子は、これを否定してしまうと希望の糸が切れてしまう気がして、操られた
ように小さく首を縦に振る。
 心の中で狂喜乱舞しながらも、澤田はなるべく落ちついた声を出そうと心がける。
「そうですか……奥さんがどうしてもご自分のオマンコを見せたいとおっしゃるなら仕方
がない。まあ、見せてもらうことにしますか」
 いつのまにやら、自分が澤田に見ろと迫っているような形になっていることにも気がつ
かないほど、涼子の頭の中は混乱しきっていた。
 ――どうして? どうして、こんなことに……
 滑稽なくらいおろおろしている涼子にニタリと微笑みかけて、澤田は再びソファの上で
ふんぞりかえる。
「どうしました? 早く脱いでくださいよ。それとも、手伝いましょうか」

 恥辱のショーが、今幕を開けた。


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