涼 子 【15】
前日の宣告通り、1時を過ぎたころ澤田は再びやってきた。
何度チャイムが鳴っても、涼子はしばらくドアを開けずに玄関先でただ立ちつくしてい
た。
しかし郵便受けから一枚、また一枚と焼き増しされた自分のあさましい姿が写った写真
を投げ入れられ、たまりかねて結局鍵を開けてしまったのだった。
「さすが、エリートさまは違うなあ。いい酒飲んでいやがる」
ご満悦の表情を浮かべ、サイドボードに入っていたバランタインをロックであおる澤田。
固い顔をしたまま、涼子はその足下で酌をさせられていた。
「しかし、あれだな。こんなお上品なつまみだと、どうも落ちつかない。あたりめでもな
いのか」
安焼酎にあぶったスルメが定番の澤田らしいセリフを言いながら、涼子が嫌々出した輸
入物のチーズをくちゃくちゃと音をたてて噛む。
何度も夫に悪夢のような出来事を話そうと思った。だが、涼子はついに切りだすことが
できなかった。
顔色が悪いうえに、いつもより品数の少ない夕食にも昨晩はまったく手をつけなかった
ので、藤崎は涼子の体調が悪いようだと解釈した。
そして、結婚以来はじめて妻の身体に触れることなく、しきりに心配しながら早めに床
につかせたのだった。
背中ごしに夫の安らかな寝息を聞きながら、涼子は朝まで一睡もできなかった。
「フフ、そんな怖い顔するな。おまえも飲めよ」
きゅっと唇を噛んでうつむいたままの涼子に、ご機嫌の澤田がグラスをさしだす。
「いえ……けっこうです」
涼子は固い表情をくずさずに、ぷいっと顔をそらした。
「いいから、付き合えよ、おら」
澤田はそんな涼子の口にグラスを押し当て、しつこく飲むように迫る。
「いやっ、いりませんったら」
澤田に対する嫌悪感に加えて、ビール一杯で顔が赤くなるくらい酒に弱いこともあり、
涼子は露骨に顔をしかめた。
澤田は一瞬しらけたような表情を浮べたものの、すぐににやりと口元を歪め、いやらし
い笑みをつくった。
「……俺の前でマンズリまでしたくせに、まだ気取っていやがるのか。こいつはお仕置き
が必要だな」
「……え?」
ゆらりと、体重を感じさせない動きで立ちあがり、澤田はゆっくりと涼子の後ろにまわ
りこむ。
そして、すばやい動きで涼子の両腕をつかみ、後ろで組ませる。
「あ、いや……きゃっ」
抵抗するまもなく、ガチャンと手首に手錠がはめられた。
「ああ、ひどいわっ」
これではまるで、囚人ではないか。
自由を奪われた恐怖で、涼子の顔色が一気に青ざめた。もどかしげに全身を揺すりたて、
懇願するように澤田を見る。
「おまえが悪いんだぞ、おれがすすめた酒を断りやがったから」
楽しげな声で言いながら、澤田は正座している涼子の背中をドンと突き飛ばす。
「きゃっ」
短い悲鳴をあげて、手をつくこともできず涼子は肩から絨毯に倒れこむ。
澤田は手早く、きゅっとしまった足首にも手錠をかけてしまった。
「ああ、お願いです、こんなものはずしてください、逃げたりしませんから」
必死で訴えてくる涼子に意地悪く笑いかけてから、澤田はグラスを持って台所へ向かっ
た。
――お台所で、いったいなにをしているのかしら……
澤田の楽しそうな鼻歌と水音が、涼子に聞こえてくる。
この隙になんとか手錠をはずせないかと無駄な努力をしている間に、澤田が戻ってきた。
なみなみと液体が入ったさきほどよりも大きなグラスを、手に持っている。
「俺はやさしいからな、水割りにしてやったよ。こんないい酒、割っちまうのはもったい
ないんだが」
澤田の言葉の意味がわからず、床に転がったまま不安そうな顔をしている涼子。
澤田はそんな涼子の腰をぐっと引きあげ、頭を床につけた四つん這いの体勢にさせる。
そしてスカートを腰までまくりあげたかと思うと、薄いブルーのパンティを一気に膝ま
で引き降ろした。
「いやぁっ」
涼子は悲痛な声をあげ、腰をよじって逃れようとする。だが、手足を拘束されているう
えに腰をがっちりと抱え込まれてしまっていては、どうにもならない。
「こら、暴れるな」
澤田は左右に揺れる尻たぶをぴしゃりと平手で叩き、動きを止めさせる。
そうしておいてから持参したカバンを開け、なにごとか準備しだした。
肩ごしに振りかえってみても自分の身体が邪魔になって、澤田がなにをしているのか涼
子からはよく見えない。
もしやいよいよ犯されてしまうのかと、涼子の身体が恐怖ですくみあがる。
「よし」
だが、澤田が満足そうにそう言った直後。
「……え? きゃあああっ!」
予想外の場所に冷たい硬質なものが押し入れられ、涼子はびくんと背を震わせた。
「遠慮するな。たっぷり飲めよ」
そう言うと澤田は、涼子の排泄口に突きたてた注射器型の浣腸器のシリンダーを押す手
にぐっと力を込めた。
「どうだ、うまい水割りだろう? ハハハハハ」
高笑いしながら、澤田は涼子の直腸に冷たい水割りを送りこみはじめた。