涼 子  【14】
 あどけなさの残る涼子の口元から、吐き出されたばかりの澤田の白濁がこぼれ、一筋の
糸となって顎を伝う。

「おっと、もう五時か」
 こざっぱりとした顔をした澤田は、壁の時計を見てつぶやいた。
 この1週間澤田が観察していた様子では、藤崎は六時過ぎにはだいたい帰宅するようだ。
 今日のところは、そろそろおさらばしたほうがいいだろう。
「今日の記念だ。こいつはもらっておこう」
 澤田はポケットからさきほど脱がせたパンティをとりだすと、鼻に押し当てて大きく息
を吸い、匂いを嗅いで見せた。
「さて……明日もくるからな」
 ズボンのチャックを上げながら、あたりまえのことのように涼子に言う。
 涼子は魂が抜けたような顔をしたまま、返事をしない。
「おい」
 節くれだった荒れた手で人形のような顔を包み込み、澤田は涼子を自分の方にむかせた。
 びくっと身体が震え、ガラス玉のようだった瞳に、わずかに光が戻る。
「しっかりしろよ。亭主が帰ってくるぞ」
 澤田の言葉で、涼子はいきなり現実に引き戻される。
「あ……わたし……」
 それでもまだ、寝起きのようにどこか頭の芯がはっきりしない。
「何度も言わせるな。明日は昼過ぎには来るから、コーヒーじゃなくて酒でも用意してお
けよ」
「……え?」
 澤田の言葉はゆっくりと効く毒のようで、涼子の心をじわじわと侵食していく。
「いいぞ。亭主にバラしても。なんだったら、俺から説明してやったっていい」
 吐精した解放感からか、どこか歌うような軽やかな口調で、澤田は続ける。
「そうだな、そうしよう。おまえさんのオマンコがどんな味だったか、おまえさんがどれ
だけうまそうに俺のチンポをしゃぶったか、こと細かに話してやるよ」
 できない。夫に話すことなど、できるはずがない。
 いまさら澤田のペースにのせられてしまった自分のおろかさを悔いても、遅すぎた。
「う……うく……」
 枯れるほど流したはずの涙が、つーっと頬を伝う。
 ふと、涼子はざらついた舌の感触を頬に感じた。
 澤田の荒れた唇から、マイルドセブンの匂いがする。
 どこかなつかしいような、それでいてもう2度と手に届かないことがわかるような切な
さで、胸が痛んだ。
 生温かい舌が、こぼれ落ちる涙をゆっくりと舐め上げていく。
 ヤニ臭い舌がつぶらな瞳まで到達しても、涼子は目を見開いたまま動かない。
 まぶたの内側に、ぬるっと舌先が入りこむ。
「うう……」
 眼球を犯されるおぞましさに、わずかにうめきが漏れる。
 それでも涼子は、身じろぎもせずもう片方の目で澤田の汚れた耳を見ていた。

「いつまでもそんなぼけっとした顔してたら、亭主にバレちまうぞ。しゃんとしろ」
 すでに乱れてしまっている涼子の髪を乱雑に一撫でして、澤田はゆうゆうと部屋から出
ていった。

 ぽつんとひとりになった居間に座っていると、時計の音がやけに大きく聞こえる。

 ――ご飯、つくらなきゃ。
 のろのろと立ちあがり、台所へ向かおうとしたところで、テーブルの上の灰皿に気がつ
く。
 澤田が無造作にひねり消した吸殻が、ひとつ残されていた。
 涼子はタバコを吸わないので、このままにしておくわけにはいかない。
 灰皿をつかんで台所へ行き、灰をごみ箱に捨て、灰皿をお湯ですすぐ。
 いくら洗っても、キレイにならない気がする。
 焦りを感じて、台所洗剤をたらたらと灰皿に垂らし、必死でこする。
 洗剤のぬるぬるが、ふいに澤田の一物を口にしたとき自分のかかとに感じた愛液を思い
起こさせる。
 はっとした瞬間、過剰なぬめりのせいで手がすべり、ガシャッと音をたてて灰皿がシン
クに落ちた。
「あっ」
 大きな音に我に帰ると、この数時間に起こったことが一気に脳裏を駈けめぐった。
「う……うくっ……」
 顔中が泡だらけになるのもかまわず、涼子は両手で顔を覆って、子供のように声をあげ
て泣いた。

 しかし、一晩明けても涼子の悪夢は終わらなかった。


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