夜のエーテル








週刊誌―


パパの言ってる事が全然わからなくて、まるで知らない国の言葉のようだ。口元だけじっと見てたら、しまいには言葉に詰まって。

 今日は突然すごく暖かくなって、そのせいで体もだるくて早く部屋に行きたいのに。


 突然、目の前に一冊の雑誌、所謂週刊誌が叩きつけられて、僕は一瞬体が竦んだ。本当にぼんやりしてたんだ。『ああ…この事か』漸く僕はパパの剣幕の意味を理解した。

 荒い粒子のモノクロ写真、センセーショナルに書き立てられて、その中であられもない姿。パパがさっきから言ってたのはこの事だったんだ。

「こんな低脳記事の言う事信用してるの?こんなのただの…」

ただの…。何だろう?『ヤラセ』とも違う、『でっち上げ』?

しばらく気まずい空気がその場を支配する。脚がじんじんしてきて正座してじっとしてるのも、そろそろ限界に近付いてきた。ママがいかにも心配でたまらないって風に、パパの斜め後ろに座っていて。

「やっぱりそうよね?こんなの賢ちゃんじゃないって、ママ信じてた」

僕はママに笑顔で頷いて。

「僕がこんな馬鹿な事するなんて思う?僕はパパとママを悲しませるような事しないよ」

パパは何も言わずに、ただ大きく息を吐いた。もし僕が認めちゃっていたら、どうだったんだろう。きっと壊れちゃう。パパもママも僕を問い詰めつつも、本当は一つの答えしか。

「もう普通の生活してるのに、今更こんな記事書かれるなんて。きっと僕にどこか付けこまれる隙があったのかと思います。心配かけてすみません」

僕は頭を下げた。途端に相好崩す僕の両親は信じてる。愛が全てを救うのだと。
時々すごく…僕は凶暴な気持ちになって。何もかも滅茶苦茶にしたくなって、それすらどうでもよくなって。

お金が欲しいわけじゃなく、ましてや愛なんて。何も要らないから、僕は楽に息していたい。





ビデオ―


いくら暖かい部屋の中とはいえ、窓の外には雪が舞ってる。僕はシャツ一枚羽織っただけで、ソファの上に座らされた。寒さに震える。ほんとうはそれほど寒くはなかったのかもしれない。僕を見ている人の視線に、ほんの少し気後れしてるだけ。こんな事に慣れてる人間がそれほどいるとも思わないけど。

「脚、もう少し開いて」

事務的な声に従って、僕は言うなり、脚を開く。両手で前をそっと包んで、ゆっくり上下させる。視線が気になってしょうがないから、目を閉じた。それでも、人の気配を側に感じながら。

「もっと声出して」

無理な事言うから無視していたら、体を弄る感触。それが嫌で体を捩ったら頬を叩かれた。無理矢理押さえ込まれて、強引に勃ち上がらされての放出。

「カラミは無いって話しだったのに」

「最初だけはね。しかもこんなのカラミのうちに入んないよ」

僕は頬を押さえて、黙って睨み返す。すぐに服を身に着けてその場を後にする。こんな事だろうと思った。そう思うなら、2度と行かなければ済む事。それなのに。




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