夜のエーテル








今は漕ぎ出でな―




中から食い荒らされる感覚。無意識に背中が撓ってしまう、身体が逃げを打つ。なのにそれは痛みを伴って、さらなる快感を僕に与えつつある。

「中が……気持ち悪い……」
「ちょっとの我慢だよ……それに慣らさないと、女の子だって辛いものなんだからさ」
「……こういうの、すごく慣れてるんだね」


嫌味のつもりで言ったのに、まるでそういう風には受け止めてない、そんな笑顔。ほんとの本気で僕となんかしたいなんて、高石は思ってるんだろうか。ただ僕を辱めたいっていう理由だけじゃなく。僕は自分の痩せた胸板が浅く上下するのを見てる。のっぺりと青白く、くねる身体。無意識の内に時折撥ねあがる。喉の奥から漏れる声。それが恥ずかしくて嫌で、無理矢理呼吸を整えながら、僕は言葉を探す。

「本当は僕は。僕の欲しい物は、手に入らないという事を知っていたんだ」
「どうして?手に入るように努力もしないで」

僕の欲しい物は……。2度と僕の前にはその姿を見せないだろう。それは人ではなく、物でもなく。本宮が僕に言った言葉。それが与えた衝撃。僕には眩し過ぎた、過ぎ去ったあの頃の煌き。あの時僕を生かしたもの、今はそれら全て渾然一体となり、過去の亡霊となって僕を苦しめ、息の根を止める。世の中の理というもの、ほんの少しだけ同年代の子ども達よりも見えてしまう、それだけなのに。

「本宮は僕に、生きろと言った」
「うん?そういえば大輔くん、そんな事言ってたよね」
「今はその言葉さえ、僕には……重荷で」
「……まさか、まだ死にたいなんて思ってる?」




今は漕ぎ出でな2―




鋭い痛みが、ぼんやり考え事していた僕の頭を、全身を突きぬける。慌てて腰を引こうとすれば、力で押さえ込まれてかなわない。全身から汗が噴き出し、突き上げられる度、喉から漏れてしまう悲鳴。これほどの痛みを伴うのに、なぜ人はこんな愛の交わし方を選択するんだろう?わからない、世の中は、僕なんかにはわからないことだらけだ。いくら考えても答えなんて見つかりっこない。だって僕は……。僕には足りないものだらけだから。

「中で出していい?」

振り向いて、言葉の意味に思い当たり、僕は思わず頷いていた。早く痛みから、苦しみから開放されたい。でも予想に反して、高石の動きは止まらなかった。長い指が、力ない僕自身に絡みついて上下する。無理だとわかってるだろ?それどころじゃないんだから。頭を振って抵抗の意を伝えようと。すると、今度は胸の突起を指が探る。ツキンと痛むそこが、痛みとともに得体の知れない快感を連れてくる。腰にずきっときて、僕は自身が反応してしまったのを知る。

「いや……だ。そんなふうに……触るな!」

高石はそれに答えず、僕は泣きたい気もちに覆われて、自分でもどうしたいのかわからなくなる。こうなる事を予想していなかったといえば嘘になる。僕は手に入らないものの変わりを……探してた。ずっと。

そして僕は諦めも悪く、今もまだ探してる。




今は漕ぎ出でな3−




心の空虚を埋めるために、代替行為として僕が必要とした、身体を一杯に満たされる感覚。そして痛みを伴いつつ、もたらされる充足感。彼ならそれを与えてくれると知っていたからこそ、僕はここまでついて来た。そして、高石は敏感にそれを感じたのだ。僕を、僕の脆い精神を、人に頼らずにはいられない、僕の弱さを。

全てが終わった後、汗が引いていくのとともに押し寄せて来る背徳感。結局は僕は、自分が可愛いのだ。こんな自分でも、誰かに必要とされる満足感を得たかった。冷えた肌が僕の頭を冷静にさせていく。お互いの情熱が去ったあと、僕は相手の視線に晒されるのを恐れて、まともに顔合わせるのも出来ずにいた。

「すまない……。こんな事になって……」

肩を掴まれてひっくり返され顔を覗き込まれて、それでもドキマギと諦めも悪く視線を外す。高石の両手が僕の頬を挟んで、僕を見つめる視線に真正面から向合う事になる。

「ねえ、君はさ、これをひとときの過ちですますつもり?」
「えっ?」
「お金なんて、本当は必要じゃないんでしょ?」
「それは……」


言葉を続ける事はかなわずに唇が塞がれる。キスは甘くやさしくて、僕の思考を蕩かせた。いう事をきかない身体は、眠りを欲していた筈なのに。身体の奥に灯った欲望の明りがちらちらと燃え出して、僕は目を閉じた。僕はまだ知らない、心を裏切って、身体だけ欲望のままに流されてしまうという事を。僕はまだあまりに子供であったから。じんじんと痛みも今だ去らないそこに、快楽の予感を感じて、僕は胸の昂ぶりを抑えきれない。




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