夜のエーテル−
ベッドの上、脱力した身体を奮い立たせて、半身起こしながら。気だるさの残る身体がいかにも事後って感じで、生々しくて嫌になる。自分の浅ましさを見せ付けられているようで。横を見れば、額に髪貼りつかせて、高石は僕を見ていた。あまりに現実離れした出来事、こうして隣に彼が居るのを見ても、どこかまだ夢の中の出来事のよう。貼りついた喉の奥からざらついた声で。僕は言葉を選ぶ。 「僕は、君を都合良く利用してしまって……」 「お互いさま、じゃないかな?……忘れて欲しいのなら、はっきりそう言ってよ」 「そうじゃない……そんな訳じゃないけど」 言葉を続ける変わりに溜め息をついて、ベッドの下脱ぎ散らかされた服を拾い集める。それらを一つづつ身に着けながら、高石の言葉をじっくりと吟味する。僕は考えていた。あの頃、全てが輝いてた見えたのは何故だったろう。それは、ありのままの自分でも、受け入れられるという事を知ったから。僕にそれを教えてくれたのは、仲間だった。そしてそれ以上に親友と呼べる大輔の存在。なのにいつからかまた、生きて行く事は辛く困難を極めるのだと感じるようになってしまった。という事は、きっとまた僕は無理をしているんだ。だから……もう1度、自分の生きやすいように、少しづつ軌道修正をする事が必要だ。埋まらない隙間を塞ぐために人に頼って、これ以上誰かを傷つける訳にはいかない。 「君を巻き込む気は無いから」 「そんな悲しい言い方。ねえ、君には考える時間は余ってる。だから、これから君はここに通えばいいんじゃない?」 「は?……なんでだ!?」 「わからないの?」 驚いて思わず大声を出せば、両手を広げた高石が僕を覆う。抱きしめられ体重を掛けられて、僕は簡単にひっくり返された。ベッドの上、高石を見上げる恰好になる。 |
夜のエーテル2−
投げ出した僕の手に高石の手のひらが重ねられる。ふざけてたのだとばかり思っていたから、高石の真面目な表情に、僕は思わず顔が赤くなる。 「君は今まで人に愛されるばかりで、愛する事を知らずに来たから。大輔くんに親友として以上の感情をおぼえて、君はいま消化不良を起こしてる。でも、相手に受け入れられないとはっきりわかっていたからこそ、君は先へすすまなかったんでしょ?なら、ボクとの事はこの先どうしたいと思ってるのさ?」 そして高石は言葉を続ける。 『ボクは、君を慰めてあげられるだけでもいいんだけど』 言葉とは裏腹、高石は冴え冴えとしたその視線で、僕を絡め取る。言われて初めて自分の気持ちに気付くなんて。僕は動揺しないように震えないように、平静を装って高石を見つめ返す。本当は僕は、本宮と親友以上の関係になりたかったんだろうか?今こうして高石としているみたいに。本宮が手に入らなかったから、そのかわりを高石に求めたのだろうか。彼なら僕を拒まないと知っていたから?じわじわと熱い塊が喉の奥から這い登って来る。言いたいことが、声にならない。口を開いたら、きっと情けない呻き声しか出ないだろう。……でも違うんだ。全てをわかってくれなくてもいい。でも、僕が単なる欲望の捌け口としてだけ、君を利用したんじゃないって事を……。どうしたら伝えたい気持ちの何割かでも、君に伝える事が出来るのだろう。 重ねられた薄い手のひら、高石の長い指に僕は自分の指を絡ませる。絡ませた指に力を込めて、僕は呆気に取られた高石の首の後ろにもう片方の手を掛ける。手を掛けて高石の頭を自分の方へと引寄せた。ぐらりと傾ぐ体、心持ち見開かれた青い瞳。間近にそれを見て、ほんの少しだけ躊躇する。それも本当に一瞬だけ。次の瞬間、僕の唇は高石の唇に重なっていた。 |