GO AHEAD !





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それで、夕御飯どうするって話になって、やっぱりいつものコースにつきあわされるはめになってさ。

頭の中ぐるぐるぐるぐるさせながら、お母さんの「昭和歌謡大全集一発屋メドレー」だのお兄ちゃんのアカペラ新曲発表だのにタンバリンとマラカス振ってるってわけなんだけど・・あ、ボクはカラオケ駄目だから。
ていうか、「お前歌うな」って言われてるんだ。どーしてだかわかんないけど。
いや、一応わかってて、でもわかんないんだよ。
今の音が何音違うとか言われてもね、わかんないんだもん。
なんでボクが差し置かれてたかっていうと、まあ、そういう訳なんだ。
でも別に気にしてないよ?

お父さんとお兄ちゃんだとね、70年代ロック大会になるんだよね、お父さんが詩吟唸ってる横でお兄ちゃんが正しいメロディを嫌がらせに歌うわけ。
でも、お父さんわかってないんだよ。嫌味通じてないんだ。すっごいノリノリでね、酔っ払ってるってのもあるんだろうけど。
すごいんだから。「レイラ」なんて2バージョン歌うんだよ?フリ付きっていうか物まねっていうかでさ。
それ見てるとさあ、なんかこう・・諦めつくっていうかね。
だからいいんだよ、バンドやりたいわけじゃ全然ないんだから。
悔しくなんてないんだから。
ただね、あの一乗寺賢に気遣われたってのがね、それだけがね。
差し置いても何もないの、どうぞご勝手に、だよ。
変な遠慮なんかしたって、お兄ちゃんには通用しないんだからね。
それに、向いてるんじゃないの、好きなんじゃないのかな、派手なステージ衣裳着てさ、ステージの上でさ、「この虫けらどもーーー」なんてさ。
うぷぷ。想像しちゃった。

南に向いてる窓が開いたな、次はそんなジタンの空箱かなあ。

二人ともマイクなんかいらないタイプだもんで、耳どうにかなっちゃいそうだよ。
それでもってシャウト系ばっか選ぶんだよなあ、お兄ちゃん。

それにしても。

ウソだよね、一乗寺賢がお台場中に、なんて。
お兄ちゃんの言うことだし、あれはまあ、皆中学生になるってだけのことで、バンドって別に同じ中学じゃなくても・・あー、クラブ活動はできないか。
・・ってことは引越してきてたってわけ?
ほんと、聞いてないよ!
大輔くんとは春休みまで毎日顔合わせてたってのに。まあ、一乗寺くんの話なんか普段からしないんだけど、それにしても。
お兄ちゃんが知ってるってやっぱボク達の誰かからでしょ?
そしたら大輔くんから太一さんに、ってのが順当じゃない?
ヒカリちゃんから太一さんにってのもあるけど・・それでヒカリちゃんがボクにわざわざ言わないだろうってのも予想できるけど。
ていうか、ヒカリちゃん、忘れてそうだよなあ。
大輔くんが中学になるってんで妙に張り切ってたのも合点がいくようないかないような、だって大輔くんだしさ、ボクだって大輔くんの一挙一動一乗寺くんに結び付けて考えてるわけじゃないんだから。

またなんだって引越しなんか。

一乗寺くんの学校って確か私立だったよね、漫画の悪役みたいな制服着てたじゃない、お受験とかして苦労して入ったわけでしょ? なんで辞めちゃったのかなあ。
暗黒の種で天才化してたっていうし、ほんとは・・ってこと?
それにしちゃ、なんていうか。
とりあえず、大輔くんよりは賢そうに見えたんだけど。
この不景気だし、いろいろあったのかな、なんだか可哀想かも・・なんてね。

ピロピロと壁際の電話が鳴る。

「タケル、一時間延長ね、それからミックスピザとポテトフライ、生中もう一杯とヤマトはウーロン茶?。フリードリンクなんだからアンタも何か頼みなさいよ!」

・・・まだ歌うつもり?やだなあ、意地汚く指一杯冊子に挿んじゃって。
言われた通りを受話器にがなって、えーいなんだかヤケになってきた。

「ボクも歌おうかな」
「待てよ、今入れても入んないぞ?」

何だよ、たった二人でなんでそんな。

「母さん、ワンコーラス縛りだ!」
「オッケー!」

なんでそんな燃えてるのさ、二人とも・・。

「おし、空いたぞ!タケル、今だ!」

それからボクは斜め後ろがどうとかって歌を歌ったんだけどね、別に好きとかいう訳じゃないんだけど・・なんとなく。
なんでこんなに暗いんだよ、この歌。なんでわざわざ「斜め」なのさ。
知り合いなんでしょ、正面から見てればいいじゃない、それとも何か後ろ暗いことでもあるってわけ?
だったら真後ろでこそこそしてればいいんだよ、斜めってのが物欲しげでヤだよね、まるでなんだか・・。
どうでもいいけどさ、ただの歌詞だし、こんなの。

大汗かいて歌い終わって見てみれば、お兄ちゃんはなんかもぞもぞしてるし、お母さんはいつのまにか新しく来たビールほとんど空けちゃっててさ、いいのに、笑っても。
音痴だって言えばいいじゃない、いいんだよ、気にしてなんかないんだからね!

お母さんの演歌メドレーでお開きになってさ、好きなんだったら最初っから歌えばいいのに、若い歌で始めたがるっていうのがもう年寄りの証拠だよね、明日の予定なんかぼそぼそ相談して。

帰りついたらもう日付けは変わろうって頃でさ。

明日の準備なんかそこそこにお風呂入って、昼間はすっごくあったかかったのに、随分冷え込むなあなんてベランダに出て、ぼけーーっと高速道路の明かりなんか眺めた。

この辺りのどこかに彼もいるんだなあって、デジャビュじゃないけど、この感じ。
なんか落ち着かない、テリトリーを侵されたなんてそこまで言うつもりはないけど。

「明日になればわかるか・・」

手すりにもたれて独り言なんかつぶやいて、どうかガセネタでありますように、なにせお兄ちゃん情報なんだから。

もちろん、そんなわけないのは当たり前で、だってこれでウソでした、じゃ、このSSが何だったんだよってなっちゃう・・のはどうでもいいよね、とにかくまあ。


あれから2年たちました、その日は嫌になるくらいの快晴でした。

ボクは肩だの腕だのがちょっと突っ張ったグリーンの制服を着て、お母さんと入れ違いに迎えに来たこれまた窮屈そうなスーツを着たお父さんと、小学校を通り過ぎて中学校の門をくぐって(正確にはくぐるわけじゃないんだけどね)まっ先に。

各々母親を従えて楽しそうに談笑してる大輔くんと一乗寺くんを発見して・・。

しょうがないじゃない、にっこり笑っておはようって言いましたとさ。







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