GO AHEAD !





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本当はね、走っていって、「そのゴーグルかっこいいね」なんてね、大輔くんにでこピンでもして逃げようかとも思ったんだ、一瞬ね。
でもさ、ボクの顔見た瞬間の一乗寺くんの笑顔がさ・・なんていうのかな、ティッシュで作った花を泥水に落としたみたいなさ。

・・表現が微妙だって?

しょうがないじゃない、男の子を花だなんてなんかアレでしょ。
それにね、ボクは純潔の乙女や萎むスミレの花なんか好みじゃないんだからね。
何言ってんだろう、ゴメン、カッコつけたい年頃なんだ。とにかくね、ああ、なるほどねってそのまま通り過ぎちゃって。
お父さん、大輔くんと一乗寺くんのお母さん達に挨拶して、それでまあ、大人がよくやるようにお互いいつ果てるともなく頭を下げあっててさ、その間大輔くんはケラケラ笑って一乗寺くんに何か言ってたけど、何言ってるのか聞こえなかった。

とにかく、早く通り過ぎなきゃって。

砂ぼこりひどくて目が痛いし、昨日のカラオケのせいかな、耳鳴りがしてるのは。

朝礼台の後ろのフェンスに人だかりがしてて、どうやらクラス分けの発表みたい、色んなことがどんどん現実になって追いつけないよ、ほんとに来たんだ、お台場中に。
同じグリーンとグレイの制服、憶えてるよりちょっと髪は短かったかもしれない、単に背が伸びただけかも。

ようやく追い付いたお父さんとかその他御一行様を後目に、模造紙に書かれた名前の列を追う。

ああもう、カラオケなんか行くんじゃなかった、頭の中ぐるぐるまわってる「学園天国」、正確には「逆学園天国」?地獄じゃあんまりだからさ。

どうかどうか、同じクラスじゃありませんように。

お母さん、「コイズミじゃなくてフィンガーファイブの方」って毎回言いながら歌ってるんだけどさ、そんなのボク達わかるわけないでしょ、まさか首相じゃないよね、昔アイドルだったとかさ、わーやだぶるぶる、ていうか普通好きなひとの横顔なんて毎日見てたらそれこそ勉強なんかできないと思うんだけど。ボク的には「個人授業」の方が好きだなあ、なんか夢と希望があるじゃない、って安いAVみたいだけどさ、シチュエーションなんて安い方が興奮するじゃない。

・・・あー何の話なんだよ。



「聞いてくれよおお、オレ、ヒカリちゃんと一緒だぜーーー」

あーそう、それはよかったね、去年はボクとで悪うございました。

「でもよーーー賢とは別なんだよなーー」

どうもそうらしいね、A組のチェック終わり。B組はしなくていいんだ、2クラスしかないから。

「どーーせなら皆同じになりたかったよなーー」

いい具合に集合がかかって、ボクは目の隅にちらつくティッシュで作った白い花なんか見ないようにしながら、皆の行く方へだらだら歩きだしたんだ。



「なー、タケル、なんかお前・・」
「なあに?」

大輔くん、制服似合わないなあ・・。わーすごいズボン余っちゃって。こういう時「七五三みたい」だなんて言うのかもしれないけど、正装っぽい感じが全然しないからそれも違って、なんていうか。

「・・老けてんなあ」
「なんだよ、それ」
「なんか老けて見えんだよ」

失礼だなーーー、ボクだって失礼なこと考えてたけどさ、口に出して言うかなあ。

「お下がりだからじゃない?」
「へ?」
「お兄ちゃん」
「あーーー」

大輔くんの頭の横でぽんと電球が灯った。

「そっか。いいなーオレも」
「はいはい」
「・・ちゃんと聞けよ」

どーせ太一さんからお下がり欲しかったって言うんでしょ、いいんじゃない、お台場ちっちゃいもの倶楽部・・おっと、言い過ぎだ。

「じゃな、タケル、賢。オレ、あっちだし」
「ああ、また後で」
「じゃね」

大輔くんはへへへ〜って気持ち悪い笑い方して、わらわら蠢いてる緑の集団の中走ってく。

「並ぶの、出席番号順かなあ」

誰に言うともなく、いや、相手はいるんだけどさ。ボク高石でよかったなあってね、石田だったら確実に並ぶじゃない。しばらく席だって前後だよ、しかも廊下側確実・・って駄目じゃない、こんなの。愛想悪すぎだよ、愛想なんて期待できない相手にそれはちょっとまずいでしょ、ああ、疲れるなあ。これから最低一年ずっと。

愛想よくにっこりして、目で「行こうよ」ってつもりでね、それでくしゃくしゃの白いティッシュの花はくしゃくしゃのまんまでボクに近付いてきて、身長順でも並ばなくて済むかもしれないと一瞬。

体育館はこれからボクのホームグラウンドになるわけだけど、あんまり隣の小学校と変わらない感じで、ほんと制服着てる以外何の代わり映えもしない筈だったんだけど。

・・・疲れるなあ。

緑にグレイに紺、同じ色がうようよ、後ろの在校生の席の端っこ一番前にお台場ちっちゃいもの倶楽部名誉会長が見えた他は知った顔はいなくて、ていうか光子郎さんごめんなさい、その後ろにぬぼーっと立ってるお父さんが見えたんで手を振って、それでまあ、入学式はこんなもんだよ。別に緊張も感動もしないけど、あーなんか決定的になったなあって、何がって聞かれると困るんだけど、時間は平等に流れてく筈なんだ、いい時間もやな時間も退屈な時間も。

念仏みたいに唱えて、緑色の流れにふらふら流されて、多分教室に行くんだろうな、体育館の後ろの扉からあわてて出てくお父さんが見えてね、今日のお昼は皆でって言ってたし、多分どこかに電話しようとしてただけなんだろうけど、一瞬なんかどきっとしちゃって、まだまだ修行が足りないなあって思っちゃった。それでなんか色々悔しくてね、真っ黒な頭を目印にぼそっとね、ボクだって気を使ってばっかも何だしさ、いいじゃない、別に。キミがこっちに来るって全然知らなかったよ、教えてくれたらよかったのにってね、そしたらね、くしゃくしゃの白いティッシュの花(しつこいな、ボクも)はびっくりしたような顔してぱちぱちまばたきしたもんだから、ボクはその真っ黒い目をじっと見るはめになっちゃってさ。







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