GO AHEAD !





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何か言わなくちゃって思う間もなく、もちろん返事なんか貰えないまま、先生が入ってきちゃって、とりあえず手近な席についてそれから出席番号順に座るように指示があってさ。

わいわいがやがやなんだかんだの民族大移動、一乗寺くんの席は廊下側の前から3番目で、ボクはその隣の隣の列のまん中ぐらい?かろうじて横顔が見える位置、はい、御明察、斜め後ろだよ、悪かったね。

ただ制服着てるってだけで、三月までとほとんど変わらないメンバーなわけだから、みんな緊張感のかけらもないわけだけど、そこだけ空気が違っててさ、まあ、転校生みたいなもんだし・・。それになんていうか。
あーー駄目じゃない、ただでさえボクは悪目立ちするっていうのに。いきなり注意されて、ずっと廊下側見てるなんて不毛なことしてたのに気付かされた。

・・ていうか、先生、一瞬「石田」って言いそうになって名簿見て言い直してたんじゃない?
やだな、顔似て無い筈なんだけど。

ま、気を取り直して、と。

なんでそんなに一乗寺くんに文句つけるのかって?

別に彼が悪いだとか嫌いだとかじゃないんだ、ただね、ボクにだってセルフイメージってのがあってね、この年頃でアレかもしれないけど、できるだけ他人に誠実に、親切にって、そう自分でも思いたいし、人にも思われるよう努力してるつもりなんだ。
人にどう思われても自分は自分だっていうのはなんだか違うような気がするんだよね、別に反面教師がいるわけでもいないわけでもないんだけど。
だからボクとしてはかなり許せない事態なわけ、二年も前の事とはいえ。
目撃者が居たとか居ないじゃなく、自分で自分が、ね。
でもまあ、起こってしまったことは起こってしまったことだから、前向きに善処っていったら、今現在の彼の心証を良くするしか・・ないんだろうな、これは全部自分のためなんだ、あまり威張れたことじゃなくて、誠実も親切もただ空回りしてるような気がするのは、それが全部自分のためだから。

だからなんだか居心地悪い・・んだと思う、多分。

あーぐるぐるする、大体ね、一乗寺くんなんて愛想は悪いし、切り口上だしさ、そりゃあ髪なんか真っ黒でさらさらで、そのせいかな、日本人形みたいな顔・・って言ったら悪いか、あんなにほっぺた膨れてないし。
あー、とにかく京さん達が騒ぐのも無理なくて・・いや、見た目の事はいいんだ、性格だってさ、あんまり知らないけど印象ね、強がったり意地っぱりだったり、なんだか危なっかしかったじゃない?
デジメンタルなんてピンク色でしかも「優しさ」だよ?なのに最強デジモン(かなりにインチキしてると思うんだけどね、だって究極体+究極体のオメガモンと、ジョグレスしてほぼ完全体レベルの筈のインペリアルドラモンとを比べてアレってどうなのさ?)のテイマーと来るんだもん。
別に自分が自分がってつもりはね・・あるんだよね、実はボクにも。
そういうの格好わるいじゃない、そこ見られちゃったからかなあ、こんなに調子狂っちゃうのって、ホント。

・・なんてだらだら考えてたら、机の上にプリント一杯たまっててさ、教室、ほとんど誰もいないしでさ。
慌てて真新しいもんだから留め金がうまく閉まらないカバンに突っ込んで、再び緑の波に乗って校庭に漂い出て、お父さんを探してさ、ぬぼーっと立ってるからすぐ見つかってね、校内全面禁煙なもんだからかな、ネクタイ引っぱりながら足踏みとんとんしてて、何か可愛かった。

「お父さーーーん」
「お、タケル。次ぁ飯だな、何食いたい?」
「お父さんは?」
「あいつらが店選ぶんだよなあ・・」

離れて暮らしてるのに、ううん、離れてるからこそなのかな、ボクはけっこうお父さんにシンパシー感じちゃってたりするんだよね。
まあその、音痴だとかそういうのも含めて、ただ単純に似てるなあって思うとこがあるってだけなんだけど。
例えばさ、今日みたいに御飯食べに行ったりするじゃない?
それがまあ、中華(テーブル回る方ね)だったりするとしようよ。
そしたらさ、お母さんやお兄ちゃんは、ナントカの姿揚げだとか薬膳だとかとにかく変わった料理を頼むんだけど、ボクとお父さんだとさ、結局並べてみると餃子定食や酢豚定食になっちゃうんだよ。
メニュー見て一生懸命考えるんだけどね、なんでかそうなっちゃう。
でね、お母さんなんてちょっと呆れたって顔するんだよね、アンタそういうとこお父さんに似てるわね、とは言わないんだけど。
きっと、思い出しちゃってるんじゃないかなあと思うんだ、バブル期のデートやなんかをさ。

「ボク、辛いの駄目だからね」
「・・・頑張ろうな、タケル」

ボクは一瞬ぎゅっとお父さんの手を握った。

時々思うんだ、ボクがもし、お父さんに引き取られてたらどうなったんだろうって。

前に読んだ本でさ、サマーキャンプで生き別れの双子が出会って、お互いを取り替えてうちに帰るって話があってさ。
もちろんお話だから最後はハッピーエンドでね、夫婦がよりを戻して終わりだったんだけど。

ボクとお兄ちゃんが選ばれし子どもだとか何とかになって、お父さんとお母さんも顔合わせなきゃならなくなっちゃって、ボク達がお台場に越して、っていうのはある意味、あのお話と同じことなんじゃないかと思うんだ。
お話じゃないから二人が結婚しなおすなんてことはなくて、ただよく顔をあわせることになっただけなんだけど、それでもこれはハッピーなんじゃないかって。

校門を出て、いの一番にタバコをつけて深く吸い込んで。

まだ大分見上げなきゃなんないお父さんの顔は、いつもの面白いんだか面白くないんだかのしかめ面で、でもこの顔で全身の気が抜けるようなオヤジギャグを言うから油断しちゃ駄目なんだよ。

「お父さん、今日はありがと」
「んあ?・・・げふっ」

ボクは仕方なく咽せてるお父さんが回復するのを待って、お日さまが燦々と、長袖のジャケットには暑すぎるぐらいだよ、まだ四月だっていうのに。

お父さんに習って上着を脱いで、指一本で肩に引っ掛ける。なんだか変な感じ、ペアルックってわけじゃないのに、すごく照れくさい。

「ファミレスでいいのにね・・」

ボクのつぶやきに同調するようにお父さんの鼻の穴から煙が上がって、気温の割に白っぽい春の空に消えていった。







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