夢から覚めたボクはまた夢を ≪3≫








嫌がるのを無理やり押さえつけて、ほんとにボクは君の事酷く扱いたい。
白い肌なぞって、輪郭を辿る。
君に刻み付けたい、ボクだけにしか分らない印。
浮き出た鎖骨に歯を立てて、逃げようとしてる体、思いのままに。
払いのけられる瞬間、歯を当てていたその部分傷つけてしまい、血が滲む。

 「っあ!イタっ……」

弾かれたようにボクを押しのけて、ソファの上から逃げ出した一乗寺くんがドアに向かうのを、一瞬ぼーっと見送ってしまい、思いなおして追いかけた。
ドアを開けて、玄関に駆けて行くのを、すんでの所で捕まえて。

 「ボクを一人にしないで欲しいな。
    それに……、そんなカッコで出て行かれたら、騒ぎになっちゃうよ?」

息を整えて、一糸纏わぬ姿の一乗寺くんの耳元にそっと囁く。
うな垂れた様子、引っ張られるままに大人しくボクの部屋に。
ちょっと強引に肩を強く押してベッドに座らせると、ボクを見上げる瞳の中に非難と同時に、諦めを漂わせてる。
ベッドの上ですっかり大人しく丸くなり、一乗寺くんは所在無さげに裸の体を両腕で抱えている。これ以上何かされるのを無言のうちに必死に拒んでいるかのように体を固くして。



ボクは隣に座って、しばらくそんな様子の一乗寺くんの髪を弄くっていて、でもこうしていてもまるで通じ合わないボク達の心を、どこか悲しんでいた。
騙して家に連れ込んで、感情の赴くままに好き勝手をしてしまったボクが、こんな風に寂しく思うのはお門違い。
それはわかっているけれど。
激情に駆られて行動を起こして見たものの、満足の行く結果は得られなくって。
それは仕方のない事。
なんでこんなに複雑なんだろ?さっきまでの気持ちとは裏腹、君の声が今は聞きたい。

 「今夜はボクの家に泊まっていきなよね?」

そしてボクは一乗寺くんの鎖骨に残る傷にようやく目を留めて、手当てをする為に救急箱を取りにいく。
目を離したらきっと君はまた逃げてしまう、どこかそんな不安を胸に部屋に戻ると、さっきの姿勢のまま、
身じろぎもせずベッドの上で。
救急箱ったって、たいした物は入ってない中身を掻き回して、マキロンと絆創膏を手にして。
枕もとのティッシュ何枚か引き出して、マキロン吹きつけて一乗寺くんの傷口に当てる。
じっとしてくれてて何だかボクは妙な気持ち。

 「ごめんね、酷くしないなんて言ったのにね」

絆創膏、傷口に当てるのに細心の注意を払ってぺたりと、……上手く貼れた。
今日はもう帰るよって、小さく消え入りそうな声で君が囁くのを無視して、ボクはわざと明るめの声で続ける。

 「何だかお腹減らない?なんか食べようか」

 「ねえ、僕の言う事聞いてる?!」

とうとう怒った様子で君が大きな声を。
ボクはそれには答えずに、黙ってまっすぐ君を見る。
聞こえてないわけないじゃない、わざと聞かない振りしてるのに君は全く理解しない。

 「君は今日、ここに泊まるの。なんなら今、家に電話しとく?」

 「僕は泊まりたくない!」

 「大輔くんの家だったら泊まるくせに?」

これは自分の傷をえぐる結果に終わった。
だって一乗寺くんはそれきり、きまり悪そうに口を噤んでしまったから。
わかっててボクは言葉にしてしまった。
いつからかずっと心の中でわだかまってて、自分でも薄々気付いてはいたのに。
いったい、ボクは誰に嫉妬してるんだろう。
考え込んでは堂々巡り。
突然現れて、いつのまにか大輔くんの中で、大事なポジションを得てしまっていた、目の前の君。
頑なだった君の心を持ち前の明るさと積極性でいつのまにか解して、
君にとってなくてはならない無二の親友となった大輔くん。
それとも……。
積極的に関わらなかったせいで、そのどちらともそれほど親密になれなかった自分を悔やんでいるのだろうか。
今となっては、分らない、分らなくてもいいんだ。
もう今更考えたって、目の前に一乗寺くんがこうして。



いつのまにか辺りはすっかり暮れていて、カーテンの隙間からのぞいていた日の光は絶えて久しい。
灯りをつけない部屋の中でだんだんぼんやりとしか見えなくなってくる一乗寺くんの表情をボクは見つめた。
そして思いを込めて一言。

 「帰らないで。話しがしたいんだ」

君がどんな顔をしているのかわからない。
もし君が無言で立ちあがったとしても、ボクは取り乱さないで居られると思う。
でも……。

 「ねえ……、これで涙でも見せたら、もう一度キスさせてくれる?」

はっと息を呑む気配、見えなくても君がショックを受けて慄いてる様子がありありと伝わってくる。
間合いを詰めて、君を追い込んで。
立ち直る暇も、考えさせる間も与えないで、ボクは君にもう一度、思いの丈を。

 「君の気持ちなんか、もうどうでもいいよ。ボクはただ君としたいだけなんだから」

どうしてなんて聞かないで。
自分で自分がわからない。なんで君で、なんでこんな事。
怯える君がただただ愛しい。











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