やっと仕事が落ち着いてきたのは11月の初め、
しかしその穿ける量は国に居た頃の比ではなかった。
慢性的に人が足りない。日本との連携につき、
更新時間がやたらと掛かる。

その待ちぼうけしている間も
校正、コピー、発送と雑用に追われる。
英語圏との習慣・発言のギャップに苦しむ。
そうこうしていると”魔”の12月が、
知らぬ間に身元にやってきていたのだった。


 就任初日は、とんでもない幕開けだった。

それと言うのも、誰しもが
旗揚げに担ぎ出された面々だったので
自身も含め、皆自分のことで精一杯だった。
肌の色が混濁したような職場、思わず一歩
引いてしまう長身の同僚達。

でも、そこで私達日本メンバーが
孤独感を感じなかったのは
現地スタッフのフレンドリーさと、
あっけらかんとした挨拶、目線を逸らさない
実直さのお陰だった。
同じスタメンというだけで、
こんなにも暖かく、隔てなく受け入れてくれるなんて
国内ではあっただろうか?


総勢で38人、うち半数近くが別の企業からの
派遣員のようなもので、この初期行動を終えたら
必要な時だけ手を貸してもらうことになるらしい。


ともかく、数日は間食を摂る暇もないと
いうことで、(それには慣れているんだけど)
所属しているC班のドリンク休憩を
各々が順にとることになった。
この休憩時間が破格だった。
15min.と笑顔でふられて、耳を疑ったほどだ。

それが良いことなのかは分からないけど、
現代日本人は、どこに向かっているんだろうと
素朴な疑問を抱いた瞬間だった。



 作業場からそう離れていない
オフィスの東棟にコーヒーを買いに行く。


 すると、他の班の、多分あれはA班と
推測される二人が先にコインを投入していた。

ひとりは、長身のアメリカ人とおぼしき女性で、
もうひとりは、日系なのか、顔立ち・髪の色は
明らかにアジア系統の男性と思われた。
離れた距離の斜め後ろから見たのではっきり分からない。


班はAかEまであるのだけど、当然、
アルファベット上位の部分から
メンツが決められていくので、
A班は必要不可欠かつ優秀な
社員が揃っている珠玉班だ。
故に現地スタッフがほとんどだろう。


そのキレイな彫りの深い目鼻立ちで
目立つ女性社員と、顔がはっきり分からないが、
洗練された雰囲気を背中から放つ男性とを、
これからマーティでの生活を左右する上役に
なるかも知れないというちょっとした
邪まさを以って、笑顔で手を振って見送った。



つづく

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