さいごの戦い
(※Sランククリアのネタバレしまくりです。注意)

4/26(月)続き 授業後、「あしきゆめ」を探していた途中に ちょうど尚敬校売店にいた狩谷くんに話しかけられた。 障害のある彼には、気を使って時々声をかけていたが最近は喋っていなかった。 「このお弁当をさしあげます」と提案されたのでありがたくいただく。 ふと見ると、狩谷くんの顔色が悪い。青い顔でぼそぼそつぶやいている。 「…みんな不幸になれば、僕も不幸じゃなくなる」 「何言っているんですか?体のほう、大丈夫ですか?」肩に手をやろうとすると 彼の目が真っ赤になっている。泣いているのだろうか?そうではない、あやしく光っている… …幻獣の特徴。赤い眼。まさか、君が「あしきゆめ」なのか! 思わず体を引いた。 狩谷くんの体がぶるぶると激しく震える。 「まさか…まさかあなたが絢爛舞踏だなんてね。 あなたは最初から僕を疑っていたんでしょう。そして近づいた。そうだろ? よくも、よくも僕の気持ちを裏切ったな!…僕は…あなたのこと親友だと思っていたのに…。 くそ、自分だけ偉そうにしやがって。自分だけが正しい人間だと思ってるんだろ、絢爛舞踏さま? 弱い人間のことなんてこれっぽっちも考えていないんだろう?」 「何を言っているんですか、狩谷くん!」思わず叫んだ。 私の言葉が聞こえていないらしい。ずっと彼は呪いの言葉を吐き続けている。 「皆そうだ、弱いやつを足蹴にしておめおめと生きている。 強ければ何をしても許されるつもりなんだな!許さない、僕は許さないぞ! お前たちは皆同じだ!僕をあわれんで、でも僕のことを影では嘲笑っていたんだろ!? この強大な力、幻獣の力でこんな世界滅ぼしてやる!お前たちが捨てたものがお前たちに復讐するんだ。 僕を見捨てたやつらに復讐してやる!」 愕然とした。…なんてことだ。彼が…「あしきゆめ」だったとは。 「私のことが、そういうふうにしか見えなかったのですか?あなたは!」 思わず涙が出てきた。つらい。つらすぎる。私の思いも彼には偽善にしか映らなかったのか…。 その瞬間。彼は突然 「…士魂号?士魂号め!お前らに妨害させるか!」こう叫んでいきなりその場から消えた。 と同時に、晴れていた空が翳り、真っ暗になる。 職員室で先生が騒いでいるのが聞こえた。…幻獣?竜だと? 校庭に巨大な存在が出現したのをテレパシーで感じた。おぞましいほどの悪意の固まり。 舞さんがこちらに駆けてくるのが見える。 「校庭に幻獣が出現したぞ!士魂号を動かす、ハンガーに急げ!」 ハンガーに走り、士魂号に搭乗する。 「先程ハンガーに行ったら、複座型が『最強の幻獣を許すために、今、私達を使え』と私に呼びかけたのだ。」 その直後にテレパスセルに強い衝撃を感じて売店に向かったのだが、まさか狩谷が幻獣とはな… 私もそれまで気がつかなかった。迂闊だった…」機器のチェックをしながら舞さんが話しかけてきた。 「システム、オールグリーン。クールからホット。行くぞ!」 校庭に出た。今まで見たことのない巨大な幻獣、まさに「竜」の名がふさわしい。 耳を塞ぎたくなるようなうめき声がサイレンのように響きわたる。 「殺す、みんな殺す…ころすううううう…」 あれが本当に狩谷くんなのか?自分の目で見てもどことなく信じられない。 しかし、きっとそうなのだ。幻獣になるほど、恨んでいた。世界を。 私たちは彼に何もしてやれなかったのだ…。 坂上先生がスピーカーで話しかけてきた。。 「手加減するな。殺せ。善行、全力で殺しなさい。手加減できる相手じゃない。」 坂上先生は何か知っているのか…。いや、それは今はどうでもいい。 竜との決戦が始まった。 精霊手で攻撃。相手の体力を少しずつ削っていく。こちらにはダメージ無し。 あと2撃ほどで竜を倒せるだろう。 …その時、胸元が突然光り出した。青い光…だが、さっきの青い光とは違う。…OVERSだ! 私の心に呼びかけている。 「久しぶりだ。今、仲間のプレイヤーがそちらの値をハッキングして機体パラメータを書き換えた。 残念だが、私にはそちらに干渉できる時間がもうない。でも最後にひとことだけ言いたくて出てきた。 『竜を許せ。』…これだけだ。よろしく頼む。 この世界、私も気に入っていたよ。でも、私はそちらの世界の住人ではないから。 あなたたちの世界で生きるのはあなたたちの仕事だ。どうか皆、無事で…」 そこまで言うとOVERSはふっ、と何もなかったようにかき消え、もう二度と光ることはなかった。 『竜を許せ』…「倒す」ではなく「許す」? 瀬戸口くんや士魂号も同じことを言っていた。 考え事をしていてわずかの間、操作が遅れる。 「そなた、反応が遅れているぞ、どうかしたか」 「…いえ、何でも」 竜は先程からの攻撃で断末魔の叫びをあげている。 あと一撃で倒すことができるだろう。そして、竜になった狩谷くんは、死ぬ。 「とどめを刺す。奴の苦しみを終わらせてやろう」舞さんはきっぱりと言い、コマンドを入力した。 「待ってください。竜を許す…許す…ゆるす…」 操作コンソールに手を伸ばそうとして、止めた。……………。 「舞さん、攻撃を中止してください!」 「善行、そなた何を言っている!さっさととどめを刺さねばこちらがやられるのだぞ!」 「僕には…狩谷くんを殺すことは…できません」 空いている片手をぐっと握りしめた。 「何を甘いことを言っている、馬鹿もの!……しまった!ぐっ」 戸惑いの隙を狙うように竜の攻撃を正面から受けてしまった。機体大損傷。 計器全て故障。視界が赤く染まり、全身を衝撃が走り、血が流れ、意識が遠くなってゆく。 「反応しろ!どうした!」遠くで舞さんの声がする。彼女は無事なようだ。よかった…。 頭がぼんやりする。体が熱い。ああ、ここで死んでしまうのですか。 敵を倒すのに躊躇するなんて、僕は軍人失格ですね。 でも、自分の手で友達を殺すことは今の僕にはできません… 意識が途切れようとしたその時、 どこからか東原さんの声が聞こえた。やさしい声。不思議に落ち着く…。 「むかしといまでないどこかがわかったのよ。それはみらいなの。 いままでがんばろうって言ってきたのは、みらいをよぶためなのよ。 いまが、そのときなのよ。それが、せかいのせんたくなの。 なっちゃんをたすけるの。いいんちょ、たちあがるのよ。のぞみがそう決めたから。 せかいは、良くなるのよ。ぜったいに。たちなさい!」 「たちなさい。ですか…ふっ」口の端を少し動かす。 みらいをよぶために、たちあがろう。 血を吐きながら腕を、足を、ギリギリ動かした。準備、オーケー。 クラスの皆が私のことを応援しているのが遠くで聞こえる。 出血が止まる。少しだけ、楽になる。体力が僅かに回復したようだ。 力を振り絞り、なんとか立ち上がることができた。 竜の方を振り向くと、狩谷くんが竜の傷口、裂け目から分離しているのが見える。 あの部分を回避して狙えば彼を助けることができるかもしれない!と閃く。 後方座席から舞さんのつぶやく声が聞こえる。 「戦えているじゃないか。最強の幻獣と…。 …そうか、そなたは本当にヒーローに変わったのだな。 そなたは人の守護者だろう!今まで積み上げてきた力と技の数々で必ず最後に勝ってみろ!」 「行きます!」 狩谷くんを救い、竜−あしきゆめ−を倒すために、今、選択しよう。未来を。 悪い夢を見るのはこれでもう終わりだ! −それが世界の選択である− 竜本体の裂け目を回避して狙いをつけ、精霊手を放つ。GHAND。青い稲妻が一直線に走った。 竜はその光を受けると轟音を立てて崩れていった…。 「善行機、竜を撃破!」坂上先生の声がする。 竜の残骸の中に狩谷くんの体が見えた。血にまみれているがかすかに動いている、生きているようだ。 「…おっ?…ぼ、僕は。なんで…幻獣に食われたんじゃ…なかったのか。」 安心したら今度こそ気が遠くなった。皆が呼ぶ声をBGMにして私の意識は消えた…。 フェイドアウト。


エピローグへ続く

 

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