<Books Nigeuma TOPページへ>

<招かれざる者(前編)へ>







招かれざる者

(後編)

作:逃げ馬




電車のドアが開き、吉野修平は電車に乗り込んだ。
この時間帯は、東京で仕事をしていた通勤客の帰宅時間帯で、電車は混み合っている。
それでも、郊外にあるこの駅では電車を降りる客も多く、あちらこちらに空席があった。
ドアが閉まり、電車が動き出した。
加速するにしたがって、窓の外に見える街の明かりが、まるで流星のように流れていく。
修平は、向かい側の席に座る女子高校生に視線を向けた・・・・・・といっても、あまりじろじろと見て『この人、痴漢です!』などと言われても困る。
修平は、相手に気づかれないように、彼女を見つめていた。
その視線は、世の男性たちのものとは、明らかに違う・・・・・羨望の眼差しだ。
電車がスピードを落とし始めた。
駅に近づいたのだ。
前の席に座っていた女子高校生が立ち上がった。
赤いチェック柄のスカートが揺れている。
修平は思わず、感嘆の溜息を洩らした。
車内に案内放送が流れ、電車が止まった。
ドアが開き、乗客たちが降りていく。
修平もその後に続いた。
電車のドアが閉まり、少しずつ加速をしながら走り去っていく。
修平はそれを見送ると、自動改札機を通りぬけて、駅のコンコースを歩いていく。
一緒に電車に乗ってきた女の子の後姿を見送ると、修平は『目的地』に向かおうとして・・・・・そして、足を止めた。
修平の前から、ブレザーの制服を着た女子高校生や、お洒落な服やリクルートスーツを着た女子大学生が、駅に向かって歩いて来る。
修平は近くにある本屋に入って漫画雑誌を手にして、彼女たちの姿を見つめていた。
楽しそうにお喋りをしながら歩いていく女子高校生たち、美人でプロポーションも良い。
有名アイドルグループに入れば、たちまちセンターを取ってしまうだろう・・・・・いや、グループに入らずにソロデビューか・・・・・?
女子大学生はお洒落だ・・・・・あんな服を着てみたい・・・・・修平は彼女たちを羨望の眼差しで見つめていた。
腕時計に視線を落とす。
時間は夜の7時前。
本屋の前を高校生や大学生が、駅に向かって歩いて行く。
まだ行動を起こすには早い・・・・・修平は思った。
これから修平が行こうとしている場所は、『男子禁制』の場所だ。
人目につけば、警備員に摘まみ出されてしまうだろう。
修平は本屋とハンバーガーショップで時間を潰して、夜8時半・・・・・目的地に向かい、行動を開始した。

修平の前には、煉瓦作りの立派な校門がある。
『純愛女子学園』・・・・・幼稚園から大学までが揃う女子の名門校だ。
そしてこの学園は、男子禁制であることも知られている。
それ故に囁かれている噂がある。

あの学園に入った男は、女性にされてしまう・・・・・と・・・・・。

しかし話によると、純愛女子学園にも体育祭や文化祭もあり、男性も校内に入ってはいるようだ。
だが修平は、確かめずにはいられなかった。
TSF界の都市伝説の真偽を・・・・・。

校門から学園の中に入る。
左側には、煉瓦造りの礼拝堂がある。
この中に聖母像が?・・・・・修平の胸が高鳴り、礼拝堂の扉に手をかけた。
扉を開くと礼拝堂の奥から、立派な聖母像が修平を見下ろしている。
修平は聖母像の前に歩み寄り、手を合わせて祈った。
「聖母様・・・・・女の子になってみたいです・・・・・」
聖母像は、穏やかな微笑みを浮かべて修平を見つめていた。
彼の願いに驚いたであろうが・・・・・。
祈りを終えた修平は立ち上がり、聖母像を見上げている。
しかし、彼が期待しているような事は起きない。
床に置いたバッグを肩にかけると、彼は礼拝堂の扉を開けて外に出た。

時計の針は、夜の9時になろうとしている。
校内には人影は見えないが、蛍光灯の光が窓から見える部屋がいくつもある。
大学の理学部の校舎だ。
もう12月、卒業研究の追い込みだろうか?
修平が想像を巡らせていると、
「ちょっと、あなた?!」
突然聞こえてきた声に驚き、振り返るとそこには、細いフレームの眼鏡をかけて、白衣を着た女性が修平を睨み付けていた。
「あなたは、どうしてここにいるの?」
女性が鋭い視線を、修平に向けながら尋ねた。
気持ちを落ちつかせようとしているのだろうか?
彼女は、ゆっくりとした口調で修平に尋ねた。
しかし、鋭い視線は彼の目に、しっかりと向けたままだ。
「僕は・・・・・」
修平は、まるで呟くように言ったが、その後の言葉は出てこない。
「この学校はね、男子禁制なの・・・・・」
彼女はクスッと笑うと、
「早く出ていかないと、この学校を守っている聖母様のバチが当たるわよ!」
なんてね・・・・・彼女は明るく笑うと、
「警備員さんに見つかる前に、早く帰りなさい」
じゃあね・・・・・と言うと、彼女は修平に向かって片手を挙げて、校舎に入って行った。
修平は彼女の後ろ姿を見送ると、校門には向かわず、さらに奥へ・・・・・純愛女子学園高校の校舎に向かった。
高校の校舎の明かりは、消えていた。
夜の9時・・・・・進学校のこの学校の生徒たちは、自宅や予備校での勉強に励んでいることだろう。
修平は校舎の入口・・・・・ガラス扉の前に立った。
扉の向こうには、クラブ活動で優勝したのだろうか・・・・・額に入った表彰状やトロフィーなどが飾られている。
そして、玄関ホールの中央には、大きなガラスケースにの中に人影が・・・・・?
修平は、無意識のうちにガラス扉に手を当て・・・・・そして、押していた。
カチャリという軽い音と共に扉が開き、修平は校舎の中に入った。
なぜ扉に鍵がかかっていなかったのか・・・・・それに対する疑問など考えもしなかった。
修平は、惹き付けられるようにガラスケースの前に立った。
ガラスケースの中に見えていた人影の正体は、二つのマネキン人形だった。
それぞれ夏の制服、冬の制服を着てポーズをとっている。
それを見つめる修平は、思わず感嘆のため息を漏らしていた。
憧れの『女子高校生』の制服・・・・・修平の心の中に、駅で見かけた女子高校生の姿が甦ってきた。
いくら憧れの制服でも、男の体のまま女子の制服を着る、いわゆる『女装』をするのは、修平の『美学』に反することだった。
この制服を着てみたい・・・・・だが、男の体のままでは嫌だ・・・・・そこで出てくるのが、ネットで囁かれている『TSF界の都市伝説』なのだ。
あの都市伝説が真実だとすると・・・・・?
「そう、わたしが現れるはずよね・・・・・」
突然、声が聞こえてきた。
しかし修平は、恐怖を感じなかった。
声が聞こえてきた方向に視線を向けると、制服のスカートの裾を揺らしながら、ロングヘアの黒髪の美少女が階段を降りて来ると、修平に向かって歩いて来た。



美少女は微笑みを浮かべながら修平の前に立つと、
「ここは男子禁制の学校よ・・・・・早く帰った方が良いと思うけどな・・・・・」
彼女の言葉を聞いて、修平も柔らかく微笑んだ。
「帰らなければ、どうなるのかな?」
「この学校は男子禁制の学校、男子がここにいてはならない」
彼女の言葉を聞いて、修平の胸が高鳴る。
彼女は修平を見つめながら笑った。
「でも、あなたの期待するような形になるのかな?」
「僕は、出ていかない。これからこの学校を『探検』してやる!」
まるで『下手な役者』のような口調で話す修平を見ながら、美少女は肩をすくめた。
「帰るならば、今のうちよ」
彼女の言葉に、修平は首を振った。
その瞬間、修平の体は赤い閃光に包まれていた。


「ここは・・・・・?」
目を覚ました修平は、周りに視線を走らせた。
彼は『純愛女子学園高校』の校舎の中にいたはずだ。
それなのに今、彼は自分の部屋にいた・・・・・いや、それは正確ではない。
確かに見慣れた部屋なのだが、何か部屋の雰囲気が違う。それはまるで・・・・・女の子の部屋だ?
修平は起き上がり、そして『期待したとおりの身体の変化』に歓喜した。
レモンイエローのパジャマの胸元をなだらかな膨らみが押し上げ、『彼女』の身体は、その重みを感じることができる。
そしてベッドの脇に置かれているのは、TSFではお約束の姿見だ。
そこに映っているのは、ショートボブの黒髪の女の子だ。
鏡に映る女の子は、自分の姿を見て満足そうに微笑んでいる。
それは今の自分自身の姿だ。
わたしのは・・・・・?
彼女は戸惑った。
額に汗が浮き出てくる。
わたしの名前は・・・・・よしの・・・・・そう、吉野梓(よしの あずさ)だ。
嫌だなあ・・・・・自分の名前を忘れるなんて・・・・・。
彼女はベッドから起き上がり、レモンイエローのパジャマを脱ぎながら、クローゼットに向かった。
白く細い指がパジャマのボタンを外し、慣れた手つきで胸に膨らみを支えていたブラジャーを外した。
今『彼女』の視界の中には、女性だけが持つ二つの膨らみが『無防備な状態』で『彼女の視線』にさらされている。
『彼女』は小さな手で胸の膨らみを・・・・・それが『吉野修平』が『女の子になってやってみよう』と思っていたことの一つだった。
しかし『彼女』は引き出しを開けると、整然と並んだ色とりどりの下着の中の一つを選ぶと、慣れた手つきでブラジャーとショーツを身につけた。
『そんな・・・・・僕は、女の子の身体を・・・・・?』・・・・・彼女の身体の中で、修平の心は戸惑っていた。
その一方では、『女の子の修平』が、
『なによ、この胸・・・・・男の時には大きな胸の女の子をついつい見ちゃったけど、今のわたしのDカップの胸は重いし、肩も凝るし・・・・・なせ、胸のに大きな女の子に憧れていたんだろう?』
彼女のブラジャーに包まれた胸の膨らみは、純白のスクールブラウスで隠された。
ブルーのチェック柄のスカートを穿き、リボンタイを締めてクリーム色のベストを着た。
スカートに包まれた太ももが触れあう感覚に、修平の男の心は酔っていた。
修平の身体は、彼の意思に構わず『いつもの身仕度』を進めていく。
髪を整えて、鏡を見ながら身だしなみをチェックしている。
『制服は、もういいから・・・・・この身体で、もっといろんな服を着てみたい!』
修平は身体を動かそうとするのだが、身体は彼の意思とは関係なく動いている。
『どうして女の子になりたいなんて思ったのかな? お肌の手入れは大変だし、身だしなみだって・・・・・』
鏡に映る修平=梓が可愛らしい魅力的な笑顔を見せた。
『でも、学校帰りに友達と遊びに行くのは楽しいな・・・・・』
修平の男性の心が、女の子の『梓の心』と同化していく。

彼女が鏡をみつめている。
そこには『いつもの朝』と同じ・・・・・制服姿の美少女がいた。



所は変わって、ここは天国。
白く光り輝く服を纏った美女が、泉の水面を見つめている。
そこには、学校に向かう制服姿の美少女が映っている。

「いろいろと『男の子の心』でやりたかったことがあったようだけど、女の子になりたいと望んだために、女の子の心に同化するのも早かったようね・・・・・」

彼女はにっこり微笑むと、泉から離れていった・・・・・。





招かれざる者(後編)

おわり



作者の逃げ馬です。
山口提督の感想カキコから始まったこの作品。 無事に書き終えることができました。
『変身中は書かないの?』という声があったので、前編では劇中劇としてド派手な変身中を書いてみました・・・・・「これで書いてみよう」という感想カキコには、少し困ってしまいましたが・・・・・その分は、今後の作品で(^^;
修平君は、女性に変身したものの、彼の希望していることはできずじまいになってしまいました。
聖母様も、そうなることが分かっていたのですが・・・・?

今回も、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
また、次回作でお会いしましょう!


なお、この作品に登場する団体・個人は実在のものとは関係のないことをお断りしておきます。

2014年11月29日 逃げ馬








<感想やカキコはこちらへ>


<作者【管理人】へメール>



<学校の聖母シリーズのページへ>







<Books Nigeuma TOPページへ>































































































Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!