気まぐれTSF
作:逃げ馬
掲示板に書き込んでいただいた話題から、『それならば』という形でSSに仕上げてみました。
2015年も、あと数日で終わろうとしている。
12月の末は、社会人にとっては忙しい時期だ。
その忙しさには社会人としての付き合い・・・・・忘年会も含まれるのだが・・・・・。
2015年の会社の業務を終える最終日。
僕は会社の同僚達との忘年会に参加をした。
年末の仕事の追い込みで続いた残業疲れと、お酒が入ったためだろうか?
店を出たころには、僕は強烈な睡魔に襲われていた。
店の前で同僚達と別れ、僕は繁華街を歩いて私鉄のターミナル駅に向かった。
『これは・・・・・ヤバいかも・・・・・?』
自動改札機を通りプラットホームに立った頃には、立っているのが辛いほどになっていた。
大学生の頃、無茶苦茶な飲み方をしても、こんな状態にはなったことはないのだが・・・・・。
『快速急行、神戸三宮行きが入ります。途中の停車駅は十三(じゅうそう)・・・・・』
ホームに案内放送が流れ、マルーン一色に塗られた電車が入ってきた。
電車のドアが開くと、僕はドア横の座席に、倒れ込むように座った。
夜の電車の座席は、あっという間に埋まり、立っている人も多い。
僕の前には、制服を着た女子高校生が立っていた。
『塾帰りかな?』
こんなに酔っぱらった男性客の多い時間帯に、危ないぞ・・・・・まあ、自分もその一人なんだけど・・・・・。
そう思いながら、少しうとうとしていると・・・・・?
「・・・・・?」
誰かが僕の肩を叩いた。
目を開けると、あの女子高校生が、僕の顔を覗きこんでいる。
「大丈夫ですか?」
彼女が僕に、声をかけた。
「ああ・・・・・大丈夫・・・・・」
ありがとう・・・・・僕は苦笑いしながら答えた。
電車は夜の街を、軽快に走って行く。
『次は、西宮北口です。宝塚方面は・・・・・』
ずいぶん眠っていたんだな・・・・・車内アナウンスを聞きながら、僕は思った。
目的地より前に起きる事が出来たのは良かった・・・・・彼女に感謝しなければ・・・・・。
「ありがとう」
彼女にもう一度、お礼を言った。
電車が止まり、ドアが開いた。
この駅は、他の路線との乗り換え駅なので、乗降客が多い。
彼女は、ちょうど空いた僕の横に微笑みながら座った。
「どちらまで行かれるのですか?」
彼女に聞かれて、僕が答えると、
「わたしの学校がある駅ですね・・・・・」
そうなのか・・・・・僕は曖昧に答えた・・・・・確かに僕の住む街は、大学やそれに関連した学校も多い。
いわゆる『お洒落な街』に分類されることも多いようだ。
都心で働き、帰って寝るだけの人間には、あまり関係がないことだが・・・・・。
僕は少し戸惑っていた。
『顔が赤い酔っぱらい客』の横に座る『清楚な女子高校生』・・・・・しかも、その女子高校生の方から『酔っぱらい客』に向かって楽しそうに話しかけているのだ。
彼女が話しかける度に、なんとも言えない甘い香りが、僕の周りに漂ってくる。
また睡魔が襲ってくる。
ヤバい・・・・・もうすぐ駅に着くのに・・・・・。
「これ、飲みませんか・・・・・?」
顔をあげると、彼女が小さな缶を僕に差し出していた。
「これは・・・・・?」
何かな・・・・・僕は缶を手にして、彼女に尋ねた。
「エナジードリンクです。最近はいろいろ出ていますよね・・・・・飲むと生まれ変わったように、スッキリしますよ」
彼女は、その可愛らしい顔に、魅力的な微笑みを浮かべている。
「ふむ・・・・・」
僕はしばらくその缶を見ていたが、缶の封を切ると、口を付けて一気に飲み干した。
その時、彼女の言葉が聞こえた。
「女の子のエナジー100%です」
と・・・・・。
次の瞬間、僕の意識はまるで『おいしいお酒』を飲んだ後のような心地好い感覚に包まれていった・・・・・。
「・・・・・?」
誰かが僕を呼んでいる?
僕が目を開けると、スポーツウェア姿の女の子が、僕に向かって心配そうな視線を向けていた。
そして僕に向かって、こう言ったのだ・・・・・「真希、大丈夫なの?」と・・・・・。
僕の視界に飛び込んできたのは、見慣れない光景だった。
「ここは・・・・・?」
僕の視界に飛び込んできたのは、室内にあるテニスコートだ。
なぜこんなところに・・・・・?
僕は電車に乗っていて、隣にいた高校生の女の子から・・・・・?
それに、僕に話しかけたこの女の子は?
僕は、彼女のことは知らない・・・・・初めて会ったのに、まるで僕のことを知っているように・・・・・?
そして僕は、あることに気が付いた。
彼女は僕にこう言った。「真希、大丈夫なの?」と・・・・・。
僕は座っていたベンチから立ち上がって、彼女に言おうとした。
僕は男だ、真希じゃないよ・・・・・彼女に言おうとしたその時、僕は自分の体に、まるで見えない何かに押さえつけられるような感覚を感じた。
体を動かそうとしても、全く自由にならず、声を出すことも出来ない・・・・・周りから見れば、ベンチの前に突っ立っているように見えるだろう。
僕の見ている視線が下がっていく。
前に立っていた女の子を見下ろしていたはずなのに、いつの間にか彼女の顔が、僕の正面にあるじゃないか。
背が低くなったことで、スーツはぶかぶかになってしまった。
どういうことなんだ・・・・・とまどった僕の脳細胞に、新たな刺激が情報として送り込まれてきた。
胸がムクムクと膨らみ、スーツの胸元を押し上げていく。
まるでそれに合わせるように、ぶかぶかになったはずのスーツのズボンがヒップが丸く、大きく膨らんでしまったことで、はち切れそうになっている。
それとは逆に、ウエストには括れができて、いつの間にか足は女の子のように内股になっている。
髪がスルスルと伸びると、ポニーテールに纏まっていく。
その時、
「?!」
シャツが変形をして、胸を包み込んだ。
トランクスも滑らかな肌触りになり、大きく膨らんだヒップと、すっかり「何もなくなってしまった」股間を包み込んだ。
変化は、僕の視界のなかでも起き始めた。
スーツとネクタイは光の粒になって消え去り、白いワイシャツはピンク色に変わると、スポーツウエアに変わってしまった。
左右の足を包んでいたスーツのズボンは、一本に纏まると白く変わり、ぐんぐん短くなっていく。
そして、太腿のほとんどを露出すると細かい襞を刻み、テニスウエアのスカート・・・・・スコートに変わってしまった。
いつの間にか、白く細い右手にはラケットを持っている。
僕はいつの間にか、高校生のテニス部員になっていた。
「真希、大丈夫?」
僕の顔を覗き込む、女の子は僕の変化を見ていなかったのだろうか?
ごく自然に訪ねてきた。
「うん、大丈夫」
僕の意思を無視して、口が独りでに動き、自分のものとは思えない可愛らしい声で答えていた。
「・・・・・すっきりしたわ♪」
「じゃあ、もう一度」
「うん」
僕は彼女と一緒に、コートへ入っていく。もちろん、自分の意志ではない。
『やめてくれ、こんな恥ずかしい恰好で・・・・・女の子みたいに・・・・・!』
僕は自分の身体を止めることはできない。
何か不思議な力に操られるかのように、僕はテニスコートでラケットを振っていた。
僕がコートを動くたびに、白く短いスカートが健康的な白い太腿を撫でる。
『2016年は・・・・・僕は女子高校生になってしまうのか?』
この美少女の体の中で、僕は途方に暮れていた。
きまぐれTSF
(おしまい)
作者の逃げ馬です。
2015年の『締めのSS』は、掲示板に頂いたカキコをモチーフにしたSSです。
2015年も応援をいただき、ありがとうございました。
なお、この作品に登場をする団体・個人などは実在のものとは一切関係のないことをお断りしておきます。
2015年12月
逃げ馬
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