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気まぐれTSF

(第4話)


作:逃げ馬




2月、今年は暖冬という話だが、今夜は少し冷え込んでいる。
駅で電車を降りると、辺りはすっかり暗くなっていた。
さて、帰るか・・・・・あなたは家に向かって歩き始めた。
自然に早足で歩いていた。

「うう・・・・・寒い!」

あなたは俯きながら言った。
その時、あなたは誰かにぶつかった。

「アッ?! ごめんなさい!」

ブレザーの制服を着た“女子高校生”が、あなたに頭を下げた。

「大丈夫?」

あなたは苦笑いしながら声をかけた。

「本当にごめんなさい!」

彼女はもう一度頭を下げると、駅に向かって走っていった。

さあ、僕も帰ろうか・・・・・あなたは歩き出そうと思ったその時、足元に何かが落ちているのを見つけた。

あなたは、歩道に落ちていたものを拾い上げた。
店のロゴなど何も印刷がされていない、素っ気ないビニール袋。
彼女は駅に向かった・・・・・明日、駅員に預けておこう。

「うう・・・・・寒い!!」

身震いをしたあなたは、足早に家に向かった。



帰宅したあなたは、拾った袋を床に置くと、浴室に向かった。
服を脱ぎ、浴室に入り冷え切った体にかけ湯をすると、温かい湯を張ったバスタブに体を沈めた。
街の桜の木に咲いた花も散り、若葉が目立つくらいだ。
それなのに今年の春は、朝と夜の冷え込みは厳しい。
そのお陰で、桜の花を楽しめる期間が長かったのだが・・・・・。
バスタブを出て、体を洗い、あなたは浴室を出た。

バスタオルで体を拭き、ドライヤーで髪を乾かして、下着とパジャマを着たあなたは、リビングルームに戻ってきた。

「・・・・・?」

何かが変だ。
さっきとは違う。
あなたはリビングルームを見回して、その原因を見つけた。
白いビニール袋から、紺色の何かが見えている。
あなたは体を屈めて、それを拾ってみた。
袋から見えていたのは、女子学生が履く紺色のハイソックスだった。

『いや・・・・・・ちょっと違うかな?』

あなたは思った。
少し前までは、街でもよく見かけたけど、最近はハイソックスを履いている女子高校生なんて、減ってきたぞ? あの娘は、わざわざ買いに行ったのかな?

その時、後ろに何かを感じた。
振り返ると、ブレザーの制服とブルーのチェック柄のプリーツスカート、そして白い健康的な足に紺色のハイソックスを履いた美少女が、微笑みながらあなたを見つめていた。

なぜ、ここに・・・・・?

口を開こうとしたあなたに、

「これが気になるかしら?」

彼女は、美しい脚線美をあなたに見せつけるかのように、自分の足を指差した。

プリーツスカートからは、白く健康的な太腿が伸びている。
膝からふくらはぎにかけて、キュッと引き締まった白い足。
その足を紺色のハイソックスが『絶対領域』のコントラストを作り出している。
そう、あなたが手にしているものが・・・・・。

あなたは、我に返った。

「あっ、ごめんよ」

これ、返さないとね・・・・・あなたは慌てて、手にしていたハイソックスを袋に戻そうとした。
白く細い腕がスッと延びてきて、小さな手があなたの手首を掴んだ。

柔らかい・・・・・。

そう感じたあなたの右手から、彼女は左手で袋を取った。
あなたの戸惑った視線にはかまわず、彼女の右手はあなたの手首から離れ。袋の中から紺色のハイソックスを取り出した。

そして彼女は、微笑みを浮かべてあなたに言った。

「ねえ、これを履いてみない?」

「えっ?(^^;」

彼女は何を言っているんだ?
あなたは困惑しながら彼女を見つめていた。
彼女の顔が近づいてきた。
あなたの顔のすぐ横に、美少女女子高生? の顔がある。
彼女のつけている化粧品だろうか? 甘い香りが、あなたの鼻をくすぐる。

「気になるでしょう? 履いてみればいいのよ」

誰も見ていないし・・・・・彼女があなたの横で甘く囁く。

「さあ、早く・・・・・」

隣で囁く美少女女子高生の声が、あなたの心の『安全装置』をひとつ・・・またひとつと外していく。
あなたは彼女の持つハイソックスに手を伸ばして・・・・・そして、その手が止まった。

なんだろう、この感覚は?
頭の中で、『履いてはいけない』と、だれかが叫んでいるようだ。

あなたの耳もとで彼女がクスッと笑った。

「何を躊躇っているの?」

さあ・・・・・彼女はハイソックスをあなたの右足の爪先に被せると、ゆっくり引き上げていく。

「ほら、なんでもないでしょう?」

彼女は、左足の爪先にハイソックスを被せた。
今度は、あなたも手を添えてゆっくりと引き上げた。
あなたの両足は、ふくらはぎの上まで紺色のハイソックスに包まれた。
彼女とは違い、そこから上は毛が生えた男性の足なのだが・・・・・。

しかし・・・・・。

あなたは自分の肉体に、今までに感じたことのない感覚を感じていた。



いったい何が起ころうとしているのだ?
あなたは自分の腕に、体に、そしてハイソックスに包まれた足に視線を向けた。
何も変わらない。
しかし・・・・・あなた自身は、確かに自分の体に『変化』を感じ、またそれは間違いではなかったのだ。

あなたの体は、見えないところで変化を始めていた。

あなたの『理想の肉体』になるために・・・・・。

やがてその変化は、あなたが見てもわかるほどに変化・・・否、変身を始めた。



あなたのそれなりについた腕の筋肉が、ピクピクと痙攣を始めた。
腕だけではない。
胸の筋肉が、腹筋が、足が、更には顔の頬や目の周りピクピクと痙攣を始めた。

「何が・・・・・?」

驚いたあなたは自分の体を見回した。

両肩に、まるで見えない何かに抑え込まれているような感覚を感じる。
強烈な不快感に襲われる。
思わず、自分の体を抱きしめようとして、あなたは自分の視界に飛び込んできたものに驚愕した。
あなたの体を抱きしめようとしていた腕から、筋肉が少しずつ・・・・・まるで、氷が溶けるように消えてゆき、腕と指に生えていた毛が消えていく。
そして指が・・・・本来の自分の物とは違う細い指になり、爪の形までが変わっていく。
それに合わせるかのように、肌の色が白く、肌の質感も自分の物とは違う・・・・・まるで、女の子のように?

「?!」

お尻が大きくなっていく。
思わず、自分の物とは思えない小さな手をお尻にあてた。
その掌に、柔らかい感覚を感じ、それが手を押しのけるように丸く、大きくなっていく。
骨盤が外に広がっていく“コキ・コキッ”という感覚を感じていると、足が自然に内股になっていく。
その足も筋肉は消え去り、肌は白くなり、太腿は柔らかく・・・・男の物とは思えない。

「ま・・・さ・・か?」

僕は・・・・・本当に女性になるのか?

あなたの疑問に答えるかのように、左右の胸の先にむず痒さを感じた。
あなたは視線を胸元に移した。
むず痒さを感じている胸の先端を頂点として、胸がムクムクと膨らんでくる。
驚いて両手を胸にあてた。
胸をつかむ。
最初は堅かった膨らみが、やがて柔らかく、掌を押しのけるように大きくなってくる。

突然、閃光があなたの体を包み込んだ。

思わず閉じてしまった目を恐る恐る開くと、そこは淡い光に包まれた空間だった。
そして次の瞬間、

「?!」

あなたの着ていた服が、光の粒になって消え去った。
ただ一ヶ所、足を包む濃紺のハイソックスを除いて・・・・・。

「そんな・・・・・?」

バカなことが・・・・・あなたは呟いた。
あなたの目に飛び込んできたのは、自分のものとは思えない、白く滑らかな肌に包まれた華奢な体だ。

このまま女の子に・・・・・?
不安に襲われているあなたは、これまでで最大の体の変化を目にすることになった。

長年慣れ親しんできた“あなたの象徴”が、まるで氷が溶けていくように小さくなっていく。

「やめろ!!」

叫んだその声は、まるで思春期の女の子のような声だ。
凍り付いた様に見つめるあなたの視線の先で、あなたの象徴は新しく刻み込まれた溝の中に消えていった。

「そんな・・・・・」

あなたは、かすかに震えながら自分の体を見下ろした。
あなたの視界に飛び込んできたのは、いつも見慣れた自分の肉体ではなかった。

白く滑らかな肌。
形良く膨らんだ二つの胸の膨らみ。
キュッと引き締まったウエスト。
丸く膨らんだヒップから太腿に続くライン。
白い足の先は、あの紺色のハイソックスに包まれていた。
そして股間には、何もなくなってしまっている。
さらに、いつの間にか艶やかな黒い髪が肩にかかっていた。

これは・・・・・まさか?
戸惑うあなたを、更なる変化が襲った。



象徴を失ってしまったあなたの下半身をピッタリと、スカイブルーのショーツが包み込み、胸にはそれとペアのブラジャーが、あなたの胸に生まれた二つの膨らみをしっかりと包み込んだ。

「これって・・・・!?」

自分の胸に・・・・・男であるはずの自分の胸にふくらみができて、それがブラジャーで包まれている?
それに、股間が『何もなくなってしまっている』のは・・・・・?
あなたは自分の視界に入ってくる光景を信じられなかった。
しかし、頭の中でいくらそれ否定しても、胸を締め付ける下着の感覚があるし、それに股間には慣れ親しんだものの感覚はない・・・・・まあ、何かがうずく感覚はあるが?
手を伸ばしてみようか・・・・・そう思った時、新たな変化が起きた。

上半身を、白い滑らかな肌障りの下着が包み込んだ。
驚くあなたを置き去りにするかのように、清潔感を感じさせる白い丸襟のスクールブラウスが上半身を包み込んだ。
それと同時に、あなたの下半身は濃紺のプリーツスカートに包まれた。
ブラウスの胸元に、青いリボンタイが結ばれた。
そして上半身がクリーム色のベストに覆われ、その胸にはエンブレムがつけられていた。
あなたはそのエンブレム・・・・・いや、正確には、今自分が身に着けている制服に見覚えがあった。
この辺りでは有名な進学校・・・・・それもいわゆる『お嬢様学校』・・・・・女子校の制服だ。

「そんな・・・・・ぼくが・・・・・?」

女の子・・・・・それも、女子高生に?

「それは、『あなたが望んだ理想の姿』なのよ?」

あなたの戸惑いを見透かしたような言葉が聞こえて、あなたは声の方に振り向いた。
艶やかな黒髪が、あなたの頬を撫でた。
あなたの視線の先で微笑んでいたのは、今あなたが履いている濃紺のハイソックスの持ち主・・・・・あの美少女だった。

「君は・・・・・?」

どうしてここに・・・・・? 自分の声とは思えな可愛らしい声で問いかけたあなたに、彼女は、

「あなたを”ここ”へ連れてきたのは、わたしなのよ」

あなたを、あなた自身が望んでいる姿・・・・・本当のあなたの姿にするために・・・・・。
彼女が指を鳴らすと、あなたたちの前に大きな鏡が現れた。
そこには・・・・・制服姿の二人の美少女が映っていた・・・・・そう、あなたが思い描いていた”理想の美少女女子高校生”が・・・・・。

あなたは、ゆっくり鏡に向かって歩いていく。

「これが・・・・・?」

僕なのか?・・・・・ついさっきむで、確かに男だったはずなのに?
しかし呟いた声は、自分の声とは思えない女の子の声だ。

「そう、そこに映っているのは、あなた・・・・・あなたの理想姿・・・・・」

美少女があなたに微笑みかける。

「その胸の膨らみも、細いウエストも、可愛らしいヒップも、美しい足も・・・・・すべてがあなたの理想の姿、これからあなたは、自分の理想の女の子・・・・・16歳の女の子なのよ・・・・・」

彼女の透き通る声が頭に響き、あなたの心を変えてゆく。
それは決して不快感や恐怖ではない。
何か温かいものに包まれていく感覚・・・・・。

あなたは光に包まれて・・・・・そして消えていった。



誰かがあなたを呼んでいる。
あなたが目を覚ますとそこは電車の中、あなたは隣に座るスーツ姿の男性に凭れ掛かっていた。

「アッ、ごめんなさい!!」

あなたは慌てて立ち上がり、男性に謝った。
自分の口から出た可愛らしい声に一瞬、戸惑いを感じた・・・・・自分の声なのにどうして?
謝られた男性は、あなたを苦笑いしながら見つめていたが、軽く頷いた。
あなたの白く細い手首を、誰かが掴んだ。
あなたと同じ制服を着た美少女が、艶やかなショートカットの黒髪を揺らしながら、元気な声で言った。

「さあ、早く行かないと遅刻しちゃうよ♪」

違う・・・・・何かが違う・・・・・あなたの心はそう告げていたが、あなたは何故か微笑みながら頷いていた。
彼女と一緒に電車を降りて、改札を通る。
あなたが一歩ずつ歩くたびに、長い髪が首を撫でる違和感も、なぜか自然に内股で歩いてしまう違和感も、そして白い太腿をプリーツスカートがなでる違和感も、全て溶けるように消えていった。

もう、あなた自身を含めて、あなたの周りにかつてのあなたを覚えている人は、一人としていない。

しかし、あなた自身はこれから始まる”新しい一日”に心を弾ませていた。

二人の美少女女子高校生が、クラスメイトと挨拶を交わしながら校門をくぐる。

あなたの新しい生活がスタートした。




(おわり)



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