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20万HIT記念SS


突然の贈り物

作:逃げ馬






部屋のドアが、カチャリと音を立てて開くと、あなたはバッグを床に置きハンガーに手を伸ばした。
来ていた上着を脱いでハンガーに掛けると、机の上に置いてあるパソコンのスイッチを入れた。

やれやれ・・・・今週も1週間が終わった・・・・あなたは小さなため息をつくと、椅子に座り視線をパソコンのモニターに向けた。
いつものようにネットサーフィンを始めた。
いろいろなホームページを見ていると、自然と疲れた顔に微笑みが浮かび、1週間の嫌な出来事も忘れていく。

「オッ?!」

あなたは思わず声を上げた。
あなたがチェックをしたホームページで、カウンターが20万ちょうどだったのだ。
ポップアップ画面が開いた。

おめでとうございます♪
あなたはこのホームページへの20万人目の来訪者です。
ささやかなプレゼントを用意しましたので、ここをクリックしてください





怪しい・・・・あなたは一瞬、そう思ったのだが・・・・?

「あっ?!」

やっちゃった・・・・あなたは思わず苦笑した。
そう、つい出来心で? クリックをしてしまったのだ。
あなたの視線が、慌ただしく画面上を行き来し、アイコンなどをチェックした。
「ウイルスは・・・大丈夫だったみたいだな・・・・」
セキュリティー対策は、きちんとしているつもりだが、近頃は何があるかわかったもんじゃない・・・・。
あなたは小さくため息をつき、イスから立ち上がった・・・・その時、
「?!」
玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に?・・・あなたは玄関の覗き窓から外を見た。外には段ボール箱を持った青年が立っている。
「どなた・・・ですか?」
あなたが問いかけると、
「“トランスデリバリーサービス”です・・・・・」
お荷物をお届けに来ました・・・ドアの向こうで、段ボール箱を抱えた青年が微笑んでいる。
あなたは鍵を外すと、ドアを開けた。
青年は被っていた帽子をとり、箱をあなたに差し出すと、
「お届けにあがりました、この伝票にサインをお願いします」
あなたは玄関に置いてあった認め印を手にすると、伝票にハンコを押した。
「ありがとうございました」
宅配便の青年は頭を下げると歩いていく。
「おやすみ!」
あなたは青年の背中に声をかけると、ドアを閉めた。




「ふむ・・・・」

部屋の床には、段ボール箱が置いてある。
そう、青年が運んできた段ボール箱だ。
あなたは箱にはられた伝票に視線を向けていた。
差出人に書かれていたのは、あのホームページだ。

「じゃあ・・・これが“ささやかなプレゼント”か・・・・?」

まさか爆弾じゃないよな・・・・あなたは恐る恐る段ボール箱に張られていたガムテープをはがし、箱を開けようとしたが、

「・・・・・・」

思わずその手が止まる。
こういう時にありがちな展開としては・・・・突然白い煙が出てきて白髪の老人に・・・・?
あなたは頭を振った。
なぜ、そんな非科学的なことを・・・・あなたは苦笑いしながら、その手で箱を開けた。





箱の中には、古新聞が丸めて詰め込んである。
壊れ物が入っているのか?・・・あなたはそう思いながら新聞紙を取り出していく。

「あっ・・・?」

中から出てきたのは・・・・?

「人形・・・・か・・・?」

箱に入っていたのは、紺色のブレザーの制服とブルーのチェック柄のスカートはいた女の子の人形だった。
大きさは30センチほどあるだろうか? 
箱の底には封筒が入っている。 保証書でも入っているのだろうか・・・・そう思ったあなたは封筒を手に取り開けてみた。

「なんだこりゃ?!」

あなたは思わず笑い出した。
中に入っていたのは、住民票と高校生の学生証。そして、この“女の子”の“スペック”が書いてあるメモだ。

「人形の住民票に学生証ってか?」

あなたは、床に置いた女の子の人形と手にした書類を見比べていた。

石井理沙
身長:158p B:87p W:58p H:86p
年齢:16歳
純愛女子学園高校1年生
現在は両親のもとを離れ、学校に通うため一人住まい。
頭脳:学業成績優秀・スポーツ万能
趣味:音楽を聴くこと・料理・ぬいぐるみ収集
性格:友達思いで優しい。そのため友人は多い。男の子にもてる。ちょっと恥ずかしがり。




あなたは、添えられていた学生証と住民票を見比べていた。
ご丁寧に、住所はあなたの住んでいる場所になっている。

「ふむ・・・」

あなたは改めて人形を見つめていた。

「やけにこだわったキャラクター設定だな」

あなたは、床に置いていた人形を手にした。



「・・・?」

あなたは少し違和感を感じた。
普通の人形は合成樹脂で作られている。
そのため、手触りはそれなりのものだ。しかし・・・・?

「なんだ・・・・これは?」

今あなたが手にしている人形は・・・?

「う〜ん・・・」

あなたは戸惑い、思わず声を漏らしていた。
あなたは今、人形の足・・・ちょうど太腿の部分を持っている。
そして、あなたの指から伝わってくる感覚は、まるで“人間の女性”を触っているような感覚なのだ。

「なんだよ・・・・これは・・・?」

あなたの指は人形の着ている制服を触っていた。
最近の人形・・・・フィギュアは、樹脂を型で成形したり、3Dプリンタで加工したものに着色をしたものが多い。
当然、人形が着ている服も、人形ごと成形され、それを着色して表現している。
しかし、今あなたの触っている人形の服は、着せ替え人形のように布で作られている・・・・いや、その触っている感触は、まるで”本物”のようだ。
あなたは一瞬、“服を脱がせてみようか”と思ったが、なんとか思いとどまった。




あなたは、人形を手にして見つめている。
あのメモに書かれていたスペックから見ると、この人形は5分の1スケールということだろうか?
彼女の・・・・人形の姿は、あなたの理想の少女のように思えた。
あなたの目はじっと制服姿の美少女を見つめている。

「ハア〜〜〜〜〜・・・・・」

あなたは思わず、大きなため息をついた。

「こんな娘になって人生をやり直すのも・・・・悪くないかも・・・な・・・・」

呟きながら人形を見るあなたの視線が人形の目と合ったその瞬間、眩い閃光があなたの体を包んでいた。




「なんだ?!」

あなたは思わず叫んだ。
あなたはあたりを見回した。
ここは見慣れたあなたの部屋。
しかし、今その部屋は、色とりどりの光に照らされている。

「何が起きたんだ・・・・?」

立ち上がったあなたは・・・・?


「うっ・・・?!」

あなたは思わず呻いた。
体がおかしい・・・・まるで全身の神経が敏感になったようだ。
次の瞬間、頭がムズムズしたかと思うと、美しい黒髪がするすると伸びていく。
そして・・・戸惑っているあなたの体が、見えない何かに押さえつけられるように小さくなり、服がぶかぶかになっていく。
体が縮んで・・・? そう思ったあなたの考えとは反対に、お尻がどんどん膨らみ、ズボンがはち切れそうになっていた。
反対に、ウエストはまるで締め付けられるように細くなっていく。
それと同時に、足は自然と女の子のように内股になり、股間から慣れ親しんだ物の感覚が無くなっていった。

「エ・・・なにが・・・?」

そう呟いた声は、まるで女の子のように澄んだ・・・・かわいらしいものだ。
そして、あなたはある光景を見て、自分の体に起きている事態を自覚した。
そう、何かがあなたの着ているシャツを下から押し上げ始めたのだ。
そして・・・・あなたの胸は、左右の頂の先端の突起を頂点として、シャツと擦れ合う感覚が伝わってくる。

「まさか・・・・?」

思わず呟いたあなたの目の前で、あなたの胸が大きく・・・・形よく膨らんでいく。
あなたは、白く細い美しい指で、自分の胸のふくらみを包み込んだ。
柔らかく弾力のあるふくらみを触る感覚・・・・・そして指で包み込まれた触られた感覚が、同時にあなたの脳細胞に伝わってくる。
まさか・・・・本当に・・・・?
あなたは、震える手を股間に向かって動かし、もう一か所を確認した・・・そして・・・?

「ああっ・・・・?」

あなたは思わず声を上げた。

そう、あなたの体は、女の子の体になってしまっていたのだ。



「そんな・・・・?」

あなたは、改めて両手を目の前に動かした。
無骨な男の指とは違う、細くしなやかな指と腕。
瞬きをすると、長くなった睫毛が少し邪魔に感じる。
そして次の瞬間、

「アッ?!」

あなたは思わず声をあげ、頬を赤く染めていた。
突然、あなたの形の良い胸を何かが包み込み、ベルトのようなものが背中に回り込み、どこからか現れた肩ひもと一緒にその重さを分散させたのだ。
それが何であるのか・・・・あなたはもちろんわかっていた・・・・・もちろん、認めたくはないのだが・・・・。
それと同時に、大きく膨らんだヒップと、男性の痕跡の無くなった股間を、滑らかな肌触りの布が優しく包み込んだ。
そして・・・・。

「?!」

あなたの着ていたシャツのボタンの止め方が左右逆になると、柔らかい・・・・真っ白で清潔なスクールブラウスに変わってしまった。
ご丁寧に胸元には、赤いリボンタイがとめられている。
そして、

「アアッ・・・まさか?!」

あなたは思わず声をあげた。
あなたの履いていたズボンのトンネルが一つにまとまると、ぐんぐん短くなっていく。
そして、青いチェック模様になると襞を刻み、青いチェック柄のプリーツスカートになってしまった。

信じられない・・・・あなたはそう思いながら、窓ガラスを見つめている。
そこに映っているのは、見慣れた自分の姿ではない。
そこに映っているのは・・・・純白のスクールブラウスと、赤いリボンタイ、そして青いチェック柄のプリーツスカートをはいた女子高校生だった。
黒く艶やかな長い髪。
ミニ丈のスカートから伸びる白く健康的な太股と、ふくらはぎを引き締める紺色のハイソックスとのコントラストが、いわば「絶対領域」を作り出している。
そう・・・あなたの理想の美少女が、くりくりとした大きな瞳で、不安げに窓ガラスを見つめている。
そして背後の壁には、あの紺色のブレザーが。
そう、あなたはあのフィギュアと同じ・・・・女子高校生の女の子になってしまったのだ。



「そんな・・・・・バカな」

あなたは自分の体を見下ろしている。
あなたの視界には赤いリボンと純白のブラウスに覆われた大きな胸の膨らみがある。
そして胸元には、その膨らみを優しく包む女性だけが付ける”下着のラインがうっすらと見えていた。
あなたは無意識のうちに両足をこすり合わせた。
スカートの中で、すべすべの太腿が直接触れ合う感覚。
ズボンをはいていた男ならあり得ない感覚に、あなたは戸惑った。

再び窓ガラスに映る美少女に視線を向けた。
小さな手で、無意識のうちに胸の膨らみに手を当てていた。
掌から伝わる柔らかい感覚と、胸から伝わる触られている”という感覚。

「・・・・あの女の子は・・・・本当に僕なのか・・・・・?」

あなたはヘナヘナと床に座り込んでしまった。
その座り方が、いわゆる女の子座り”になっていることに、あなたは気が付かなかった。



窓の外から小鳥のさえずりが聞こえている。
あなたは軽く頭を振りながら、体を起した。

「・・・・」

胸の重みを感じる。
立ち上がり、体を見下ろすと白いブラウスを押し上げる二つの膨らみが目に飛び込んでくる。
そして、いつも感じる“男性のもの”を感じない寂しさ・・・・手を当てると、全く何もない・・・・そして、その手に触れるのは、ひらひらのプリーツスカートだ。
そう、昨夜の出来事は夢ではなかったのだ。

「ボクは・・・どうすればいいんだよ・・・」

思わず、大きなため息をつくあなた。
その時、携帯電話が着信を告げた。メールだ・・・・。

「誰から・・・?」

自分のものとは思えない、可愛らしい声であなたは呟いた。
細くしなやかな指で手早くボタンを押すと、



理沙へ

もう起きたかな?
今日は学校が終わったら、いつものケーキショップに行こうね。

MISA




「MISA・・・ああ・・・戸村ミサね・・・」

戸村ミサ・・・同じクラスのボクの親友・・・いつも、どこへ出かけるのも一緒だ…そう、今日は学校が終われば、みんなと一緒にケーキを食べる約束を・・・?
あなたは自分の記憶に思わず身震いした。
戸村ミサ・・・・会ったこともない女の子のことを親友だなんて・・・・?!
しかし、あなたのその思いを頭の中で否定している“もう一人の自分”を、あなたは感じている。
“学校に行かなきゃ遅刻しちゃう!”・・・あなたの頭の中で“誰か”が言っている・・・そう、“誰か”が・・・・それが誰かはあなたも分かっているが、あなたの心はそれを懸命に打ち消そうとしている。
しかし・・・あなたの体は自分の意志とは関係なく動き始めていた。
机の上に置いてあるナイロン製のスクールバック・・・・・なぜか置いてある?・・・・のファスナーを開けると、今日の授業で使う教科書やノート、そして体育の授業で着る紺色のスクール水着をチェックした。
“こんなもの、ぼくは着れないよ!”と、あなたは思ったが、あなたの意志に反して“あなた”は、微笑みを浮かべバックのファスナーを閉じると、鏡を見ながら身だしなみを整え、ローファーの革靴を履くと、朝の日差しが降り注ぐ街に駆け出した。



「一体・・・・どこへ行くんだよ・・・・?」

部屋を出て街を歩きながら、あなたは途方に暮れていた。
あなたの体は、自分の意志とは関係なく街を歩き、駅から電車に乗っていた。
周りを見ると、男性たちの視線があなたに集中している。
あなたがそれに気が付き視線を向けると、ある男性は新聞に視線を移し、またある青年は、スマホの画面を見つめ、またある少年は漫画の本で顔を隠し、時々のぞき見をするようにあなたを見つめている。
あなたは、今のあなたの姿を思い出し、男性なのに女子の制服を着ている恥ずかしさに頬を赤らめた。
電車が駅のホームに滑り込むと、あなたは慌てて電車から駆け下りた。



電車から降りたあなたに、電車を待つ“男性たち”の視線が集中する。
あなたは恥ずかしさのために顔を真っ赤にして、俯きながらホームを駆け抜けて改札口を出た。
そして・・・。


「・・・・?」

あなたは駅のコンコースで、呆然と立ち尽くした。
そんなあなたを、行きかう人たちが不思議そうに見つめている。

「この駅で降りたけど・・・・ボクは・・・・?」

これからどうすれば・・・・・そう思った瞬間、誰かが後ろからあなたに抱きついた。



「?!」
あなた思わず身を捩った。
しかし後ろからあなたを抱きしめる細い腕は、ものすごい力だ。
そして・・・・。

「ちょっと?!」

あなたはかわいらしい声で、思わず叫んだ。
あなたの豊かな胸のふくらみを、揉まれてしまったのだ。

「う〜ん・・・理沙のFカップの胸は、今日も気持ちいいね!」

後ろから可愛らしい声が聞こえると、誰かがケラケラと笑っている。

「ミサ?!!」

あなたはなぜか、叫んでいた。
次の瞬間、胸を揉んでいた腕が離れた。
振り返ると、ショートカットの髪の活発そうなスレンダーな体の少女が、あなたを見つめながら笑っている。

「ちゃんと起きれたのね…関心、関心!」
「こら、ミサ!!」

あなたはミサを捕まえようとしたが、ミサは体をひねってあなたの腕をかわすと、駅の外に向けて駈け出した。

「待て、毎朝毎朝、なんてことをするのよ!!」

あなたもミサを追いかけて走りだした・・・・胸を掴まれて感じた“男性とは違う感覚”・・・・そして、それに一瞬心を奪われそうになったことを、あなたは心の中で認めようとしなかった。
しかし・・・思わず女の子のような口調で叫び、彼女のあとを追いかけたことに、あなたはまだ気が付いていない・・・・。



あなたはミサと一緒に歩いて行た・・・・ミサは、クラスメイトのことや、母との家でのやり取りを面白おかしく話している。
あなたは彼女の話に、相槌を打っていた。

今のあなたには、ミサの話をまともに聞く余裕はない。
なぜなら・・・・あなたは自分自身に戸惑っていたからだ。
なぜあの駅に来たのか・・・・これからどうするか? 部屋に戻るのか? それとも昨日まで・・・・そう、男の時と同じように行動するか?
途方に暮れていたのに彼女と会った瞬間、なぜか“毎朝のこと”のように、体が勝手に彼女と一緒に歩きだしてしまったのだ。
そして今では、あなたは自分がどこに向かっているか理解をしている。
そう、彼女と一緒に高校・・・・それも、女子高に向かっているのだ。
一瞬話題が途切れた。
あなたとミサは、並んで歩いていく。

「理沙?」

あなたの顔をミサが覗き込んでいる。

「・・・?」
「どうしたの?」
「何が?」

あなたが尋ねると、

「今日の理沙は、なんだか変・・・・」

「そ・・・・そうかな?」

あなたは誤魔化すように笑った。

「やっぱり変よ・・・・」

ミサがあなたの横顔を見ながら笑った。

あなたとミサは、赤いレンガで作られた立派な校門をくぐった。




『さあ・・・・・これからどうすればいいのかな・・・・』

表情に出ないように気をつけてはいたが、心の中であなたは冷や汗をかいていた。
今のあなたは女子高校生石井理沙”の姿・・・周りはそう理解している。
この姿を見れば「僕は男だ」と言っても、誰も信じてくれないだろう。
下手をすれば、救急車を呼ばれてしまうかもしれない。

戸惑っているあなたに、ミサが声をかけた。



「理沙、何ぼんやりしているの?」
「エッ?」
「さあ、行くよ!」

ミサはあなたの細い手首をつかむと、どんどん歩いて行く。
周りを見ると、あなたと同じ制服に身を固めた高校生や、女子大学生・・・・・さらには少し幼い中学生や、ランドセルを背負った小学生も同じ方向に歩いて行く。
その先には、レンガ造りの立派な礼拝堂があった。



ミサに手を引かれて、あなたは礼拝堂の中に入っていった。
学校の持っている礼拝堂とは思えない立派なものだ。
ステンドグラスを通して、朝の日差しが礼拝堂の中を照らしている。
そしてあなたの正面には、大きな聖母像がステンドグラスから差し込む光に照らされながら、あなたを見下ろしている。
そして礼拝堂に入ったこの学校の生徒や教職員は、順番に聖母像の前に進むと、跪いて祈りをささげている。

「理沙・・・・行くよ・・・・」

あなたはミサに促されて
そして見よう見まねで片膝をついて祈りをささげると。ミサに促されて立ち上がった。
美沙はにっこりほほ笑むと、

「さあ、行こう!!」

あなたの手首を掴むと、ぐいぐい引っ張っていく。
掃除の行き届いた校舎に入ると、授業が始まることを知らせるチャイムの音が聞こえてきた。




「起立!!」

クラス委員の号令を聞くと、あなたは自然に立ち上がっていた。

「礼!!」

あなたも皆とともに頭を下げると、艶やかな黒髪が大きく揺れた。

「着席!」

生徒たちが席に座った。
あなたも椅子に座った。
あなたの白く細い指が、すっとヒップに沿ってスカートをなで、スカートに刻まれた襞に癖がつくのを防ぐ・・・・そんな“女の子らしい“自然な動きを自分がしているなどとは、あなたも想像すらしていない。

さほど勉強が好きでないあなただったが、なぜだかこの日は“楽しく“勉強をすることができた。
先生の説明はすんなり頭に入ってくれるし、問題を解くことにも集中ができる・・・・なぜだ、かわからないのだが・・・。
そして何よりもあなたにとってありがたかったのは、この授業の時間・・・・勉強に集中している時間は、あなたにとっては『自分が女の子になってしまった』と意識しなくてよい時間だった。
しかし、その時間にもやがて終りがやってくる。

チャイムの音が鳴ると、先生がチョークを置き、

「それでは、今日はここまで・・・・」

先生がクラス委員に視線を向けると、

「起立!!」 「礼!」 「着席!!」

先生が教室から出ていくと、たちまち教室の中が賑やかになってくる。
あなたのそばには、ミサがやってきた。

「数学は嫌だよね・・・」

いつあてられるかとヒヤヒヤしちゃった・・・・そういうとミサは明るく笑った。

「そうかな?」

あなたが小首を傾げると、

「理沙はいいわよ・・・・成績優秀だからね・・・」

そういうと、ミサはあなたを見ながら、

「ところで理沙・・・・何のんびり座っているの?」
「エッ?」
あなたが戸惑っていると、
「何が・・・エッ?・・・・よ、次は体育・・・・・水泳だからプールに移動でしょう?」

ミサがあなたの手を引っ張っていこうとすると、あなたは無意識のうちに、バッグから水着の入った袋を引っ張り出してミサの後を追っていた。

ボクが・・・・・女の子の水着を着るのか?!

あなたは、困惑していた・・・・。




「・・・・・」

夏の日差しの下で、あなたは呆然と立ち尽くしてしまっている。
あなたの前には、金属製の扉が立ちはだかっている。
そしてそこに張り付けられたプレートには、

『女子更衣室』

そう、男性が決して入ることのできない部屋の扉が、あなたの前にあるのだ。

「どうしろって言うんだよ・・・・」

入るわけにはいかないだろう・・・・・・このまま帰っちゃおうか・・・・・そんなことを考えていたときに、目の前の扉が突然開いた。

「理沙?!」

あなたは驚いて飛びあがった。
ミサが呆れたようにあなたを見つめている。

「何ぼんやりしているのよ! 授業が始まっちゃうわよ? さっさと入りなさい!」

そういうと同時に、あなたの右手を掴むと、部屋の中に引っ張り込んだ。



部屋の中には、クラスメイト達がいる。
しかし、いつもの教室にいる彼女たちではない。
制服のボタンを外している女の子。
下着姿の女の子。
既に着替えを終えて、紺色のスクール水着を着ている女の子。
さらには、一糸まとわぬ姿で、これから身に着けるスクール水着を手にしている女の子。

その姿を目にしたあなたの顔は、たちまち真っ赤になっていく。

『ボクがこんな場所にいては・・・・まずいだろう・・・・?!』

あなたは思わず目を閉じたまま、その場に立ち尽くしていた。




「理沙!!」

肩を揺すられ、驚いたあなたは目を開けた。
あなたはスクール水着を身に着けた女の子たちに囲まれていた。
どうしたの・・・・そう言おうと思ったのだが。

「なぜ、制服のままなの?」
「エッ?」

ミサに言われ、あなたは自分の体を見下ろしている。
この部屋にいる女の子・・・クラスメイト達の中で、あなただけが制服を着ている。

「だって・・・・」

男のボクが女の子の水着を着るのはおかしい・・・・そう言おうとしたのだが、なぜか言葉が出なかった。
頬を赤く染めているだけだ。
そんなあなたの様子を見て、ミサは小さなため息をついた。

「もう、理沙は本当に恥ずかしがりねぇ・・・・」

いつもこうなんだから・・・・そういうミサの目に悪戯っぽい光が浮かんだことに、あなたは気が付かなかった。

「さあ、みんな! 理沙を着替えさせるよ!」

ミサが言った次の瞬間。 あなたを除いたクラス全員。 30人の手があなたに襲いかかった。



「ちょっと?!」

あなたは体をひねって逃げようとした。
しかし『30人の腕』からは、簡単には逃げられるわけがない。
何とかドアのノブを握ったが、それと同時にブラウスを掴まれてバランスを崩して床に転がってしまった。
あなたの両腕・両足をクラスメイト達が押さえつけた。

「なにをするんだ?!」

あなたは凄んでみたが、可愛らしい女の子の声では全く効果がない。

「あらあら・・・そんなに可愛いのに、まるで男の子みたいな口のきき方ね」

ミサがクスクス笑いながら、あなたを見下ろしている。
あなたは必死に体を動かそうとするが、体が全く自由にならない。
その間にも、女の子たちによってブラウスのボタンが外されて、ピンク色のブラジャーに包まれた形の良い白い膨らみがあなたの目に飛び込んできた。
あなたは恥ずかしさで顔を開かれ目、思わず目をそらした。

その隙に、あなたの腰に強い力が加わった。
スカートのファスナーを下され、スッとスカートが脱がされてしまった。
その後に見えるのは、ブラジャーとおそろいのショーツだ。




「ちょっと?!」

やめて・・・・あなたは、目にうっすらと涙をためながら叫んだ。
可愛いわよ・・・・理沙・・・・そう言いながら、ミサはあなたの胸に手を伸ばすとブラジャーを外し、形よく膨らんだヒップを包んでいたショーツを脱がしてしまった。
あらわになったあなたの美しい裸体。
居合わせた女の子達は、思わず感嘆の・・・そして微かな嫉妬を含んだため息を漏らしていた。
ちょっと悪戯をしてやろうか・・・・・ミサの心に、そんな考えが浮かんだその時、皆の耳に授業が始まることを知らせるチャイムの音が聞こえてきた。
先生が来ちゃうよ・・・・誰かが囁く声が聞こえた。
ミサは小さなため息をつくとあなたに、

「さっさと水着を着ないと!」

手にしていた紺色のスクール水着をあなたに着せていく。
さあ、立ちなさい・・・右腕を引っ張られてあなたは床から立ち上がった。
ミサに促されて更衣室の壁面に取り付けられた大きな鏡を見て・・・・・あなたは息を飲んだ。
形よく大きく膨らんだ胸。
細く括れたウエスト。
そこから曲線を描いて膨らんだヒップ。
体にピッタリとフィットをした水着が、あなたの体の魅力をあなたの視覚に訴えてくる。
そして水着から延びる白く健康的な太腿と、キュッと引き締まった脹脛が美しい脚線美を醸し出している。

「これが・・・・ボク・・・・?!」

あなたは震える声で呟いた。 

「もう・・・ボク”だなんて、男の子みたいな言い方しないの!」

さあ、自分に見惚れてないで、授業が始まっちゃうよ・・・あなたは更衣室から押し出されるように、皆と一緒にプールサイドに向かった・・・・。



あなたたちがプールサイドに整列すると、先生から出席をとった。
純愛女子学園高校のプールは道路に近い場所にあり、困ったことに? 背の高い人ならプールの様子を見ることができる。
そうなると道路には男性たちが・・・・。
生徒たちは先生に塀の設置などの環境の改善”を頼んでいたのだが・・・・なぜか、塀が作られる様子はない。
そして、この日も・・・・。

「よっこらしょ・・・・」

4つの坊主頭が、フェンスの向こうに見える女の子たちの姿を見ようと目を凝らしている。
Tシャツの短い袖から延びる鍛え上げられた腕。
浅黒く日焼けした顔。
この町にある剛気体育大学の学生たちだ。
剛気体育大学は、中学校・高校・大学を持つ男女共学の単科大学だ。
男女共学・・・・そう、女子学生も入れるはずの大学なのに、現実には女子学生は一人もいない。
「現象には必ず理由がある」というのは、人気ドラマの主人公のお約束のセリフだが、この”現象”の理由は、彼らを見ていれば簡単に推理が付く。
今彼らのうち3人は、ギラギラとした目つきで女の子たちを凝視している。

「やっぱり・・・・純愛の女の子は可愛いよなあ・・・・」

リーダー格の男が思わずため息をついた。

「岩原さん・・・・やめましょうよ・・・・」

こんな覗きみたいな真似・・・・やはり丸刈りだが、理知的な顔つきの青年が男に言ったが、

「ビビるんじゃねえよ・・・・」

あんなに可愛い女の子が見れるんだぞ・・・・そう言いながら、視線はプールに向けたままだ。
岩原の顔に、何とも言えない笑みが浮かんだ。

「お前たち・・・・・知っているか?」
「何をですか?」
「実は、この学校には変な話があってな・・・・」

どんな話だろう・・・・・不思議そうな顔で見つめる三人に岩原は、

「この学校の校内に入った男はな・・・・・」



外から見つめる視線には気が付かずに、あなたは、みんなと一緒にプールに入ると泳いでいた。
この暑い夏の日に、プールの冷たい水が心地良い。
それが・・・・たとえ女の子の体であったとしても・・・・だ。

この日は30分で50mプールをどれだけ往復できるかという体力テストだった。
本当の自分”ならば、苦痛でたまらないであろうこのメニューを、この華奢な女の子の体”は、難なくこなしていく。
それだけではない、仲間たちと一緒に泳いでいるのが楽しいのだ。
あなたはいつしか、この女の子ばかりのクラスにすっかり溶け込んで”いた。
もう何往復しただろうか・・・また50mを泳ぎ切ったあなたが、プールサイドに取り付けられている手すりを持った。
この状態では、あなたは後ろの状態が分からない。
さあ、もう一往復しようか・・・・そう思った瞬間。

「?!」

胸から今までに感じたことのない感覚が伝わってきた。
視線を落とすと誰かの細い腕が、あなたの大きく膨らんだ胸元をリズミカルに揉んでいる。
ちょっと・・・・やめて・・・そう叫ぼうと思ったのだが、胸から伝わる甘い感覚が頭に伝わり、声を上げることができない。
何とか身を捩って逃げようとしたのだが、体に力が入らない。
それどころか、下腹部で何かがキュンと疼く感覚を感じて、あなたは戸惑った。
そして・・・・。

あなたは手すりから手を放してしまった。

そのままプールの水の中に投げ出されて・・・・・。




誰かがあなたの名前を呼んでいる?
あなたは目を開けようとしたが、夏の日差しの眩しさに目を細めた。

「気がついたみたいね・・・・」

良かったわ・・・・・そう言うと先生はホッと溜息をついた。
びっくりしたわ・・・・・突然溺れるんだから・・・・そう言うと先生は肩をすくめた。
あなたはプールの中で起きた出来事を説明しようとしたが、そうなると自分の体に起きたことを話さなければならない。
あの胸を揉まれたときに、体に感じた感覚・・・・・それを説明するのか?
結局は顔を赤らめながら、

「すいませんでした・・・」

頭を下げたその時、授業が終わったことを知らせるチャイムの音が聞こえてきた。

あなたはクラスメイト達と更衣室に戻ると、バスタオルで体を隠しながら水着を脱ぐと、タオルで体についた水分を取りながら着替えをした。
仲間たちとおしゃべりをしながら、ブラジャーもショーツも自然に身に着けていく。
いつもそうしているかのように動く手の動きに、あなたは全く気がついていない。
着替えの終わったあなたは、仲間たちと一緒に更衣室を出ると教室に戻り、その日の授業を受けていた。



チャイムの音が学校に響いている。

「う〜〜〜〜ん・・・・!」

あなたは椅子に座ったまま体を伸ばした。
両手を上にあげ、上半身を伸ばすと大きく膨らんだ白いスクールブラウスの胸元が、今にも弾けそうに張りつめている。

「おわった〜〜〜〜」

そういうと、あなたは微笑みながらミサに視線を向けた。
ミサもあなたに微笑みかける。

「ねえ、ケーキを食べに行こうか?」

あなたは朝、彼女から携帯電話に入っていたメールの内容を思い出していた。

「そうだね・・・・行こうか?」

自然に顔に微笑みが浮かんでくる。
ミサがバッグを手にして立ち上がった。
あなたも机の上の教科書やノートをバッグに入れると立ち上がり、ミサと一緒に教室を出ていった。
レンガ造りの立派な校門をくぐり、二人が通りを歩いて行く。
通りは授業を終えたあなたと同じ純愛女子学園高校や中学校、そして大学の学生たちが歩いている。
隣を歩くミサが合図をした。
あなたとミサは、大学通りにある一軒のケーキショップに入った。




あなたはミサとともにケーキショップに入った。

「いらっしゃいませ!」

ガラスケース越しに、若い女性の店員があなたたちに声をかけた。
ショーケースの中には、さまざまな種類のケーキが並んでいる。

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・・・♪」

口ずさみながら、ミサは小さくうなずくと、

「わたし、ミルフィーユとミルクティーを・・・・」

ありがとうございます・・・・そういうと、店員はショーケースからケーキを取り出してお皿に載せていく。

「理沙は、どれにするの?」

ミサがあなたに向かって尋ねてきた。

「う・・・・どれにしよう・・・・・ケーキなんてあまり食べないから・・・・」
「何を言っているのよ・・・いつも帰りに行っているじゃないの・・・・」

ミサが半ば呆れたような視線であなたを見ている・・・」
そんな・・・男のボクがケーキなんて普段から食べるわけ・・・・そう思ったその時、

『エッ…? なに?!』

背中に続々とした感覚が走り、胸の先から・・・・?
思わず身震いしたその時、あなたの中で何かが変わる。

「どうしたの?」

ミサが首をかしげながらあなたを見つめている。

「・・・・なんでもない・・・・」

あなたは頬を赤く染めて、大きく息をつき店員に、

「イチゴショートを頂けますか・・・」

あなたはショートケーキとコーヒーをトレーに乗せて受け取り、ミサと一緒に日差しの差し込む窓辺の席に向かった。



「やっぱりケーキは美味しいわよね・・・・」

ミサが口にケーキを頬張ったまま、満足そうに微笑んでいる。
あなたもフォ−クでショートケーキをひとかけら口に入れた。
生クリームの甘い味が口の中に広がっていき、顔が自然に笑顔になっていく。
そう、昨日までボクは男だった・・・ケーキなんてあまり食べなかったのに、今はこの甘さが美味しく感じる。
コーヒーを飲もうとすると、ミサが驚いたように、

「ちょっと理沙! ブラックで飲むの?!」
「うん・・・・」

あたりまえだろう・・・そう感じながら、カップを口に運んで一口飲んだ次の瞬間。

「アッ?!」

慌ててテーブルに置いてあったナプキンを口元に充てた。
苦い・・・そう、コーヒーをブラックで飲めば当たり前のことだ。
昨日までは、それが美味しく感じていた・・・・それなのに・・・?
味覚までが“女の子”・・・石井理沙の味覚になってしまっているのだろうか?
ミサがあなたの方を見ながらクスクスと笑っている。

「もう・・・男の子じゃないんだから、そんな飲み方を・・・・」
「ボクは・・・・」

男だから・・・そう言おうと思ったのだが、なぜか言葉が口から出てこない。
それどころか・・・。

「そうだね・・・・」

そう言いながら、ミサに微笑んでいた。
ミサも微笑みながら、

「はい、これ!」

クリームとスティックシュガーをあなたに手渡した。
受け取ったあなたは琥珀色のコーヒーに白いクリームを落とし、スティックシュガーを入れてスプーンでくるくるとかき混ぜてから、カップに柔らかい唇をつけた。
一口飲んで、

「うん・・・・」

あなたはミサに向かって微笑んだ。
ミサもニッコリと笑った。そして・・・。

「今日の理沙は変だよね・・・・ちょっと胸を触ったらプールで溺れちゃうし・・・・」

いつもやっているのにね・・・・クスクス笑うミサにあなたは、

「あれはミサだったの?!」
「いつもそうじゃない!」

ミサが明るく笑うと、あなたは何も言えなくなってしまった。
ミサの表情が、少し悪戯っぽい微笑みになった。
あなたの耳元に顔を近づけると、囁きかけてきた。

「ちょっと感じたりしたんじゃないの・・・・?」

あなたの顔が、たちまち真っ赤になった。

「そんなこと、あるわけないじゃないの!」



帰り道、あなたは頬を膨らませたままだった。
ミサの方には視線を向けずに歩いていく。

「もう・・・・悪かったって言ってるでしょう・・・・」

ミサがクスクス笑いながらあなたに言うが、あなたは黙って歩いて行く。
あなたたちは駅前通りを歩いている、もう駅は目の前だ。

「?!」

突然の胸からの刺激で、あなたは息がとまりそうになった。
大きく膨らんだ胸を包むブラジャーの下で、何かが尖ろうとしている。

「ちょっと? ミサ! また・・・?」

かわいらしい声で怒鳴ろうとするあなただが、言葉が出ない。
そんなあなたの耳元でミサは、

「リサは可愛い女の子なんだから・・・怒ってちゃダメでしょう?」

囁くミサの言葉を聞きながら、胸からの刺激にあなたは溺れてしまいそうになっていた。
あなたの中で、また何かが変わっていく。
周りを見ると、街を行きかう人たちがクスクス笑いながらあなたたち二人を見ている。

「ミサ・・・・もう・・・・わかった・・・・から・・・・」
「じゃあ、許してくれる?」
「う・・・・うん・・・」
「そう・・・良かった・・・・」

そう言うとミサは最後に、あなたの胸の二つの“頂点”をチョンと弾いた。
あなたは思わず声が出そうになるのを懸命にこらえて、

「こら! ミサ!!」

ミサは笑いながら走っていく。

「待て!!」

あなたも笑いながら走る。
あなたたち二人は改札を駆け抜けた。
ミサはエスカレーターに乗ると、

「じゃあ、また明日!」
「うん・・・明日・・・・ね・・・」

また明日もボクは“女の子”なのか?
あなたの中に一瞬、戸惑いと・・・・明日もミサに会えるという、かすかな喜びがあった。




夕日が照らす駅で、あなたは電車を降りて街を歩きだした。
電車から降りたサラリーマンや男子学生は、ある人はちらりと視線を走らせ、またある人はすれ違いざまに感嘆のため息を漏らし、また、前から歩いてきたある青年はあなたの美しい足から細くくびれたウエスト、そして胸のふくらみに視線を移して、あなたの可愛らしい顔を見た・・・・そして、あなたと視線が合うと、真っ赤になって下を向いてしまった。
そしてやはりすれ違う時には、ため息を漏らしているのだ。
そんな“男性たち”を見ていると、あなたは顔が赤くなって自然と足早になっていく。
どうにかこうにか部屋に戻ると、スカートのポケットから部屋のかぎを取り出して、ドアを開いた。

部屋に入り、スクールバッグを机の上において、姿見を見ながらリボンタイを外しブラウスの上のボタンを外した。
クローゼットの引き出しから、レモンイエローのブラとショーツのセットを手に取ると、そのままバスルームに向かった。
紺色のハイソックスを脱ぐと、そのまま洗濯機に入れた。
プリーツスカートのホックをはずしファスナーを下ろすと、スカートはあなたの足を撫でながら床に落ちて、白くすべすべの健康的な太ももがあらわになった。
そしてあなたの細い指は“手慣れた手つき”でスクールブラウスのボタンを外していく。
ブラウスを脱ぐとソックスと同じように洗濯機に入れ、ブラジャーとショーツを脱いでバスルームの扉を開けた。
あなたはバスルームに入ると、お湯の蛇口をひねった。
シャワーのヘッドから温かいお湯が出て、あなたの一日の疲れをいやしていく。

「ふう〜〜〜〜・・・・気持ちいい・・・・」

あなたは“女の子の声”で思わず呟いた。
しかし、今のあなたはそれが女の子・・・“石井理沙”の声であると感じることもできていないかもしれない。
あなたはスポンジにボディーソープをつけて体を洗い始めた。
あなたの白い体をよい香りのする泡が覆ってゆく。
体を洗うと、長く美しい髪をシャンプーやリンスを使ってやさしく洗ってゆく。
そう・・・昨日までとは全く違う・・・・丁寧さだ。
トリートメントを髪につけると、あなたは再びシャワーのお湯を浴び始めた。
温かいお湯があなたの頭・・・・髪から形の良いバスト・・・・二つのふくらみの間・・・そして無駄なお肉の付いていないおなかからヒップ・・・・美しい足へと流れてゆく。
あなたはその感覚に言いようのない心地よさを感じていた。

あなたはシャワーのお湯を止めると、柔らかいタオルで髪の水分を取りながら、ふと視線を壁面につけられた鏡に向けた。

「あっ?!」

思わず声をあげ、息をのんだ。
そこに映っているのは、一糸まとわぬ美しい裸体の女の子。
そしてそれは・・・今のあなた自身の姿だ。
あなたはそれ以上言葉も出ずに、じっと鏡に映る美少女を見つめていた。




「これが・・・・」

ボクなのか・・・鏡を見ながらあなたは思った。
そう、今日は一体何度、こんな思いを感じたのだろうか?
そう、水泳の授業の時の更衣室でもこうして鏡に映る自分の姿・・・・自分なのか?・・・を見たはずだ。
しかしあの時にはあわてていたから鏡に映った自分の姿を、あまり覚えていない。
しかし、今こうしてみると・・・・。

「・・・・」

あなたは両手を動かした。
鏡に映る美少女・・・・それは、あなただが・・・・は、ゆっくりとその両手を胸の二つのふくらみの上において、少しずつ力を入れてゆく。
それと同時に、あなたの両手から弾力のあるやわらかいふくらみをつかむ感覚が伝わってくる。

「・・・・ボクは、本当に・・・・」

女の子になってしまったんだ・・・あなたは視線を下に落とした。
そこには小さな手のひらには余る、白く大きなふくらみがあり、その先端では昨日までより一回り大きなピンク色の突起が自己主張している。
そして視線を落とせば、体のラインはそのふくらみから滑らかな曲線を抱きウエストに向かってきゅっと引き締まり、そこから形のよいヒップへと美しいラインを描いている。
そして健康的な太ももから引き締まった足首へと続く脚線美。
その足には、昨日まで男性だったという痕跡など全くない・・・・もちろん・・・・股間にも・・・・。

そう、今のあなたの体は、あなたの“理想の少女”そのものなのだ。

「でも・・・」

あなたは戸惑う、これも今日何度目のことか、もう数えていられないが・・・・。
やはり、ぼくは男だから・・・・そう思った瞬間、

『でも、女の子に憧れていたでしょう・・・?』

突然聞こえてきたかわいらしい女の子の声に、あなたは驚きあたりを見回した。
そして・・・。

「?!」
『何を驚いているの?』
あなたに向かって微笑んでいたのは、鏡に映る美少女・・・・そう、鏡に映ったあなた自身だった。



「きみは?!」

あなたは震える声で叫んでいた。

『わかっているでしょう・・・・?』

鏡に映る美少女がほほ笑んだ。

『わたしは・・・・あなた・・・・』
「うそだ!!」

バスルームにあなたの叫び声が響いた。

「ボクは・・・」
『男だ・・・と言うの?』
少女が笑った。

『その体で・・・?』
「アッ・・・・?」
あなたの顔が赤くなっていく・・・・それは、決してバスルームの暑さのせいではない。

『あなたは女の子・・・・あなたの理想の女の子・・・石井理沙、女子高校生の女の子・・・・』

鏡の中で少女が話す一言一言が、あなたの中の何かを変化させていく。
背中を何かが・・・・今までに感じたことのない感覚が脳細胞に向かって駆けあがり、体中が敏感になっていく。
あなたは思わず自分の体を抱きしめた。
あなたの腕の中で、柔らかいバストが押しつぶされる。

そう、ボクは・・・・ボクは・・・?

ボクだなんておかしい・・・・それじゃあ、男の子じゃない・・・?

そう、わたしは石井理沙・・・・高校生の女の子・・・。

そう・・・・わたしは女の子・・・・。

あなたの中で、何かがはじけた・・・・・。




窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえてきた。

「う・・・・う〜ん・・・・」

あなたはベッドの中で伸びをすると、ベッドから体を起した。
カーテンの隙間から、部屋に朝日が差し込んでいる。
あなたは微笑みを浮かべると、ピンク色のパジャマを脱ぎ、制服に着替え始めた。
髪を整え、鏡を見た。
そこには、素晴らしいプロポーションの体を制服に包んだ美少女、石井理沙の姿が映っている。
そして、それはあなた自身だ。
あなたは微笑みを浮かべると、小さくうなずき部屋のドアを開けた。



朝の街をあなたが歩いていく。
街を行きかう男性たちの視線があなたに集中している。
あなたは、そんな男性たちに微笑みを浮かべた笑顔を向けた。
ある男性はため息をつき、また、ある青年はあわてて視線をそむけた。
そんなあなたに駆け寄る一人の少女が・・・・。
少女が両手を伸ばした瞬間、あなたはひらりと体をひねった。
一瞬、紺色のプリーツスカートがひらりと美しく広がる。

「理沙?!」
ミサが悔しそうにあなたを見ている。

「いつもいつも、同じ手は食いませんよ」

あなたはにっこり笑うと駆け出した。

「理沙! まて〜〜〜!」

元気に走っていく二人の少女。

二人の少女を、“トランスデリバリーサービス”と書かれた段ボール箱を抱えた青年が微笑みを浮かべながら見つめている。
突然、ポケットから着信音が聞こえてきた。
青年はポケットからスマートフォンをとりだした。

「はい、当選者への配達は終わりました・・・・・はい、因果律の調整もすべて終わりました・・・・当選者も満足してくれているようですよ・・・・」

青年の体を、淡い光が包んでいく。
いつしか宅配便の作業服を着ていた青年は、神々しい白く輝く服に身を包んでいた。

「しかし聖母様・・・・いくら記念だといっても、こういうことは今回限りにしてくださいね・・・僕たちも仕事が多いのですから・・・・」

青年は、二人の少女の後姿を見ながら電話を切ると、淡い光の中に姿を消していった。





Books Nigeuma 20万HIT記念作品

突然の贈り物

(おわり)








作者の逃げ馬です。

最初の掲載から、ちょうど2カ月・・・・いつしかカウンターは22万HITになろうかというところで、ようやく書き足し小説は執筆が終わりました。
書いていて思ったのは、「みんなそれぞれツボがあるからなあ・・・・」と・・・。
そう考えていると、ちょっとペースが遅くなってしまいました。

ここは「TS変身作品」の店(一応そうなんですよ)なので、軽く例をあげてみるだけでも、

変身シーン(体や服が変化していく描写が好きな人)
男性なのに、女性らしい行動をさせられて困惑しているシーン(これは、着替えや友人とのお出かけなどもありますね)

細かく書くと、変身シーンも「味付けの濃さ」で変わってきますし、ほかにも掲示板で上がったような「女性になってからの生活で、どうやって自分を保っていくか」なんてこともあります。
初期の逃げ馬が書くものは「変身シーン原理主義(笑)」的なところがあったので、「変身すればそこで終わり」という感じの「軽量級作品」が多かったですね。
これはこれで、変身シーンファンには受けが良かったです。
中期になると、ほかの要素も加わっていったので、場合によっては変身シーンを「今回はいいか・・・」とカットしたりして、「変身シーンがない!」と苦情が入ることもありました(笑)
そういう要望で、「変身シーンの詰め合わせ」的な作品も作ってみたりしました。

20万HIT達成は、そんな皆さんの応援のおかげです。
ありがとうございます。

今後も、皆さんとそんな「キャッチボール」や、挑戦的な「お題」もいただいたりしながら、楽しく書いていきたいと思っています。

よろしければ、今後も逃げ馬作品にお付き合いください。


それでは、また次回作でお会いしましょう。


尚、この作品に登場する団体・個人は実在のものとは一切関係のないことをお断りしておきます。


2013年8月 

逃げ馬



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