新しいわたし

作:逃げ馬

 



 僕は、早川正敏・・・普通の大学一年生だ。

 その日も始まりは、いつもと変わらなかった。しかし、大学の帰りは、最悪だった・・・。なぜって?また、見事に振られてしまったからだ。
 僕は、外見はそんなに悪くない(と思う)。性格も、そんなに悪くない(と思う)。頭だって、そんなに悪くない(と思う)。でも、友人に言わせるとこれが「おまえは、個性がないからなあ・・・平凡なんだよ。平凡!」ということになってしまう。
 今日も、同級生の田辺涼子に振られてしまった・・・「ごめん・・・私たちお友達でいたほうがいいと思うの・・・。」というお約束の言葉で・・・。
 重い足どりで駅に向かう僕に「正兄ちゃん!」と、誰かが声をかけてきた。振り向くと、学生服姿の高校生が走ってくる。近所に住む一歳下の柴田圭一だ。ちっさいころから、お互い、一人っ子の圭一と僕は兄弟のように接してきていた。圭一は、僕の通っている大学の付属高校に通っている。
 「兄ちゃんどうしたの?なんだか暗い顔をして。」圭一の質問に、僕は、苦笑するしかなかった。
 「いろいろあってね。」
 「兄ちゃん、また、女の子に振られちゃったの?」
 「・・・・・。」
 「ふ〜う・・・。」
 「おまえがため息をつくことないだろう!」
 そこに、田辺涼子が追いついてきた。僕たちを見ると、ひょこっと会釈をして追い越していった。
 「兄ちゃん・・・あの女の人なの?」
 僕は、答えなかった・・・なんだか、むなしさと言うか、情けなさが心の中にこみ上げていた。
 「可愛い人だね。まるでモデルか、アイドルみたいだ。」
 「クラスのアイドルだからね。」
 僕は、つぶやいた・・・。
 「兄ちゃん・・・。」
 「?」
 圭一は、僕のほうを見てにこっと笑って、明るく言った。
 「実は、僕も失恋しちゃったんだ。」
 僕は、思わず笑いがこみ上げてきた。こいつは、なんて明るいやつだ。あっけらかんと自分の失敗を恥ずかしがらずに僕に話している。
 「よし、今日はちょっと気晴らしをして帰ろう!」
 僕は、圭一をつれて居酒屋に行った・・・。
 「正兄ちゃん!男って疲れるよねえ。」
 僕は、圭一を支えながら歩いていた。
 「勉強頑張っても、希望の大学にいけるかどうかもわからない。その先に、何があるかもわからない!一緒に頑張ろうと思って、女の子にコクッてもうまくいかない・・・。」
 「おいおい・・・。おまえ、未成年のくせに飲みすぎなんだよ・・・!」
 僕は、圭一を見た。圭一は泣いていた。
 「圭一・・・おまえは成績が、学校で一番だって聞いてるよ・・・必ず希望の大学にいけるさ。」
 「そしてどうなるの?」
 僕は、何も言えなかった・・・。
 「兄ちゃん・・・僕女の子に生まれてくれば良かった。」
 圭一は、また、明るく笑った。
 「そうだな、僕も、女の子に生まれたほうが良かったかもな・・・。こんなにもてないんじゃな!」
 僕も笑って、圭一を家に送り届けた・・・。
 
 次の日、僕は二日酔いの重い頭で大学に向かった。駅でいつもの電車を待っているとブレザーとチェックのプリーツスカートに身を包んだセミロングの髪の女の子がこちらにくる。
 「おはようございます。昨日は、ありがとうございました。」
 「ああ、おはよう。」
 僕は、必死に記憶を探っていた。「どこかで見たような・・・。」頭の中におぼろげな記憶があるのだが思い出せない。そんなときに電車がホームに入ってきた。
 「ほら、お兄ちゃん来たわよ!」
 僕は、腕を引っ張られながら電車に乗り込んだ。
 その日も、僕にとってはつらい一日だった。講義室でも、田辺涼子は、仲間の女の子たちとこちらを見てクスクスと笑っている。
 「おい、気にするなよ!」
 「うん・・・大丈夫!」
 友人の声に、そう答えてみるが、僕は、悔しかった・・・。

 大学からの帰り道。
 「お兄ちゃん!」
 振り向くと、朝一緒だったブレザー姿の女の子が、他の女の子たちと手を振りながら走ってくる。そうだ彼女は、圭子。圭子は、近所に住む僕の通う大学の付属高校に通っている一歳下の高校三年生だ。
 「今帰り?」
 「ああ・・・。」
 「じゃあ、圭子、私たち先に行ってるね。」
 「うん!すぐに行くから。」
 女の子たちは、会釈をすると走って行った。
 「どうしたの?」
 圭子の質問に、僕は苦笑する。深いため息をつくとこう言った。
 「圭子・・・男の子は、つらいね。」
 僕は、精一杯の作り笑いをする。
 圭子は、僕の顔を見るとこう言った。
 「ねえ、お兄ちゃん昨日、家にビデオが届いてなかった?」
 「いや・・・何も。」
 「そう・・・。」
 「それより、友達が待ってるぞ。どこに行くんだ?」
 「うん・・・みんなでケーキを食べに。じゃあ、元気出してね。」
 圭子は、手を振ると友人を追いかけて走り出した。僕は、圭子の姿が見えなくなると、駅に向かって歩き出した。

 「ただいまあ。」
 家に帰ると、自分の部屋に入りかばんをベットの上に投げ出した。
 「正敏。郵便が来てるわよ。」
 母の声に、僕は台所に行った。
 「何が来たの?」
 「テーブルに置いてあるわよ。」
 テーブルを見ると、小包が置いてあった。差出人を見ようと思ったが、何も書いていなかった。重さもずいぶん軽い。
 「何か注文でもしたの?」
 「いや、何も・・・。」
 とりあえず、包みを持って自分の部屋に帰った。ドアを閉めると、包みを開けてみた。出てきたのは、ビデオテープが一本だけで、他には何も入っていない。
 「・・・何だこれ? 怪しいなあ・・・」
 テープには、ラベルも何もついていない。ごく普通のテープだった。
 「見てみるか・・・」
 僕は、テレビデオの電源を入れてテープを入れると、リモコンで再生ボタンを押した。
 再生が、始まった。最初、映し出されたのは砂嵐だったがやがて映像が現れた。
 「・・・?」
 映っていたのは、白いドレスを着た美少女だった。その美少女が、砂浜を歩いていた。
 「見たことのない娘だなあ・・・新しくデビューするアイドルかなあ。」
 僕は、つぶやきながら画面を見ていた。
 シーンが変わった・・・今度は、美しい森の中を歩いていた・・・まるで妖精のように。カメラが、足元から徐々に上を映し出していく・・・完璧なスタイルをしている・・・。カメラが、彼女の顔をアップにする・・・僕は、なぜか画面から目を離せなくなってしまった・・・彼女が微笑む・・・体を動かすこともできない。次の瞬間、画面からものすごい光が放たれた。
 「うわっ!!」
 僕は、椅子から転がり落ちた。
 「えっ?」
 起き上がった僕の視界は、まるで陽炎のようにゆれていた。
 「これは・・・?」
 僕は、急に体がむず痒くなってきた。そう思っているうちに、胸がむくむくと大きくなってきた。
 「えっ・・・?」
 押さえつけようと、手で抑えてみると「ムニュッ」とした感覚が手に伝わる。そして、胸からも明らかに押さえつけられているというこれまで体験したことのない感覚が伝わってくる。
 驚いているうちに、髪の毛がスルスルと伸びていく。ウエストは、どんどん細くなり、ヒップの位置が高くなり、大きくなってくる。ジーンズは、ピチピチになってしまった。僕は、思わず股間に手をあててしまった。当然何もない。
 「そんな・・・。」
 その声は、もう女の子の声だった。
 腕を上げてみる。筋肉は無くなって白く細くなり、指もしなやかになっていた。
 突然、着ていたトレーナーが光の粒になった。それが、体にまとわりつくと、クリーム色のセーターになった。胸には、しっかり持ち上げられるような感覚があった。多分、ブラジャーを着けているのだろう。
 下半身を見ると、ジーンズは、デニムのミニスカートになってしまっていた。その下に付けている下着は、今までと違って滑らかな感じだ。細く美しくなった足には、ストッキングがかぶせられていく。
 突然、視界がゆっくり元に戻っていく。僕は、まわりを見回した。今までより周囲の物が、大きく感じるのは、身長が小さくなったからだろう。ゆっくり起き上がってみると、胸に重みを感じた。もう一度手を当ててみると、手のひらに収まらない。Dカップは、ありそうだ。立ち上がって周りを見ると、見慣れた部屋が、いつもと違って見えた。
 机の上にあった大きなパソコンは、かわいらしいiMACになっていた。部屋の隅には、ドレッサーがあって、上には化粧品が並んでいた。
 「そんな・・・馬鹿な!」
 そのドレッサーには、僕と同世代のロングヘアーのかわいらしい女の子がうつっていた。
 僕は、クローゼットを開けてみた。そこには、女性のスーツや、ワンピース、スカートなどがぶら下げてあった。引出しを乱暴に開ける。出てくるのは、ブラジャーや、ショーツ、別の引出しからは、ブラウスなどが出てくる。
 「僕は・・・女の子になってしまったのか?」
 「まさみー、ご飯よー!」
 「はーい!」
 反射的に返事をしたが、その高く澄んだ声に驚いた。
 階段を下りてリビングに行くと、もう両親が食卓についていた。
 「ほら、早く座って!」
 母の声に、座ろうとするが、この姿を見て何を言われるかと思うと、気が気じゃない。
 「僕、おかしくない?」
 蚊の鳴くような声で言うと、
 「何言ってんの、それに女の子が『僕』なんて言わないの!お父さんも言ってくださいよ。」
 「どうかしたのか?」
 父の問いに、
 「なんでもない・・・。」
 そう答えて、大急ぎでご飯を食べると部屋に帰ろうとした。そんな僕に母は、
 「早くお風呂に入って寝なさい。」

 お風呂の姿見に映った僕の体は、男のころの面影はなく、完璧に女の子だった。身長は、160cmほどだろう。肩甲骨のあたりまであるストレートのロングヘアー。小さな顔につぶらな瞳、男のころより狭くなった肩幅、胸には、二つの豊かなふくらみがあってその先のピンク色の乳首が上を向いていた。そこからウエストのラインが細く引き締まり、そのあとはヒップに向かって曲線を描いていた。太ももは、太くもなく中肉の感じで足首は細く引き締まっていた・・・その姿は『アイドルです』と言っても通用するだろう。『これが・・・僕の体・・・・。』お風呂につかりながら、僕は、本当に自分が女の子になってしまったことを実感していた。
 お風呂から出ると、ピンク色のパジャマと、白いブラとショーツが置いてあった。こんなの付けられるのかと思っていると、僕の体は、ずっと前からそうしていたようにごく自然にそれを身に付けた。
 部屋に帰り、改めて自分の部屋を観察した。モノトーンだった自分の部屋は、明るい色になり、カーテンもベットも、女の子らしいものになっている。ふと、机の上に目が行った・・・定期券を見ると名前が、『早川正美』とかいてある。僕は、机の脇においてあるバッグ(当然バッグも女性の物に変わっている)をあけて、大急ぎで学生証を探した。あった・・・名前は・・・やはり『早川正美』になっている。張ってある写真も女の子の僕だ、学部も同じ・・と言うことは・・・今の状況は、男の僕がいなくなって女の子の『早川正美』が存在しているということなのか・・・。
 いろいろ考えているうちに、しだいに眠気が出てきて、僕は、眠りに落ちていった・・・。

 「まさみ―起きなさい!!」
 母の声に、僕は飛び起きた。とたんに胸に重みを感じる。「ああ・・・あれは、夢じゃなかったんだ・・・。」
 ふと、横を向くと、ドレッサーの鏡の中に、ピンクのパジャマを着た女の子がうつっている。
 僕は、リビングに降りていった。
 「おはよー。」
 いつもの調子で言うと、母は、
 「もう・・・あなたも女の子なんだから、ちょっとくらい手伝いをしてよね。いつまでも寝てちゃだめよ。」
 「はあい。」
 「もお・・・。」
 母は、半ばあきれ、父は、苦笑していた。
 「もう遅いわよ!早く食べていってらっしゃい。」
 朝食を済ませると、部屋に戻った。さて、何を着ていくか・・・。スカートは、やだなあ・・・昨日変身をしたときは、スカートだったけどあれは、僕の選んだものじゃない・・・まだ、男の心の頭の中で考えた。とりあえず、ジーンズと、白いブラウスを手にして、大急ぎで着替えた。ドレッサーで、髪をそろえ、自然に動く手が身支度を整える。
 「行ってきまーす。」
 僕は、いつもの道を大学に向かった。
 いつもの道なのに、今日は、違って見えた。すれ違う男性の視線が気になるのだ。何だか恥ずかしい・・・僕は、早足で歩いた。
 駅でも、電車の中でも、同じだった。男性の視線を感じる。いつもの駅で降りると、早足で大学に向かった。
 「はやかわ〜。」
 振り向くと、田辺涼子だった。
 「おはよ〜早川・・・何急いでるの?」
 「いや・・・別に・・」
 「おはよ〜早川・・・あっ・・・田辺おはよう!」
 クラスの男子学生が声をかける。
 「何・・・私は、付け足しなの!?」
 むきになる田辺に、男子学生は、
 「いや、そういうわけじゃあ・・・じゃ、またあとで」
 そういうと、駆け足で大学に向かっていく・・・。
 「いいなあ・・・早川は、相変わらずもてるものねえ。」
 「えっ?」
 「本人が、意識してないのがいいのかな・・・。」
 そういうと、僕を上から下までじっと見ていった・・・。
 「すっぴんもいいけど、たまには、お化粧をして、スカートでもはいてみたら・・・男の子たち夢中になるよ。」

 講義室でも、自然に男子学生が集まってきた。
 「なあ、早川・・・ケーキのおいしい店見つけたんだ、今日の帰り一緒に行かないか?」
 「やめろよ・・おまえ・・・早川困ってるじゃないか・・・なあ、早川!」
 「今日の帰り、車で送っていくよ。」
 そんな男子学生の声を振り切って、講義が終わると、僕は無意識のうちにとびきりの笑顔で会釈をして、駅に向かって走っていった。
 電車を降りると、「正美お姉ちゃん!」と呼ばれ、振り向くと、そこにいたのは圭子だった。
 「お姉ちゃん、今帰ってきたの?」
 「うん!」
 僕は答えると、彼女と一緒に歩き出した。
 駅からの帰り道、彼女は、僕を上から下までじっと見て笑顔で行った。
 「今日は、大変だったんじゃないの?」
 僕は、ドキッとした・・・なぜ、彼女はこんなことを言うんだ?
 僕が黙っていると、彼女は、
 「ビデオ・・・届いたでしょ。」
 僕は、驚いて彼女の横顔を見た。
 「新しい自分を受け止めてね・・・。」
 そう言うと、彼女は走りだした。
 「ちょっと待って!」
 彼女は、振り向くと言った・・・。
 「新しい自分を受け止めてね!逃げちゃだめだよ!」
 僕は、彼女の姿が見えなくなるまでそこに立ち尽くしていた。
 
 家に帰ると、夕食もそこそこに、僕は、部屋に閉じこもっていた。
 圭子は、なぜあんなことを言ったのか?そういえば、昨日は、混乱していたが、あのビデオは、いったいなんだったのだろう。あのビデオを見た後、僕の周りで僕の存在は、『早川正敏』から、『早川正美』になっていた。僕は、震える手でビデオをセットして、再生ボタンを押した。
ビデオの再生が、始まった・・・しかし、いつまでたっても画面は砂嵐のままだった・・・。
 「そんな・・・昨日は、女の子が映っていたのに・・・。」
 僕は、じっと画面を見ていた。
 「何を知りたいの?」
 澄んだやさしい声が、後ろからした。はっとして振り返る。
 そこには、柔らかい光に包まれた昨日のビデオの中の美少女が立っていた。
 「君は・・・?」
 「わたし?・・・誰だと思う?」
 「これは・・・これは、なにかの呪いなのか?これは呪いのビデオなのか!?」
 「それは、あなたの決めることよ。」
 「なぜ、僕をこんな姿にした!」
 「それは、あなたが望んだ姿・・・あなたの心の中で望んでいた姿。」
 「そんなことはない!」
 「本当かしら・・・?」
 彼女は、笑顔で僕を見つめる。僕は、何も言えなくなってしまった。
 「それは、確かにあなたの望んだ姿よ。一昨日を思い出してごらんなさい・・・。」
 「でも、こんな姿では困る!僕は、本当は男だ!この19年間男として生きてきたんだ!」
 「本当の自分が男と、誰が決めたの?」
 「えっ?」
 「今までのあなたと、今のあなた・・・まったく違う人なの?」
 彼女は、笑顔で話す。
 「姿は、変わっても、存在は変わったとしても、あなたは、あなたのはずよ。今までのあなたも、本当のあなた、これから生きていくあなたも、本当のあなたじゃなくて・・・。」
 彼女は、ゆっくり近づいてくると、両手を僕の頭の上にかざした。そのとたん、僕の体は、言いようのない暖かさに包まれた。
 「全ては、これから始まるの・・・このビデオが、呪いなのか、そうじゃないかは、あなたがこれから生きていく結果で決まること・・・新しい自分を受け入れてね。これは、そのためのプレゼントよ。」
 僕は、心地よい感覚に包まれて意識が遠のいていった・・・。

 「まさみー・・・起きなさい!」
 「はーい。」
 わたしは、身だしなみを整えると、リビングに向かっていた。
 白いブラウスに、白を基調にした花柄のスカート、水色のセーターを持ったわたしを見て、母は、にっこり笑った。
 「おはよう。」
 父も笑顔で、新聞を読んでいる。
 「今日は、お化粧もしたのね。」
 母の言葉に、わたしは、にっこり笑って、トーストをかじる。
 「昨日、あの少女は、わたしの中のこだわりを持っていってくれたんだ・・・男へのこだわりを・・・。」私は、そう思った。「こだわりをなくしたおかげで、今の自分を受け入れられる・・・。」今朝は起きたときから、わたしは、『早川正美』でいられた。ごく自然に服を選び、抵抗なく着られた。そして、体がかってに、以前からそうしていたようにお化粧ができた。
 「じゃあ、行ってきます。」
 「気をつけてね!」
 わたしは、玄関を出ると、駅に向かって歩き出した。
 昨日のように、男性の視線におびえたりはしない。背中を伸ばして歩いて行く。
 「お姉ちゃんおはよう!」
 圭子が、声をかけてくる。
 「おはよう!」
 「わっ・・・今日は、きれいだね!!」
 わたしは、にっこり笑う。そうだ、彼女はかつては『柴田圭一』だったんだ・・・。それが、あのビデオで存在が変わった・・・そして彼女は、それを素直に受け入れることができたんだ・・・。
 電車の中で、わたしは、彼女の横顔を見つめていた。
 大学に向かう道で、「はやかわ〜!」と呼ぶ声に、わたしと圭子は、振り返った。
 「おっはよ〜」
 田辺涼子が声をかけてきた。
 「あっ!早川、今日はスカートじゃない!お化粧もして可愛いよ!」
 わたしは、思わず赤くなる。
 「あっ、お姉ちゃん照れてる!」
 「うるさい!」
 わたしは、思わず圭子の頭をたたいてしまった。圭子は、けらけら笑っている。
 「早川、いつもそうしてるといいのに。男の子たちもみんな、そう言ってるよ。」
 田辺は、笑顔で言った・・・わたしは、そんな田辺になぜか親しみを感じていた。
 「今日は、帰りに三人でケーキを食べに行こうか?」
 田辺の提案に、
 「行く行く!ねえ、お姉ちゃんいいでしょ。」
 圭子の言葉に、わたしは思わず、
 「うん・・・。」
 うなずいてしまった。
 「おはよ〜早川!何相談してたの?」
 「うるさい!あなたたちには、関係ないの!」
 田辺が、クラスの男子を追い払う。そんな田辺を見ながら、わたしと圭子は、お互いを見つめ合って笑っていた。

 そう・・・今日から、“新しいわたし”が始まるんだ・・・。わたしは、空を見上げた・・・どこまでも青い空が広がっていた・・・。










 どうも、逃げ馬です。以前にカキコに書いたテーマを元に、始めて小説を書いてみました。
 作品の中で、あのビデオの存在の意味と、少女の正体には、あえて触れていません。それは、作品の中でも触れましたが、僕は、その本人のこれからの生き方で決めることだと考えています。
 この小説は、いわば、デビュー作なので、いろいろご不満もあると思います。拙い文章を最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

 なお、この作品は、フィクションですので、実在の人物には、関係がありません。




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