大当たり〜!!
作:逃げ馬
僕は高倉純一、この町のいわゆる進学校と言われている高校に通う2年生だ。
僕は、学校ではサッカー部に入っている。進学校のサッカー部というわけかどうかは知らないが、うちの学校のサッカー部はそれほど強くはない。対外試合では、負けることの方が多かった。しかし学校では、“サッカー部”だからだろうか? 部員たちは女子からは注目の的になっていた。
しかし、僕にはサッカーは楽しめなかった。ただ、友達と一緒にいられることが楽しかった・・・それが、僕がサッカーをやっている理由だった。
そして、あの日がやってきたんだ・・・。
「おい! 純一!!」
クラブが終わると、同級生のサッカー部員が僕に声をかけてきた。
「なんだ?」
トレーニングウエアを乱暴に脱ぎながら僕は振り向いた。適当にクラブに参加しているとはいえ、鍛えられた厚い胸板と、腹筋に汗が滲んでいる。それをスポーツタオルで乱暴に拭いた。
「この前は災難だったな!」
奴が笑う。僕は憮然とした表情を奴に向けていた。
「後で・・・ちょっと話せるか?」
「ああ・・・」
僕は生返事をすると、ロッカーに吊ってある制服を着た。鏡を見て髪を直すとロッカーを閉めて男臭い部室の外に出た・・・。
僕が外に出ると、すぐに奴が走って僕に追いついてきた。僕たち二人は一緒に歩きながら校門に向かっている。
「機嫌が悪いな!」
髪を赤く染めた奴が、僕に笑いかけている。こいつは、いわゆる進学校のこの学校では、少し変わった奴だった。それで目立つためだろうか? 学校の女子生徒には人気があった。
「昨日負けちまったことが、気に入らないのか?」
前を見つめたまま、奴がぶっきらぼうに言った。
「そんなことはないよ!」
僕が答えると、奴は僕の前に回って後ろ向きに歩きながら、にやりと笑った。
「それなら・・・いい話があるぜ!」
「何だよ?」
「確実に出る、いい店を聞いたんだよ! 今日、新装開店らしいぜ!!」
「うーん・・・」
僕たちは、自転車置き場にやってきた。かばんをかごに放り込んで自転車の鍵を外した。
僕は、こいつに誘われていつのまにか学校の帰りに、パチンコ店に出入りするようになっていた。やってみるとなかなか面白くて、ちょくちょく出入りするようになってしまった。もちろん、店に入る時には制服を脱いで行っているが・・・。
「なかなか厳しい店らしくてな・・・」
奴は自転車を押しながら、
「ゴト師や、客がいろいろな装置で台をいじるのは一切許さない。俺たちだって高校生だってばれたらどうなるか・・・」
「そんなところに行ったら・・・」
僕は小さな声で奴に言った、すると、
「でもさ・・・結構出すらしいんだよ。だから客も多くてね・・・」
そう言うと奴は自転車に跨った。
「早く行かないと台が無くなるぜ!」
奴は校門を出ると、勢いよく自転車をこぎ始めた。僕もいつのまにか、奴の自転車を追いかけていた。
僕たちは、パチンコ店の前にやってきた。少し離れたところに自転車を止めると、僕たちは制服のブレザーとネクタイを脱いでかばんに入れた。僕たちはお互いを見つめると小さく頷いて店のドアを開けた。
店内には、明るい照明が輝き、にぎやかな音楽とパチンコ台からの電子音が響いている。
白いブラウスと黒いミニスカート姿の女性店員が、店の中を忙しく動いている。僕は、自分が高校生とばれはしないかとひやひやしていた。
「大丈夫さ! どっしりと構えていろよ!」
奴はニッコリ笑うと、パチンコ台の並ぶ列に沿って歩いて行った。
「フ〜〜ッ・・・」
僕は小さくため息をつくと、奴とは別の列の台を見に行った。
「結構・・・出ているなあ・・・」
僕は、パチンコ台の前に座っている人たちの足元を見ていた。パチンコ台の前に座る人たちの足元には、たくさんのパチンコ玉を入れたプラスチックケースがいくつも積まれている。
「お客様! 困ります!!」
女の子の声に、あたりにいた客の視線がその台に集中した。
白いブラウスを着た、可愛い女性店員が一人の男性客の腕を掴んだ。その手の中には、電子機器が握られていた。顔が青ざめる男性客。
「こちらに来てくださいっ!!」
女性店員が男性客を店の奥に連れて行った。その後には、すぐに新しい客が座って何事もなかったかのように台を打ち始めた。
「本当に出ているな・・・」
いつしか僕は、空いているパチンコ台を必死に探していた。ふと見ると、奴はもう空いている台を見つけたらしく。必死に玉を打っている。
「くそっ!!」
僕も台を探していた。しかし、さすがに新装開店直後の店だけあって、どの台の前にも人がいる。
「だめか・・・」
僕が諦めかけていたその時、目の前に座っていたおばさんが、玉が一杯入った箱を2つも重そうに持ち上げながら席を立った。
「この台・・・もういいのですか?」
僕が尋ねると、
「ああ・・・たくさん稼がせてもらったからね!」
おばさんは上機嫌なのか笑顔が絶えない。
『まあ、あれだけ出れば上機嫌にもなるよな・・・』
僕は、おばさんのが重そうに抱えている玉の入った箱を見つめていた。
「それじゃあ、あたしはこれで!」
おばさんが歩いて行く。僕はその後に座った。周りは女の人ばかりだった。
「でも・・・」
おばさんが振り返った。僕もその声を聞いておばさんを見た。
「あんたがその台に座っていいの?」
そう言うと、おばさんは歩いていってしまった。僕は、首をかしげた。
「何言ってんだ? あのおばさんは・・・」
僕は、かまわずカードを差し込むと早速打ち始めた。
「さあ・・・かかってくれよ!!」
僕の目は、一心不乱に玉の動きを追う。
「来てくれ・・・来てくれ・・・」
しかし、なかなかリーチはかからない・・・僕は、買ってきたコーラで喉を潤すと回りの人たちに目をやった。相変わらず他の台は玉が出ているようだ。そして回りは女性ばかり、化粧の甘い香りが僕の鼻をついた。周りの女性も僕が気になるのか、チラチラとこちらを見ている。中には、首を傾げる女性もいた。
「そんなに気にしなくても・・・」
そう言ったとき、
「オー?!」
僕の台にリーチがかかった。
「来い・・・来い・・・来い・・・」
僕の目が台につけられた液晶パネルの絵柄を追う。
「来たー!!」
電子音が鳴ってパチンコ台につけられた電気がキラキラと輝きだした。
「やった、やった・・・」
僕の顔には自然に笑みが浮かぶ。たちまちプラスチックの箱に玉が増えていく。女性店員が、パチンコ台の上に“大当たり”と書かれた札をつけてくれた。その時、店員が僕を見てギョッとした表情をしたのに僕は気がつかなかった。
「出るなー・・・」
上機嫌の僕の体に変化がおきていることに、このとき僕は気がつかなかった。床についていた足は、いつのまにか椅子の下でブラブラさせていた。お尻は、小さな椅子一杯にまで大きくなっていた。しかし僕はそんなことには全く気がつかなかった。
「お客様・・・」
女性店員が僕に声をかけた。僕がその店員の方に目をやると、
「こちらは、女性専用台になっておりまして・・・そういうわけでお客様を・・・」
「エッ・・・?」
僕は自分の体を見下ろした。そこに見えるのは・・・?
「なんだこりゃ〜?!」
そう叫んだ僕の声は、高く澄んだ女の子の声だった。体を触る自分の腕は白く細い腕と指。そして胸はふっくらと膨らみウエストはくびれて・・・だいいち僕が着ているのは、うちの高校の女子の制服・・・紺色のブレザーと青いチェックのプリーツスカート、白いブラウスの胸には赤いリボンがついていた。
「女性専用台ですから、お客様もそれに合わせていただきませんと・・・しかし、高校生ということでしたら、申し訳ありませんが、ここまででお帰り願います」
女性店員が細くなった僕の腕を掴んだ。
「あっ・・・お客様の環境の処理は、きちんと済んでおりますので」
僕は店の外に出された。呆然と自動ドアに移る自分を見つめていた。そこには、僕と同世代くらいのショートカットの髪の可愛らしい女子高校生が映っていた。
「これが・・・僕なのか?」
驚いていると、自動ドアが開いて奴が出てきた。
「おお・・・すっかり変わっちまったな!」
奴は僕の姿を見てニヤニヤと笑っている。
「そんなに・・じろじろ見るなよ・・・」
僕は恥ずかしさのあまり頬を赤く染めて歩いていた。自転車を置いていたところに来て僕は開いた口が塞がらなかった。
「何だよ・・・これは?」
そこに停めてあったはずの僕の自転車は、カラフルな女の子が乗るような自転車に変わってしまっていた。
「あの店は、規則を守るのが徹底してるって言っただろう?」
僕は、呆然と奴の言葉を聞いていた。
「俺はあの店の中にいたから、おまえのことがわかるけど、もう外ではおまえは最初っから女の子だぜ。その位あの店は規則を守るのが徹底しているんだ」
そう言うと、奴の顔にいやらしい笑みが浮かんだ。
「丁度良いじゃないか・・・そんなに可愛いんだし・・・」
奴が僕の顔に顔を近づける。
「俺と付き合ってみないか? 純子ちゃん?」
僕は全身から血の気が引いた。大急ぎで自転車の鍵を外すと、スカートの中が見えそうになるのもかまわず猛スピードで自転車を走らせた。
「何で・・・」
僕は知らず知らずのうちに呟いていた。
「何でこんな目にあうんだよ〜!!」
可愛らしい女子高生の声が、夕暮れの町に響いていた。
こんにちは! 逃げ馬です。
久しぶりの“女性専用シリーズ” 今回はパチンコ屋さんです(^^;;;
近頃は、パチンコ店も綺麗になって、昔みたいな『おじさんの集まる場所』という雰囲気ではないですね。お客さんにも女性が増えて・・・でも、高校生がパチンコをするのはダメですからね!!(^^;
予定では、先に“あの作品の外伝”が出てくるはずだったのですが・・・さあ、これから頑張って書こう!(^^;
では、最後までお付き合いいただいてありがとうございました!
2002年1月 逃げ馬
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