「僕は、味噌ラーメンでお願い!」
「はい!」
カウンターの中で、店の主人が調理を始めた。
「俺は、ピリ辛ねぎラーメンで・・・・・」
立野の注文を聞いて、あなたは少し安心した。
さすがの立野も、ビアガーデンでガブガブとビールを飲んで、さらに餃子と生ビール・・・・・とは、行かなかったようだ。
そういうあなたも、チャーシュー麺に比べるとシンプルな味噌ラーメンを選んだわけだが・・・・・。
カウンターの向こう側では、店主が麺の茹で具合を確かめると、慣れた手つきで湯切りをして、麺をどんぶりに移した。
スープを入れて、コーンやもやし、シナチクとチャーシューを数枚トッピングしていくと、味噌ラーメンの完成だ。
「はい、お待ちどうさま!」
店主は、立野の前にはねぎラーメンを、あなたの前には味噌ラーメンを置いた。
「いっただっきま〜す!」
立野が言うと同時に、山盛りになっていた葱をかき混ぜると、麺と絡めて食べ始めた。
「美味い・・・・これは美味い!」
立野が叫ぶ。
その口から麺や具が千切れて飛び出したが、それを気に留めることなく、立野はラーメンをガツガツと食べ始めた。
あなたは、その様子を見ながら、ゆっくりラーメンを食べ始めた。
思わずため息が出た。
確かに美味い。
しかし・・・・・なぜだろう、ついさっきまでビールを飲んだり、揚げ物をたくさん食べたのに、お腹が空いてきたのだ。
それにつれて、目の前のラーメンを・・・・・無性に・・・・・?
あなたは、レンゲを置くと、箸を手にしてラーメンを食べ始めた。
美味い、確かに美味い・・・・・そう感じると、あなたも立野と同じように、ラーメンをガツガツと食べていた。
エアコンが効いた店内だが、白い肌にじっとりと汗が浮いてくる。
あなたは、スカートのポケットから、花柄のハンカチを取り出して、腕や細い首の汗を拭いた。
その間にも、ラーメンを食べ続ける。
暑いな・・・・・それに、体がなんだかムズムズする・・・・・あなたは、思わず両足を擦り合わせた。
体温が上がり、熱い太股が、直接触れ合い、今まで感じた事のない感覚を、あなたの脳細胞に伝えている。
夢中でラーメンを食べ続けているあなたは、自分の体の変化に気がつかなかった。
体が小さくなり、肌が白くなった。
ウェストの位置が高くなり、臀部が張りだしてヒップが膨らんでいく。
それに合わせるかのように、足はいつの間にか内股になっていた。
ラーメンを口に運ぶたびに、体が変化していく。
髪がスルスルと肩にかかるほどに伸びていくと、肩にかかるほどになった。
あなたは、小さな手でどんぶりを持つと、可愛らしい口で、スープを一気に飲み干していく。
あなたの喉を、スープが通るにつれて、白いカットソーの胸の辺りを、新たに胸にできた膨らみが、下から押し上げていく。
「ごちそうさま」
あなたがカウンターにどんぶりを置くと、
「600円になります」
店主が言った。
あなたは、お金を支払い、隣の椅子に置いていたトートバッグを手にして席を立った。
横の席でラーメンを食べていたOLも食べ終わったらしく、席を立った。
OLとあなたの視線が合った。
あなたは、彼女に黙礼をした。彼女も黙礼を返した。
あの女性・・・・・知っているような気がするのだけど・・・・・思い出すことができない。
「ありがとうございました」
店主の声を背中で聞きながら、あなたは店を出た。
夏の夜、まだまだ気温が下がらず、蒸し暑い空気が、あなたの体を包みこむ。
あなたはバッグからハンカチを取り出すと、白く細い腕や、うなじに浮いた汗を拭いた。
白いカットソーが、街灯の光に映える。
夏の夜風が、青いフレアスカートを揺らす。
今日は、大学のサークルの仲間たちと、楽しい時間を過ごした。
お腹が空いたのでラーメン屋に入ったが、女の子が一人でラーメン屋に入るのは、勇気が必要だったな・・・・・あなたの玄関を開ける手が止まった。
女の子・・・・・?
あなたは自分の感覚に、強烈な違和感を感じていた。
女の子・・・・・男の僕が、なぜラーメン屋に一人で入るのを躊躇うのだ・・・・・しかも、自分の事を女の子だなんて・・・・?
あなたは震えながら玄関の鍵を開け、家の中に入った。
電気のスイッチを入れると、LEDライトが部屋を明るく照らし出す、鏡を見たあなたは、驚愕のあまり叫ぶのも忘れていた・・・・・そこには、女の子が映っていたのだ。
あなたの意識は、そのまま遠のいて行った。
カーテンから射し込む光で、あなたは目を覚ました。
時計を見ると、
「いけない!」
慌てて身支度をして、急いで家を出た。
今日は朝から、バーガーショップのバイトだ。
店に着くと、急いで着替える。
ライトグリーンのシャツを着て、ネクタイを締める。
ひざ丈のブルーのスカートを穿き、グリーンの帽子を被ると準備は完了だ。
綺麗に手を洗い、カウンターの前に立つ。
店内にいる男性客たちは、あなたの姿を見て、羨望のため息をつく。
あなたの前に、親子連れの客が立った。
あなたの元気な声が、店に響く。
「いらっしゃいませ♪」
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