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駅(第4話)


作:逃げ馬









10月


残暑の厳しかった今年も、ようやく秋の気配が感じられるようになった。

秋の夕暮れ、銀色の車体にグリーンのストライプの入った電車が走っている。
車内は会社帰りのサラリーマンやOL。さらには学生たちでギュウギュウ詰めの満員状態だ。
あなたも何とか吊革に掴まり、体を支えながら混雑に耐えていた。
この状態では、鞄から本を出して読むこともできない。
まあ、いつものことなのだが・・・・。
あなたは小さなため息をついた。

『間もなく・・・です・・・・』

車内に自動放送のアナウンスが流れると、電車がスピードを落として、駅に滑り込んでいく。
チャイムが鳴ると同時にドアが開き、車内に詰め込まれていた乗客たちが、次々にホームに降りると、改札口に向かって歩いて行く。
あなたもその流れに乗り、改札口に向かって歩き出した。
ポケットから定期券を取り出すと、自動改札機のセンサーに当てる。
電子音が鳴ると同時に、改札機が開いた。
駅を出ようとしたその時、
「アッ?!」
誰かがあなたにぶつかった。
あなたの足元に、何かが散らばる。
あなたは慌てて歩みを止めて足元に視線を落とした。
制服姿の女の子が身を屈めて、バッグからあなたの足元に落ちた教科書やノートを拾い集めている。
あなたも慌ててその場にしゃがみ込むと、落ちていたノートを拾おうとした。

「?!」

女の子の手とあなたの手が触れ合う。

「し・・・・失礼!」

立ち上がったあなたが女の子に向かって言うと、

「いいえ、こちらこそ失礼しました」

女の子もぺこりと頭を下げた。
可愛らしい微笑みを浮かべてあなたに一礼すると、女の子は歩いて行く。
あなたはしばらくその後ろ姿を見つめていたが、やがて小さなため息をつき、家に向かって歩き出した。

「・・・・・」

あなたはなぜか、足を止めてしまった。
右手の掌に視線を落とし、じっと見つめている。

あの女の子の手と触れ合った右手・・・・なぜか、あの女の子のことが気になっていた。
あなたは踵を返すと、あの女の子の後を追った。



すっかり日の落ちた夜の街を、あなたは歩いて行く。
夜の街は、会社や学校帰りの多くの人たちが行きかっている。
あなたはその中に、さっきの女の子の姿を見つけた。
純白のブラウスの上にクリーム色のベストを着て、彼女が歩くたびにブルーのチェックのプリーツスカートが揺れている。
ビルや店の色とりどりの光が、彼女を美しく照らし出している。
街の明かりが彼女を照らし出すたびに、あなたは彼女に対して、不思議な魅力を感じていた。

彼女が道を曲がった。
あなたも彼女の後を追って道を曲がったのだが・・・。

「?!」

あなたの前に、微笑みを浮かべた彼女が立っていた。

「どうしたの?」

彼女が悪戯っぽい微笑みを浮かべながら、あなたを見つめている。

「い・・・いや・・・」

あなたは戸惑いながら、苦笑いするしかなかった。

「ねえ、あそこで一緒に泳がない?」

彼女が指をさした先には、スポーツクラブの建物が立っていた。




「あれは、スポーツクラブ?」


あなたは懸命に記憶を辿った・・・こんなところに、こんなに立派なスポーツクラブがあったか?・・・・あなたは戸惑いながら女の子を見つめていた。

「どう? いいでしょう?」

楽しいわよ・・・・と、彼女は微笑んだ。
彼女がスポーツクラブの建物に向かって歩いて行く。
あなたも何故か、彼女の後を追っていた。



あなたは、彼女と一緒にスポーツクラブのドアをくぐった。
明るい照明が、建物の中を照らしているのだが・・・・。

「・・・・?」

何かが変だ・・・あなたは、そう感じていた。
そう、普通ならばいるはずの受付の係員や、売店の店員がいない。
それどころかジムにも、室内トラックにも人影がない。

「おい・・・・君?」

あなたは彼女を呼び止めようとしたが彼女は構わず、だれもいない室内プールを横に見ながら歩いて行くと、女子更衣室に入っていく。

「おいおい・・・」

あなたは、更衣室に入るわけにもいかず、その場に立ち尽くしてしまった。
そもそも、泳ぐ予定などはなかったのだから、必要な物は何も持ってきてはいない。

「なぜ、こんなところに来てしまったのだろう?」

あなたは、苦笑いをしてしまった。
彼女を見ているうちに“なんとなく”ついてきてしまったが・・・?
帰るとするか・・・・そう思ったその時、

「何をしているのよ?」

更衣室のドアが開き、彼女が顔を出した。

「早く入って」
「でも、そこは女子更衣室だろう?」

あなたが声を荒げると、

「何をもたもたしているの? 男でしょう?!」
「男だから入れないよ!」

彼女は嫌がるあなたの右腕をつかむと、女の子とは思えない強い力で、あなたを更衣室の中に引っ張り込んだ。

「何をするんだよ?!」

あなたは声を荒げながら、周りを見回した。
女子更衣室の中にいる男・・・・たとえ中に引きずり込まれたからだとしても、他の女性から見ると“変質者”と言われて大騒ぎになっても仕方がない?
そう思いながら辺りを見回したのだが、他の場所と同様に、辺りには人影がない。
安心をして、ホッと溜息をつき・・・さあ、ここから出よう・・・・そう思ったあなたの目の前で、

「?!」

あなたは自分の目を疑った。

彼女は、あなたの目の前で・・・男性の目の前で着ている制服を脱ぎ始めたのだ。



「ちょ・・・・ちょっと?」

声を上げるあなたにかまわず、彼女はクリーム色のベストを脱ぎ、胸元のネクタイを外し、履いているスカートに手をかける。
「?!」
彼女の綺麗な足を撫でるように、スカートがストンと床に落ちる。

「!!」

あなたは息を飲んだ。

今、あなたの前には、純白の下着に身を包んだ美少女が立っている。
形よく膨らんだ二つの胸のふくらみ。
キュッと括れたウエストからヒップに続くライン。
その美しい体のラインを見て、あなたは思わずため息をつくと同時に、わずかな嫉妬を感じていた。

そんなあなたには構わず、彼女はブラジャーを外し、ショーツを脱いでハイソックスを脱ぎ捨てる。

一糸纏わぬ美少女の姿に、あなたは見とれてしまっていた。

あなたの視線に、彼女は気が付いているのだろうか・・・・?
彼女は、気が付いている素振りも見せずに着ていた服や下着を片付けると、バッグから黒い競泳水着を取り出すと、スッと・・・・その美しい体を包んでいく。
髪をかき上げながら、

「あなたも水着に着替えたら?」

彼女が微笑みながら言った。
しかし、あなたは言葉が出ない。
彼女の体にぴったりと張り付いた競泳水着は、彼女の美しい体のラインを強調していた。
見惚れているあなたに、

「あなたも、これを着れば綺麗になれるわよ」

そう言って彼女が取り出したのは、紺色の布に白い縁取りの付いた女の子の着るスクール水着だった。


「それは、女の子の着るものだろう?」

あなたが笑いながら言うと、

「そう、これを着るとあなたも女の子になるわ・・・」
「そんなことできるわけが・・・」
「できるわよ・・・・だってわたしは魔法使いだから・・・・」

さあ・・・・そう言って、彼女はスクール水着をあなたに差し出した。

「馬鹿な?!」

そんなことがあるものか・・・・魔法使いなんて・・・・そう言いながらあなたは、グッと息を飲んだ。
彼女の手にしたスクール水着・・・それを見ているあなたは、自分でも理解できない感情に押し流されそうになっていた。


「そんな・・・・そんなものを男が・・・・・」

着ることができるか・・・・・そう言おうとしたのだが、あなたは言葉が出なかった。

「そうかしら?」

彼女がクスクス笑った。

「そう言っているけど、あなたはこの水着ばかり見ているじゃない」

あなたは、これを着たいのよ・・・・女の子になってね・・・・彼女はそう言って微笑んだ。

「さあ、これを手に取って着てみたら?」

あなたは歯を食いしばった・・・・僕は、いったいどうしてしまったんだ?・・・・あれは女の子が着るものだ・・・・そう思いながらも、もう一人のあなたが『あの水着を着たい!』と叫んでいる?

「さあ・・・・」

彼女がささやくと、あなたは水着に向かって右手を伸ばす。
『やめろ!』と止めようとする心と、『早く着ろ!』という心が、あなたの中でせめぎ合っている。
伸ばした右手が、微かに震える。

そして・・・。

あなたはとうとう、彼女の手から、紺色のスクール水着を手に取った。



「さあ、早く着てみたら?」

彼女の声に後押しされるように、あなたは着ていた服のボタンを一つ一つ外していく。
『やめろ』と、あなたの心が叫んでいるのだが、なぜかあなたは自分の手を止めることはできなかった。
上着を脱いで、シャツを脱ぎ、そしてベルトを外すとズボンを脱いだ・・・・・そこで手が止まる。

「さあ、、早く・・・・」

彼女の声が、頭に響く。

あなたは、トランクスを脱ぎ捨てて裸になった。

そして・・・。

スクール水着を広げると、足を通していく。
『こんなに小さな水着、着れるはずがないじゃないか・・・』
あなたはそう思った・・・・そう、その水着は女の子の着るサイズだ・・・・本当なら着ることができないはずなのだが・・・。

「・・・?」

あなたは目を見張った。
水着から出たあなたの足は、無駄毛ひとつない白く細い足・・・・そう、まるで女の子のような足になっている。
あなたの心臓が高鳴る。
あなたは水着を一気に引き上げた。
着ることのできないサイズのはずなのに、水着はぴったりとあなたの方を包み込んだ。
あなたは大きく息をついた。
視線を落とすと、水着の胸のあたりになだらかな膨らみがある。
あなたは驚いて横を向いた。
サラサラの髪が、頬に当たる。
そこにある大きな鏡に映っていたのは・・・・中学生くらいに見える、可愛らしい女の子だった。




「どう? それがあなたの今の姿よ」

可愛いでしょう? そういうと、彼女はあなたの横に立った。
鏡に二人の女の子が映っている。
小柄でボーイッシュな雰囲気のあなたと、女性の魅力的な体のラインを持つ彼女。
あなたは羨望と微かな嫉妬を感じていたが、
『これは、女の子の感情じゃないか?!』
自分の感情を、必死に否定した。
しかし、一方では『それが当然だ』と言う自分がいる。

『クソッ! 一体どうしたというんだ?!』

あなたは自分の感情に戸惑っていた。

「さあ、一緒に泳ぎましょう!」

あなたは彼女と一緒にシャワーを浴びると、プールで一緒に泳ぎ始めた。
温水プールで二人の美少女が泳いでいる。
事情を知らない人が見れば、二人は“美人姉妹”に見えただろう。

「エイッ!」

悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女が水の中であなたに抱きついた。
膨らみ始めたばかりの、あなたの小ぶりな胸を彼女が揉んだ。

「ちょっと?!」

あなたは今まで感じたことのない感覚に戸惑った。
彼女はケラケラと笑うと、泳ぎながらあなたから離れていく。

「こら、待て!」

あなたも泳いで彼女の後を追う。
室内プールに二人の少女の明るい笑い声が響いていた。






どのくらい時間が経ったのだろう。

「さあ、そろそろ出ましょう・・・・」

彼女に促されて、あなたはようやくプールから上がった。

「楽しかった?」

彼女が微笑みながら尋ねると、あなたはこくりと頷いた。
知らない人が見ると、姉が妹に尋ねたように思ったことだろう。
短時間の間に、あなたは心までがその姿に馴染んでいたのだ。
もちろん・・・・あなたは気がつかないふりをしていたが・・・・。

あなたは彼女に促されて、シャワールームに入った。
彼女はあなたの隣で、あなたの視線を気にすることなく黒い競泳水着を脱いで、シャワーのコックを捻った。
彼女はシャワーから出るお湯を気持ちよさそうに浴びている。
彼女の白くきめのこまかい肌が、お湯をはじいている。
あなたは思わずため息をついた・・・・そう、羨望のため息だ。
あなたも紺色のスクール水着に細くしなやかな指をかけると、一気に脱いだ。

「アッ?!」

思わず声を上げてしまった。

水着を脱いだあなたは・・・そう、あなたは元の姿・・・男に戻ったのだ。



シャワーからは、温かいお湯が出ている。
しかしあなたは、それを浴びる気分ではなかった。
あなたは自分の体を見下ろしている。
水着を下から押し上げようとしていた膨らみかけの胸も、女の子らしいヒップも、今のあなたにはない。
男の平らな胸板と逞しい胸、そして逞しい筋肉の付いたすね毛の生えた足。

『これは自分の体じゃない』

あなたは心の中で叫んだ。
そして、あなたは自分の心に戸惑うことになる。
そう・・・・あなたは“男”なのだから・・・・どうして『自分の体じゃない』のだろう?

「フフフッ・・・・どうしたの?」

彼女が、戸惑うあなたを見ながら微笑んでいる。

「い・・・いや、なんでもない・・・・」

あなたは、そう言いながらシャワーを浴びようとしたのだが、

「女の子のままでいたかったの?」

彼女が悪戯っぽく笑った。

「ばかな!」

あなたはそう言うと、シャワーを浴びようとしたのだが・・・・。

彼女がスッと指を動かす・・・。
次の瞬間、あなたの見ている空間が揺れた・・・。



『ここは・・・・?』

シャワーを浴びようとしていたはず・・・・あなたはそう思いながら、周りを見回した。
しかし今、あなたのいるのはスポーツクラブのシャワールームではない。
それに・・・・。

「・・・?」

体が変だ。
耳にサラサラの髪があたる・・・それに視線を下に向けると・・・・・?

「これは・・・・?」

セーラー服を下からわずかに押し上げる胸の膨らみ。
胸元では、ブルーのスカーフが揺れている。
そして濃紺のプリーツスカートが足を撫でている。
そしてあなたがいるのは、どうやら学校の廊下のようだ。
突然、

「戸川 菜緒子さん?」

女性の声が聞こえて、あなたが振り返ると、スーツを着てメガネをかけた若い女性が立っていた。

「この前のテストも、よい成績だったわね・・・・」

「はい?」

あなたは意味が分からず、適当に返事を返したのだが、

「このまま頑張れば、このあたりでトップの女子高校に入学できるわよ」

彼女の言葉を聞いて、あなたの顔に微笑みが浮かんだ。

「先生、ありがとうございます!」

頑張ります・・・と、あなたは言った。
そしてあなたの心は・・・・自分の言った言葉に戸惑っていた。

『女子高を受験って・・・・僕は男なのに?』

次の瞬間、周りの空間が揺れて、先生の姿はあなたの視界から消えていく。
そして・・・・水音が聞こえてきた。

そう、あなたはスポーツクラブのシャワールームにいたのだ。
思わず自分の体を見た・・・・もちろん、男の体・・・自分の体だ。

「どうしたの?」

ふと見ると、シャワールームの入り口で、着替えを終えて制服を着た彼女が立っている。

「い・・・いや、なんでもないよ・・・・」

「そう・・・・」

彼女はクスクスと笑っている。
あなたは小さく舌打ちをすると、シャワーを浴び始めた。
一体どうしたというんだ・・・・シャワーを浴びて早く帰ろう・・・・そう思ったのだが・・・?

彼女が再び指を動かす。
コックを締めたあなたは、バスタオルで体をふき始めた。

次の瞬間、周りの空間が再び揺れた。





「菜緒子・・・・早く!」

ブレザーの制服を着た女の子が、あなたの細い腕をつかんで引っ張っていく。

「ちょ・・・・ちょっと・・・・?」

戸惑うあなたにお構いなく、ポニーテールの黒髪を揺らしながら、女の子があなたを引っ張っていく。

「ちょっと・・・・知子?!」

あなたは彼女の名前を呼んだ・・・・そして、そんな自分に驚いた。

『なぜ、見ず知らずの彼女の名前を?!』

彼女は守本知子・・・・小学校からの親友だから、知っていて当たり前じゃない・・・・あなたの中で、“誰か”が言っている。
あなたたちは廊下を走る。
制服のブルーのチェック柄のプリーツスカートがあなたの太腿を撫で、紺色のハイソックスが足を引き締めている。そして上履きを履いて廊下を走る。
クリーム色のベストと胸元には赤いリボンタイ、そして形よく膨らんだ胸が走るたびに揺れる。
それを感じるたびに、あなたの心の中で何かが変わっていく・・・しかし、あなたは気がつかないふりをしていた。

「早くしないと、体育の授業が始まるよ!!」

そう言うと、知子が更衣室のドアを開けた。


「?!」


あなたは思わず目を閉じた。
そう、中では女の子たちの着替えの真っ最中だったのだ。

「ちょ・・・ちょっと・・・?」

思わず更衣室を出ようとするあなたに、

「もう、何をもたもたしているの?!」

知子が腕を掴んで引きずり込んだ。

「早く着替えないと、遅れちゃうよ!}
「で・・・でも・・・・」

躊躇うあなたを見て、知子は小さくため息をついた。 そして、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
だが、下を向いているあなたは、当然気がつかない。

知子が周りに合図をする。
それを見た着替え終わった女子生徒たち・・・体操服とブルマ姿の女の子たちが、知子と同じように悪戯っぽい微笑みを浮かべて、あなたの周りに集まってきた。
気配に気がついたあなたが顔を上げると、あなたはすっかり女の子たちに囲まれてしまっていた。
あなたは思わず後ずさりをして、体をドアにくっつけた。

「さあ、みんな! 菜緒子を着替えさせよう!」

知子が言うと同時に、みんながあなたに飛びついた。

「ちょっと! やめて!!」

更衣室に、あなたの悲鳴が響いた。



「ちょっと!!」

必死に逃げようとするあなたを、みんなで捕まえると、知子があなたの着ている制服を脱がせていく。
たちまちベストを脱がされリボンを外される。
純白のスクールブラウスのボタンを次々外され脱がされると、白いブラジャーに包まれた形の良い膨らみが露わになる。

自分の胸にある女の子にしかない膨らみ・・・あなたは信じられないという思いで見ていたが、あなたの中で『それが当たり前・・・・私の体だから・・・』と誰かが囁いている。
知子のきれいな指が、スカートのホックをはずし、ファスナーを下してあっという間に脱がせてしまった。
あなたは思わず白くすべすべの太股をこすり合わせてしまう。
そして・・・括れたウエストから白いショーツに包まれた大きくなったヒップと、“何の膨らみもない”股間・・・・その光景があなたに衝撃を与えると同時に、歓喜の声を上げるもう一人の自分がいた。
そう、美しい体をもつ少女になった自分を喜ぶ歓喜の声・・・あなたは、懸命に“その声”を打ち消していた。

知子の顔に笑みが浮かぶ。
彼女はその手をあなたの胸に当てると、


「アアッ?! やめて!!」


あなたは思わず声を上げた。
そう、彼女はブラの上から、あなたの胸をリズミカルに揉んだのだ。

「う〜ん・・・さすがはEカップ!」

知子が笑うと、みんなもクスクスと笑った。

「もう!!」

あなたは立ち上がると、落ちている服をかき集めて小走りにロッカーに行き、体操服に着替え始めた。
胸から感じた感覚は・・・“気がつかないこと”にした。
そう、“男だという意識”を守るために・・・・。

「菜緒子が悪いんだよ・・・早く着替えないから・・・」

知子がクスクス笑っている。
あなたは手早く着替えを終えると、長い髪を綺麗に直して知子に駆け寄った。

「さあ、行こう!」

あなたはみんなに声をかけると更衣室のドアを開けた。
その先には秋の日が降り注ぐ校庭が・・・・。
白い体操服と、袖の紺色のラインが秋の日差しを反射する。
体操服の胸元をしたから押し上げている胸が揺れる。

あなたは仲間たちと校庭に向かって駆け出した。


その時、景色が揺らぎあなたの意識は光の中に消えた。





あなたが我に帰った時、そこはあのスポーツクラブの中だった。

シャワーを浴びたはずなのに、いつのまにか服を着ている。
当然ながら…さっきまで来ていた“男”の服だが・・・。
あなたは自分の体を見下ろし、両手で体を撫でてみる、
今のあなたの胸にはの“膨らみ”はない。
あなたはなぜかため息をつき、そんな自分に戸惑っていた。

「どうしたの?」

そこには、あの少女・・・・魔法使いの少女がいた。
かわいらしい微笑みを浮かべ、大きな瞳であなたを見ている。

「な・・・・なんでもないよ・・・・」

そう答えたのだが、あなたの心には大きな不満が渦巻いていた。

そう、「これは、自分の体ではない・・・」と・・・。

「フフフッ・・・」

彼女が笑っている。

「あなた・・・・女の子になりたい・・・?」

彼女が手を振ると、そこに現れたのは・・・?

あなたは思わず息をのんだ。
彼女の横に光の粒が集まり人の形になっている。
そして光が消えると・・・・そこに立っていたのは、20歳くらいに見える若い女性だった。
そう・・・・それは、あの”戸川菜緒子”の美しく成長をした姿だった。

あなたの中に、羨望と歓喜の感情が渦巻いていた。

「さあ、どうするの?」

魔法使いの少女が微笑む・・・・しかし、その目は笑ってはいない・・・・その目は獲物を狙う動物の目だった。





「どう、これが“本当のあなたの姿”よ・・・・」

魔法使いの少女が、あなたに甘く囁く。

「クッ・・・・?!」

あなたは思わず歯を食いしばった。
涼しいはずなのに、額には玉のような汗が浮かんでいる。
目の前に立っている、可愛らしさと美しさを兼ね備えた女の子・・・。それが自分の“本当の姿”なのか?!
その姿に喜んでいる自分と、それを否定して“男”を守ろうとする・・・・二つの心があなたの心の中で戦いを繰り広げている。

「どう、女の子になりたい?」

魔法使いの少女の言葉が、あなたの心を揺さぶる。

「い・・・いや、僕は・・・・」

「僕は・・・・どうなの?」

少女が微笑みを浮かべながら尋ねた。
『こいつ・・・楽しんでやがる!!』あなたはそう思ったが、どうすることもできない。

「女の子は良いわよ・・・おしゃれをしたり、友達とおいしいものを食べに出かけたり・・・・」

あなたは歯を食いしばった・・・・少女の囁きが頭の中に響き、あなたの心が揺れ動く・・・。

「どう、女の子になりたい・・・・?」

少女が問いかける。
その横に立つ、若くて美しい女の子の姿・・・・それが、僕の本当の姿なのか?

「・・・・」

あなたは、歯を食いしばって耐えていたが、我慢しきれずにゆっくりと頷いた。
少女が右手を大きく振ると、横に立っていた美女の姿は光の粒になって消えた。

しかし・・・。

「?!」

その光の粒があなたに向かってくる。

「ああっ?!」

あなたは逃げようとしたが、たちまち光に包まれた。

次の瞬間、あなたの体が変化を始めた・・・。



「な・・・・なんだ?!」

あなたは思わず叫んだ。
体が変だ・・・・全身がなんだかムズムズする。
そう思っていたのだが、あなたの着ているシャツの下で胸の乳首がツンと立つと、下からシャツを押し上げるように、左右の胸がムクムクと膨らんでいく。
まるでそれに合わせるようにウエストが見えない何かで締め付けられるように細くなり、反対にヒップがリズミカルに膨らんでゆく。
それにつれて、足が自然に内股になってゆく。
あなたは手を顔の前に動かした。
体全体が小さくなったのか、服がブカブカになって袖から指が出ているだけだ。
だが、その指は見慣れた自分のものではない。色が白く、細く折れてしまいそうなきれいな指・・・・どう見ても“女性の指”だ。
顔と頭がムズムズしたかと思うと、髪が一気に伸びて綺麗なロングヘアになった。
髪に手を当てると、今までの自分の髪とは違うサラサラの黒髪だ。

「どうなっているんだよ・・・」

艶やかな唇から思わず呟いた声は、可愛らしい女の子の声だ。
思わず両手で顔を覆う。
その細くしなやかな指に、弓のように細く整った眉と、長い睫毛が指に触れた。
そしてあなたは、自分の体の最大の変化を感じていた。

長年あなたの男性としての象徴だった部分が、どんどん小さくなっていく。
それと同時に、あなたの股間からはあなたの体内に向けて“トンネル”ができていく。
そのトンネルは、あなたの体の中で二つに分かれて下腹部の左右に“女性だけの空洞”を作り、さらに女性の体内器官ができていく。

あなたは更衣室の中にある大鏡に視線を向けた。

そこには、鏡の向こうから戸惑いの表情を浮かべてあなたを見つめる、男性の服を着た美少女が映っていた。



「これが・・・・僕なのか・・・?」

あなたが可愛らしい声で呟いた。

「まだよ・・・」

魔法使いの少女が言った。

「エッ?」
「まだ、終わっていないわ・・・・」

彼女が悪戯っぽい微笑みをあなたに向けながら言った。
次の瞬間、

「アッ?!」

あなたは思わず声を上げた。
生まれたばかりのあなたの美しいバストを、ブカブカになったシャツがキュッと包み込んだ。
紐が両肩と背中に伸びて、パチンとホックが止まり・・・・体にぴったりフィットする。
『いや・・・・これはシャツじゃない・・・・』あなたの顔が赤くなる。
そう、あなたの胸は女性の下着・・・・ブラジャーで包まれたのだ。



それと同時に、履いていたトランクスは柔らかい肌触りのショーツに変わり、大きく膨らんだヒップを包み込んだ。
“男性だったとき”とは違う、女性の滑らかな肌触りの下着があなたの上半身を包み込む。

そして変化は、あなたの目に直接見える形でも現れはじめた。

着ていたシャツの色は白く・・・・そして柔らかな肌触りのブラウスに変わり、大きく膨らんだ胸元には白い大きなリボンが結ばれた。
そしてズボンがスルスルと短くなっていく。


「アアッ?!」


あなたは思わず声を上げたが、それで変化が止まるわけではない。
ズボンが短くなってくるのに合わせて、あなたの目には変わってしまった無駄毛ひとつない白く美しい足が現れてきた。

「そんな・・・・」

あなたは呟いた。
あなたの履いていたズボンは、ひざ上まで短くなると、色が黄色に変わり二本のトンネルが一つにまとまると、一気にパッと広がった。
あなたの下半身が突然、空気にさらされた。


「アッ?!」


あなたは思わず声をあげてそれを手で押さえた。
そう、あなたの履いていたズボンは、ミニ丈のフレアスカートに変わってしまったのだ。

いつの間にか、足にはニーソックス・・・そしてブーツまで履いている。
そしてご丁寧に、いつの間にかあなたの手は大学の教科書やノートが入ったトートバックを持っている・・・・?

あなたは恐る恐る鏡を見た。

そこには、清楚な女子大学生が映っていた・・・・。








「どう? すっかり可愛くなったでしょう?」

これがあなたの本当の姿よ・・・・そう言うと、魔法使いの少女が笑った。

「違う・・・・」

あなたは鏡を見ながら呟いた。
鏡の中で、“女子大学生”が呟いている。
服の上からでもわかる、抜群のプロポーションと清楚さを併せ持つ少女。
街で見かけると、どんな男性でも振り返らずにはいられないだろう・・・・それが、今の自分の姿だ。 しかし・・・・。

「違う、僕は男だ!」

あなたは彼女を睨みつけ、強い口調で言った。
ただしその声は、元の自分の声とは似ても似つかない可愛らしい女の子の声だったのだが・・・・。

「元に戻せ!!」

そう言ったのだが、あなたの心の中では『これが自分だ、元に戻りたくない!』と、“誰か”が叫んでいる。
そんな自分の心に、あなたはイライラしていた。

「さあ、早くしろ!」

あなたは“女の子の大きな瞳”で相手を睨みつけた。
瞬きをするたびに、長い睫毛がパチパチとする。

「頑張るわね〜・・・・」

彼女は呆れたように、あなたを見つめている。
そんな彼女を見て、あなたは堪忍袋の緒が切れた。


「さっさとしろ!」


可愛らしい手で、彼女に掴みかかろうとした瞬間、


「あなたに女の子の素晴らしさを教えてあげる・・・・」

もう、男になんか戻りたくないっていうほどにね・・・・彼女はそういった瞬間、右手をあなたに向けた。
その手から赤い光が放たれ、あなたはその光に包まれた。




「ア・・・・アッ?!」


彼女に飛びかかろうとしたあなたは赤い光に包まれ、まるでつんのめる様にその動きを止めた。
その体は震え、大きな瞳はいっぱいに開かれ可愛らしい唇からは、悩ましげな吐息が漏れている。

「その光は、女の子のエナジーよ・・・・」

彼女の目が怪しく輝いている。

「エナジーに包まれてその体を感じて、身も心も女の子になりなさい・・・・」

『女になってたまるか!』
あなたはそう言い返そうとしたのだが、その体から今までに感じたことのない感覚を感じて、あなたは言葉を出すこともできなかった。

ブラの下でピンク色の乳首がツンと尖り、その先から今までのない感覚があなたの脳細胞に伝わってくる。
あなたは思わずうめいた。
しかし実際に唇から出たのは、女の子の甘い声だ・・・・その声を聴いて、あなたは恍惚とした表情を浮かべた。
あなたは切なげに体をくねらせて、スカートに包まれた滑らかな太腿をこすり合わせた。

今までに感じたことのない感覚があなたの下半身・・・・股間から、ウエストから、形よく膨らんだ美しいFカップのバストとその先から、そして新しくあなたの中に生まれた子宮から・・・あなたの脳細胞に伝わってくる。

あなたは感じていた・・・・そう、これは男の感覚ではない・・・・これはこの体、女の子の体の感覚だ・・・・。
この新鮮な・・・それでいて何度も経験したような感覚・・・・そして、その頂点は、もうそこに迫っている・・・・。
あなたは、この体の記憶に飲み込まれようとしている。

やがて・・・あなたは甘い叫びをあげると、胸を突き出すようにして体をピンと張りつめ・・・・やがてその場に崩れ落ちた。
その瞬間、あなたの中で何かが変わっていった・・・。


「女の子って・・・・すご・・い・・・・」

『気持ちよかった・・・』
あなたは瞳を潤ませ、可愛らしい唇を半開きにして甘い吐息をホッと吐いた・・・・。

「これであなたは、身も心も菜緒子ちゃんね・・・・」

彼女が微笑みながら、あなたを見つめている。

「どう、女の子になってよかったでしょう?」

菜緒子ちゃん・・・・そう、わたしは戸川菜緒子・・・・名門女子大学の一年生・・・・。
あの様子を彼女はずっと見ていた・・・・そう思うとあなたは恥ずかしさに顔を赤らめながら、小さく頷いた。

「あなたにも“力”をあげたわよ・・・・・あなたも男の人に、女の子の素晴らしさを教えてあげてね・・・・」

彼女の体を淡い光が包んでいく・・・・・その光が消えた時、彼女の姿は消えていた。
そして・・・・・あなたの見ていた景色が揺れた・・・・。



『間もなく・・・です・・・・・』

車内に自動放送のアナウンスが流れると、座席に座っていたあなたはハッとして目を覚ました。
黄色のフレアスカートから延びる美しい足。
それを見た瞬間、あなたは満足そうな微笑みを浮かべた。

『そう・・・・これが私の本当の姿・・・・』

電車がスピードを落として、駅に滑り込んでいく。
チャイムが鳴ると同時にドアが開き、車内に詰め込まれていた乗客たちが、次々にホームに降りると、改札口に向かって歩いて行く。

あなたは足を止めて電車を振り返った。
窓ガラスに映る艶やかな黒髪の女性・・・・・白いブラウスを押し上げる胸の膨らみの美しいライン。
キュッと引き締まったウエストと、ミニスカートから延びる美しい脚線美。
そう、それがあなたの姿だ。
あなたもその流れに乗り、改札口に向かって歩き出した。
すれ違う男性たち・・・・サラリーマンも、大学生も、高校生も・・・・そして駅員までがあなたを振り返る。



夜の街を歩いているあなたの後を、誰かがつけているようだ。
あなたが四つ角を曲がると、その男性も曲がってきた。

あなたが振り返ると、その男性は驚いてあなたを見つめていた。

「どうしたの?」

あなたが言うと、

「い・・・いや・・・」

何でもない・・・・男性はそういって戸惑っているようだ。

「ねえ・・・・」

あなたはその可愛らしい顔に、魅力的な微笑みを浮かべると、


「ねえ、あそこで泳がない・・・・」


あなたに教えてあげる・・・・女の子の素晴らしさを・・・・。
そう思いながらあなたの指差した先には・・・・・スポーツクラブの建物があった。








駅(第4話)
おわり




作者の逃げ馬です。
書き足し小説のスタイルで書いたこの作品も、完結をしました。
もともとは夏場に書くつもりだったこの作品も、投入が遅れて10月の登場。
「夏の怪談」というには、あまりに遅い登場になってしまいました(^^;

そして、魔法使いさんが再びの登場。
こってりとしたストーリーのリクエストをいただいていたので、変身シーン・・・・そして魔法使いさんの『アフターサービス?』もこってり風味になっています(笑)
インコース胸もとを狙った一連のシーン・・・・・デッドボールにならなければよいのですが(^^;

それでは、今回も最後までお付き合いいただいてありがとうございました。


2012年10月 逃げ馬










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