浜辺にて・・・
作:逃げ馬
「うひょー・・・やっぱ、海はいいなあ・・・・」
4人の若い男たちが砂浜であたりを見回している。
ここは美女ヶ浜海岸。このあたりでは美人が集まるので一部の人間には有名な海水浴場だ。
真夏の海水浴場には、家族連れやカップル、若い男女たちが思い思いの場所でパラソルを広げて寛いだり、ビーチボールでバレーボールをしたり、あるいは砂浜に寝そべって甲羅干しをしたり・・・それぞれの楽しみ方をしている。
「ほら・・・・ボーッとしていないで俺たちも場所取りをしようぜ!」
リーダー格の聡が言った。4人がパラソルを広げ、マットを砂浜に敷いていく。
この4人は、高校の同級生。なぜか波長の合う4人は、学校でも、校外でもいつも一緒に動くことが多かった。そして、この4人に共通しているのは、とにかく女の子にもてないということだった。リーダー格の聡は今の高校生らしく髪を茶色に染めて某サッカー選手の髪形を真似ている。保は、お調子者で、女好き・・・・しかし、ナンパをしても上手く行ったためしがない。卓也はおしゃべり好きで、このグループの宴会部長?・・・コンパの仕切り役だ。そして僕・・・高嶋誠二・・・自慢ではないけど高校では成績は上位に入っている。顔の見かけは・・・並。クラスでは勉強以外では、ほとんど目立たない。女の子たちを相手に特別面白いことが言えるわけではない。そんな目立たない僕だが、なぜかこいつたちとはウマが合った。
「おい・・・誠二! 見てないで手伝えよ!」
パラソルを支えている聡が口を尖らせながら、僕に向かって言った。僕は慌ててパラソルを支えた。支柱の下を保が固定しようとしていた。その時、僕たちの横をカラフルな水着に身を包んだ女の子たちがおしゃべりをしながら通り過ぎていった。すると、まるで見えない何かで引っ張られているかのように保の視線が女の子たちの後姿を追いかけて行く。
「可愛いな〜〜〜・・・」
まるで誘導装置でも体に入っているのではないかと思うほど、保の血走った目は、女の子を追いつづける。
「おいおい・・・・保・・・」
僕が囁く声も耳には入らないようだ。
「保!!」
「ウワッ?!」
聡の大声に驚いた保が、支えていたパラソルの支柱を大きく揺らした。広げたパラソルが大きく揺れる。
「アアッ・・・?」
「保・・・何をやっているんだよ?!」
僕と聡は必死に支えようとしたが・・・・。その時、
「おーい・・・コーラを買ってきたぜ!」
卓也が両手にコーラを抱えてこちらに歩いてくる。
「ア・・・サンキュー!」
下で支えている保が卓也のところに行こうとした。次の瞬間、
「「アーーーッ?!」」
パラソルが倒れてしまった。卓也の腕からコーラを受け取った保は倒れてきたパラソルにコーラを弾き飛ばされてしまった・・・・。
「フ〜〜〜ッ・・・ようやく準備完了ってとこか?」
ようやくパラソルを立てて荷物を並べた僕が振り返ると、そこには仲間たちは誰もいなかった・・・。
「おいおい・・・・どこに行ったんだよ!(--#)」
あたりを見回すと、
「ア・・・あんなところに!!」
保を先頭に聡と卓也たちが、砂浜に座っている4人の女の子たちに声をかけているようだ。
「よくやるよなあ・・・・断られても断られても・・・(^^; 」
僕は思わず苦笑いをしながらしばらく見つめていたが、
「さて・・・僕はどうしようかなあ・・・・」
結果がわかっているところに応援に行ってもつまらない・・・かと言って、一人で海で泳ぐのもなんだか寂しいものが・・・・。
「オッ?」
あたりを見回した僕の目に飛び込んできたのは、砂浜の一角にずらりと並んだ丸い砂の山に埋もれて頭だけを出している人たちだった。
「・・・なんだが面白そうだな・・・」
僕は吸い寄せられるように、そこに向かって歩いて行った。
「いらっしゃい!」
突然声をかけられて、僕は思わず声の聞こえてきた方向に振り返った。
砂浜の一角に建てられた小屋の中から、僕と同い年くらいに見える、砂浜に降り注ぐ太陽を浴びてよく日に焼けた女の子が、僕に向かって微笑んでいる。
「エ・・・いや・・・そういうわけじゃあ・・・」
慌てて口の中で意味の無いことを呟く僕のほうに彼女が歩いて来た。
「ここの砂風呂に入りに来たの?」
「砂風呂?」
「そうよ・・・・ここの砂浜の砂風呂は有名なのよ!」
彼女が大きな瞳をキラキラと輝かせながら微笑む。僕は一瞬、その瞳に吸い込まれそうな錯覚を感じていた。
「・・・ここの砂風呂に入るとね・・・砂の成分と熱で新陳代謝が良くなって肌が綺麗になって美顔効果があるの。だからほら・・・・女の人が多いでしょう?」
彼女が指を指した先では、確かに女性が体の大部分を砂の中に埋めている。
「わたしも、一日のアルバイトが終わると、しばらく入れてもらうの・・・」
女の子がペロッと舌を出した。悪戯っぽく笑うと彼女は腕を僕に向かって差し出した。
「・・・だからアルバイトに来る前に比べて、日焼けをしても肌は綺麗なままなのよ」
確かに、僕の見ている彼女の肌はつやつやとしていた・・・僕のクラスの女子たちに比べても・・・(^^;
「どうします・・・入りますか?」
彼女が僕の顔を覗き込むように尋ねた。僕は知らず知らずのうちに彼女に向かってこくりと頷いていた・・・。
「あ〜〜〜〜・・・・・空しいなあ・・・・」
「おまえ・・・・いきなりスリーサイズや住所なんて聞くからだぞ!」
「おまえこそ、涎でも垂らしそうな顔であの娘たちのことを見ていたじゃないか?!」
聡たち3人が重い足取りで砂浜を歩いている。周りの海水浴客・・・家族連れやアベックが3人の話を聞きながらクスクスと笑っている。
「アーッ! なんか面白いことないかなー!」
聡が大きな声を上げたその時、
「あれっ? あれは・・・」
卓也の呟きに、
「なに言っているんだ?」
保も卓也の視線の先に目をやった・・・そこには、たくさんの丸い砂山が・・・。
「いらっしゃいませ!」
女の子の声に、
「ア・・・客じゃないよ・・・ちょっと面白そうだから見せてくれよ!」
聡が笑いながら言った。しかし・・・、
「可愛い・・・・ねえ君! 年いくつ? 今、付き合っている奴はいるの?」
保は女の子に向かって矢継ぎ早に質問を浴びせていた。そんな保を気味悪そうに見つめる女の子。
「砂風呂か・・・」
「女の子の客が多いな・・・しかも可愛い娘や美人が・・・」
聡と卓也は小声で囁き合っている。そして突然の闖入者に驚く客の女性たち。身動きもままならず首だけを動かして3人を不安そうに見つめている。そして、
「こんにちは!」
一人一人に声をかけて歩く保・・・。
「アッ?」
卓也が客の一人の頭に躓いてしまった。客の顔に載せていたタオルがひらりと落ちてしまった。
「失礼しま・・・・」
「どうしたん・・・・」
そこで砂風呂に入っていた人物に聡も卓也も見覚えがあった。
「誠二じゃないか・・・」
砂風呂に入っている誠二は、二人が側にいることも知らずにスヤスヤと寝息をたてている。
「気持ちよさそうだなあ・・・」
聡が苦笑いをしていると、
「どうしたんだ?」
保が側にやってきた。
「どうだった?」
卓也が笑いながら保に尋ねると、
「だめ・・・ここの女たちは男を見る目がないよ!」
保は自棄になって言うと、誠二を埋めている砂山を崩し始めた。
「おまえ・・・なにやってんだよ?!」
聡が首を傾げながら尋ねた。
「本当は・・・・」
保はブツブツと呟きながら、砂山を崩したり、また砂を集めて固めたりしている。
「こんなスタイルの女の子と付き合いたいんだよ!」
そう言った保の足元でスヤスヤと寝息をたてている誠二の入っている砂山はすっかり形を変え、まるでビキニ姿の女の子の形に固められていた。大きな胸、キュッと引き締まったウエスト、大きなヒップ・・・。そして長く綺麗な足・・・。
「まるで・・・おまえの妄想の結晶だな・・・」
卓也がからかうと、
「うるさいよ! 何とでも言えよ!!!」
保が口を尖らせながら食って掛かる。
「おい・・・ひと休みしようぜ!」
聡に言われて3人が歩いて行く。誠二は、そんな騒ぎも知らずにスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
「お客さん、そろそろ時間・・・」
誠二の入っている砂山を崩すためにやって来た女の子は、その光景を見て固まってしまった。砂山はすっかり形を変えてそれはまるで女の子の体のように見える・・・。
「うーん・・・・気持ちが良かった・・・・もう、時間?」
眠りから覚めた誠二が尋ねた。しかし、その声に誠二は違和感を感じていた。
「ハイ・・・・すぐにお出ししますね!」
女の子が慌てて砂山を崩す。崩していくうちに、彼女の手が柔らかい物に触れた。
「アッ?」
思わず声を上げる誠二、その声はまるで女の子のような・・・。
砂が取り除かれて誠二の体が現れた。それを見た女の子は、言葉を失っていた。
「うーん・・・」
大きく伸びをして誠二が起き上がった。顔にかけていたタオルがひらりと落ちる。そして誠二の視界に入ってきたのは、青いビキニを身に付けた女の子の体だった。思わず自分の胸に手をやった。そこには形の良いバストが、そしてその重さは、確かに自分に感じられる。
「ウワーーーッ! 僕はいったい?」
思わず立ち上がって自分の体を見下ろす。腰に手を当てると、キュッと引き締まったウエストが感じられた。後ろを振り返り見下ろすと、丸いヒップをビキニが覆っている。そしてビキニの前はすっかり平らになり男の物は影も形もない。太ももから細い足首にかけては男のころの無駄毛は全く残っていなかった。
「お客さん・・・」
女の子がおずおずと手鏡を差し出した。鏡で自分の顔を見る誠二、そこには、活発そうなショートカットの髪の女の子が映っている。
「これが・・・・僕なの?」
思わず呟いたその時、
「ア・・・誠二・・・・女の子になってる?!」
聡の大きな声が聞こえた。
「オッ・・・俺の作ったとおりの体じゃん!」
保がまるで舐め回すように誠二の体を見つめている。
「ちょうどいいじゃないか・・・ナンパには失敗したけど、誠二は俺たちの“友達”だもんな!」
卓也が誠二のヒップをサッと触った。
「キャッ!」
思わず女の子の声で悲鳴を上げる誠二。その自分の反応に思わず頬を赤く染める。
「「「ハハハハハッ!」」」
聡たち3人の高笑いが夕方の砂浜に響く。
そんな3人を恨めしそうに見つめる誠二だった女の子。
「なぜ、俺がこんな目に会うんだよー!!」
女の子の叫びが海に響いていた。
浜辺にて・・・ (終わり)
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