ジェットコースター
作:逃げ馬
佐藤和夫は、高校2年生・・・・外見はそれほど悪くないのだが、何故か今まで彼女が出来たことがなかった。
だから、今まで遊びに行くときには、幼馴染の松原光男と一緒に出かけることが多かった・・・大柄な和夫に比べると、光男は、華奢で小柄だった。女の子と間違われたことすらあった・・・。和夫も遊びに行った時に、『こいつが、女なら・・・。』と思ったことも、一度や二度ではない・・・しかし、さすがに和夫も、男の光男に手を出すことはなかった(あたりまえか・・・)。
和夫たちの町には、新しくテーマパークが出来た。その売り物の一つが、“絶叫マシーン“・・・ジェットコースターだった・・・。
その日も、学校で・・・。
「おい、光男!今度新しく出来たテーマパークに行ってみないか?」
「エエッ・・・僕と?」
「ああっ・・・そうだよ・・・。」
「他には?」
「いや・・・今のところ誰も・・・。」
和夫が答えると、光男は、ちょっとしかめっ面をした。
「ああいうところは・・・やっぱり女の子と行くんじゃ・・・。」
光男の言葉に、今度は和夫が憮然とする・・・。
「・・・・・。」
黙り込んだ和夫に、光男は、『参ったなあ』といった表情を見せる・・・いつも和夫が使う手だった・・・わかっていても、光男には打つ手がない・・・。
「わかったよ・・・行くよ・・・・。」
「そうか!」
和夫が笑顔になった・・・苦笑する光男・・・。
「じゃあ、帰ったらテーマパークの門の前で待ち合わせだぞ!絶対にこいよ!」
テーマ・パークで・・・・。
二人は、テーマ・パークの中を歩いていた・・・周りは、カップルばかりだ・・・下を向いたまま歩く光男、和夫は、きょろきょろしながら歩いていた・・・。
「う〜ん・・・俺も、彼女と一緒ならなあ・・・もっと楽しいのに・・・。」
そう呟くと、後ろの光男を振り返る・・・。光男は、相変わらず俯きながら歩いている。思わず、大きなためいきをつく和夫。
「おい!」
光男に声をかける和夫・・・。
「なんだい・・・・?」
「もっと、元気を出して歩けよ!」
「そんなこと言ったって・・・。」
光男は、周りを見回した・・・周りは、親子連れか、カップルばかりだ。年頃の男二人なんて、彼らくらいなものだ・・・。
「だからって、下を向いても、始まらないだろ!」
和夫は、カラ元気を出して歩いていく・・・。そんな和夫を見て、光男は首を振ると大きなため息をついた。
ジェットコースターにやって来た・・・。
「おい・・・早く並べよ・・・。」
「本当に乗るの?」
「あたりまえだろ!これに乗らないと、来た意味無いじゃん!」
和夫たちは、ジェットコースターを待つ列に並んだ。
「キャーーッ!」
「ウワーーー!」
走るジェットコースターから悲鳴が上がる。
乗り場に帰ってきたジェットコースターから降りてくるカップルを見る和夫・・・・。和気あいあいで、楽しそうな二人を見ると、自分が惨めになってきた。(少し遅いが・・・)
『俺・・・何やってるんだろう・・・。』
二人の順番がきた・・・ジェットコースターに乗り込む二人・・・。
『本当なら、こういうとこは、女の子と来るんだよなあ・・・。』
カタン・カタンという軽快な音を立ててジェットコースターが上に登っていく・・・。
横を見る和夫・・・光男が、前を見て笑っている。
『横に居るの・・・こいつだもんなあ・・・女の子なら・・・。』
ガアーーーッと音をたてて坂を降りて行くジェットコースター・・・周りからは、悲鳴が上がる。
「ウワー!」
男二人の叫び声が上がる・・・さすがの和夫も苦笑した。
『これじゃあなあ・・・。』
コースターが、大きく一回転した。また、悲鳴が上がる・・・。
「ウワー!」
『あれ・・・少し光男の声が・・・?』
和夫は、横を見ようとしたが、その瞬間にコースターは、横にクルクルと回転した。
「キャーーッ!」
また、悲鳴が上がった・・・。顔を光男に向けられない和夫・・・。
光男は、ジェットコースターは、苦手だった。
「嫌だったのになあ・・・こういうのは、本当は、女の子と乗るものだよ・・・。」
ぶつぶつ言いながら乗り込んだ・・・ジェットコースターが動き出した・・・。
『う〜ん・・・・動き出しちゃったよ・・・やだなあ・・・。』
轟音を立てて、坂を降りる、周りから悲鳴が起きるが、この二人は、男の叫び声・・・・。
『興ざめだよなあ・・・。』
そう思っていた・・・今度は、一回転した・・・髪が、風でなびく・・・あれ?僕の髪・・・そんなに長かったかな?
今度は、横に回転・・・思わず悲鳴をあげた・・・高く済んだ悲鳴だった・・・なんだか胸が重いなあ・・・足に風を感じる・・・でも、怖いから目を開けられないよ!
コースターが、乗り場に帰ってきた・・・。
「ふう・・・怖かったなあ・・・。」
光男が、和夫に声をかけた・・・。
和夫は、ようやく光男を見た・・・しかし、そこに光男は、居なかった・・・そこに居たのは、白いブラウスの上に、赤いベストを着たショートカットの髪の女の子だった・・・。
「光男・・・おまえは、光男か?」
「何言ってんだよ!・・・あれ?・・・声が・・・。」
ようやく自分を見る光男・・・彼は、思考が止まってしまった・・・胸は、ふっくらと膨らんで、膝丈のスカートをはいている・・・足は、すね毛なんか生えてない、つるつるの細い足だ・・・これって・・・・?
「ウワーーッ!僕、どうしたんだろう!?」
コースターから飛び降りて、自分の体を触ってみる光男。
「まあ、いいじゃないか・・・。」
和夫は、ニヤニヤしながら言った・・・。
「なかなか可愛いんだから・・・なあ、“みつ子“ちゃん。」
すっかり細くくびれたウエストに腕を回す和夫・・・。
「いっ・・・嫌だー!」
テーマパークに、すっかり女の子の声になった、光男の悲鳴が響き渡った・・・・。
こんにちは、逃げ馬です。
この作品もmkさんのHPに投稿したものです・・・堀さんの書いてくださったカキコを元ネタにして作ってみました。
これは、悲劇ですよね(たぶん)。自分では、行く気のない男の子が付き合って行って、ついでに彼女?にされてしまう・・・ちょっと可愛そうですが、SSなので、ここで終わりです(笑)。
今回は、変身シーンを新しい(自分では)スタイルで試してますが、いかがでしょうか?
最後まで読んでいただきありがとうございました。
尚、この作品に登場する人物は、実在の人物とは、一切関係の無いことをお断りしておきます。
2001年4月 逃げ馬