鏡の向こうの僕?
作:逃げ馬
僕は田畑秀和。18歳! 高校3年生だ。
僕の通う高校は、この辺りでは名の通った有名進学校だ。
僕はこの学校に入って3年間、勉強の成績は人並み、外見も人並み、そして、クラスでは目立たず女の子には・・・と、地味な3年間を過ごしてしまった。
そして、そんな高校生活も、もうすぐ終わる。卒業をすると僕は東京の・・・これまた目立たない大学に進学することが決まっている。
「ハァ〜〜ッ・・・」
その日も僕は、部屋のベッドに寝そべってマンガ雑誌を読んでいた。パラパラとページをめくると、素晴らしいプロポーションのグラビアアイドルがポーズをとるグラビアページが出てきた。
「アッ・・・礼香ちゃんだ!」
それは僕のお気に入りのアイドルタレント・・・高島礼香のグラビアページだった。童顔で、どちらかというとスレンダーな体に、それに似合わないボリュームのあるバスト・・・そして綺麗な長い髪・・・。時々テレビで見せる反応のいいリアクション・・・僕はすっかり彼女のファンになっていた。
「こんな娘がクラスにいればなあ・・・」
僕はため息をつくと本を閉じて眠りに落ちていった。
翌日、僕はいつものように学校に向かった。通りを歩いているうちに、どんどん僕の通う学校の生徒の姿が増えていく。
「おはよう! 田畑!」
「ああ・・・おはよう!」
あいさつを交わしながら僕は校門をくぐった。
「田畑くん、おはよう!」
後ろから聞こえる可愛らしい声に、僕は思わず振り向いた。クラスメイトの岡村孝美が小走りに追いついてきた。
「今日はいい天気だね!」
彼女がニコニコしながら僕の顔を覗き込んだ。
「うん・・・」
僕は彼女をチラッと見て目をそらしてしまった。彼女の可愛らしい笑顔を見ていると僕はドキドキしてしまって、彼女の顔をまともに見ることが出来なかった。彼女は体の前でかばんを揺らしながら歩いている。
「田畑くんって・・・」
彼女が僕の横顔を見つめている。
「いつも"うん"とか、"ああ"ばかりだね・・・」
彼女が苦笑いしている。僕は顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。
「うん・・・」
「ほらね!」
彼女が笑い出した。僕はたまらなくなって彼女を置いたまま駆け足で教室に走っていった。
僕は教室に入ると自分の席に座って、一時間目の授業に使う教科書をかばんから引っ張り出した。ちらりと教室の入り口に目をやった。彼女が教室に入ってきた。
「岡村さん、おはよう!」
「おはよう!」
クラスの男子、女子を問わずみんなが彼女に声をかける。彼女もあいさつを返しながら自分の席についた。たちまち彼女の周りに男子生徒たちが集まってきた。
彼女は、いわばクラスのアイドル。いつも周りには男子生徒たちが集まっている。しかし、彼女はそれを、はなにかけない。そのせいか、女子からも慕われていた。しかも成績は学年トップで、まるでモデルのようなスタイル。スポーツ万能となれば、みんなが注目しないはずがなかった・・・僕が入り込む隙なんて・・・まるでなかった・・・・。
その日の授業が終わって学校の帰り道、僕はいつものように家の近くの公園を通っていた。公園はいつもと違ってたくさんの人が集まって賑やかだった。
「・・・?」
僕は少し伸びをして公園の人込みを見つめた。しかし何があるのか、なかなか見えない。僕は公園の中に足を向けた。
公園の中では、フリーマーケットが行われていた。たくさんの人が店を出して、たくさんの人が品物を手に取って品定めをしている。
「へえ〜・・・この公園でフリーマーケットなんて珍しいなあ・・・」
僕もたくさんの人たちに混じって、いろいろな品物を見て歩いていた。僕はその中で一つの品物に目を奪われた。
「お兄ちゃん・・・これが気になるのかい?」
白髪の年老いたおばあさんが僕の顔を見てニッコリと笑った。おばあさんの前には小さいアンティークな鏡が置かれている。僕はしゃがみこむとその鏡を手にとった。
「うーん・・・」
見た目は何の変哲もない普通の鏡だ。しかし、僕はその鏡を見つめていると、なぜか気分が落ち着いていった。
「この鏡はね・・・人の雑念や欲望を吸い取って、人を幸せにしてくれるそうだよ・・・」
「まさか・・・そんなことが」
僕が笑うと、
「・・・そう私のばあさんが言っていたがね」
おばあさんも笑った。
僕はじっと鏡を見つめていた。なぜか心がこの鏡に惹かれている。
「おばあちゃん、この鏡はいくらで売ってくれるの?」
おばあさんは僕の顔をじっと見つめて首を傾げた。やがてニッコリ笑うと、
「あんたになら100円で売ってあげるよ」
「エッ? 本当?」
「ああ・・・」
おばあさんが、微笑みながら頷いた。僕は財布から100円玉を取り出すとおばあさんに手渡した。
「ありがとうよ・・・これであんたも必ず・・・いいことがあるよ!」
おばあさんはビニール袋に鏡を入れると僕に手渡しながら微笑んでいた。
家に帰ると、僕は自分の部屋の机の上にあの鏡を置いた。
「なんだか・・・不思議な鏡だなあ・・・」
僕はその鏡をじっと見つめていた。もちろん鏡には僕の顔が映っている。見ているうちに僕はさっきと同じように気分が落ち着いていった。
「ふ〜う・・・」
ため息をつくと、
「本でも読もう」
僕はコンビニで買ってきたマンガの本を手に取ると、ベッドに寝そべってページをめくった。鏡にはベッドで寝そべる僕が映っている。
「アッ・・・この本にも礼香ちゃんが・・・」
グラビアページをめくっていく。ページをめくるたびに僕の口からは感嘆と言うか、ため息が漏れた。
「可愛いなあ・・・・」
可愛らしいポーズをとる高島礼香のグラビアに、クラスの岡村孝美の姿が重なって見えた。
「岡村さん・・・」
思わず呟いていた・・・明後日は卒業式・・・もう彼女と机を並べて一緒にいられる日は後2日しかない・・。卒業をすれば、もう彼女とは・・・。
「ハァ〜〜ッ・・・」
大きなため息をつくと、僕は部屋の電気を消した。布団を被ると疲れからすぐに眠ってしまった。
そのとき、鏡から光が放たれたことに僕は全く気がつかなかった。
翌日・・・。
「おはよう・・・」
眠い目をこすりながら僕は台所に行った。既に母親はテーブルにトーストとコーヒー、そしてベーコンエッグを並べていた。
「おはよう! ほらほら・・・早く食べて学校に行きなさい! もう、最後まで世話を焼かせないでよ・・・」
「はーい・・・」
僕は半分眠ったままトーストを齧り、コーヒーを飲んでいた。母親は呆れながら僕を見つめている。僕は朝食を口の中に押し込むと、かばんを手に持った。
「それじゃあ・・・行ってきます!」
「行ってらっしゃい・・・しっかりしてよ!」
母親は僕の背中をポンと叩くと後ろで笑っている。僕は玄関を開けると外に出た・・・。
外に出ると僕は学校に向かって歩き始めた。チラッと右腕につけた時計に目を落とした。
「大丈夫だな・・・」
ふと前を見ると、綺麗なロングヘアーを靡かせながらセーラー服姿の女の子が前を歩いていた。
「あれはうちの高校の女子の制服・・・うちの近所にあんな娘がいたかなあ?」
僕は首を傾げながら、その娘の後を歩いて行った。
僕は学校に向かって歩いていた。周りには見慣れた顔が増えてきた。
「おはよう!」
クラスメイトにあいさつをしたが、そいつは僕の声が聞こえないのか、気がつかなかったのか僕の横を通り過ぎていった。やがて、僕の前を歩く女の子に並びかけると、
「おはよう、田畑!」
「おはよう!」
女の子もニッコリ微笑んで、そいつにあいさつを返していた。
「何だよあいつ・・・それに・・・”田畑”だって?」
僕は首を捻りながら後ろから歩いていた。
「田畑、おはよう!」
「おはよう・・・相変わらず可愛いな!」
彼女の周りにクラスの男子たちがどんどん集まってきた。ニコニコ笑いながら、時折冗談を飛ばしながら彼女は歩いて行く。
「確かに・・・可愛い娘だけど・・・どこかで見たことがあるよなあ・・・」
僕は必死に記憶をたどってある人物に行き着いた。
「・・・礼香ちゃん・・・?」
僕は驚いて前を歩く彼女に視線を向けた。前では彼女がクラスメイトたちに囲まれてニコニコ笑いながら歩いて行く。その横顔は、雑誌で見慣れた"高島礼香"そっくりだった。
「しかし・・・そんなことあるわけないよな・・・」
そんなことを考えながら、僕は校門をくぐった。
僕は教室に向かって廊下を歩いていた。彼女とクラスメイトたちも前を歩いていた。
「この階を歩いているということは・・・3年生? でも、あんな娘は・・・?」
彼女を囲む人垣は、僕のクラスの教室に入っていった。
「田畑さん、おはよう!」
「田畑、おはよう!!」
「おはよう!」
教室の中から声が聞こえる。
「・・・あれ?」
僕も教室の扉を開けた。次の瞬間、
「・・・?」
僕の席にさっきの女の子が座っている。その横には岡村孝美が立って楽しそうに話をしていた。
僕は自分の席に歩いていくと、彼女に声をかけた。
「あの・・・」
「ハイ?」
彼女はニッコリ微笑むと、心もち首を傾げながら僕の目をしっかり見つめている。吸い込まれそうな笑顔だった。
「そこは・・・僕の席なんだけど?」
呟くように言うと、僕は俯いてしまった。
「・・・」
彼女はニッコリ微笑んだまま答えない。
「あなた・・・何を言っているの?」
岡村さんが、僕に向かって呆れたように言った。
「えっ・・・? 岡村さん・・・・今なんと・・・?」
僕は顔を上げて岡村さんを見つめた。
「そうだよ・・・ここは田畑の席だよ」
クラスメイトが言うと、
「だから・・・僕が・・・」
「何を言っているのよ・・・」
岡村さんが冷たい目で僕を見つめた。
「あなたは・・・うちのクラスじゃないわよ・・・・ねぇ、田畑さん!」
「・・・」
岡村さんの言葉に僕の席に座る彼女はニッコリ微笑んで頷いた。
「そんな・・・」
僕は呆然としてしまった・・・それじゃあ、僕はいったいどうすれば・・・。
「さあ、もう授業が始まるから出て行ってちょうだい!」
岡村さんの言葉を受けて、クラスメイトたちが僕を教室の外に押し出した。
岡村さんが大きなため息をついた。
「変な人だったね、田畑さん」
僕の席に座る彼女に向かって言った。彼女は黙って頷くと、ニッコリ微笑みながら教室の外に連れ出される僕を見つめていた。
教室の中では、授業が始まった。僕は教室の扉の隙間から成り行きを見守っていた。
僕がいなくても、先生は全く気がつかない・・・・いつもと全く同じように授業が進んでいく。先生がみんなのほうに振り向いた。
「それじゃあ、この問題を・・・田畑! 解いてみろ」
「ハイ・・・」
彼女は立ち上がると黒板に向かって歩いて行く。先生はニコニコしながらそれを見ていた。
「田畑って言われて彼女が前に行っても・・・先生はおかしいと思わないのかよ!」
僕はじりじりしながら彼女を見つめていた。
彼女が問題を解き終わって席に戻って行く。
「ふむ・・・」
先生は黒板を見ると、彼女に振り返った。
「さすが田畑だな・・・完璧な解答だよ」
小さくため息をついて彼女を見つめる先生。みんなの羨望の眼差しが彼女に集中する。
「なんなんだよ・・・あいつは!!」
僕は呆然と彼女を見つめていた。
休み時間、僕は教室の外に出た彼女の後をつけていた。彼女は岡村さんと一緒に廊下を歩いていた。
「あいつ・・・」
僕は、彼女たちに気が付かれないように後をつけていた。彼女は岡村さんと楽しそうに話をしている。
「馬鹿野郎! なれなれしく岡村さんと話すなよ・・・そのうちに化けの皮を剥いでやる!」
僕は呟きながら後をつけていた。突然、後ろに人の気配がした。
「・・・!」
慌てて階段の陰に身を隠すと、クラスでも女子に人気のある男子の一人が彼女たちのほうに走っていった。
「ホッ・・・」
思わず安堵のため息が口を突いて出た。再び視線を彼女たちに戻す。彼女は、さっきの男子と二言三言、言葉を交わしていた。やがて、岡村さんは彼女に手を振ると教室のほうに戻っていった。
「・・・」
僕は岡村さんの後姿を視線で追うと、再び彼女の後をつけ始めた。彼女は男子生徒と一緒に校舎の外に出て行く。
「どこに行くつもりなんだよ・・・」
彼女たちは人目につかない場所に行くと周りを見回した。僕は植え込みの影から彼女を見つめていた。やがて、彼女たちはお互い見つめ合って・・・そして・・・。
「エ〜ッ・・・?!」
大きな声が出そうになった僕は、咄嗟に自分の口を両手で押さえた。彼女は僕の目の前で男子生徒とキスをしていた。
「なんなんだよ・・・あいつは・・・」
僕は思わず走り出した。必死に走って校舎の洗面所まで来た。冷静さを取り戻そうと蛇口を捻ると冷たい水で顔を洗った。
「フ〜〜ッ・・・」
大きくため息をつくと、顔を拭こうとポケットの中のハンカチを探した。
「・・・?」
僕の顔の横に、誰かが良い香りのするハンカチを差し出した。
「ありがとう・・・」
僕は顔を拭くと後ろを振り返った。
「・・・!!」
僕の前には、さっきの彼女が微笑みながら立っていた。
「・・・どうしたの? 驚いた顔をして・・・あなた・・・さっきから私のこと・・・見ていたでしょう?」
彼女が微笑む。魅力的な笑顔だった。
「き・・・君は一体・・・?」
「わたし・・・?」
彼女が微笑む。
「・・・わたしは・・・あなた・・・」
「エッ・・・?」
彼女の言葉の意味が、僕には全くわからなかった。驚く僕の様子を見て、彼女は「フフフッ」と笑っていた。
「ど・・・どういうこと?」
「わたしは・・・あなた・・・鏡の向こう側に存在するもう一人のあなたなの・・・」
「・・・」
僕は呆然と彼女を見つめていた。目の前に立つ美少女が・・・もう一人の僕・・・彼女の言う意味が全く理解できなかった。
「あなたは昨日。フリーマーケットで鏡を買ったでしょう?」
彼女は腰の後ろで手を組んで、体を揺らしながら廊下を歩いている。
「あの鏡には、人の欲求や雑念を吸い取る力があるの・・・」
彼女が振り返った。
「わたしは、あなたの理想をあの鏡が吸い取ってあなたの目の前に現れた姿・・・あなたの理想の女の子・・・」
彼女が微笑む。
「勉強ができるのも・・・みんなと楽しく話せるのも、異性と簡単に付き合えるのも・・・みんなあなたが望んでいること・・・」
彼女の言葉に、僕は思わず俯いてしまった。
「・・・岡村さんの身近にいられるのもね・・・」
彼女が微笑む。
「・・・」
僕は、何もいえなかった・・・ただ、彼女を見つめるだけだった。
「でもね・・・わたしは鏡の向こうで・・・あなたが羨ましかったんだよ・・・」
彼女が寂しそうに微笑む。
「なぜだよ・・・僕は勉強は出来ないし、みんなとまともに話も・・・」
「それが・・・あなたのいいところなのよ・・・」
彼女はクスクスと笑った。
「あなたはこれから頑張れば、どんなことでもできる・・・でも、わたしはあなたの理想・・・完璧な人間になってしまっている・・・」
彼女が寂しそうに笑った。
「・・・必ず上手く行くとわかっていて、いろいろなことをしても・・・楽しいかな・・・?」
「アッ・・・」
僕は、彼女の寂しい微笑みの意味がようやくわかった。
彼女が飛び切りの笑顔で僕を見つめた。
「自分にもっと自信を持って・・・頑張ればどんなことでもかなうんだから!! わたしは、鏡の向こうで・・・いつもあなたを応援しているよ!」
彼女は僕の頬にキスをすると、微笑みながら洗面所の鏡の向こう側に消えていった・・・。
翌日は卒業式。
僕たちは体育館に集まり校長先生から卒業証書を受け取った。みんなの顔には喜びの笑顔が浮かんでいる。
「岡村さん、僕と一緒に写真をとってよ!」
「俺も!」
「僕も!!」
花束と卒業証書を持った岡村さんの周りにはクラスメイトたちの人垣が出来ていく。
「ハァ〜〜〜ッ・・・」
僕は遠くからみんなの輪の中にいる岡村さんの笑顔を見つめていた。
「岡村さん・・・」
僕は俯いて呟いていた。
岡村さんは、チラッと僕を見たように見えた。
「ちょっと・・・ごめんなさい・・・」
岡村さんは、人の輪を抜け出すと校舎の中に入った。僕は岡村さんの後を追って校舎の中に入っていった・・・。
校舎の廊下を岡村さんが歩いて行く。僕はなぜか岡村さんの後を追っていた。なぜだかわからない。とにかく岡村さんの姿を見ていたかったのだ。
岡村さんが廊下を曲がった。僕も急いで曲がる。
「!!」
僕の正面に岡村さんが微笑みながら立っていた。
「・・・どうしたの? 田畑君・・・」
僕は咄嗟に声が出なかった・・・。
「あ・・・あの・・・」
僕は俯きながら呟いていた。
「・・・卒業・・・おめでとう・・・」
蚊の泣くような声でようやく言った・・・本当はこんなことを言いたいわけではないのに・・・。
「・・・ありがとう・・・」
岡村さんは、小さくため息をつくと微笑んだ。気まずい沈黙が続く。
『言うなら今よ!』
僕の耳に女の子の声が聞こえた。思わずあたりを見ると、僕が映っているはずの教室の窓ガラスにあの女の子・・・もう一人の僕が映っていた。
『・・・失敗を恐れちゃダメ・・・後悔しないためにもはっきり言って!』
彼女が僕を見つめながら言った。
「・・・それだけ・・・?」
岡村さんが僕を見つめていた。また、ため息をつくと、
「・・・それじゃあ・・・」
岡村さんが歩き去ろうとしたそのとき、
「岡村さん!!」
僕は自分でも信じられないほど大きな声で岡村さんを呼び止めていた。
「・・・?」
岡村さんが振り返って首をかしげている。
「ぼく・・・僕は・・・」
僕はちらりと窓ガラスに目をやった・・・ガラスに映る彼女が頷いていた。
「僕は・・・ずっと岡村さんが好きでした!」
僕は、顔を真っ赤にして叫ぶと、一礼して立ち去ろうとした。
「田畑くん・・・待って!!」
後ろから岡村さんが呼び止めた。振り返ると、可愛らしい笑顔で僕を見つめていた。
「やっと・・・言ってくれたね・・・」
「・・・岡村さん・・・」
ニッコリ微笑むと彼女は僕に右手を差し出した。
「・・・第2ボタン・・・わたしにくれるかな・・・?」
僕は驚いて彼女を見つめていた。ニッコリ微笑む彼女。
彼女は僕の顔に両手を当てると優しくキスをしてくれた。
教室の窓ガラスには、もう一人の僕が映っていた。彼女は僕たちを見てニッコリ微笑むと、再び鏡の向こうに消えていった・・・。
鏡の向こうの僕? (終わり)
こんにちは! 逃げ馬です。 この作品は、相互リンクをしている「悠BOOK」に掲載していただいた作品です。
はじめて・・・TSシーンなしの短編を書いてみました。それでも今まで書いてきた本能?からか、主人公のもう一つの姿は女の子にしてしまいましたが(^^;
そろそろ卒業シーズンですね。この主人公の男の子も、卒業をきっかけにして今まで心に秘めていた思いをもう一つの自分に後押しされて打ち明けたわけです。
卒業すれば、また新しいスタート。春が来て進学・就職・・・新しい生活が始まります。また、それに絡めて何か書いてみようかな・・・?
それでは、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
2002年2月 逃げ馬
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