真夏の夜は
作:逃げ馬
小野寺祐一と笠原秀雄は、小学校から、高校まで同じ学校に通っている幼馴染だ。
祐一は柔道部の猛者で、インターハイで優勝もしている。身長も180cmを超える長身で、体もがっちりしていて強面の顔をしている。
祐一の、その外見を見ると、やはり怖いのだろうか?クラスの女の子達は、祐一の周りには近づいてこない。反対に、秀雄は小柄で、身長は165cmも無い。性格もおっとりしていて、女の子と間違われることがあるほどの可愛らしい顔をしている。
祐一も、年頃の男の子だから、当然、彼女が欲しい。しかし、女の子が近寄ってこないのでは、どうする事も出来ない。
その日も、教室で秀雄を相手に他愛の無い話をしていた。教室の反対側では、クラスの女の子達のアイドル、テニス部の木村が、女の子達に囲まれている。
「ねぇ、木村君。今夜の花火大会は見に行くの?」
「ああ・・・行こうと思ってるけど・・・。」
別の女の子が、瞳を輝かせながら尋ねる。
「一緒に行く人は、決まっているの?」
「いや・・・別に・・・。」
木村が、頭を掻きながら答えると、女の子達が口々に言い出した。
「じゃあ、私と行こうよ。」
「あ・・・ずるい!!私も!」
女の子に囲まれて、ニコニコしている木村。
「いいよなあ・・・同じ体育会系なんだけどなあ・・・。」
祐一は、うらやましそうに木村を見ていた。
「祐一は、今夜の花火大会には行くの?」
秀雄が、ニコニコしながら尋ねた。
「ああ・・・一緒に行くか?」
「うん!」
ニコニコしながら、秀雄は答えた。
『こいつ・・・本当に女みたいな顔をしているなあ・・・でも、俺は何で男と一緒に花火なんて・・・。』
祐一は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
夕方・・・学校から帰ると、祐一は、秀雄と一緒に花火大会が開かれる海岸に向かった。
たくさんの人たちが、海岸に向かって歩いて行く。周りには、小さな子供を連れた家族連れや、アベックの姿が、やけに目立っている。
『何で俺は・・・。』
祐一は、周りを見ながら、気が滅入ってきていた。横を見ると、秀雄がニコニコしながら歩いていた。しだいに暗くなってきた空を見ながら、秀雄が言った。
「楽しみだね!」
「ああ・・・。」
祐一は、気の無い返事を返した。
海岸に来ると、みんな、思い思いの場所に陣取って花火が始まるのを待っていた。祐一たちも、砂浜に腰をおろした。
「ちょっと待っててね。」
秀雄がどこかに走っていった。しばらくすると、両手にソフトクリームを持って帰ってきた。
「はい!美味しいよ!」
そう言って、一つを祐一に渡すと、自分も海を見ながら、もう一つを食べ始めた。
『ドーーン・・・。』
「「「オオッ・・・。」」」
周りの人たちがどよめいた。夜空に、大きな花火が色とりどりの花を咲かせる。
『ドーン、ドーン。』
「綺麗だね!」
秀雄が、可愛らしい笑顔を祐一に向けた。
「ああ・・・。」
祐一は、周りを見渡した。浴衣姿の女の子達が、男と一緒に空を見ている。
『いいよなあ・・・それに比べて俺は・・・。』
そんなことを思いながら祐一は、横を見た。秀雄は、ニコニコしながら空を見つめている。
『ドーン・・・。』
また、夜空に花火が、大輪の花を咲かせている。
『こいつが、可愛い女の子だったら、俺だって花火を楽しめるのになあ・・・。』
祐一は、そんなことを考えていた。
『ドーン・・・。』
また、花火が上がる。
「ハァーーッ・・・。」
祐一が、大きなため息を漏らした。その時、
「あれ・・・?」
秀雄は、体がムズムズしてきた。なんだかお尻が大きくなってきているようだ。胸のあたりもムズムズする。
『ドーン・・・。』
また、花火が大輪の花を咲かせる。
「「「オオッ!」」」
観客達がどよめく。秀雄も、花火の美しさに心を奪われて、自分の体の変化に気がつかない。
秀雄の着ていた白いTシャツは、裾がどんどん長くなり膝の下辺りまで伸びていく。それに伴って、真っ白だった色は紺色に染まって、浴衣に変わっていった。彼の短かった髪は、スルスルと伸びていくと、自然にアップにまとめられてその上に髪飾りが現れた。腰には、赤とピンクの帯が締められていく。秀雄の胸元は、ふっくらと膨らみ、帯の締められたウエストは、ほっそりとしている。もともと女の子のようだった顔は、ふっくら丸くなった。そして、瞳はパッチリと大きくなり、長い睫が瞬きするたびに動いている。
横を見た祐一は驚いた。そこには、可愛らしい女の子が、浴衣を着て座っている。
「あれ・・・君は・・・。」
祐一が呟くと、その女の子は、
「え・・・どうしたの?」
可愛らしい声で、祐一に尋ねてきた。
祐一は、周りを見回すと、
「秀雄の奴・・・どこにいったんだ。」
「僕は、ここにいる・・・え・・・?!」
秀雄は、ようやく自分の変化に気付いて立ち上がった。自分の胸や腰を触って驚く秀雄。右手には、うちわまで持っている。
「そんな・・・僕が女の子に?!」
泣きそうな顔の秀雄だった女の子を、花火の光が照らす。
「おまえ・・・本当に秀雄なのか?」
祐一は、驚いて尋ねた。大きな瞳に涙をためて、可愛らしい浴衣姿の女の子になった秀雄が頷いた。
ニヤリと笑う祐一。
「まあ、そんなにビックリするなよ・・・女の子もいいと思うぞ。ねぇ・・・“秀美”ちゃん。」
そう言うと、驚いている秀雄だった女の子にかまわず。彼女の腰に手を回して抱き寄せた。
「そ・・・そんなの嫌だぁ!!」
秀雄だった女の子の悲鳴が響く。
『ドーン・・・。』
また、夜空に綺麗な花火の光の花が咲いた・・・。
こんにちは!逃げ馬です。
一ヶ月の休みをいただいて、休養開けの“リハビリ”にSSを書いてみました。
今は、夏真っ盛りですね。僕の住んでいる町も、もうすぐ花火大会があります。
そんな中で思いついたのが、このSSです。
休み明けで、皆さんに満足していただけるのか、少し心配です。よろしければ、また、カキコの方に感想を書いていただければ嬉しいです。
このあとは、長編の新作と、GFの外伝を準備しています。少し時間がかかると思いますが、ちょっと待っていてくださいね。
ではでは、最後までお付き合いしていただいてありがとうございました。
尚、この作品に登場した人物は、実在の人物とは関係の無い事をお断りしておきます。
2001年7月 逃げ馬