リサイクルショップ
作:逃げ馬
春・・・新生活の季節ですね・・・一人住まいを始めてみたり、新しい環境で生活をする・・・ワクワクする季節です。これは、その中で、ある人に起こった出来事です・・・。
その日、僕は、大学入学後の一人住まいをするための家具を探しに、リサイクルショップを廻っていた。
親からの仕送りは、期待できないし、また、親を頼りたくない僕は、足を棒にして店を廻っていた。
その日までに、ベッドや机、食器棚に冷蔵庫などの必要なものがだいたいそろっていたが、服を入れるクローゼットがまだなかった・・・今、服は、部屋に積まれたダンボール箱の中に入ったままだ。
何軒めかの店で、格安のクローゼットを見つけた。『1000円』と値札がついていた。色は、白・・・キズも少ない、開けてみると、がたつきもなくスッと開く・・・いい匂いがした・・・化粧か、香水の匂いかな・・・ということは、前の持ち主は女性か・・・。
「おじさん、このクローゼットだけど・・・。」
「ああ、それね・・・・。」
「物は、すごくいいのに、何でそんなに安いの?」
「ああ、物はいいんだけど、何回か買った人が、返品して来るんだよ・・・。それで、その値段をつけてるんだ。」
「ふ〜ん・・・何か、いわくでもあるの?」
「前の持ち主が、大学入学を控えた女の子でね・・・アパートに運び込んで、入学の準備は出来ていたんだけど、入学式の日に事故にあって亡くなったらしい・・・。」
「ヒエ〜ッ・・・おっかない話だなあ・・・。」
僕は大げさに驚いて見せた。
「まあ、この話をつけて、1000円だな!」
親父さんは、笑った。
僕も、幽霊は嫌いだが、その存在は信じていない・・・というか、よく見る人間と、見ない人間がいるとしたら、僕は、見ない人間に分類されるだろう・・・今まで見たことがなかったのでそう思っていた。
「じゃあ、これをもらっていきます。」
「ああ、じゃあ1000円ね・・・出来たら、もう返品は勘弁して欲しいね・・・場所をとるから。」
親父さんは、笑いながら言った。
僕は、部屋にクローゼットを運び込んだ。
場所を決めて置くと、服を整理しようと思ってクローゼットを開けた。
「あれ?!・・・どうなってるんだ?」
クローゼットの中には、女の子の服が入っていた。
引出しを開けてみる・・・色とりどりの、女の子のブラジャーやショーツが出てきた。
「またあ・・・あの親父さん、ビックリさせようと思ってこんな悪戯を・・・。」
僕は、笑ってしまった・・・。
僕は、もう一度、クローゼットの中を見た。スーツに、ワンピース・・・いろいろなスカート・・・ブラウスや、キャミソールが所狭しと入っていた。
僕は、その中に置いてあったカチューシャに目が行った。
「こんなものまで・・・。」
僕は、ふざけてそれを頭につけてみた・・・・次の瞬間・・・。
「あれ・・・?」
髪の毛がスルスルと肩のあたりまで伸びていく・・・サラサラの女の子のような髪の毛だ、顔のあたりも、ぴくぴく痙攣が起きているようだ。
僕は、立っていられずに座り込んでしまった。
胸がくすぐったい・・・それがまるでグラビア・アイドルのような立派なバストになっていく。ウエストは、キュッと引き締まっていく・・・ジーンズのお尻のあたりは、はちきれんばかりに大きくなっていた。
自分の顔を覆っていた手を放した・・・腕時計のベルトは、ブカブカになっていた。手首は、白く細い・・・指は、まるで白魚のようだ・・・これが僕の腕なのか?
股間にあった僕のものは、溶けるように消えていき、溝が刻まれていった・・・。
体が一回り小さくなって体の変化は終わった・・・しかし、それだけではなかった・・・何かが僕の頭の中に入ってくる・・・。僕は、一体どうなって・・・・。
私は、ゆっくりと立ち上がった・・・。もう一度生きたい・・・その思いで一年間待ちつづけた・・・。そして、私は、帰ってきたんだ。
私は、ゆっくりと男物の服を脱いだ・・・。久しぶりにシャワーを浴びて、お湯の感覚を味わった後、バスタオルを巻いてクローゼットの前に行った。クローゼットを開ける・・・そこには、見慣れた私の服があった・・・。久しぶりに、自分の服を身につけた・・・膝丈の白いフレアースカート、薄いピンクのブラウス・・・。
私は、紅茶を入れると椅子に座った・・・。そう、私は、帰ってきた・・・もう一度生きたいという思いをようやく実現させた。この男の人には、悪かったけど・・・。
私は、立ち上がると、部屋を出て、リサイクルショップに向った・・・自分の部屋を、女の子らしく変えるために・・・。
これから、私の新しい生活が始まるんだ・・・。
こんにちは、逃げ馬です。
「春の新生活応援SS」という事で書いてみました。でも、ちょっと怖い話になってしまいました。
書いているうちに、なんだか“新しいわたし”のシリーズに似てきてしまいました(笑)。
でも、この女の子も、大学生活をしたくて仕方なく?体を乗っ取ってしまったわけです。
さて、次は、ちょっと長めの作品を書いてみようと思います・・・間隔があくかもしれませんが、しばらくお待ちください(笑)。
ではでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
2001年4月 逃げ馬
短編小説のページへ