サンタの贈り物


作:逃げ馬








 「うーん・・・なんだよ、まったく!! せっかくのクリスマスだっていうのに!!」
 高橋浩二は、大学2年生。名門大学の学生だが、せっかくのクリスマスイブのこの日も、彼は担当教授にしぼられていた。今、ようやく教授のお説教から開放されたところだった。
 「は〜っ・・・参ったなあ・・・」
 浩二は頭を掻きながら、キャンパスを歩いていく。
 夕方のキャンパスでは、アベックが足早に大学から帰っていく。浩二は、アベックの一組とすれ違った。
 「これからどこに行くの?」
 女の子が尋ねると、
 「うん・・・レストランに予約を入れておいたから」
 「本当?! 嬉しいなあ!」
 二人は、楽しそうに話をしながら帰っていく。
 「は〜っ・・・」
 浩二が大きなため息をつく。
 彼も、見かけは悪くないし名門大学の学生だ。それに、性格だってひねくれているわけではないのだが、なぜか、今まで“彼女”というものには縁がなかった。
 「いいなあ・・・」
 浩二が、後ろを振り返りながら呟く。
 「おーい! 浩二!!」
 彼を呼ぶ声に、思わず振り向いた。彼の方に青年が走ってくる。
 「お説教は終わったのか?!」
 笑いながら、青年が声をかける。
 「ああ・・・最悪だよ・・・」
 浩二も苦笑いをした。二人は並んで歩いていく。
 彼に声をかけたのは、中田誠・・・浩二の同級生であり、中学生のころからの悪友だった。
 「おい・・・今日は、誰かと約束でもしているのか?」
 浩二が尋ねた。誠は童顔で、アイドルといってもよさそうな外見だ。しかし返事は、
 「いや・・・ないよ」
 「そうか・・・」
 浩二が、ニッコリ笑った。
 「仕方がない・・・今日は、男二人で飯でも食うか」
 自嘲気味に笑う浩二に、
 「そうだな。よし、今夜は二人で騒ごうぜ!」
 誠も応じた。
 二人は校門を出ると、大学通りを歩いていく。誠は、浩二の方を見ながら、「俺は、今日は荷物が多いから一度家に帰ってから行くよ」
 「ああ・・・俺は、時間をつぶしたらいつものところで待ってるよ」
 「いつものビルの入り口だね」
 「ああ・・・」
 浩二はそう答えると、交差点で立ち止まった。横断歩道は赤信号だ。目の前を車が勢いよく走っていく。
 「それじゃあ、俺は一度帰るよ」
 「ああ・・・じゃあ、後でな!」
 誠は、手を振ると歩道を歩いていく。浩二は、信号が青に変わると横断歩道を渡って行った。

 浩二は、街を歩くと繁華街に向かった。街にはクリスマスに合わせて、イルミネーションが飾られ、アベックが楽しそうに歩いているのが目に付く。その光景を見ていると、浩二は自分だけが回りから取り残されているような感じを受けていた・・・。
 「周りは、みんな女の子といっしょなのに、俺はこれから野郎と一緒に晩飯か?」
大きくため息をつく浩二。その時、アベックの男が浩二にぶつかった。
 「あっ・・・すいません」
 男が、笑いながら謝った。思わず厳しい表情で男を睨みつける浩二。
 「早く行きましょうよ」
 女の子が、男の腕を引っ張る。男は、浩二に会釈すると歩いていった。

 「ちょっと、そこの目つきの悪いお兄さん!」 
 浩二の後ろから、女の子の声がする。振り返ると、真っ赤なサンタの衣装を着て、背中に大きな白い袋を背負った可愛らしい女の子が立っていた。頭には、赤い 帽子をちょこんとのせている。
 「メリー・クリスマス!!」
 女の子が微笑みながら言った。それを呆然と見つめる浩二。
 「なぜ・・・怖い顔をしているの?」
 サンタ姿の女の子が首を傾げながら浩二に微笑む。その笑顔を見ていると、浩二は、なぜか気持ちが落ち着いていった。
 「みんなは恋人と一緒にいるのに・・・なんで僕にはいないんだろうと思ってね!」
 浩二は思わず、見知らぬ女の子に向かって愚痴を言っていた。女の子は、ニコニコしながらそれを聞いていたが、
 「そうなの・・・それじゃあ、せっかくのクリスマスだし・・・」
 女の子は、背負っていた大きな袋を歩道に下ろすと袋の中を覗き込んで、中から何かを取り出した。
 「はい・・・これ! あなたへのクリスマスプレゼントよ!」
 女の子はニッコリ微笑むと、両手で小さな箱を持って浩二に差し出した。浩二は女の子の小さな手の中に包まれた、リボンをつけた小さな箱を見つめた。
 「これを・・・俺に?」
 「うん!!」
 女の子が微笑む。
 「わたしからのクリスマスプレゼントです!!」
 女の子の可愛らしい笑顔を見ていると、浩二は何も言えなくなってしまった。
 その小さな箱を受け取ると、
 「きっと素晴らしいクリスマスになりますよ! あなたの願いが必ず、かないます!!」
 女の子はニッコリ微笑むと、帽子から出た黒く長い綺麗な髪をなびかせて歩道を歩いていく。浩二は、呆然とそれを見送った。

 浩二は、約束の場所にやってきた。たくさんのレストランや居酒屋の入ったビルの玄関だ。壁にもたれて誠の来るのを待つ浩二。その彼の目の前を、楽しそうにカップルが歩いていく。その後姿を目で追う浩二。カップルたちは、幸せそうにレストランにその姿を消していく。
 「いいよなあ・・・俺だって恋人がいれば・・・」
 浩二は、思い出したように、あの女の子に貰った小さな箱をポケットから取り出した。
 「これって・・・どっかの店のキャンペーンか何かかな?」
 浩二は、リボンと包装紙を外すと、小さな箱を開けた。中に入っていたのは・・・。
 「なんだよこれ・・・女性のつけるペンダントじゃないか?!」
 浩二は、右手ではこの中からペンダントを取り出した。金のチェーンに、綺麗な赤い宝石がついたペンダント・・・。
 「冗談きついよなあ」
 苦笑いする浩二。その瞬間、眩い光がペンダントから放たれた。
 「あっ!!」
 思わず目がくらんだ。その時、浩二は全身がむず痒くなってきた。
 「えっ?」
 浩二は自分の目を疑った。自分の胸に、まるで筋肉が痙攣したときのような感覚がおきる。自分の胸を見下ろす浩二の視界に飛び込んだのは、厚着をしているはずの彼の胸を下から押し上げる膨らみだった。
 「ああっ!!」
 思わず胸に手をやる浩二。自分の手のひらに、柔らかい感触を感じる。それと同時に、自分の胸には“掴まれている”感触が・・・。
 「そんな・・・」
 その掴んでいる手も、見慣れた自分の腕ではない。その指は細く、白い綺麗な腕だ・・・そう、さっきの女の子と同じような・・・。
 「馬鹿な・・・」
 呟いた声も、透き通るような綺麗な声だ。髪は、細く綺麗なショートカットにまとまっていく。顔や体は小さくなり、着ていく服がダブダブになっていく。浩二は、パニックになりながらも、周りの視線が気になった。こんな様子を見られたら・・・。
 「???」
 周りの人からは、彼が見えているはずだ・・・何しろ人通りの多いビルの玄関で、こんな信じられないことが起きているのだから・・・しかし、彼の目の前を通る人は、誰も彼に興味を示さない。まるで彼の姿が見えないように・・・。
 今や彼は、男物の服を着たショートカットの美少女の姿に変貌してしまった。
 体の変化がおさまると、今度は服が変化し始めた。
 着ていた黒いダッフルコートは、女性ものの鮮やかな赤いコートに変わり、セーターも変化していく。
 大きくなった胸を、何かがぎゅっと押さえつけたときには、さすがの浩二も真っ赤になってしまった。ブリーフは、滑らかな肌触りの下着になって、膨らみの無くなった股間にフィットしていた。
 「そんな・・・馬鹿な・・・」
 視線を下に落とす浩二。履いていたはずのジーンズは、グレーのフレアースカートに代わっていた。スニーカーは、踵の高いブーツになって、女性になってしまった彼の脚線美を引き立たせていた。
 「・・・」
 言葉の出ない浩二。ふと前を見ると、彼の前を歩いていくアベックの男性たちが、チラチラと彼(今は彼女か?)を見つめている。彼(彼女?)は、恥ずかしさのあまり真っ赤になって下を向いてしまった。
 「ごめん・・・待った?!」
 聞きなれた声に、浩二はそちらを見た。誠がこちらにやってくる。浩二は焦った。
 『やばい!こんな姿を見られたら・・・』
 しかし、自分の意思に反して浩二の口から出たのは、
 「ううん・・・わたしも今来たところよ」
 『えっ・・・わたしって・・・何言ってんだよ、俺は!』
 誠は、ニコニコしながら浩二だった女の子の横に立った。浩二だった女の子は、上目遣いに誠を見上げる。
 「じゃあ、行こうか?」
 誠が歩き出すと、浩二だった女の子は、誠の左腕に自然に自分の腕を絡ませていた。誠の顔を見上げながら微笑む浩二だった女の子。
 『何やってるんだよ・・・俺は男だぞ! それなのに・・・』
 浩二の意識は、新たに現れた女の子の意識に飲み込まれていった。

 「ネッ・・・あなたの望んでいた通りになったでしょう。恋人と一緒にクリスマスを過ごせるでしょう」
 レストランに入っていく。誠と、浩二だった女の子の後姿を、サンタの衣装を着た女の子が見つめている。
 「さあ、わたしは仕事をしなきゃ」
 女の子が、また街を歩き出す。
 「ア〜ア・・・なんで俺は一人でクリスマスを・・・」
 男が、しかめっ面で歩いている。
 「メリー・クリスマス!」
 女の子が、男の前に立った。
 「なぜ・・・怖い顔をしているの?」
 女の子がニッコリ笑って、男の顔を覗き込んでいた。



 こんにちは! 逃げ馬です。
 今年もクリスマスがやってきましたね。クリスマスを題材に何か書いてみようと思って、このSSを書いてみました。出来は・・・うーん、どうでしょうか? ちょっと自信がありませんが・・・。
 こんなサンタが現れたら、町じゅうがパニックでしょうね(^^;
 では、また次回作でお会いしましょう!

 2001年12月 逃げ馬




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