スクール・バス

 

:逃げ馬

 






 朝、僕は駅で電車を降りると、いつも駅前のバスターミナルに向かう。そこからバスに乗って、会社の最寄りの停留所まで行く。
 僕の待っているバス停の横は、この近くにある名門女子高のスクールバスのバス停になっている。いつも女子高校生たちが、元気に集まってきて楽しそうにおしゃべりをしている。
 バスが一台走ってきた。行き先の表示は、女子高になっていた。バス停に停まると彼女達は元気にバスに乗っていく。バスは、たちまち満員になっていった。
 僕の乗るバスが走って来た。彼女達を横目に、僕はバスに乗った・・・。

 会社に着くと、みんなの顔が暗かった。
 「どうしたの?」
 僕は、同僚に聞いた。
 「何でも・・・うちの会社でもリストラを始めるらしいぜ!」
 突然、課長が僕の肩を叩いた。
 「ちょっと来てくれ!」
 僕は、課長と一緒に部屋を出た。同僚達は、哀れみの目で僕の背中を見ていた。

 僕は、課長の部屋に連れてこられた。
 「噂でも聞いていると思うが・・・。」
 課長は、奥歯に物の挟まったような言い方で話し始めた。
 「わが社でもリストラを始める事になってね。希望退職の募集をしても、必要な人数を満たさなかったために、各部署で数人ずつ会社を辞めてもらわなければならないんだ・・・。」
 「僕に・・・会社を辞めろと?!」
 「君だけではないんだ・・・他にも辞める!これは・・会社を残すために仕方が無い事なんだ。」
 課長は、困ったような顔をして言った・・・僕は、目の前が真っ暗になったように感じていた・・・。

 家に帰った・・・僕は、妻に今日の出来事を話した。妻は完全にパニックになっていた。
 「そんな・・・これから私達・・・いったいどうやって生活をしていくのよ!!」
 僕は、何も言えなかった・・・夜、ベッドに入っても、僕は眠れなかった。寝返りをうっているうちに辺りは明るくなってきていた・・・。

 朝になった・・・僕は、一人で朝食を食べると、早めに会社に向かった。
 いつもの駅で電車を降りた。いつもより早い電車なので、女子学生が多い。ちょうど通学の時間帯だった。
 人の流れに流されながら、改札口を出た。今日は、ショックで何も考える事が出来ない。いつも覚えている感覚だけで歩いていた。いつものようにバス停に向かった。いつもと違っているのは、僕がもうすぐ、確実に職を失う事だった。
 バス停でいつものようにバスを待つ。隣の女子高行きのバス停に集まっている学生達に目をやった。
 いつものように、明るい笑顔でみんなが話をしたり笑っている。今、自分と彼女達の間には、確実に大きな差があった。彼女達には、まだまだこれから無限の可能性がある、それなのに、僕は、30歳になっているのに、この先には、不安が待っている。僕は、彼女達がうらやましかった。
 女子高の専用バスが来た。駅の方からは、乗り遅れないように学生達が、スカートをなびかせながら走ってくる。
 「・・・?」
 「待って〜〜!!」
 彼女たちが、叫びながらこちらに走って来た。
 「おい!待てよ!!」
 彼女達は、僕をめがけて走ってくる。
 「待ってくださ〜い!!」
 彼女達は、猛スピードで走って来た。僕は、彼女達に押されるように、女子高行きのバス停で待っている女子学生の中にまぎれていく。
 「ちょ・・・ちょっと!おい!!」
 バスのドアが開いた。女子高生達は、バスに乗っていく。
 「おい・・・僕が乗るのは、このバスでは・・・。」
 僕は、そのままバスに押されて入って行った・・・。

 バスが、走り出した。
 「ああ・・・これじゃあ、遅刻しちゃうよ!!」
 僕は呆然と呟いた。
 バスの中は、女子高校生たちでぎっしり満員だった・・・それなのに、男、しかも彼女達から見ると、かなり年上・・・いわば“おじさん”の僕が乗っているのに、彼女達は平気な顔をしていた。
 バスの中には、なんだか不思議な香りが漂っていた・・・いつものバスとは、全く違う雰囲気と香り・・・僕は、その香りにうっとりしてきていた。
 「・・・?」
 僕の体が、なんだか変だった・・・いつもと髪の毛の感じが違う・・・いつも感じない部分に髪の毛がかかっていた。しかし、ぎゅうぎゅう詰めのバスの中では、自分の手で確かめることもできない。胸の辺りがくすぐったくなってきた・・・お尻の辺りもムズムズする。
 「なんだか・・・おかしいなあ・・・。」
 突然、自分の視野の高さが低くなってきた・・・頭一つ分出ていたはずなのに、あっという間に、彼女達と同じ視線になっていた。
 「あれ・・・なぜ?!」
 足元が、なんだか涼しい・・・いつのまにか、耳にサラサラの髪があたっている・・・。いつのまにか、僕の体からも彼女達と同じ香りがしていた。
 バスが、学校に着いた・・・ドアが開くと、女子高生達が下りていく。彼女達に流されるように、僕もバスから降りた・・・足元を見ると、スカートから伸びる綺麗な足・・・ビックリして、バスの待合室のガラスに映る自分を見た。驚いた。僕は、彼女達と同じ、ブルーのチェックのミニスカートに、紺色のハイソックス。クリーム色のベストを着て胸に赤いリボンをつけた女子高校生になっていた。丸みを帯びた顔に大きな瞳、長い睫、ショートカットのサラサラの髪の毛・・・いったいなぜこんな事に。
 「何しているの?早く行こうよ!!」
 振り返ると、可愛らしい女の子が、私に声をかけている・・・エッ?わたし・・・?
 「うん!急ごう!」
 僕・・・・私の体は、ごく自然に動いていた・・・私は、手をつなぐと2人で教室に向かって急いでいた。
 その日一日を、僕は、“女子高校生”として過ごした・・・何故か、体が勝手に動いて、ごく普通に女子高校生として生活が出来た。
 スクールバスで、いつもの駅に戻ってきた。カバンから定期券を取り出すと、名前と年齢の欄が女の子の名前になって年齢も16歳に変わってしまっていた。
 「そんな・・・。」
 とにかく、家に帰ろうと思った・・・妻は、この姿を見ると、なんと言うだろうか?しかし、外で寝るわけにも行かない。僕は、電車に乗ると家に向かった・・・。
 僕の住んでいるマンションまで帰ってきた。玄関の前に立つと、表札は、僕の苗字になっている。扉を開けようとしたが、かぎがかかっていた。かぎを開けて家の中に入った。
 「あれ?」
 家の中は、今朝までとは雰囲気が違っていた。
 リビングルームには、可愛らしいキャラクターグッズが散らばっている。自分の部屋に行くと、それは年頃の女の子の部屋に変貌していた。妻と2人で撮った写真を入れていた写真立てには、クラスメイトらしい女の子と撮った写真が入っている。
 「僕の存在が・・・変わっているのか?」
 僕は、部屋の真ん中に座り込んでしまった・・・いったいこの先、どうなってしまうのか・・・僕は、呆然としてしまった・・・。

 翌朝、そのまま眠ってしまっていた私は、目がさめるとお風呂に入った。
 浴室の姿見に写っているのは、思春期の女の子の体だった。
 ショートカットの髪、細い首から、狭い肩へのライン。胸には、二つの豊かな膨らみがあった。ウエストはキュッと引き締まっている。そしてヒップは男の頃より大きくなっていた。太ももから足首までのラインも素晴らしかった。
 「さあ、早くしなきゃ!」
 私は、体の隅々まで洗うと、髪を乾かして、下着を身に着けていく・・それは、私の美しさを引き立たせていった。制服を着ると、いつものように家を出て行った。
 
 いつもの駅で電車を降りると、私はスクールバスの乗り場に向かった。隣のバス停には、見覚えのある人たちがいた。羨望の眼差しで私を見ていた。
 「おはよう!」
 私が、クラスメイトに手を振った。
 「あっ!おはよう!」
 彼女も挨拶をした。
 バスが、こちらに走って来た。バス停に停まると、私達はいつものようにバスに乗った。

 わたしの未来は、これから始まるんだ・・・。




 スクールバス(終わり)





  短編小説のページへ

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル