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これは、「駅」をテーマにしたシリーズ小説(になる予定)です。






駅 (第1話)

作:逃げ馬







高木憲治は高校2年生、剛気体育大学付属高校の2年生だ。
この学校は、”一応は”男女共学なのだが、なぜか男子学生しか集まらない・・・不思議な学校だ。
憲治の高校は体育大学の系列校だけあって、体育系のクラブ活動は盛んだ。
これまでに多くの一流マラソン選手やプロ野球選手、オリンピック選手を送り出している。
それだけに練習は厳しい。
どのクラブも毎日早朝練習。そして放課後にもたっぷりと長時間の練習。終わると、皆がフラフラになるほどだ。
憲治は陸上部に入っているが、時にはナイター設備のあるトラックまで持つこの高校を恨めしく思ったこともある。

この日も憲治は高校での早朝練習に参加をするために、寒風の吹く道を駅に向かって自転車を漕いでいた。
この日は学年末テストの初日。毎日の練習と“一夜漬け”のテスト勉強の疲れでつい寝過ごしてしまった憲治は、まるで“ツールド・フランス”の選手さながらに自転車を走らせていた。
憲治の視界に駅が見えてきた。すると、
『まもなく2番線に特別快速が・・・』
アナウンスが耳に聞こえてくる。
「やべえ・・・」
自転車置き場にブレーキの音を響かせながら荒々しく自転車を止めると、かばんを掴んで走り出す。
走り出した憲治の耳に、ホームから電車の接近を告げるメロディーが聞こえてきた。持ち前の脚力で階段を駆け上がるとコンコースをダッシュで駆け抜ける。
足元ではホームに電車が入ってきたようだ。ブレーキの音が聞こえると、人が乗り降りする気配が感じられる。
自動改札を抜けると、人の流れに逆らって階段を駆け下りる。
銀色の車体にオレンジ色のストライプの入った車両が視界に入ってきた。ホームのスピーカーから、リズミカルなメロディーが流れてくる。
『ドアが閉まります・・・』
アナウンスが聞こえる。
「乗りま〜す!」
息を切らせて駆け込むと同時にドアが閉まった。 電車がゆっくりと動き出した。

『次は・・・』
女性の声で車内アナウンスが流れる中、
「ハア・・・ハア・・・やばかった・・・」
俯いて深呼吸をしながら呼吸を整える憲治。
ドアの上につけられた液晶画面に視線を向けた。停車駅とかかる時間が表示されている。次の駅まで5分・・・。
「これで遅刻はせずにすみそうだ・・・」
ようやく落ち着いて車内を見た瞬間、「エッ?!」
いつもと違う雰囲気に固まってしまった。周りを見回す。
混み合った車内には女性しかいない。OL風の若い女性、中年のおばさん、セーラー服姿の女子高校生に、赤いランドセルを背負った小学生・・・彼女たちの冷たい視線が憲治に突き刺さる。
「まさか・・・」
憲治が呟くと、前に立つリクルートスーツを着た若い女性が一点を指差した。そちらに目を向けると、

「女性専用車」

ばつが悪くなった憲治が、もう一度車内に視線を向けた。やはり皆の視線がこちらに集中している。
無理に笑おうとするが、きっと強張った笑いにしかなっていないだろう。
「いや・・・わざとじゃないんです・・・わざとじゃ・・・」
笑いながら言い訳をする憲治の周りに女性たちが集まってきた。
「いや・・・・あの・・・5分ほどで降りますから・・・・許してください・・・・ネッ」
必死に弁解をする憲治。 
だが、その周りには女性たちが集まり、後退りをする憲治の背中はドアに押し付けられてしまった。その前に冷たい視線をした女性たちが詰め寄る。
「あの・・・エッ?!」

なんだか体がムズムズし始めた憲治。
「な・・・なんだ?!」
突然、髪が伸び始めた。スポーツ刈りにしていた頭から、細くしなやかな髪が伸びてくる。
「?!」
突然、制服の胸元が膨らみ始めた。それを押し上げているのが、自分自身の胸だと悟った瞬間、憲治の表情は凍りついた。
「そ・・・ん・・・な・・・?」
次に腰周りが細くなり、履いていたズボンがずり落ちそうになる。そのズボンを大きく膨らんだヒップが落ちるのを引き止めた。
「まさか?!」
股間がなんだか淋しくなった。次の瞬間、
「アッ?!」
何かが大きく膨らんだ胸を形よくキュッと引き締めた。さらに、履いていたトランクスは滑らかな肌触りの下着に変わり、今までよりずっと狭い面積を・・・そして大きく膨らんだヒップをやさしく包み込んだ。
さらに憲治の視界では信じられないことが起きていた。履いていたグレーのズボンの両方の足が一つにくっつき、どんどん短くなっていく。その”ズボン”の下から、自分のものとは思えない、紺色のハイソックスに包まれた脛毛一つない綺麗な足が現れた。
「アアッ?!」
どんどん短くなっていく”ズボン”。
今では太ももまでがあらわになっている。
それはいつしか、プリーツスカートに変貌していた。
自分の体が“変わっていく”恐怖で震える憲治。
いつの間にかシャツは丸襟のブラウスに。その胸元には可愛らしい赤いリボンがついていた。
それは、憲治が噂で聞いていた剛気体育大学付属高校の“幻の女子制服”だった。

「そんな・・・」
困惑する憲治の周りから女性たちが離れていく。
いつも自分の足を包んでいたズボンの“安心感”に変わって、ミニのプリーツスカートの“開放感”が憲治を”襲う”。
たまらず両足をすり合わせる憲治。
今までとは違う両足の擦れ合う肌触りにドキリと胸が高鳴る。

電車が減速し始めた。ゆっくりと駅に入っていく。
ドアが開くと、電車は混み合った車内から乗客たちをホームに吐き出した。
憲治もその流れに押し出されるようにホームに降り立った。
「いったい・・・・何が?」
ホームの窓ガラスに映るかつて自分が“男であった”痕跡のないショートカットの髪の“美少女”の姿を見つめ、改めて自分の体を見下ろす憲治。
細く綺麗な手には、可愛らしいマスコットがつけられた学生かばんが握られ、膨らんだ胸元のポケットからは、“今の自分の顔写真”の付けられた“女性の名前”の学生証が出てきた。
思わずしゃがみこむ。スカートの中が見えそうだが、そんなことはおかまいなしだ。
その白く綺麗な指でかばんを開け、かばんの中をガサガサと探す。
もちろん、教科書やノートが出てきた。
しかし、そのノートは“汚く走り書き”をした“自分のノート”ではなく、几帳面な“女の子の文字”でまとめられたノートだ。
唇をかみ締め、“自分の痕跡”を懸命に探す“憲治だった女の子”。
しかし、”彼”が見つけたのは、“自分が使う生理用品”や、試験後の練習で着る“女子のユニフォーム”だった。
「そんな馬鹿な・・・」
思わず座り込む“憲治だった女の子”。
「こんな格好で・・・学校に行けないよ・・・」
その座り方が、”女の子座り”になっていることも気がつかないほど、“彼”は途方にくれていた。



駅(第一話)終わり




こんにちは! 逃げ馬です。

ずいぶん長く“お休み”をしてしまいましたが、ようやく「書きたい」という気持ちが戻ってきました(^^)
まずは、“肩慣らし”ということで、SSを一本書いてみました。
これから、また少しずつでも自分の書きたいものを、マイペースで書いていきたいと思います。
佐樹さんのホームページでデビューをした第1期、自分で“店”を持った第2期、
長いお休み明けの逃げ馬の創作活動第3期、よろしければ、またお付き合いください。


なお、この作品に登場する団体・個人は、実在のものとは一切関係のないことをお断りしておきます。
 また、この作品に間する権利は、作者に帰属します。この作品の無断転載・全部、または一部を改変するようなことはご遠慮ください。



2009年3月 逃げ馬




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