ストーカーの果て
作:逃げ馬
その男は、いつも一人の女の子を追いかけていた。
それは、ほんの偶然だった・・・新学期が始まって彼の通っている大学に間に合うように電車に乗ったときにその女性はいた。
「なんて可愛い女の子なんだろう・・・。」
彼は思った・・・彼はどちらかというと不器用な男だった。今までも付き合った女性がいなかったわけではない・・・しかし、いざ付き合うと、自分の気持ちをうまく言う事が出来なかった。
彼は、それから毎日のように彼女を追いかけていた。彼女の魅力にすっかり自分を失ってしまったといえるだろう・・・朝、彼女が家を出てから学校が終わって家に帰るまで後を追いかけていた・・・それを続けているうちに彼の彼女を知りたいという気持ちは高まっていった。
そんな彼も、追いかける事が出来ない場所があった・・・一つは彼女の家、もう一つは彼女の通っていた大学だった。わずかに彼に残っていた理性がそこに立ち入る事を止めていたのだった。
しかし、ある日、とうとう彼は、その一つに追いかけて行こうとしていた。
彼女を知りたいという気持ちが高まるあまり、彼は彼女の通っている大学に付いていこうとしていた。彼女も、彼が付いてきているのに気付いているようだ。早足で歩いていく、いつもは、彼は、門の前までで、彼自身も彼の通っている大学に向かうのだが・・・。
「・・・。」
彼は迷った・・・。そこは、いわば彼にとっては禁断の場所だ・・・しかし・・・。
彼は、門の中に向かって歩き始めた・・・彼女を知りたい・・・その気持ちが理性を上回った。
綺麗に整備されたキャンパスを、たくさんの女の子が歩いている。突然入ってきた男性を奇異な目で見ているが、彼には気にならない・・・。芝生の間を校舎に向かう道の真ん中に立てられた看板の脇を歩いていく。
「あれ・・・?」
突然体がくすぐったくなってきた・・・おなかが痛い、寒気もする、これは普通ではない・・・。
「うう・・・。」
うめきながら芝生に植えられた木の下にあるベンチに座り込む。
みるみるうちに彼の胸には、シャツを押し上げるように豊かなバストが出来ていく。
「エエッ!」
驚いているうちにウエストは引き締まり、ジーンズの中はパンパンになる。
「そんな!」
それは、可愛らしい女の子の声だ。頭に手をやると、それはサラサラのショートカットの髪だ。その腕に目をやると、指はしなやかになって白く細い腕だ・・・時計は、可愛らしい時計になって手のひら側に文字盤を付けてはめている。
突然、胸を何かが締め付けた。豊かな胸を形よく締め付けて重さを分散させる。ジーンズの中も、しなやかな肌触りの下着が包む・・・。シャツも変化し始めた・・・柔らかい水色のブラウスになり、ジーンズはどんどん短くなって膝丈の白いスカートになってしまった。
「そんな・・・。」
呆然としている元男だった彼女・・・。
スニーカーは、パンプスになってしまった。いつも足を見せる事はなかったのに、今は無駄毛一つない綺麗な細い足が見える。
「どうしたの・・・?」
声をかけたのは、いつもの彼女だ・・・。真っ赤になって黙っている元男だった彼女。
「さっきも私は、変な人に付けられていたから・・・何かされたの?」
笑顔で尋ねる彼女を、まともに見る事が出来ない元男・・・。
「さあ、講義が始まるよ!行こう!」
彼女は、変身してしまった元男の腕を掴むと、一緒に講義室に歩いて行った。笑顔で歩いていく二人の女子大生・・・。
彼の通ってきた道には、『本学関係者以外の立ち入りを禁じます。』という立て看板が立っていた・・・そこは、女子大学だった・・・。
ストーカーの果て (終わり)
こんにちは、逃げ馬です。
これも、ある意味では女性専用になるのでしょうか?SSを書いてみました。
ストーカーにとっては、気になる女の子と一緒にいられるので、これはこれでラッキーなのかなあ・・・ちょっと書いていて複雑な心境です。
ではでは、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
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