トンネルの向こう側


 
:逃げ馬

 




 トンネル・・・いろいろな道に、また、いたるところにありますよね。
 道路、鉄道・・・街中の地下道なんていうのもあります。
 そして、トンネルにはよく、そこで「幽霊が出た」とか、「よく事故がおきる」とか、そういうちょっと恐ろしい話もあるようです・・・。この話も、そんなトンネルの一つで起きた出来事です・・・・。


 僕は、岡野明・・・高校一年生の男子生徒だ。
 僕は、いつも子供の頃からの親友の植山和彦とよく遊んでいる。
 和彦は、180cmを超える長身と、バスケットボール部のキャプテン、成績は、いつも学年一番と言う典型的な優等生だ。
 それに比べると、僕は、典型的な平凡な生徒なのだが、何故かウマが合った。
 
 ある日、僕と、和彦はいつものように学校が終わると、ハンバーガーショップによっていろいろしゃべった後、スクーターに乗って家に向った。
 僕たちの町は、最近急に開発が進み、あちこちで山を切り開いて造成をしている。
 「相変わらず、あっちこっちで工事をしてるなあ。」
 和彦が言った。僕たちがスクーターで走っている横を、土を一杯に積んだダンプカーが、轟音を立てて走っていく。

 僕たちの前に、小さな山が見えてきた・・・その一部は、ショベルカーで削られている。道は、そこで二つに分かれていて、細い道は、そのまま山のほうに向い、新しい広い道は、ゆるくカーブして、山のまわりを迂回するようになっている。
 僕たちの家は、山の裏手になるが、この新しい道が出来てからは、そちらばかり走っていた。
 「おい・・・。」
 突然、和彦がスクーターを止めて言った。
 「最近、あの山のトンネルで、人が消えた話って聞いたことがあるか?」
 「なに、それ・・・。」
 僕も、スクーターを止めて聞いた。
 
 そのトンネルは、昔、地元の人が、手作業で作ったと言われている・・・。最近は、地下水が出たりして劣化してきたため、新しい道が出来てからは、あまり人が通らない。
 「いや・・・大潮の翌日に、トンネルを通った人が、行方不明になると言われているんだ・・・。」
 「それで・・・。」
 「みんなが、あの道の周辺を探すんだけど、何も手掛かりがないそうだ・・・。」
 「僕も、時々通るけど、ここにいるけどね。」
 「俺も・・・。」
 僕たちは、笑いあって、またスクーターを走らせた。その日は、満月・・・大潮の日だった・・・。


 翌日・・・。
 「明! いつまで寝てるの!」
 母の声に、僕はビックリして飛び起きた、時間は、・・・7時45分!
 「やばい!」
 僕は、ダッシュで着替えを済ますと、顔を洗って、台所のテーブルの上に置いてあるトーストを口に咥えて、そのままスクーターに飛び乗った。
 「もう・・・気をつけてね!」
 母の声を後ろに聞きながら、僕は、スクーターを走らせた。
 時計を見る・・・新しい道は、この時間は警察の取締りが多い・・・。僕は、思いっきりスピードを出していた・・・。
 「旧道を飛ばせば間に合うかも・・・。」
 僕は、スクーターを旧道の方に走らせた・・・
 道は、悪いが危険と言うほどじゃない・・・。相変わらず造成のために、パワーショベルが山を削って、土をダンプカーに載せている・・・そんな光景を横に見ながら、僕は、トンネルに向った・・・。トンネルに入った・・・地下水が、天井から落ちてくる・・・照明は、かなり間隔を開けて吊ってあるので、中は、かなり暗い・・・。
 トンネルの中に、僕のスクーターのエンジン音が響く・・・。
 と、突然トンネルの中に、突風が吹いた。
 「ウワッ!」
 僕は驚いた・・・何かが、首の辺りにあたった気がした。足元に風を感じる・・・。
 僕は、転びそうになった・・・。
 何とか立て直して、先を急ぐ・・・。
 トンネルを抜け、旧道を走り、いつもの道に出る・・・いつもの見慣れた景色が広がる。
 僕は、何とか学校にたどり着いた・・・。

 大急ぎで、スクーターから飛び降りて、スタンドをかける・・・何かが、スクーターのシートに引っ掛かった・・・体のバランスも、何かしっくり来ない・・・。そんなことにかまわず、とにかく校舎の入り口に走っていくと、下駄箱で上履きに履き替えようとした・・・。
 「・・・・?!」
 僕は、そこで固まってしまった・・・。靴を履き替えようとした僕の目には、見えるはずのない“生足”が見えた・・・。しかも、その足は、つるつるの綺麗な細い足で、紺色のソックスを履いていた・・・しかも、その上に目をやると、膝上の青いチェックのプリーツ・スカート・・・上には、紺色のブレザーを着ている・・・その胸のあたりは、ふっくらと大きな盛り上がりが・・・あっ・・・赤いリボンがある・・・これって、うちの女子の制服じゃないか・・・これって僕の体だよな?
 僕は、足を動かしてみた、その綺麗な足は、僕の思ったとおりに動く・・・。手で触って確かめようと思った・・・。
 しかし、視界に入ってきた腕を見て、また、僕はショックを受けた。その手は、女の子のように、白く細い・・・指も、細く長い可愛らしい手だ。
 その手で、自分の体を触ってみる。胸に手を当ててみる・・・手には、柔らかい感触。そして、自分の脳には、触られていると言う感触が・・・そんな!
 ふと、横を見る・・・そこには丁度、大きな鏡があった・・・そこに映っているのは・・・。
 「・・・!」
 そこには、小柄な可愛らしい女の子が、自分の胸に手を当てて鏡を見ていた・・・セミロングの髪、大きな瞳、長い睫・・・その目が不安げだ・・・。
 「おい!岡野・・・そんなとこでボーッとしてないで・・・ホーム・ルームが始まるぞ!」
 担任の先生に声をかけられた・・・。
 『今、岡野って言ったな・・・僕が、こんなかっこうをしていてもわかるのか?』
 「はい・・・。」
 返事をした、靴を履き替えてついていく・・・スカートを履いて・・・いわば女装をして校内を歩くのが、恥ずかしかった・・・さっき返事をした声も、可愛らしい、女の子の声だった・・・僕は、一体どうなってしまったんだろう?

 教室に入ろうとして、立ち止まった。
 「おい・・・岡野どうしたんだ・・・さっきからおかしいぞ?」
 先生の言葉に赤くなる・・・。こんな女の子みたいなかっこうで、教室に入ったら一体・・・。
 「さっさと入れよ。」
 先生に押されて教室に入って、自分の席に向う・・・僕は、下を向いたまま席に着いた・・・恥ずかしくてまわりを見れない。
 「岡野さん、今日は、遅かったわね・・・。」
 隣の席に座っている中谷みつ子が話し掛けてきた・・・。彼女は、クラスのアイドル的な存在で、僕の憧れだった・・・。
 「うん・・・ちょっとね・・・。」
 そう答えた・・・。
 『岡野さん・・・?僕が、こんなかっこうをしているのに・・・?なぜわかるんだ・・・・。』
 いろいろ考えるが、答えが出ない・・・先生が出席をとり始める・・・。
 「・・・岡野明美・・・。」
 僕は、いろいろ考えているので聞き流す・・・。
 「・・・岡野!」
 「ちょっと、岡野!呼んでるぞ!」
 後ろから。和彦がペンで突付きながら言った。
 「あっ・・・はい!」
 先生は。苦笑しながら出席をとる・・・周りの生徒たちは、僕を見ながらクスクス笑っている・・・僕は、赤くなって下を向いてしまった・・・。

 「おい・・・岡野、今日は、どうしたんだ?・・・いつも同じくらいの時間に来るのに、今日は遅いし、出席とってる時には、ボ〜ッとしてるし・・・。」
 昼休み・・・教室で和彦と話をしていた・・・。
 「和彦・・・僕・・・おかしくない?」
 「何で・・・?」
 「いや・・・僕がこんなかっこうしているのが・・・。」
 「だからなんでだよ・・・。」
 和彦が、さも、あたりまえと言った顔をして笑い出す・・・。僕は、混乱して、わけがわからなくなってきた。
 「いや・・・だって僕・・・男なのに、こんなかっこしてるだろ・・・。」
 小さな声で、何とか言った・・・すると和彦は、
 「何言ってんだよ!・・・なにを言い出すかと思ったら・・・ガキの頃から遊んでるけど、明美は、女の子じゃないか・・・もっと面白い冗談をいえよ!」
 和彦は、腹を抱えて笑い出してしまった・・・そんな和彦を、僕は、呆然と見ていた・・・。
 「どうしたの?」
 中谷みつ子がやってきた。
 「いや・・・岡野がさあ・・・冗談を思いつかないものだから、『僕は、男・・・』なんて言うんだよ・・・。」
 みつ子も、クスクスと笑い出すと・・・。
 「岡野さんは、活動的だから、男の子みたいな所はあるけど・・・そんなに可愛いのに、『男の子』と言うのはねえ・・・・。」
 僕は、恥ずかしくなって下を向いてしまった・・・。
 『何でこんなことになったんだろう・・・僕は、本当に男の子なのに・・・。』
 僕は、考え込んでしまった・・・。
 「さあ、次は、体育よ・・・着替えに行きましょう!」
 僕は、みつ子に腕を引っ張られていた・・・。みつ子の柔らかい手を感じて、赤くなる・・・憧れていた人と、こんなに親しく接している自分が信じられなかった・・・・。
 女子の更衣室に入った・・・クラスの女の子達が、みんな体操服に着替えている・・・僕は、目のやり場に困ってしまった・・・。
 「ほら、岡野さん、早く着替えないと遅くなるよ!」
 みつ子に促されて、更衣室の隅っこで着替えを始めようと、かばんを開けた・・・しかし、そのかばんから出てきたのは、女子の体操服と、ブルマーだった・・・。
 「そんな・・・朝には、ちゃんと男子用の体操服だったのに・・・。」
 僕は、呟いた・・・。
 「どうしたの?」
 みつ子が聞いたが、
 「ううん・・・なんでもない・・・。」
 僕は、ブレザーの上着を脱ぐと、ブラウスのボタンをはずし始めた・・・水色のブラジャーに包まれた胸の膨らみを、初めて自分の目で見た・・・。改めて、現実を目にしてショックを受ける僕に、みつ子は、
 「岡野さんは、いつ見てもプロポーションがいいね・・・うらやましいなあ・・・。」
 僕は、苦笑するしかなかった・・・。
 スカートを脱ぐと、ブラとおそろいのショーツを目にする・・・股間には、男の痕跡は、全くなかった・・・。
 『僕は、本当に女になっちゃったんだ・・・。』
 僕は、ようやく現実を受け止めていた・・・。
 「さあ、早く行かないと・・・。」
 僕は、急いで体操服と、ピッタリお尻にくっつく紺色のブルマーを履くとみつ子に呼ばれて、体育館に向った。

 体育館に入ると、男子生徒の視線を感じる・・・僕は、女装をして、みんなの前に出ているようで、恥ずかしくてみんなを見ていられなかった・・・。
 今日の体育は、バレーボールだった・・・。
 女子に混じって準備体操をして、いざ試合が始まると、僕は、今の自分が、女の子の姿をしていることなど忘れてしまっていた・・・この頃になると、男の体から女の体に変わったときの、バランスの違いの戸惑いもなくなっていた・・・。
 思いっきりジャンプをして、ボールを叩く・・・いろいろな、もやもやしていたものが、吹き飛んでいった・・・。
 「岡野さん、すごいね!」
 「本当!・・・バレー部に入る?」
 女の子たちのそんな声を聞くと、僕は、気分が良かった・・・。
 もう一面のコートから、男子が僕を見ていたことなど、このときには、気がつかなかった・・・。


 放課後・・・。
 「岡野さん、今日は、すごかったね!」
 憧れていたみつ子に、言われると照れくさかった・・・。
 『どうせなら、男として言われたいなあ・・・。』
 そう思っていると、
 「おい、明美、帰ろうよ!」
 和彦が言ってきた。
 『なぜ、みんなが、僕を「明美」と言うのに抵抗がないんだろう?』
 そんなことを考えながら、3人でスクーターのほうに歩き出す。
 「それじゃあ、また明日!」
 みつ子に挨拶すると、スクーターにまたがる・・・。
 みつ子は、自転車に乗ると、僕らに手を振って帰っていった。
 エンジンをかけて、二人で走り出す。いつもの道の、いつもの風景・・・それが、今の僕には異質に見えた。
 途中の川の土手の上で、僕はスクーターを止めた・・・。
 「どうしたんだ・・・?」
 和彦が、Uターンをして戻ってくると、僕に聞いた・・・。
 僕は、なぜか涙が出てきた・・・何も話せない・・・話しても何故かわからないが信じてもらえない・・・そう思うと、涙が止まらなかった・・・。
 驚く和彦・・・。
 「どうしたんだよ!・・・俺たち・・・子供の頃からの親友だろ!・・・なんでも言いから話せよ・・・。」
 僕は、涙が止まらない・・・『今の和彦には、女の子が泣いているとしか見えないのだろうなあ・・・。』そう思うと、やはり寂しさを感じた・・・。
 「話してくれよ!」
 和彦が言う・・・真剣な目を見ているうちに、僕は、ようやく話す気になった・・・。
 「さっきも言っただろ・・・僕は、男だって・・・。」
 和彦は、驚きを抑えて、やさしい声で言った・・・。
 「でも、そんなことを言われても、子供の頃から俺の知っているのは、女の子の『明美』・・・おまえなんだぜ。それに、おまえだって、今、自分でわかってるだろう・・・おまえが女の子だって!」
 「それは、わかるけど・・・僕は、今日の朝、家を出たときには、男だったんだ・・・。」
 和彦は、明美=明を見つめたまま、何も言わない・・・。
 「でも・・・今朝、学校に着いたらこの姿だったんだ・・・そして、和彦も、みつ子も、先生やみんなも、そんな僕を最初から女の子のように思ってるんだ・・・。」
 「だから・・・俺の知ってるのは、女の子の明美なんだよ・・・。」
 和彦が、感情を抑えながら言った・・・。
 僕は、また、スクーターにまたがった・・・。
 「どうするんだ・・・?」
 和彦が聞いた。
 「とりあえず家に帰ってみるよ・・・何かわかるかもしれないし・・・ひょっとしたら、家に帰ると元に戻るかも・・・。」
 和彦は、うなずいて、
 「じゃあ、明日の朝、ちょっと早めにここで待ってるよ・・・何か判れば教えてくれ・・・おれは、女の子のおまえしか知らないけど、俺は、俺なりにいろいろ考えてみる・・・親友のおまえが、なぜそんなことを言い出したのか・・・・。」
 「ありがとう和彦・・・。」
 僕は、嬉しかった・・・和彦は、やっぱり親友だった。
 
 僕は、和彦と別れると、スクーターを家に向って走らせた・・・。いつものように、ダンプカーとすれ違う・・・。スカートから伸びる綺麗な細い足は、風を感じていた。
 元に戻る気配はない・・・。僕は、しだいに気が重くなってきていた。
 家に着いた・・・玄関を開ける勇気がなかなかでない・・・。こんな姿を見たら、母親なんて驚いてひっくり返るんじゃないか?
 そんなことを思いながら、なかなか玄関を開けられずにいると・・・・。
 「おい・・・明美じゃないか・・・何してるんだ、そんなところで・・・。」
 振り向くと父がニコニコしながら立っていた。
 「えっ・・・。」
 僕は、その場に立ち尽くしていた・・・。『父さんも、僕を「明美」と呼んだ・・・なぜだ・・・?』
 「早く入りなさい・・・。」
 父は、玄関を開けると、僕の背中を押して中に入れた。
 
 「お帰りなさい! あら、一緒だったの?」
 母の声に、僕は、また驚いた。
 「ああ、玄関の前でな。」
 父は、僕を振り返りながら言った。
 「早くあがりなさい・・・ご飯にするからね。」

 食事のとき・・・僕は、あまり話さなかった・・・。
 「明美、どうしたの?今日は、何かあったの?」
 母の言葉に、
 「ううん、なんでもない・・・ちょっと疲れたんだ。」
 僕は、明るく言った。
 「それならいいけど・・・でも、そろそろあなたも、言葉を直さないとね。」
 母は、言った。
 「ごちそうさま。」
 席を立つ僕に、
 「お風呂が沸いているから入ってしまいなさい。」

 お風呂に入った僕は、改めて今の自分を確認することになってしまった。
 鏡に映る僕は、どこから見ても女の子だった・・・ひょっとしたら、クラスで一番可愛いんじゃないか。覚めた頭で、そんなことまで考えていた・・・・。
 しかし、それが、今の自分の姿だと言うことになると、話は別だ。サラサラのセミロングの髪、大きな瞳と長い睫。大きな胸の膨らみ、引き締まったウエストと、男の僕より高い位置にある大きなヒップ。バランスのいい細く長い足。
 「これが今の僕・・・。なぜこんなことに。」
 僕は、湯船につかりながら考えた・・・朝出かけたときには、男だったのになぜ・・・。
 風呂から出ると、女の子の下着が用意されていた。
 「ハァ〜・・・。」
 ため息をつくと、仕方なくそれを身につける。
 滑らかな肌触りの下着を身につける・・・。男の下着より体にピッタリとフィットしていた。
 ピンク色のパジャマを着ると、自分の部屋に戻った。
 「これが僕の部屋?」
 見慣れた部屋は、雰囲気が全く変わっていた・・・壁紙や、カーテンは可愛らしいデザインのものになり、クローゼットの中の服までがスカートや、ワンピース、女性の可愛らしい下着に変わってしまっていた・・・そこにかつて男の子がいたことを示すものは、何もなかった。
 「ハァ〜・・・・。」
 僕は、ため息をついて部屋の真ん中に座り込んでいた・・・それが、いわゆる女の子独特のペタンコ座り・・・上から見ると、足がMの形になる座り方になっているとは、気付かなかった・・・・。
 「本当に、僕は、男の子だったんだよなあ・・・。」
 なんだか自分の記憶に自信が持てなくなってきていた。・・・しかし、確かに今朝は、男だった・・・と今も思っている。
 いろいろ考えているうちに、夜はふけていった・・・。


 翌日・・・。
 「おはよう!」
 和彦が、土手の所で待っていた・・・。
 「おはよう・・・。」
 僕も答える。
 「大丈夫か・・・疲れた顔をしてるぞ・・・。」
 「うん・・・昨夜・・・眠れなかったから・・・。」
 心配そうに僕の顔を見る和彦。
 「家の人・・・どうだった?」
 「以前から僕が女の子だったような扱い・・・言葉を直したほうがいいってさ!」
 僕は、笑った。
 「やっぱりな・・・。」
 和彦が言った。
 僕たちは、いつものようにスクーターを走らせた。
 学校に着くと、みんなが挨拶をしてくる・・・以前とは、大違いだ。
 下駄箱を開けると・・・。
 「・・・?」
 可愛らしい封筒が10通以上入っている・・・これって・・・?
 「あっ・・・いつものやつだね!」
 和彦が後ろから言った。
 「えっ?いつものやつって?」
 「明美は、いつもラブレターをみんなからもらってたじゃないか・・・。」
 「そんなことを言っても・・・僕が男からラブレターをもらっても・・・。」
 僕は、封筒を見ながら呟いた・・・・。

 教室に入ると・・・。
 「岡野さん、おはよう!」
 クラスの男子から声がかかる。僕は、苦笑してしまった・・・。
 「今日の帰り、遊びに行かない?」
 「頼むよ岡野さん・・・携帯の電話番号教えて!」
 そんな声を適当に聞き流す。
 「岡野さん!」
 みつ子が声を掛けてきた。
 「あっ・・・中谷さん、おはよう!」
 「おはよう! ねえ、今日の帰りにみんなで遊びに行くんだけど一緒に行かない?」
 「えっ?行っていいの?」
 「もちろん!」
 「行く行く!」
 「じゃあ、帰りに校門の前でね!」
 そんな僕を、和彦が遠くから見ていたのを、僕は気付かなかった・・・。

 放課後・・・。僕は、校門の前で、みつ子たち女の子のグループに会った。
 「じゃあ、ケーキを食べに行こうか?」
 みつ子の提案で、僕たち4人は、美味しいと評判のケーキ屋に行った。
 「え〜っ・・・ケーキを食べるために並ぶの?」
 「もちろん!美味しいものを食べるためには、苦労を惜しんじゃだめ!」
 みつ子が笑いながら言う。・・・やっと僕たちの順番が来た。ケーキと紅茶を注文すると、美津子たちは、おしゃべりを始めた。
 「岡野さん、本当にもてもてだね!」
 みつ子が、いきなり言った。
 「エッ・・・?」
 「だって男の子たち、みんな言ってたよ!『明美ちゃん可愛いね』って・・・。」
 僕は、恥ずかしくなってしまった・・・いくら言われても、僕は男の子だし、今こうしてみんなと会うのも、本当は、男の子の姿で会いたかった。
 店を出ると、デパートに買い物に行った。
 「この服、明美に似合うんじゃないかな?」
 みつ子が、ミニのワンピースを、僕の前に見せた。
 「そんなに短いスカート・・・履けないよ・・・・。」
 「大丈夫だよ!明美は、足が綺麗なんだし・・・きっと似合うよ!」
 僕は、仕方なくワンピースを持って試着室に入る・・・。
 「ハァ〜ッ・・・。」
 思わずため息が出る。
 「僕・・・何してるんだろう・・・。」
 着替えながら、呟いた・・・。鏡を見ると、可愛らしい女の子が、綺麗な足の脚線美を惜しげなく見せて、こちらを見ている・・・それは、まぎれもなく今の僕の姿だった。恥ずかしくなって、頬を赤く染める・・・。
 試着室から出ると、
 「すごいよ、明美!超可愛いよ!それ買っちゃいなよ!」
 みんながはやし立てる・・・。僕は、少し嬉しくなってきた。

 家に帰ると、
 「ただいま!」
 「明美・・・和彦君から電話があったよ!」
 母の言葉を聞くと、僕は、すぐに和彦の家に電話をした。
 「もしもし?」
 「和彦?明だけど・・・。」
 「明?・・・ああ、明美か?」
 僕は、苦笑した・・・。なんてやりにくいんだ・・・。
 「そうだよ・・・電話をくれたそうだけど・・・。」
 「ああ・・・昨日おまえの言っていたことをいろいろ考えてみたんだけど・・・ひょっとしたらと思うことがあってな・・・これから会えないか?」
 「わかった・・・いつもの土手で会おう!」
 「待ってるよ!」
 電話を切ると、僕は、部屋に言って着替えをした。体が勝手に動いて着替えをする・・・。制服を脱ぐと、ハンガーに掛けてクローゼットにかけた。
 純白のブラウスを着て、デニムのミニスカートをはいた。少し考えて冷えるかもしれないと思って、ピンク色のセーターを肩に掛けて、袖を首のあたりで結んだ・・・。
 鏡に映った自分の姿を見て、僕は頬を赤く染めた・・・恥ずかしかった・・・こんなにも女の子の服が似合う自分が・・・。
 スクーターに乗って土手に向った・・・。
 土手に着くと、すでに和彦が来ていた。
 「よお!」
 和彦が手を上げた・・・。草むらに座って話をした・・・。
 「昨日、おまえが言っていたことだけどな・・・。」
 和彦が口を開いた・・・。
 「ひょっとしたら・・・おまえにとってここは、パラレルワールドかもしれないと思うんだ・・・。」
 「パラレルワールド?・・・あの漫画とかに出てくる?」
 「ああ・・・そうだ!・・・つまり、おまえが本当は男だったのなら、ここは、おまえが女の子として存在する世界ということだ・・・想像だけどな・・・。」
 僕は、考え込んだ・・・もしそうだとしたら、全て辻褄が合う・・・。
 そのとき、和彦は、明美=明を見つめていた。明美=明は、女の子座りをしていた。・・・綺麗な髪、大きな胸、細いウエスト・・・スカートから伸びる綺麗な長い足・・・スカートのスリットから覗く健康的な太もも。すっかり心を奪われていた・・・そして考えた、あのことを言うべきなのか・・・?
 「もし、パラレルワールドなんだとしたら、何か、そこに移るきっかけがあるはずだけど・・・。」
 和彦の言葉に、明美=明は、
 「そうだ・・・造成地にあるトンネル・・・あそこからなんだかおかしくなったんだ・・・!」
 「そうか・・・。」
 和彦は、頭の中で『やっぱりな・・・。』と呟いた・・・どうする・・・言うべきなのか・・・?
 「今から行ってみようか?」
 明美=明の言葉に・・・。
 「いや・・・もう真っ暗で、今から行っても何もわからないだろう、明日は休みだし、明日の朝、行こう!」
 そう言うと、その場で二人は、別れた・・・そう・・・和彦は、ある事を言い出すことが出来なかった・・・。


 次の日、二人は、スクーターを連ねてトンネルに向った・・・何故か和彦は、明るい顔をしている・・・妙に機嫌が良かった。
 「あいつは、いいやつだなあ・・・僕が、元の世界に戻るのを喜んでくれている・・・。」
 明美=明は思った・・・。
 そしてトンネルに着いたとき、明美=明は、自分の目を疑った・・・。
 「そんな・・・そんなことって・・・。」
 明美=明は、そこに座り込んでしまった・・・・目の前では道が途切れ、トンネルは、パワーショベルで崩されていた・・・。
 「すいません・・・。」
 和彦が明るい声で、工事現場の人を捕まえて尋ねた・・・。
 「あの、ここにあったトンネルは・・・。」
 「ああ・・・造成の邪魔になるし、危険なので埋めて、新しい道を作ることになったんだ・・・今日から工事にかかってるんだ!」
 その声を聞きながら、明美=明は思った・・・もう自分は、この体でこれから生きていくしかないんだと言うことを・・・。
 「元気出せよ・・・。」
 和彦が、明美=明の肩に手を置いた・・・。振り返る明美=明・・・。
 「女の子も、悪くないぞ!そんなに可愛いんだし・・・なんだったら、俺が付き合ってもいいぞ!小さい頃から知ってるし、向こうの世界でも、友達だったんだろう・・・・。」
 明美=明は、ふと思った・・・。
 「おまえ・・・まさか、ここが崩されるの知ってたんじゃあ・・・・。」
 「えっ・・・そんな事、知ってるはずないだろう!・・・・。」
 後退りする和彦・・・。
 明美=明は、じりじりと和彦を追い詰めている・・・目に涙を浮かべながら・・・。
 「どうしてくれるんだあ!」
 大きな声で叫ぶと、逃げる和彦を追いかけていった・・・。







 こんにちは、逃げ馬です!
 いろいろありましたが、新作のラブコメを何とか仕上げました。
 逃げ馬の作品は、女の子に同化してしまうキャラクターが多いのですが、今回は、最後まで「心は男の子」です・・・賛否両論分かれるところかもしれませんね。
 まだまだいろいろ試してます! これからもよろしく!

 尚、この作品は、フィクションであり、実在の個人とは、一切関係のないことをお断りしておきます。

2001年4月  逃げ馬





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