夏の遊園地

 

:逃げ馬

 



 明と、久美子は同じ高校の2年生。2人は付き合い始めて、まだ一ヶ月にしかならない。
 明は、この高校のサッカー部のエース・ストライカーだ。スマートな体と、高い身長。顔もまずまずとなれば、女の子達がほって置かない。当然、“彼女”の座を巡っての戦いは、激しかった。
 その中をくぐり抜けて、久美子は明と付き合い始めた。
 しかし相変わらず、明の周りには、女の子達が集まってくる。そうなると、どちらかと言うと嫉妬心の強い久美子は、明の行動へのチェックは厳しくなっていった。明の周りに、自分以外の女の子がいると、イライラして、その子がいなくなってから、明に詰め寄る事もしばしばだった。
 
 ある日・・・。高校の休み時間のこと・・・。
 「おい・・・久美子!」
 明は、友人とおしゃべりしている久美子に声をかけた。
 「なあに?」
 「おまえ・・・今度の日曜日は、何か予定が入っているのか?」
 「別に・・・何も予定は無いけど。」
 久美子は、首を傾げながら答えた。
 「それなら、何処かに遊びに行くか?」
 明の言葉に、久美子の目が輝いた。
 「本当!嬉しい!!」
 明がにっこり笑った。
 「どこに行きたい?」
 「え・・・私が決めていいの?」
 「もちろん!」
 久美子は、目を輝かせながら言った。
 「それなら、遊園地に行きたい!!」
 明は、ちょっとビックリしたように、久美子に尋ねた。
 「え・・・映画とか、海じゃなくて?遊園地がいいの?」
 「うん!!」
 久美子は、ニコニコしながら答えた。
 「・・・夏だから、遊園地に行くと暑いよぉ・・・。」
 明が言うと、
 「うん!でもいいの!私、彼が出来たら、絶対に遊園地に行くと決めていたの!!」
 久美子の瞳の中は、キラキラと星が輝いているのではないかと思えるほどに輝いている。
 「そう・・・わかった!じゃあ、日曜日の朝9時に駅の改札口で待っているね!」
 「うん!楽しみにしているね!」
 久美子は、嬉しそうに答えた。
 明は、教室を出ると、後手にドアを閉めた。
 「フ〜ウ・・・この暑いのに遊園地かよ・・・。」
 明は、廊下の窓から、ギラギラ光る太陽を恨めしそうに見ていた・・・。


 日曜日

 二人は、遊園地に来ていた。空は、青く晴れ渡り、夏の太陽は、容赦なく2人を照らしている。
 「早やくぅ!」
 ジェットコースターの乗り場で久美子が、甘えたような声で明を呼んでいる。
 明は、苦笑いしながら久美子のところへ歩いて行く。
 『こいつ・・・スタイルや顔は悪くないけど・・・この“自己中心的”なところが無ければなあ・・・。』
 明はそんなことを思いながら、久美子と一緒にジェットコースターに乗っていた。
 『キャーーッ!!』
 ジェットコースターに乗っている人たちの悲鳴が聞こえる。ジェットコースターは、轟音を立てながら坂を降りて行く。
 猛烈なスピード感だった。ジェットコースターは、右へ左へと急カーブを曲がっていく。その度に、悲鳴があがる。
 ジェットコースターが、乗り場に戻ってきた。
 「ああ・・・怖かったね!」
 久美子が、息を弾ませながら、明に言った。
 「そうかな?・・・面白かったよ。」
 明が答えると、久美子が明の腕に手を回した。
 「さすがは、明くん!頼りになるね。」
 2人は、遊園地の中を歩いて行く。
 「ねぇ・・・今度は、あそこに行かない?」
 久美子が指差したのは、お化け屋敷だった。
 「え・・・あんなのは、子供が行く所だよ・・・。」
 そう言った明の顔は、少し青ざめている。実は、明はお化けとか、ホラー映画の類は、苦手だったのだ・・・。
 「キャーーーッ!!」
 お化け屋敷から悲鳴が聞こえる。やがて、出口から若い女の子が2人、震えながら出てきた。
 「怖かったね!」
 「キャハハハッ」
 女の子達は、楽しそうに歩いて行った。
 
 「ねぇ・・・行こうよ!」
 久美子が、明の顔を覗き込んで言った。
 「ああ・・・わかったよ・・・。」
 二人は、入場料を払うと、入り口からお化け屋敷に入っていった。
 『しめしめ・・・これで合法的に、明に抱きつけるぞ!!』
 久美子は、そんなことを考えながら、明と手をつなぎながら、真っ暗なお化け屋敷の中を進んで行く。
 「キャーーーッ!!」
 突然、前から女の子の悲鳴があがる。明は、心臓が口から飛び出しそうなほど驚いた。心臓の鼓動が早くなる明。
 『女の子はいいよなあ・・・男は、悲鳴をあげるわけにも行かないし、怖いなんて言えないもんなあ・・・。』
 お化け屋敷の中を進んで行く2人、突然、明の頭上から何かが落ちてきて明を覆い隠した。
 「うわ!」
 真っ暗な中では、それが何かわからない。明は、床にひっくり返ってしまった。
 「明くん、大丈夫?」
 久美子が声をかけた。
 「ああ・・・布みたいだな!」
 布の中で明は、もがいている。明の体は、なんだかムズムズしていた。足のあたりは、ジーンズを履いているはずなのに、両足が直に触れ合っているようだ。何とか布を振り払うと、暗闇の中で久美子と手をつないで前に進んで行く。
 『あれ?明くんの手は、こんなに柔らかかったかな?』
 久美子は、暗闇の中で首を傾げながら歩いていた。
 「・・・!!」
 突然、目の前に骸骨の模型が現われた。久美子は、思わず明に抱きついた。二人の体の間で、何か柔らかいものが押しつぶされた。
 『あれ?・・・明ってこんなに華奢だったのかな?・・・それに体も柔らかいし・・・。』
 二人は、お化け屋敷を出た。再び真夏の太陽が2人を照らす。
 「どうだった?・・・あれ・・・俺の声が?」
 明が、咳払いをしている。
 「怖かったね!・・・あれ・・・?」
 久美子の横には、小柄な、ショートカットの髪の見知らぬ女の子が立っている。
 「あんた・・・いったい誰?! 明をどこにやったの?!」
 久美子がすごい顔で、女の子を睨みつけている。
 「俺が明だよ!わからないのか?!」
 「明は男の子だよ!!」
 久美子の鼻息が荒くなっていく。
 「俺は・・・え?!何で?!」
 明と言い張る女の子が、自分の体を見下ろして驚いている。水色のサマー・セーターの胸のあたりは、大きく膨らんでいる、細くくびれたウエスト、白地に綺麗な花柄をあしらった膝丈のフレアースカート、そこから綺麗な細い足が伸びている。
 「明が、そんなに可愛らしい女の子のはずがないでしょう!いったい明をどこにやったのよ!!」
 久美子が、女の子に詰め寄っていく。
 『こいつ・・・女の子に対しては、こんな態度をする奴だったのか・・・。』
 明だった女の子は、後退りしていく。思わず走って逃げ出す、明だった女の子。
 「明を返しなさいよ!!」
 久美子が、飛び掛らんばかりに、明だった女の子を追いかけて行く。
 「俺が、明だって言ってるだろう!!」
 思わず叫ぶ、明だった女の子。
 「何で、こんな事になるんだよぉ!!」
 女の子の悲鳴が、遊園地に響いていた。



 こんにちは!逃げ馬です。
 このSSは相互リンクをしていただいている“悠BOOK“に投稿させてもらったSSです。
 このSSを書いているのは、ちょうど学生さんが、夏休みに入った頃です。
 「遊びに行く人が、うらやましいなあ」・・・そんなことを思っている時に、このストーリーを思いつきました。
 お化け屋敷・・・夏になると、何故か遊園地にあったりしますね。まあ、中でこんな事になってしまうと困りますが・・・。
 さて・・・次は・・・また、長いものを書いてみようと思います。
 ではでは、また、次回作でお目にかかりましょう!!

 By逃げ馬 2001年



 

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