あなたは走りながら左へ曲がった。
残り1分なら、奴が来ても振り切ってやる・・・。
あなたはそう思っていた。
しかし・・・。
「・・・」
殺気を感じるあなた。
振返ると、後ろからセミロングの黒髪を揺らしながら、黒いスカートスーツと白いブラウスに身を固めた美女・・・“鬼”が追いかけてくる。
「来た来た・・・来たぞ!!」
あなたは大声で叫びながら走り出す。
叫ぶことで自分に気合を入れているのだ。
あなたは右腕に付けられたタイマーに視線を落とした。
残り時間は一分を切っている・・・逃げきってやる・・・その思いがあなたの疲れた足を鞭打つ。
あなたは後ろを振り返った。
やはり美女・・・“鬼”はあなたを猛スピードで追ってくる。
「捕まってたまるか!!」
あなたは叫ぶ。
前に赤く色づいた葉を付けた桜の古木が見えてきた。
「よし!」
あなたは残った力を振り絞って全力で走る。
その後ろからは、美女があなたとの差を詰めてくる。
あなたは桜の古木の反対側に回ると、美女の方に向き直った。
美女は桜の木の向こう側に立ち止った。
その顔には微笑みを浮かべている。
美女が左に駆け出した。
あなたも左に向かってダッシュをする。
美女はピタリと止まると、今度は右に走る。
あなたも彼女との間に桜の木を挟んで右回りにダッシュをする。
右へ、左へ・・・桜の木を挟んで、あなたは彼女と激しい鍔迫り合いをしていた。
あなたの息が上がっていく。その間にも、右手に付けたタイマーはカウントダウンの電子音が聞こえてきた。
5・4・3・2・1・・・・・。
「やった〜〜〜〜逃げきったぞ〜〜〜〜〜!」
あなたが両手を突き上げる。
その瞬間、眩い閃光があなたを包んだ・・・。
『ピピピピピピピッ・・・』
あなたの枕もとで、電子音が鳴っている。
あなたは寝返りを打ち、目覚まし時計を止めるとベッドの中で大きく伸びをした。
眠ったはずなのに、なんだか疲れが抜けていない。
しかし昨日見た夢は、変な夢だったな・・・追い掛けられて捕まれば女の子になってしまうなんて・・・?
そんなことを思い、あなたは掛け布団を捲り、起き上がった。
「・・・?!」
皺くちゃになったシャツとズボン・・・ところどころに泥や枯れた芝生の切れ端、紅葉や桜の葉がついている。
「なんだ?!」
戸惑うあなた・・・・着ているのは、昨日着ていた服だ。
しかし、なぜこんなに汚れているんだろう?
あなたは起き上がり、クローゼットを開けた。
とにかく、着替えないと・・・。
「エ〜〜〜〜ッ?!」
思わず大きな声を上げるあなた。
そこに掛けられている服は、スカートやブラウス、カットソーにワンピース。ジーンズはレディースものだ。
あなたの持っていた服は、すべて女性の服に変わってしまっている。
パニックになったあなたは、引き出しを片っ端から開けてみた。
トランクスやシャツの入っていたはずの引き出しには、カラフルな色合いのブラジャーやショーツ、キャミソールが?
引出しの中には、一枚のメモが入っていた。
逃走成功おめでとうございます! 記念として、あなたには可愛らしい女の子の服を用意しました。 楽しんでくださいね♪ |
---|
あなたは床にへたり込んでしまった。
引出しの中の女の子の下着と、クローゼットに掛かった女の子の服を見上げながら、昨夜の“夢”を思い出すあなた。
そう、昨夜の“夢”は、現実だったのだ・・・・。
逃走成功!!
<エピローグ>