あなたは右に曲った。
辺りに注意をしながら歩いて行く。
「ここまで来て・・・・来ないでくれよ・・・」
タイマーに視線を落とす。
残りは2分・・・逃げ切れる・・・そう思った瞬間。
「来た来た・・・来たぞ!!」
あなたの正面から、ポニーテールの黒髪を揺らしながら白いブラウスと黒いスカートスーツに身を固めた美女・・・“鬼”が走ってくる。
「捕まってたまるか?!」
あなたは反対方向に向かって走り出した。
「そんな?!」
反対方向からも、ボブカットの黒髪を揺らしながら“鬼”が走ってくる。
彼女がポケットに手を入れた。カードを右手に持ってあなたに迫る。
あなたはラグビーのフットワークでかわそうとした・・・しかし?
彼女が右手であなたにカードを貼ろうと手を伸ばす。
体を倒してかわそうとするあなた。
「?!」
あなたは右肩に圧迫感を感じた。
右肩を見ると、
「やられた・・・?」
次の瞬間、
『ボン!』
赤い閃光と白い煙のような光の粒があなたの視界を遮った。
「なんだ・・・いったい何が?!」
戸惑うあなた。
道に立っていたはずなのに、立っているという感覚がなくなっていく。
まるで白い空間の中で宙に浮かんでいるようだ。
あなたの体から力が抜けて行く。
それだけではない・・・・体全体がなんだかムズムズする。
次の瞬間、あなたの着ている服が光の粒になって消滅した。
「ちょっと・・・やめろ!!」
誰もいない白い空間の中で叫ぶあなた。
頭がムズムズする・・・頭に手をあてると、今までより細くしなやかな黒髪がスルスルと伸びて行く。
肩よりも長くなり、肩甲骨の下まで伸びた髪の毛は、自然にポニーテールにまとまっていく。
顔がムズムズする・・・両手を顔にあてようとするあなた。
顔にあてた手に感じられるのは、弓のように細くなった眉と、長くなった睫毛・・・そして、プルプルとした女性らしい滑らかな肌触りの顔だ。
顔にあてられた手の下で、あなたは目に違和感を感じた。
あなたの目は女の子らしい魅力を持ったクリクリとした大きな瞳に変わり、鼻も小さく、そして高くなっていく。
唇もふっくらと膨らみ艶やかな唇に変わり、顎と首は細く・・・顔は小さな輪郭の小顔になってしまった。
「なぜ・・・」
そう呟いた声は、アニメのヒロインのような可愛らしいものだった。
その間にもあなたの体の変化は続いている。
あなたの肩は、まるで強い力だ抑えつけられるような感じを受けた。
肩を見ると、あなたの肩幅はすっかり小さくなっていた。
二の腕は白く細くなり、掌もすっかり小さくなってしまった。
両手を目の前にかざすあなた。
その指は、白く細い・・・女性らしい美しい指だ。
あなたは視線を下に落とす。
あなたの胸の乳首と乳輪はピンク色に変わり、それを中心として両胸がふっくらと膨らんでいく。
おもわず両手を胸にあてるあなた。
「アンッ!」
思わず女性らしい声が出て頬を赤らめるあなた。
あなたの掌の下で、柔らかい膨らみが少しずつ大きくなっていく。
あなたのウエストはどんどん細くなり、おへそは長細くなった。
それとは逆にヒップは丸く、形の良い“女性の魅力を持った“ヒップに育っていく。
それに合わせて、足は内股になってしまった。
日焼けをした足はどんどん白くなり、脛毛はみるみるうちに抜け落ちて行く。
太股は女性らしい曲線を持つムチムチとした肉付きの良い太ももになり、脹脛から足首に続く曲線は、キュッと引き締まっている。
「アアッ・・・そんな?!」
あなたは思わず悲鳴を上げる。
最後に残った“男性としての象徴”があなたの目の前で小さくなっていく。
「やめて!!」
あなたは股間に両手をあてた。
その柔らかい“女性の“掌の下で、あなたの象徴は見る見るうちに小さくなってほんの小さな名残だけになってしまった。
そして・・・。
『ズン!』
「アアッ?!」
あなたを下から突き上げるような衝撃が?
股間からあなたの体内に、新しい女性の象徴が作られていく。
股間から下腹部へ・・・そして左右に分かれて行く。
「まさか・・・?」
二つに分かれた“女性の通路”はあなたの体の中で子宮や卵巣を作りだした。
新しく出来た女性器が、あなたの脳細胞に女性ホルモンの豪雨を降らせる・・・。
あなたの胸と下半身に淡いピンク色の光が集まってきた。
下半身に集まった光はピンク色のショーツになり、あなたの形の良いヒップを包んだ。
膨らみ続ける胸をショーツとお揃いのピンク色のブラジャーが包んだ。
ブラのカップの中では、あなたの形の良い胸がさらに大きく育っていく。
ウエストに光がまとわりつく・・・それは紫色のミニのティアードスカートになった。
上半身に光が集まると、それは白いカットソ−に変わっていた。
足に集まった光は、黄色のヒールに・・・。ウエストとポニーテールにピンク色の光がキラッと光ると、それはベルトとシュシュに変わっていた。
あなたの体が落ちて行く?
スカートがめくれる?!
あなたは両手でスカートを抑えた。
「キャッ?!」
あなたは尻餅をついた。
「ひかり・・・大丈夫?」
あなたの親友・・・真由美が声をかけた。
「ここは・・・どこ?」
「ここはどこ・・・だって?」
真由美が笑った。
「ここはどこって、純愛女子大学に決まっているじゃない・・・今日も私と一緒に来たでしょう?」
『真由美・・・誰・・・? それに純愛女子大学って?』
戸惑うあなた。
しかし、あなたの頭の中では、“彼女との記憶”が甦ってくる。
『純愛女子大学の入学式で、一番最初に声を掛けてくれた真由美・・・それから、いつも・・・どこへ出かける時にも一緒に・・・』
『いや・・・僕は男なのだから・・・』
あなたの理性が最後の抵抗をする。
座り込んだまま美しい手を胸に、そしてスカートの上から股間にあてるあなた。
しかし、男性の痕跡はない。
「もう・・・何をしているのよ?!」
真由美があなたをみながら人懐っこい笑顔で笑っている。
「ひかりは可愛いけど、どこか天然なところがあるからね・・・」
「可愛い・・・僕が?」
あなたが真由美を見上げながら言うと、
「もう・・・僕が? なんて・・・女の子が“僕”なんて言うものじゃないわよ」
「女の子?」
「そうよ・・・そんなに可愛いのに・・・」
『女の子・・・僕は可愛い女の子に・・・?』
あなたはトートバッグから散らばった教科書や学生証を集めた。
経済学や外国語・・・それに“女の子の文字”で書かれたノート・・・大学生らしいバッグ。
そして学生証には『吉沢ひかり 純愛女子大学外国語学部1年生』
あなたの澄ました顔写真が貼られている。
「私は、ここの大学生・・・・」
あなたの中の、最後の男性の記憶が溶けるように消えて行く。
真由美が右手を差し出した。
「さあ、講義の前に礼拝堂に行って聖母さまにお祈りをしなきゃ!」
あなたも微笑みながら肯くと、トートバッグを肩にかけながら立ちあがると真由美と一緒に礼拝堂に向かって歩いて行く。
礼拝堂の中では、聖母像が微笑みながら二人を見つめていた。
あなたは可愛らしい女子大学生になってしまった。
GAME OVER
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