あなたはもう少しここで様子を見ることにした。
あれから何度か“鬼”がこの前を通った・・・しかし、誰もここに隠れていたあなたを見つけることができなかった。
右腕にまかれたタイマーに視線を落とす。
「まだ18分しか経っていないのか・・・?」
もうずいぶんと時間が経ったように思えるのだが、まだ半分も経っていない。
しかし、ここにいる限り、”鬼たち“も簡単には自分を見つけられないだろう。
あなたはそう思っていた。
{・・・?」
人の声が聞こえたような気がした。
いや・・・確かに聞こえる。話し声ではない、あれは・・・?
「助けてくれ!」
男の叫び声が、こちらに近づいてくる。
生垣越しに道の方を見ると、大学生くらいの若い男が息を切らせながらこちらの方へ走ってくる。
その後ろにいるのは・・・。
「やばい・・・」
あなたは視線をそらした。
男の後ろから、黒いスカートスーツを着た“鬼”が男を追いかけている。
ヒールのあるパンプスを履いているくせに、彼女は女性とは思えないスピードで男を追いかけてくる。
「早く逃げろ!」
あなたは心の中で男に声援を送っていた。
もちろん、会ったことも、ましてや話をしたこともない。
しかし、今はこの『ばかばかしいゲーム』を一緒に乗り切ろうという『仲間』だ。
知らないうちに連帯感のようなものができていた。
男が必死の形相で走ってくる・・・こちらに向かって?
「エッ?!」
思わず声を上げるあなた。まさか・・・?
「うわ〜〜〜っ?!」
男は強引に生垣をかき分けるように越えてくると、そのままあなたの上に倒れこんだ。
「いたた・・・うう・・・」
倒された痛みに耐えながら、あなたは懸命に起き上がろうとした・・・男がこちらに来た・・・と、言うことは?
あなたは後ろを振り向いた。
「?!」
あなたは自分の目を疑った。
大人の男性の胸くらいの高さの生垣を、あの女性・・・“鬼”が飛び越えてきたのだ。
「うそだろ・・・?」
・・・タイトスカートをはいているのに?
呆然とするあなた。
倒れこんできた男性は、悲鳴を上げながら駆け去っていく。
あなたの前で、美女が微笑んでいる・・・しかし、今のあなたはその微笑みには魅力を感じなかった。
いや、むしろ『不気味さ』を感じていた。
彼女がポケットからカードを取り出し、あなたの胸に貼り付けた。
『ボン!』
赤い閃光と白煙があなたを包む。
体から力が抜け、それと同時にあなたの体に変化が起きる。
髪が伸びて肩にかかるほどになり、胸とヒップが膨らみ、逆にウエストは細くなっていく。
それに合わせるように来ている服が変わっていく。
間違っても自分が着ることはなく、それでいて、妙に馴染みのあるこの服は・・・?
「まさか・・・ああっ?!」
呟いた声は、女の子のものだ。
やがて、白い閃光があなたを包むと、あなたの意識は消えていった。
「・・・もしもし?」
突然聞こえた声に、あなたは我に返った。
「はい?」
「ステーキセット、3つ!」
「はい、ステーキセットを3つ・・・ですね」
あなたは微笑みながら端末を操作すると、メニューを持って戻っていく。
そう、あなたは“鬼”の力で、人気ファミリーレストランのウエイトレスにされてしまったのだ。
GAME OVER
<エピローグ>