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「隠れる場所を探さないとな・・・」
あなたは、辺りを見回しながら歩いていた。
幸い“鬼”の姿は無い。
「オッ・・・?」
コーヒーカップの乗り場の横に、隠れるのにちょうど良い植え込みがある。
あなたはその陰に座り込み、辺りの様子を窺っていた。
相変わらず、あなたの後ろでは無人のコーヒーカップが音楽とともに回り、植え込みの向こうでは、無人のジェットコースターが轟音とともに走っている。
「なぜ、誰もいないんだ・・・?」
あなたは思わず呟いたが、その理由はあなたにとっては、わかりすぎるほどわかっていた。
この『世界』では、ある意味では絶対の存在・・・そいつが、この場所にあなたたち以外の人が近寄ってくるのを邪魔しているのだろう。
顔を上げると、雲ひとつない青空が広がり、柔らかい春の日差しが降り注ぐ・・・絶好の『行楽日和』なのに・・・。
この時、あなたは油断をしていた。
あなたの前は植え込みで、道からあなたの姿は見えない。
しかし、あなたの後ろはコーヒーカップ・・・止まっている時には、反対側からあなたの姿は見つけやすいのだ。
そして、動いている時に流れる音楽は、あなたの耳に『足音』が入ってくるのを邪魔してしまう・・・。
コーヒーカップの反対側を歩いていたショートカットの美女が、植え込みに隠れているあなたを見つけた。
短距離走者も真っ青な加速で走りだす。
「フウ〜〜〜ッ・・・」
あなたは小さくため息をついた。
その時、
「?!」
植え込みの木が揺れる音がして、あなたは気が付いた。
あなたの数メートル先に、“鬼”がいるではないか?
あなたは、植え込みを飛び越えて走り出した。
“鬼”も植え込みの切れ目から道へ出て、あなたの後を追う。
二人の差が見る見るうちに詰まって行く。
「クソ〜〜〜ッ?!」
あなたの叫び声が辺りに響く。
カードを持った“鬼”の右手が伸びる。
あなたの右肩に何かが触った感触が・・・?
次の瞬間、あなたの体を赤い閃光が包んでいた。
「いらっしゃいませ!」
あなたの前には、テーブルをはさんで、二人の若い男性が座っている。
「ステーキセットと、ハンバーグセットね・・・」
メニューを見ながら、一人が言った。
「ステーキセットと、ハンバーグセットですね・・・ありがとうございます!」
あなたは手早く端末を操作すると、制服のポケットに戻し、「メニューをおさげします・・・」と言って、テーブルの上のメニューを手にすると、ぺこりと頭を下げた。
歩いて行くあなたの後姿を、若い男性達は羨望の眼差しで見ている。
「なっ・・・あの娘、可愛いだろう!」
戻ってきたあなたに、同僚の女の子が、
「千佳? また、あなた目当てのお客だよ!」
「そんなことないわよ・・・」
「でもねえ〜・・・あなたがここにバイトに来てから、お客が増えたから・・・」
「だから、そんなことないって!」
可愛らしい笑顔で答えるあなた。
そう、あなたは可愛らしい制服に身を包んだ、ファミリーレストランのウエイトレスになってしまった。
GAME OVER