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あなたは左へ曲った。
左手には自動販売機が並び、あなたの後ろにはレストラン館が見える。
あたりには“鬼”の姿はない。
あなたはホッとして歩きだした。
春の陽光が降り注ぐ遊園地・・・・ここに家族連れやカップルの姿があれば、どれだけ楽しいだろう・・・そう思っていたのだが・・・。
「・・・?」
誰かがあなたの肩を、後ろからポンと叩いた。
ふと、後ろを振り返ると、ボブカットの艶やかな黒髪の美女が微笑みを浮かべながら、あなたを見つめている。
「バ・・・カ・・な・・・?!」
いったいどこから・・・そう思った瞬間、あなたの体を赤い閃光が包んでいった。
「ここは・・・?」
あなたはあたりを見回した。
ステンドガラスから差し込む光が礼拝堂の中を明るく照らしている。
そして、大きな聖母像が温かい微笑みを浮かべながら、あなたを見下ろしている。
『やばい・・・!』
あなたの心が警告を発している。
ネットでよく耳にした“都市伝説”通りだとすると、これから起きるのは?!
「逃げよう!」
あなたは礼拝堂の入り口に向けて走り出した。
とにかく、この場を離れることだ・・・後の事は、それから考えればいい。
あなたは樫でできた、立派な扉のノブにその手をかけた。
「?!」
いくら動かそうとしても、ガチャガチャと音が鳴るだけで、扉が開かない?
「無駄よ・・・」
礼拝堂に声が響く。
振り返ると、あのボブカットの美女・・・いや、“鬼”が微笑みを浮かべながら、あなたを見つめていた。
「さあ、聖母さまにお祈りしましょう・・・」
礼拝堂に彼女の声が響く。 まるで“脳細胞にしみ込んでくるような“美しい声・・・思わず、耳を塞ぐあなた。
『逃げろ!!』
あなたの理性は、そう叫んでいたのだが・・・。
「・・・?!」
あなたは、まるで吸い寄せられるように聖母像の前に歩いていく。
『やめろ・・・はやく逃げろ!!』
心ではそう叫んでいるのだが、気がつくと、あなたは聖母像の前に立っていた。
「さあ、お祈りしましょう・・・」
そういうと、ボブカットの美女は床に跪き、聖母像に向かって祈り始めた。
『やめろ!!』
あなたの心の叫びを無視して、あなたの体は聖母像の前に跪くと、目を閉じて祈り始めた。
すると・・・。
「アッ?!」
何かが、あなたのおなかに吸いついた?・・・まさか?!
目を開けておなかを見下ろすと、ゴムのチューブのようなものがあなたのお腹に張り付いている。
そして、その先は聖母像のお腹に繋がっているではないか・・・。
あなたは、横で祈り続ける美女を睨みつけた。
彼女も目をあけて、あなたを見つめると微笑みながら言った。
「あなたは、聖母さまの娘になるのよ・・・」
「いやだ!!」
あなたは力任せにチューブを引き抜こうとした、しかし弾力のあるチューブは伸びるだけでまったく手応えがない。
「アアッ?!」
あなたは思わず声を上げた。
チューブを伝って、温かい何かが、あなたの体に流れ込んでくる。
それと同時に、あなたの体の変化が始まった。
頭がむずむずする・・・そう思っていると、細くしなやかな黒髪が肩にかかるほどの長さに伸びていく。
そして・・・体が小さくなって行く?
ピッタリの服を着ていたはずなのに、今では服の袖から指先が見える程度だ。
そして、ズボンのベルトがカラリと音をたてる。ウエストが細くなってベルトがブカブカになったのだ。
そして・・・。
「?!」
あなたの着ていた服が光の粒となって消えてしまった。
「そんな?!」
自分のものとは思えない・・・かわいらしい”女の子の声”であなたは呟いた。
あなたの視界に入る“自分の体”は、見慣れた自分のものではなかった。
それなりについていた筋肉が消えて、ほっそりとしてしまった腕。
括れのできたウエスト。
そして、股間のあなたの象徴はまるで溶けるように、あなたの視界から消えていった。
足には、脛毛など全くない。
そして、肌は白く、肌理の細かい・・・まるで女性の肌だ。
「まさか・・・」
あなたは呟き、自分の声を聞いて思わず言葉をのんだ・・・そう、この“変化”・・・何が起きているかは、もう明らかだった。
チューブを通じて聖母像から”女の子のエナジー”が、あなたに流れ込み続けている。
やがて、あなたの体には新たな変化が起き始めた。
胸のあたりがくすぐったい・・・・そう思っていると、ピンク色の乳首をのせた胸が、むくむくと膨らんでいく。
それに合わせるように、ウエストはさらに細くなり、ヒップも女の子らしく膨らんでいく。
白い肌の下はうっすらと皮下脂肪が包み、弓のように細くなった眉の下には、ぱっちりとした大きな瞳と、形の良い鼻・・・そしてふっくらとした唇が可愛らしい顔を形作っている。
あなたの視界の中で、胸がどんどん膨らんでいく・・・それを見ていると、思考まで変わってしまったのだろうか?
『恥ずかしい・・・』
胸を手で隠そう・・・そう思った瞬間、
「アッ?!」
何かがあなたの胸を締め付けた。
はっとして視線を戻すと、白いブラジャーがあなたの形の良い豊かなバストを包みこんでいた。
大きく膨らんだヒップも、おそろいのショーツが優しく包み込んだ。
女の子の下着を着ている・・・そう思うだけで、あなたの顔は赤くなった。
腰のあたりに紺色のベルトが巻きついた?
そう思ってみていると、紺色の布が襞を刻みながら、どんどん伸びていく・・・間違いない・・・プリーツスカートだ。
そしてあなたの上半身を白い光が包んだ。
光がおさまると、清潔感あふれる純白のスクールブラウスがあなたの上半身を包み、胸を包むブラのラインがうっすらと透けて見えている・・・そして、ブラジャーの中では、まだ胸が少しずつ膨らんでいた。
足に青い光が集まる・・・光が消えると、女子高校生が履いているような紺色のハイソックスが膝の下までを包みこんでいた。
そして、ブラウスの上にはエンブレムのついた紺色のブレザーと、大きく膨らんだ胸の上にはリボンタイが・・・。
「このままじゃ、わたし本当に女の子に・・・?!」
あなたは思わず言ってしまった瞬間、両手で口を押さえた・・・心までが変わってしまった?
もう、自然に”女の子のことば”が出てくる。
聖母像から眩い光が放たれた・・・・そう思った瞬間、あなたの男性の心は光の中に消えていった・・・。
「はい、それじゃあ、次は・・・?」
どこからか、女性の声が聞こえる・・・あなたがそう思った瞬間、
「・・・?」
誰かが横から、あなたの胸を突いている?
「もう、誰よ?!」
思わず声をあげた瞬間、教室の中は笑いに包まれた。
黒板の前に立つ、若い女性教師があきれたような視線をあなたに向けたあと、思わずクスクスと笑い出した。
「松田のぞみさん、いくら成績が良いからといって、居眠りはいけませんよ・・・」
「はい・・・すいません・・・」
教室の中の同級生の女の子たちが、クスクスと笑っている。
あなたの横では、ポニーテールの髪の少女が、両手を合わせて謝っている・・・そう、彼女はあなたの親友、多田野綾香・・・いつも一緒に遊びに行ったり・・・そう思った瞬間、あなたの心は一瞬、違和感を感じた。
しかし・・・それは彼女が渡したメモを見て消えていった。
『さっきは、ごめんね・・・今日は帰りにケーキをおごるから許してね・・・』
あなたは思わず微笑んだ・・・そう、彼女はいつもこうだ・・・・。
あなたは微笑みながら彼女を見ると、OKサインを出した。
多田野もほっとしたようにあなたを見ると、いつもの人懐っこい微笑みを浮かべた。
春の日差しの差し込む教室では、いつものように授業が進んでいく。
あなたは、ブレザーの制服姿の女子高校生になってしまった。
GAME OVER