<この話のTOPへ>
ブルーメタリックのインプレッサの上を、真っ黒に塗られた2機のジェット戦闘機が轟音を響かせながら通過した。
小川は咄嗟に車をスピンターンをさせて停車させた。
助手席で西村が、
「先輩、どうしたんですか・・・突然?!」
鞭打ちになりますよ・・・と首を擦る西村に構わず、小川はドアを開けて車を降りると、飛び去っていく戦闘機を睨みつけた。
「あれは・・・?」
小川が呟いていると、今度は真っ黒にペイントされたヘリコプターが、プロペラの音を響かせながら上空を通過していく。
「先輩?!」
西村も慌てて車を降りてきた。
小川は無線機を取り出し、スイッチを入れた。
“ドコカノランド”から100kmあまり離れた高度1万メートルの太平洋上空では、ライトグレーにペイントされた1機の飛行機が飛んでいた。
その機体の事を知らない人が見れば、その飛行機は『空飛ぶ円盤に貼りつかれた中型旅客機』に見えるかもしれない。
しかし、この飛行機に張り付いている“円盤”は、この飛行機を特徴付けている最大の“武器”・・・電子の目なのだ。
E−767空中警戒管制機の中では、管制員たちが新しくあらわれた3つの反応について分析を行っていた。
「速度から見て、2機は戦闘機・・・1機はヘリコプターと考えられます」
管制員が士官に報告をした。
通信士が士官を振返ると、
「地上の情報部員から連絡、機種はSU-27フランカー2機と、ヘリ1機との事です!」
その頃
待機所に警報音が鳴り響く。
ソファーに座っていた3人の女性パイロットが弾かれたように立ち上がると、愛機に向かって走っていく。
格納庫の中のF−2Aは、既に暖気運転を始めていた。
3人のパイロットが機体に走る。
機体に乗り込むと、整備員がヘルメットを手渡す。
手渡されたヘルメットをかぶりながらも、その目は計器の示す情報をチェックしていく。
パイロットは無線のスイッチを入れた。
「ジャンヌ2、ジャンヌ10・・・・ドジを踏まないでよ!」
「「了解!」」
二人のパイロットの笑いを含んだ応答を聞いて、パイロットの顔に微笑みが浮かんだ。
「チェック・オールグリーン、ジャンヌダルクリーダー・スタンバイ!」
「ジャンヌ2・スタンバイ!」
「ジャンヌ10・スタンバイ!!」
コクピットに座る真田正美中佐は、僚機にちらりと視線を投げかける。
2機のコクピットで、パイロットがグッと親指を立てた。
正美が整備員に合図を出すと、整備員は素早く車輪止めを外した。
エンジン音が高まる。
「ジャンヌダルクリーダー・・・出ます!!」
「戦闘機を出してもらおう」
黙考していた士官が、通信士に連絡するように命じた。
フランカーが相手か・・・空戦になると手強いな・・・そう考えていたが、
「北九州基地から連絡、既にジャンヌダルク隊のF−2を3機、こちらへ向かわせたとの事です」
通信士の返事を聞いて、士官は苦笑いをしてしまった。
「さすがは朝倉司令・・・打つ手が速い!!」
こちらが連絡をする前に既に出しているとは・・・おそらく何も起こらなければ「パトロール」や『訓練』という事にするのだろう・・・朝倉の危機管理の確かさに、士官は頭の下がる思いだった。
地上では、小川が無線機のイヤホンを耳から外して車に乗り込んだ。
西村が怪訝そうな表情で、小川を見つめている。
「先輩?」
「帰るわよ」
小川がインプレッサのエンジンをかけた。あわてて西村が乗り込んだ。
「先輩、どうして・・・?」
戦闘機が飛んでいるんですよ・・・と西村が言うと、小川が笑いを含んだ視線を西村に向けた。
「ジャンヌダルク隊が出てきたのよ・・・それでも不安?」
西村もようやく腑に落ちたようだ・・・肩を竦めると、
「確かに・・・そうですね」
「そういうこと!」
小川は応えると同時に、インプレッサを再び発進させて現場から離れて行った。
3機のF−2が高度1万メートルの上空を飛んでいる。
先頭を飛ぶ1機の戦闘機は、指揮官機を示すサインだろうか? 垂直尾翼の翼端にピンク色のラインが入っている。
『ジャンヌダルク・リーダーへ・・・』
E−767から通信が入る。
「こちらジャンヌダルク・リーダー!」
『国籍不明機は、SU−27が2機とヘリコプターが1機・・・攻撃命令があるまで待機されたし』
「了解!」