二人暮しの必要条件




例えばジープのミラー越しに目が合ったとき。
前までならフイと逸らされるばかりだった視線が絡むようになったとか。
悟空とふざけあって、食べ物の取り合いをしていたとき。
振り下ろされるハリセンが、頭に届く直前で威力を弱めているとか。
そんなことに少し慣れてきて、そして意味深な八戒の笑みにも気付くようになった。

「今日は・・・三蔵と悟浄。僕と悟空が一緒です。」
そういった瞬間。
「なぁなぁ八戒!腹減った〜。買出し行こうよ!」
喧しい、もとい元気の良い声が響いた。
「おい、あんまり食いすぎんじゃねぇぞ、サル。」
三蔵が注意するのも、はーい!と取り敢えず返事が返ってくるのも日常。
そして、その返事が返事だけで終わるのも、またいつものこと。
「悟浄、鍵持ってってくださいね。」
そう言われて手を伸ばした瞬間
「部屋割りは貸しにしときますから。」
にっこりと微笑まれたのは、俺の気のせいじゃないだろうな。


5日ぶりの宿。しかもまだ日のあるうちに、そこそこの部屋が取れたことで、普段あまり表
情を変えない三蔵も少なからず喜んでいるらしい。
「はぁ〜、さすがに4連の野宿はキツかったな、さんぞ。」
「ああ。足がいてぇ・・・。」
シュルシュルと帯を解く音が聞こえて、三蔵が法衣を脱ぎながら応える。
「どれ?見せてみ?」
隣のベッドに腰掛けた三蔵がズボンの捲り上げると、パンパンとは行かないまでも、かな
り浮腫んだふくらはぎがあらわれた。
「このへん?」
膝のほうから少しずつ、指の腹で押してみる。
「っ痛・・・」
「わり。強く押しすぎた?」
思わず声を上げた三蔵を見上げてみると、大丈夫だとでも言うように目を閉じた。
「なぁ、まだ早いけどさ、一回風呂入ってきたら?温めるといいだろ、これ。」
「そうだな、そうする。」
そういうと三蔵は早々と脱衣所に消えていった。

さっきまでの三蔵を思い出して、誰に対してともつかない優越感を感じる。
八戒たちの前ではあんまり変わらないけど、
二人のときに見せる表情は前よりもずっと柔らかくなった。
同じ部屋で過ごす時間も増えたし、ある程度の接触は許されてるし。

「さーてと。コーヒーでも淹れっかな」
本当は豆から挽いて・・・とかこだわりもなくはないんだけど、この際構わない。
備え付けのカップに、少し苦めのコーヒーを作る。
ひとまずホコリっぽい洋服を着替えて、コーヒーを持ってベッドにのぼる。
昔、眠気覚ましに飲んでいたせいだろうか。
俺は、コーヒーは割と濃い方が好きで。
「空きっ腹でそんなの飲んだら異が荒れますよ。」
と八戒に注意されることも少なくなかったっけ。
でも、薄いコーヒーってなんかお湯に何かを溶かしたみたいな気がしてさ。
ダメなんだよね。
「うん、やっぱりコレくらいないとなぁ・・・」
一口含んで、自分好みの濃さに満足する。
と、ガチャと音がして、ラフな格好にタオルを肩にかけた三蔵が出てきた。

「あ、三蔵。足、少しはマシになった?」
「なんとかな。少し軽くなった。」
そういうと、三蔵は自分に割り当てられた方じゃなくて、俺のベッドに向かって歩いてき
た。
どうかした?
俺が訊く前に
「おい、中身なんだ?」
と三蔵の方から尋ねられる。
「ん?あぁ、コレ?コーヒー。さんちゃんも飲みたい?」
からかうように言ってみる。
と、あからさまに眉間に皺を寄せた。
「さんちゃんはやめろって言ってるだろーが。クソ河童。」
ここで、俺が返したら、もう収拾つかないし。
てゆーか、せっかく時間があるんだから、そんなことで無駄にしたくないわけよ。
「はいはい、俺がわるぅございました。で、三蔵もコーヒー飲みたい?なら作るけど?」
そう言ってベッドから降りようとした俺の左手を三蔵が掴んで。
「それでいい。」
指差したのは俺の持ってるマグカップ。
「あ、そ?いいんだけどさ。俺が淹れたから濃いと思う・・・」
そういい終わらないうちに、三蔵は俺の隣に腰掛けると、
コーヒー入りのマグカップを奪い取って、口を付けていた。
「すこし薄める?」
一口飲んで少し顔を顰めたような気がして、三蔵に訊いた。
「いや・・・そんなに苦くない。」
三蔵はまたカップに口をつけた。

前は、あんまり濃いの飲まなかったよなぁ。
三蔵はちょっと薄め。八戒は普通。俺は、ちょっと濃いめ。
それが基本だったと思うんだけど。
それも少し変わってきたらしい。

「なぁ、さんぞ。こんなの知ってる?」
「あぁ?」
「味の好みとかの食事の相性と、身体の相性が良ければ、
それだけで60年は一緒に暮らせるんだって。」
昔、仲の良かった女が結婚するときに言ってた言葉。

「で、それがどうした。」
返ってきたのはつれない言葉だけ。
「だからさ、それなら俺たちも条件バッチリだなぁと思って。
カラダの相性は完璧だし〜、食事だって・・・」
「好みあってるか?」
「合って来てるでしょ。三蔵、前は濃いコーヒー飲まなかったじゃん?」
「別に今だって好きなわけじゃねえ。」
身を乗り出して顔を覗き込むと、微かに朱がさしたのが分かった。
「照れなくてもいいって。それに・・・・」


三蔵の手からカップを奪い取って。
「おい、まだ残って・・・」
文句を言おうと振り向いたところで唇をふさぐ。
「・・ぅ・・・んっ」
不自然な体勢が辛かったのか、三蔵から抗議の声があがる。
「俺も、三蔵とするキスの味好きだし。」
2種類のタバコが交じり合ってる筈なのに、何故かちょっと甘い。
「三蔵もだろ。」
自信たっぷりに言い放つと、呆れたような溜息と一緒に
「・・・・嫌いじゃねぇ。」
と小さな声が聞こえた。

「食事の相性と身体の相性」
それが全てだなんて、もちろん思わないけど。
俺は三蔵のことが好きで、多分恐らく三蔵も同じで。
それにこの2つが加わったら。
結構いい感じだと思わない?


調子に乗って
「じゃあ、身体の相性の方もためしてみる?」
と言いかけたところに
「悟浄、三蔵、そろそろ夕飯ですけど・・・」
という八戒の声が聞こえて。
まあ、まだチャンスは幾らでもあるわけよ。
夜はまだまだこれから始まるんだから―――――




Continue(後半はエロ有です)    





53の日ということで、無理やり書きました(笑)
というか、レポートに追われていてすっかり忘れてました(^^;
朝、あ!今日2日じゃん!ってことになり、
山手線の中で考えたという・・・。
やっつけ仕事で申し訳ありませんm(__)m
とりあえず、あまり間があかないうちに
「身体の相性」の方も書く予定でいます。

この、ちょっとむちゃくちゃな定義は
誰かから聞いたんだっけ・・・もしかしたら何かで読んだのかも。
とりあえず、食べ物の好みは伝染するなぁと思って
ネタにしてみました。

以上、なんだかとてもいっぱいいっぱいの(笑)
蒼 透夜でした。

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