さらばユニヴァース(裏)








会えそうで会えなくて 泣いたりした後で
声が届いちゃったりして
引き合ってる 絶対そう 君はどう思ってる?

さらばユニヴァース/スピッツ




 松山は酔ったふうでもなく、さくさくと砂浜を進んだ。散歩にしては速い足並。
 いや、でもいつもこんなモンだったかな。チームプレイとか言われているけれど、松山は立ち止まるヤツを待ったりしない。ヤツと付き合うって決めたヤツは、死ぬまで走らなきゃなんねえんだ。別れてもはぐれてもヤツは止まらない。まるで泳ぐのをやめると死んでしまう魚のようだった。

「日向、靴脱げよ」
「ああ?」
「濡れたスニーカーだけは気持ち悪いからな」
 何を言われているのかわからないオレの足元からスニーカーを奪うと松山は自分のスニーカーも脱ぎ捨てた。
 波打ち際までオレの腕を引くと、イキナリ足を払う。
「わああああ!!」
 松山がぎゃはぎゃは笑っている。
「冷てえ!!じゃねえ、何しやがる、放せ!!」
 オレは松山に押し倒され、昼間沈められた海に再び沈められていた。
「オマエなあ、夜の海は危ねえんだぞ!!ガキじゃねえんだから」
「沖まで行かなきゃ大丈夫だって」
 アルコール、夜の海、どちらも厳禁は大人のルールだ。だがしかし、松山はオレを立たせるとぐいぐい浅瀬を進んだ。
「オレはオマエと心中する気はねえからな」
「なに、日向オレとは死んでくれねえの」
「当たり前だ」
「へっ。オレもゴメンだぜ」
 そう言って、松山はオレの腕を放した。突然沖に向かい泳ぎ始める。
 止まる様子のない松山にオレはしばらくして後を追った。ジーンズの所為で思ったように泳ぐことが出来ない。それはヤツも同じはずなのに、何故かオレ達の間隔は拡がっていくような気がした。
 爪先立ちでようやく届くような水深で、やっと松山が沖へ進むのをやめた。
「何やってんだ!!波がでる前に戻るぞ!!」
「オレは自分で戻れる」
「わかってる」
「いや、わかってない」
「わかってる!オレが!オレが不安なんだよ!!」
 いつだって言いたくない一言を言わされてしまう。言葉にして認めたくないオレの心を、松山は無理矢理引き摺り出して、そしてそれがみっともないモノだったらアッサリ捨てちまうんだ。
 何度も何度もあばかれて、不安や迷いやそんなものさえ曝け出され、それでもオレは松山が好きだった。

「泳いだほうがラクなんじゃねえの」
 そんなオレの問いに、オレが手を繋ぎたいんだなどと言って松山は海中をゆっくりと進んだ。漂うように進むと、Tシャツやジーンズはそれ程ジャマではなかった。ただゼリーの中を進むように、真っ直ぐ前には歩けない。
 胸元まで海面に出ても、波がオレ達を追い越す度に松山に掴まれた手のひらが振りほどけそうになった。オレは自分から強く掴んで松山を抱き寄せると、そのまま乱暴に口付けた。




 その後オレ達は一度国道に上がって居酒屋に入ろうとしたのだが、ずぶぬれなので当然断られてしまった。仕方が無いので半ばヤケでセブンイレブンで大量にビールを購入し(ずぶぬれの札を出して女子高生のバイトにかなり嫌な顔をされた)、またもとの砂浜に戻ってきた。
 もう入口に釘を打った海の家の横に乱雑に放置されたビールケースの一角に腰を下ろし、オレ達は再び酒盛りを始めた。
「こんなに一日中飲んでんの久し振りだ」
 さっさと一本目を空け、松山が口元を拭いながら満足気に次の缶を手に取る。「オマエんとこファーストステージで優勝したじゃねえか」
「そうそうそれがさー。じいちゃん死んじまって次の日すぐ葬式でよ。まあ葬式でも飲んだけどな。じいちゃんも優勝した試合見てから死んだっていうからまあよかったかな」
 事も無げに口にする松山に、オレもなんだか納得させられてしまった。
 松山の前髪からはまだ海水が時々ポツリとしたたっていて、ビールが流し込まれる度大きく上下する咽喉仏をつたっていった。
「なあ。しねえ?」
「何をだ?」
「ここで。セックスしねえ?」
 オレは絶句してしまった。正直何度か妄想した。この手で松山をあばくその過程を。
 だがキスをした、昼間のさっきで今度はセックス?!
「オマエ、」
「しばらく会えないじゃん。やるなら今がチャンスだろ」
「何のチャンスだ!!オマエ、何言ってるか・・・」
「やるのかやらねえのか」
 松山が開けたばかりのビールを傾けた。オレ達の間の砂地にソレはどんどん滲み込んでいく。待ってはくれない。
 オレは顔を傾け、目の前の松山に口付けた。








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