Return.01 Prince of Darkness



「それで………どうしてカイトさんが地球圏にいるんですか?」

「色々と事情があってね。仕事なんだ」

「仕事………ですか?」

「うん。それで、ナデシコのみんなに手伝ってもらおうと思ってね」

 カイトの言葉にルリの表情が一瞬、暗くなる。

「とりあえず、自己紹介してください。わたしとサブロウタさんくらいしか知らないでしょうから」

 急に話を変えたルリに訝りながらも、カイトはブリッジ全体を見渡すようにして、

「ミスマル・カイトです。初代ナデシコクルーに色々とお世話になり、今回は厚かましいと思いながらも協力していただきに来た次第です。よろしく

 にこりと笑って、愛想を振り撒くカイト。

「名乗るまでもないと思うが、誰がなんと言おうと俺はタカスギ・サブロウタ。ナデシコBの副長だからな」

「え? 副長? アオイさんじゃないんですか?」

「アオイさんもいつまでも副長じゃありませんよ。今は艦長です」

「………あのアオイさんが艦長? う〜ん、想像できない」

 ルリの説明に、なにやら悩み始めるカイト。
「………僕はマキビ・ハリ、艦長・・の下でオペレーターをやっています」

 カイトを睨むようにして自己紹介するハーリー。

 『艦長』を強調する辺り、まだまだ若い

「オペレーター? えっと、じゃあルリちゃんは?」

「艦長さんです。ぶい

丹頂たんちょう

「わたしはツルじゃありません」

管仲かんちゅう

「中国春秋時代の斉の宰相なんて、どうしてカイトさんが知っているんですか?」

 ブリッジに沈黙が下りる。

 ブリッジクルーの冷たい視線に晒され、カイトはぶるりと身震いし、

「えっと………つまり………艦長?」

「はい」

「ナデシコの艦長?」

「はい。地球連合宇宙軍第四艦隊所属、試験戦艦ナデシコBの艦長さんです」

(ユリカさんはどうしたんだ? それに………宇宙軍?)

 そう、カイトは知らなかった。

 アキトとユリカがシャトル事故に遭っていることを。

「アキトさんやユリカさんはルリちゃんが軍に入ることを納得してるの?」

 カイトの言葉にルリの表情が固まる。

 真剣な表情でルリを見つめるカイト。

 ルリはその視線に耐え切れなかったかのように俯き、

「………アキトさんとユリカさんはもういません」

「? どういう………」

「もう………いないんです」

 押し潰されたルリの声に、カイトの表情が揺らめく。

 完全に沈黙に陥った2人の間に、

「カイト………ちょっといいか」

 サブロウタが割って入った。

 カイトは真顔を向けるサブロウタの目を見返し、

「サブロウタさん………お願いします」

 頷きあった男2人が、ブリッジを後にした。



「………そんなことがあったなんて………」

「全く、知らなかったみたいだな」

「ええ………アキトさんとユリカさんが………事故………」

 食堂。

 打ちひしがれた様に、カイトが力なく床に腰を落とす。

「だからな………艦長の前じゃあの二人のことは話さない方がいい」

「………そう………ですね」

 サブロウタの手を借りて、立ち上がるカイト。

「それにしても、変わってないな、オマエはさ」

 改めて、懐かしそうにカイトを見るサブロウタ。

「え? ………あ、そうか」

 カイトは合点がいったか、こくりに頷き、

「僕がみなさんと別れてから、一ヶ月経ってないんです」

「? どういう───」

 サブロウタが問いかけようとすると、二人の間にコミュニケのウィンドウが開き、ハーリーの顔が映る。

「高杉大尉、アマテラスに到着しましたので挨拶へ向かわないと………」

「あ………ああ、分かった。じゃあ、カイト。悪いけどさっきの話はまた後でな」

「分かりました。急がないと、ルリちゃんに怒られますよ」

 軽く笑みを浮かべるカイトに、サブロウタは苦笑を以って答えると、食堂から駆け出していった。



「何だ貴様らは!?

 アマテラス司令室。

 ルリたちを前に、アズマ准将の怒鳴り声が響く。

「地球連合宇宙軍少佐ホシノ・ルリです」

「同じく連合宇宙軍大尉、タカスギ・サブロウタ」

「そんなことを聞いているのではない! 何で貴様らがそこにいる!!

 再び、アズマの怒声が司令室に響く。

「先日のシラヒメの事件において、ボソンの異常増大が確認されています。ジャンプシステムの管理に問題がある場合、近辺の航路並びにコロニー群に影響があります」

 淡々としたルリの口調。

 動じないルリにハーリーが顔を赤らめているような気もする。

「これはコロニー管理法の緊急査察条項が適応されますので、あしからず………」

「ヒサゴプランに欠陥は無い!!

 怒鳴りながら、スキンヘッドのアズマの頭が赤く染まっていく。

「あれじゃ、まるで茹ダコだな、ハーリー」

 サブロウタが小声でハーリーに話しかける。

「ブッ………サ、サブロウタさん、駄目ですよ! そんなこと言ったら!」

 突然、言われ、思わず吹き出しそうになるハーリー。

「まあまあ准将。宇宙の平和を守るのが我らが連合宇宙軍の使命、ここは使命感に燃える少佐に安心していただきましょう」

 今までアズマの横でヘラヘラと笑っていた男が口を挟む。

 そこはかとなく、不愉快さを撒き散らす男である。

「クッ、おまえがそう言うなら、仕方が無い。勝手に調べろ!!」

「わかりました。それではこれで失礼します」

 許可が下りたことを確認し、ルリたちは司令室を後にした。

「サブロウタさん、ハーリー君、二人は先にナデシコに戻ってください。やってもらいたいことがあります」

「? 了解!

 ルリの考えが読めたのか、にやりと笑って答えるサブロウタ。

 一方、ハーリーの方は不安そうに、

「艦長それって………」

 ルリに問いかける。

「この場合、仕方がありません」

 まるで私は悪くありませんとばかりのルリ。

「でも………」

「わがまま言ってないで行くぞ!」

 サブロウタのその言葉でハーリーは渋々ナデシコに戻っていった。

(そういえば、カイトさんはをしているんでしょうか?)



 そのカイトはといえば、

「あ、アカツキさん、お久しぶりです」

 ルリの部屋を無断で使用しながら、アカツキとコンタクトを取っていた。

「? カイトくんかい? 君は確か………」

 モニター越しに見えるアカツキの驚いた表情。

「戻ってきたんです。仕事で」

「はは、なるほど。君も大変だね〜。それで僕に何の用だい?」

「ビジネスの話をしませんか?」

「そりゃ、君がボソンジャンプ実験に協力してくれれば、うちとしても助かるんだけどねぇ」

「オモイカネに聞きましたけど、ヒサゴプランのせいでクリムゾンにシェアを奪われているそうですね」

「痛いとこ突くね、君も」

「そのシェア、一気に取り返したいと思いませんか?」

 カイトの言葉に、アカツキの表情が変わる。

 ナデシコクルーとしてのアカツキではなく、ネルガル会長のアカツキの表情である。

「出来るのかい?」
「………そうですね。例えば………オモイカネをボソンジャンプの中継器トランスレータとして使う………とか?」

「どう言うことだい?」

「コンピュータ的な話なんですけどね、A級ジャンパーやBジャンパーは遺跡………まあユニットというんですが、それのアクセス権を遺伝子的に持っているんです。だから、遺跡はジャンパーの命令を実行するわけです。つまり、普通の地球人がジャンプできないのは、アクセス権がないからなんです」

「つまり、不正アクセスをするから消されちゃうってことかい?」

「簡単に言えばそうですね。だから、オモイカネを経由してジャンプ命令を出せば、ユニットは正規の命令だと解釈するわけです」

そりゃ凄い! つまり、僕にもジャンプできるようになるってことか!?」

「そうです。最も手っ取り早いのは地球人の遺伝子を遺跡に登録することなんですけど、それじゃネルガルの商売にならないでしょうし、なにより法に違反しますからね」

「? ………法って、法律かい?」

「そうです。ボソンジャンプを管理するためのものなんですが………向こうでも普通、ジャンプするためにはオモイカネのようなコンピュータをトランスレータとして使うんです。トランスレータは、過去へのジャンプや禁止区域へのジャンプを防ぐための役割も持っているんですよ。そうしないと、時間の概念が滅茶苦茶になってしまいますからね」

「なるほどねぇ………古代火星人も結構大変なわけだ」

「ま、そういう訳です。どうですか? 悪い話ではないと思うんですけど?」

「そりゃうちとしたら願ったり叶ったりだよ。それで、ネルガルは君に何をすればいいんだい?」

「僕の仕事を全面的にバックアップして欲しいんです」

「ボソンジャンプの利権が手に入ることを考えれば、安いもんだね。ところで、君の仕事ってなんなんだい?」

「そうですね………あえて言うなら、宇宙を守ること………ですかね」



「みなさ〜ん、こんにちは〜〜〜!」

こんにちは〜〜〜

 ヒサゴプランのイメージキャラクターである黄色い物体のヒサゴンの挨拶にルリの前にいる子供たちが答えた。

「未来の移動手段、ボソンジャンプを研究するヒサゴプランの見学コースへようこそ! ガイドは私、マユミお姉さんと」

「ぼく、ヒサゴン!

 ガイド役のお姉さんとヒサゴンの自己紹介。

 ピンクで統一されたお姉さんとヒサゴンのコンビは、きっぱりとヒサゴプランとは別ベクトルを進んでいることを示している。

「なんと今日は、特別ゲストです。皆さんと一緒にコースを回ってくれるのは、あの!」

「史上最年少の天才美少女艦長、ホシノ・ルリ少佐でーす♪」

よろしく

 いつもの調子でルリがピースをすると、子供たちもそれに答えるように満面の笑みでピースをした。



「ふむ………領域11001までクリア。そろそろ行こうか?」

 ナデシコブリッジ。

「データ検索、絹ごし………できたスープを順次ぼくに。スピードはわんこの中級………」

 ハーリーはルリの命令で、ウィンドウボールを展開して、アマテラスへのハッキングに勤しんでいた。

「よっ!!」

 突然、ウィンドウボールの中にサブロウタが入ってきた。

「うわぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ぁ」

 ブリッジにハーリーの叫びが響き渡る。

「なに驚いてんだ、おまえ?」

「サブロウタさん………ウィンドウボールの中に勝手に入らないでください!」

「ところで、カイトのヤツ、知らないか?」

「えっと………ボソンジャンプで来た人ですよね………いました、食堂でラーメン食べてます」

 ウィンドウの一つが、ぴこりとカイトを映し出す。

 カイトはずずっとスープを啜った後、

「何か用ですか?」

「あ、いや、メシ食い終わったらさっきの話の続き、いいか?」

「………分かりました。食べ終わったらブリッジに行きます」

「おう」

 話を終えて、ウィンドウが閉じられる。

「はぁ………でも、いいんですかね? これハッキングですよ」

「しょうがないだろ、調査委員会も統合軍もなんか隠してるみたいだしなぁ」

「でも………艦長が………」

「その艦長がおマヌケやってんだから、そのスキに掴めるもんは掴んじまおうぜ」

「わかりました………」



 カイトがブリッジに着いた頃、ハーリーとサブロウタはハッキングに成功していた。

「あ〜〜、やっぱり。公式の設計図にないブロックがありますね」

「襲われるなりの理由って奴かな? よし、次いってみよう!」

 話どころではなくなったブリッジで、カイトはハーリーのウィンドウを盗み見ながら、アマテラスの構造図を頭の中に叩き込んでおく。

「ボソンジャンプの人体実験? ………これ、みんな非公式ですよ。」

「酷いですね」

「あッ!?」

「バレたか?」

「モード解除、オモイカネ、データブロック!」

「進入プログラム、バイパスへ!」

 ハーリーは的確に指示を出す。

 が、

何!?

 今まで普通に表示されていたウィンドウが、

『OTIKA』  と表示されたのだ。

 そして、この怪現象はナデシコだけでなくアマテラス全体にも及んでいた。



「ハーリー君、ドジった?

 ウィンドウに映るルリの姿。

「僕じゃないです! アマテラスのコンピューター同士のケンカです!」

 ハーリーの言っている事は間違いではない。

 ハッキングであることを気付かせないほど、相手の力量が高すぎるのだ。

「ケンカ?」

「そうです! そうなんですよ!!

 あくまで自分が悪くはないとアピールするハーリー。

「今の騒ぎは、そいつが自分の存在をみんなに教えてるっていうか、こちらをからかっているっていうか………」

 ルリはハーリーの話を聞き流しながら、考え込んでいた。 『OTIKA』=『AKITO』

 不意に浮かぶイメージを理解した瞬間、ルリは走り出していた。

「どうしたんですか? 艦長? ちょっと待ってくださいよぉ〜〜〜!」

 ハーリーのウィンドウがルリを追いかけていく。

「ハーリー君、今からナデシコに戻ります。」

「え?」

「敵が来ますよ!」

 ルリは走りながら、きっぱりと言った。



「ボース粒子の増大反応を確認!」

 アマテラスの管制室では突如発生した事態に混乱していた。

「全長約10m、幅約15m! ボソンアウトしてきます」

 第一次ライン上に光の粒子が形作っていく。

「識別不能、相手反応ありません」

 アマテラスに、アキトの乗るブラックサレナ………Prince of Darknessが姿を現した。

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あとがき

作者 :思ったよりも遅くなってしまいました。
ルリ :サイトの移転なんかしているからです。自業自得ですね。
作者 :いいじゃん、PHP4を使いたかったんだから。
ルリ :………開き直りましたね。
作者 :でも、ページ全体にフレームを使わなくなってるから、見やすいと思うんだけど。
ルリ :言い訳です。認めません。
カイト:まあまあ、ルリちゃん。2,3ヵ月更新しないことを考えれば、
作者 :………肺腑を抉る様なコメント、アリガトウ
ルリ :目の色、ですよ。
作者 :決めた………三角関係にする。
ルリ :? どうしたんですか、突然。
作者 :アキト−ルリ−カイトの三角関係の話にする。
ルリ :、大丈夫ですか?
作者 :私は大丈夫に決まっている。二股ルリちゃん。
ルリ :(ピク)どういう意味ですか?
作者 :ふふん、言うまでもないな、二股くん
ルリ :(ピクピク)カイトさん………作者を………って?
カイト:ルリちゃん………ルリちゃんが二股なんて(憐みの目)
作者 :くっくっく、カイトはよく分かっているらしいな………。
ルリ :どういう意味ですか(怒)
作者 :ルリちゃんの本性(爆)
ルリ :ハーリー君、GO!!
ハリ :うわぁぁぁぁぁ〜〜〜ん
   :どうしてボクの名前じゃないんだ〜〜〜!!
SE :どがっ!! 作者 :く………まさかハーリーくんとは………。
   :だが、覚えているがいい。
   :例え私を倒そうとも、第二第三の私が、必ずルリちゃんを二股に───
SE :どしゅっ!!
ルリ :私、二股じゃありません。正統派ヒロインです。

くっくっく、Phosphorです。
宣言どおり、ルリちゃんには二股くんとして活躍してもらうことにします。
ちなみに、カイトも二股。
アキトは………幾つだ? 二つや三つではないはず………。
………外道ばっかだな、この話(爆)

アキト:おい、ところでユリカはどうなるんだ?
作者 :ふん、言うまでもない。消えてもらうさ。
アキト:何だと(殺気)
作者 :そう焦るな。よく考えてみろ。
アキト:何を考えろというんだ………。
作者 :年増のミスマルユリカと、ハイティーンのホシノルリ………
   :聞くまでもないな(外道
アキト:くっ………確かにその通りだ(その通りか?)
   :だが、俺はユリカを………。
作者 :一つ聞こう。お前はあの女のどこに惚れたんだ?
アキト:どこだと………くっ………なぜだ、なぜ思い浮かばない(爆)
作者 :致命的な料理センス、無軌道な行動パターン。
   :そして、破滅的な自己中………改めて考えてみると最悪だな(本音
アキト:くっ………そうなのか、俺は………俺は………。
作者 :この際だ、教えてやろう。
アキト:何をだ………。
作者 :お前は、閉鎖的空間(ナデシコ)で言うならば心神耗弱にあった。
   :そこへ、あの「アキトは私が好き」のフレーズを繰り返し聞くことによって、
   :一種のマインドコントロールを受けた状態にあったのだ(適当)
アキト:そ………そうだったのか………。
作者 :そうだ。そろそろ本当の自分を取り返したらどうだ、テンカワアキト。
アキト:そうか………そうだったのか、俺は本当はユリカが好きじゃないんだ。
作者 :よくやったな、テンカワアキト。今日から君は自由だ。
   :何にも束縛されることはない、
   :真実の愛のために戦うνテンカワアキトだ!!(ある意味洗脳中
アキト:………感謝する。俺は………俺は今日からνテンカワアキトだ!!!!

作者 :くっくっく、計画は順調に進行中である(続きません)

それでは、次回『Collapse of AMATERASU(予定)』でお会いしましょう。

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