その瞳に映るのは
(一)
熱を帯びて潤んだ瞳が追い縋る。縋り、言葉ならぬ声での哀願。
寝台の上。高い衣擦れを響かせながら身体を広げる、見せつけるように、ツ...と膝を立てた。腰を浮かせ、はや昂りかけた自身にそっと指先を添える。と、こんな僅かな刺激にも耐えかねたのか身を粟立たせ、かみ殺した嬌声に甘く喉をきしらせた。
---愛撫の欲求---
------私に向けられた---
眼前で繰広げられる痴態を眺める内にふと、ほの暗い嗜虐心が頭をもたげ始めるのを感じた。淫媚で悪魔的な誘惑。無力な愛玩動物を玩弄する時のような、あの一種異様な歓喜が私の背筋を突き抜け、思わず唇の端が歪むのを憶えた。
そんな私の内心を察せられるとでも云うのだろうか。滑らかな、陶器と見紛う肌は、瞬く間にしっとりと露を含んだ薔薇色へと染まっていった。
散らしてしまいたい。丁重に、細心の注意を払って、一枚一枚、花弁を引き毟るのだ。
---容赦無く---
私の内側、魂の最奥に巣くう何者かが、ぞろり...と蠢いた。
寝台に近付いた私は、その端に腰掛ける。ゆったりと脚を組みながら、今一度自らの意志でもって差し出された、この瑞々しくも麗しい贄を眺めやった。
ねっとりと、ほとんど質量さえ備えんばかりの、執拗な視線を落としかける。あらゆる隆起、襞の隅々までもを暴き、絡め取り、舐り廻す。
「いい眺めだ」
切な気に、震えながら鼻腔を抜ける吐息だけがそれに答えた。
上体を捻って、彼の肢体を跨ぐ格好に手を付く。スプリングがぐっと沈むと、そのまま耳元に唇を寄せた。
はらと落ちた髪が、互いの頬を撫でる。これから訪れるだろう快楽の予感に、身震いしたのは彼なのか私なのか......。
「して......」
「なにを?」
--先に言葉を発したのは彼の方だった。
「はぁ...ぅ...お願いだ...から...」
「なにをして欲しいのかきちんと言ってごらん」
--普段は清気なその唇から、卑猥な言葉が紡がれるのを聞きたい。
「...っあ......俺の.........に、触れて...」
「どうやって?」
--さかりの憑いた犬猫並みに、尻を振りたたせて見たい。
「あン...あン...っ...願いだから、ん...ロビン...っ」
「欲しいのなら自分の手で慰めるといい」
--恥辱と快楽にまみれて喘ぎ、悶える様を見せておくれ。お前の芸で、私の目を存分に楽しませておくれ。
「ロビ...」
「してごらん、Jr。私の見ている前で、さぁ」
眉間に皺をよせながら、いやいやとかぶりを振る。短く刈り込まれた銀糸の髪が、ぱっと左右に散って夜目にも妖に煌めいた。
---拒絶のしぐさ---
「自分で処理しなさい、手と指でもって。 射精へと導きなさい」
--逆らう事など許しはしない。
鋭利な刃物の放つ光輝---捕食者のそれ---圧倒的優位に立つ---を半眼の眼差しにたたえて言い放つ様は、さながら神の宣告にも似て、目前の獲物の耳に鳴り閃いた事だろう。
伏目がちな睫毛が、『屈辱』と『羞恥』に戦慄くや『諦め』へと目紛しく移行し、最後に『服従』へ辿りつくまでには、幾許の間もかからなかった。
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