THE WHEEL OF FORTUNE 3
いつから自分がこうしているのか、彼にはわからなかった。気づいた時にはもうここにいたのだ。
空は雲一つなく青く晴れ上がり、日の光が温かく降り注いでいる。
ここがどこなのかも、彼にはわからない。なのに、こここそが自分がいるべき場所であると、なぜか彼は納得していた。
誰かに呼ばれたような気がして振り向いた先に、彼女の笑顔を見つける。彼は手を上げてそれに応えながら、駆け寄ろうとした。
だが、おかしなことに一向に近づくことができない。
もどかしい
ついには走り出しても、その距離は縮まらない。
それどころか、少しずつ遠ざかっていくように思うのは、気のせいだろうか。ただひたすら走り続けても、笑顔は次第に遠ざかっていくようだ。それなのに、なぜか不思議とは思わなかった。
どれくらい走ったのだろう。彼はふいに、そんなことを考える。
その時、突然落ちてきた雨に流されて、光の道は彼の目前で途切れた。深い絶望が足先から這い上がってくる。
見つめることしかできない彼の前で、彼女の唇がゆっくりと動く。
『さようなら』
音のない声が、彼の心に響く。行くなと叫びたいのに、声が出せない。全身がまるで凍りついたように動かない。光の道を滑るように昇っていく背中を、彼はただ見送るしかなかった。
そんな彼の心が聞こえたのか、彼女が振り返って優しく微笑んだ。
その姿を最後に、全ての光は消え失せた。辺り一面が黒い闇となった途端、彼の身体は短くも長い呪縛から解き放たれる。
しかし、その心は凍りついたまま、蒼白い炎に包まれていた。
どこからか、カラカラという音が聞こえてくる。
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