暖かな日差しで目が覚めた。 確かに日当たりがいい場所だった。 ラファは僕よりも先に目が覚めていたようで、目を開けたら見つめる青い瞳にぶつかった。 「おはよう」 「あ――。おはよ…」 「起こしてくれてよかったのに」 「そんなに前に起きた訳じゃないから」 「そう?それにしても、本当にここは日当たりがいいんだね」 僕はラファを抱きしめたままゆっくりと起き上がる。 「うん。色々試してみてここが一番暖かかった」 「どのビルでも試してるの?」 自分の体勢を整えて、それからラファが苦しくないように毛布ごと抱き寄せる。 「暖かい所と涼しい所と両方。…アル」 「何?」 「この体勢、傷――痛まないの?」 「平気だよ。大分塞がってるし。こうしてると暖かいしね?ラファは苦しい?」 「いや。そんなことはないけど…。その――普通しない…かなって」 「しないよね。でもここ寒いし、温まるにはいいんじゃない?」 普通どころか、今まで寝た相手とこんなことしたことない――と思う。 それが気持ちよければいいだけ。一晩限りかお互いしたいからってだけで。 我ながら、褒められない生活だよなぁ…。 それなのに。 どうして一目惚れで。男相手なんだろうね? しかも。僕の気持ちなんか全然、察しそうもない。 実際、毛布をもう一枚調達してくれば1人で寝られるのに、わざわざ一緒に使ってるのに。 夜だけじゃなくて、昼に話をする時や移動するときも―― わざと近づいて、触れて。ふざけるように抱きついたり。 僕がからかってると思ってるんだろうか。ちゃんと言わないと気づいてくれないかなぁ…。 「僕、な、にか…した?」 そんなことを考えてじっと見ていたら、怪訝そうな顔で聞かれた。 「…んー。してるのは僕の方かなぁ」 ちょっといたずら。 背中の辺りから服の中に手を滑り込ませた。 「っ!あ、アルっ。くすぐったっ…」 身を捩って、逃げようとするのを体勢を変えて押さえ込む。 「ぁう。んっ―――」 「ラファ、くすぐったがりだね」 「ち、ちがっ」 「だって、ちょっと触ったぐらいでくすぐったそうじゃないか」 そう言ったら、驚いたような顔をした。 「今まで、こんなこと…ない」 「そうなの?」 「逆のことは言われる…けど」 ぎゅっと眉が顰められる。 「…言いたくないことは言わなくていいよ?」 「ん――」 「ごめん。嫌なこと思い出させたね?」 「アルのせいじゃない。その…アルと一緒だと、色んなことが普段と違ってるから」 「そう?…どんなことか、聞いてもいい?」 何が変わるんだろう? 「…今みたいに、くすぐったいとか――ないし。後は、誰かと一緒でぐっすり眠ったのも、ないし」 「そうなの?」 それは特別、と思っていいのかなぁ。 「何でかって聞かれると解からないけど」 「じゃあ、考えてくれる?どうしてかって」 「――どうして?…って凄く、難しそう…」 「直ぐじゃなくてもいいから。答えが出たら教えてくれる?いつになってもいいから」 「ん。考えて…みるよ」 ずるいよなあ僕は。 考える、ってことは僕のことを考えるてことで。 絶対忘れさせない。離れてても、僕のことを思い出すように――って。 「……また、会えるってことだよ…ね?アル」 「勿論。会わないつもりだったの?」 「違うとこにいるって、言ってたから。無理なのかなって少し、思ってた」 確かに、ここでしか会えない。 ここででも、大手を振って会えるかというと難しい。 「あ…そうだ。アル、病院…行こう」 「え?大丈夫だよ?かなり塞がってるし、痛みもかなり引いてるし」 唐突に、ラファが言い出した。 「今日はもうドクターが帰ってるから、一応診ておいて貰った方が安全だよ」 「病院…か。目立たない方が僕としてはいいから…」 僕もそうだけど、ラファと僕だとさらに目立つ筈だし。 「それは、大丈夫。僕がここで世話になってる人で、居場所の1つだから」 「世話に?」 「うん。ここに来た最初のときに拾って治療してくれた人」 「へえ…」 ラファだけじゃないんだ。でも医者なら、有り得る…?いや、ただで助ける人は多くはないな今時―― 「行こう?アル」 「わかった。知り合っておいて損はない人、なんだね」 「うん。いい人だよ」 んー。手放しにそうなんだ、って肯定したくない気持ち。 ―――。これって、嫉妬――?みたい? …ラファは僕のものじゃない。 会ってまだ数日だって言うのに。 僕はこんなに独占欲、あったのか? 自分で自分の感情が計り知れなくなってきている。 「じゃあ、行こう?アル」 いつの間にか、僕の腕の中を出て荷物を仕舞って。 準備を整えたラファに促される。 「ああ、うん」 早く治るに越したことはない。 治れば、戻らなければいけないけれど、ずっとここにいる訳にもいかない――― まだ少しだけ引きずる左足を庇いながら、ラファの後についてビルを出る。 そして2人で、ラファの知り合いのドクターの病院へと歩き出した。 2010/11/25
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