Demilitarized Zone -vol.7

暖かな日差しで目が覚めた。
確かに日当たりがいい場所だった。
ラファは僕よりも先に目が覚めていたようで、目を開けたら見つめる青い瞳にぶつかった。
「おはよう」
「あ――。おはよ…」
「起こしてくれてよかったのに」
「そんなに前に起きた訳じゃないから」
「そう?それにしても、本当にここは日当たりがいいんだね」
僕はラファを抱きしめたままゆっくりと起き上がる。
「うん。色々試してみてここが一番暖かかった」
「どのビルでも試してるの?」
自分の体勢を整えて、それからラファが苦しくないように毛布ごと抱き寄せる。
「暖かい所と涼しい所と両方。…アル」
「何?」
「この体勢、傷――痛まないの?」
「平気だよ。大分塞がってるし。こうしてると暖かいしね?ラファは苦しい?」
「いや。そんなことはないけど…。その――普通しない…かなって」
「しないよね。でもここ寒いし、温まるにはいいんじゃない?」
普通どころか、今まで寝た相手とこんなことしたことない――と思う。
それが気持ちよければいいだけ。一晩限りかお互いしたいからってだけで。
我ながら、褒められない生活だよなぁ…。
それなのに。
どうして一目惚れで。男相手なんだろうね?
しかも。僕の気持ちなんか全然、察しそうもない。
実際、毛布をもう一枚調達してくれば1人で寝られるのに、わざわざ一緒に使ってるのに。
夜だけじゃなくて、昼に話をする時や移動するときも――
わざと近づいて、触れて。ふざけるように抱きついたり。
僕がからかってると思ってるんだろうか。ちゃんと言わないと気づいてくれないかなぁ…。
「僕、な、にか…した?」
そんなことを考えてじっと見ていたら、怪訝そうな顔で聞かれた。
「…んー。してるのは僕の方かなぁ」
ちょっといたずら。
背中の辺りから服の中に手を滑り込ませた。
「っ!あ、アルっ。くすぐったっ…」
身を捩って、逃げようとするのを体勢を変えて押さえ込む。
「ぁう。んっ―――」
「ラファ、くすぐったがりだね」
「ち、ちがっ」
「だって、ちょっと触ったぐらいでくすぐったそうじゃないか」
そう言ったら、驚いたような顔をした。
「今まで、こんなこと…ない」
「そうなの?」
「逆のことは言われる…けど」
ぎゅっと眉が顰められる。
「…言いたくないことは言わなくていいよ?」
「ん――」
「ごめん。嫌なこと思い出させたね?」
「アルのせいじゃない。その…アルと一緒だと、色んなことが普段と違ってるから」
「そう?…どんなことか、聞いてもいい?」
何が変わるんだろう?
「…今みたいに、くすぐったいとか――ないし。後は、誰かと一緒でぐっすり眠ったのも、ないし」
「そうなの?」
それは特別、と思っていいのかなぁ。
「何でかって聞かれると解からないけど」
「じゃあ、考えてくれる?どうしてかって」
「――どうして?…って凄く、難しそう…」
「直ぐじゃなくてもいいから。答えが出たら教えてくれる?いつになってもいいから」
「ん。考えて…みるよ」
ずるいよなあ僕は。
考える、ってことは僕のことを考えるてことで。
絶対忘れさせない。離れてても、僕のことを思い出すように――って。
「……また、会えるってことだよ…ね?アル」
「勿論。会わないつもりだったの?」
「違うとこにいるって、言ってたから。無理なのかなって少し、思ってた」
確かに、ここでしか会えない。
ここででも、大手を振って会えるかというと難しい。
「あ…そうだ。アル、病院…行こう」
「え?大丈夫だよ?かなり塞がってるし、痛みもかなり引いてるし」
唐突に、ラファが言い出した。
「今日はもうドクターが帰ってるから、一応診ておいて貰った方が安全だよ」
「病院…か。目立たない方が僕としてはいいから…」
僕もそうだけど、ラファと僕だとさらに目立つ筈だし。
「それは、大丈夫。僕がここで世話になってる人で、居場所の1つだから」
「世話に?」
「うん。ここに来た最初のときに拾って治療してくれた人」
「へえ…」
ラファだけじゃないんだ。でも医者なら、有り得る…?いや、ただで助ける人は多くはないな今時――
「行こう?アル」
「わかった。知り合っておいて損はない人、なんだね」
「うん。いい人だよ」
んー。手放しにそうなんだ、って肯定したくない気持ち。
―――。これって、嫉妬――?みたい?
…ラファは僕のものじゃない。
会ってまだ数日だって言うのに。
僕はこんなに独占欲、あったのか?
自分で自分の感情が計り知れなくなってきている。
「じゃあ、行こう?アル」
いつの間にか、僕の腕の中を出て荷物を仕舞って。
準備を整えたラファに促される。
「ああ、うん」
早く治るに越したことはない。
治れば、戻らなければいけないけれど、ずっとここにいる訳にもいかない―――
まだ少しだけ引きずる左足を庇いながら、ラファの後についてビルを出る。
そして2人で、ラファの知り合いのドクターの病院へと歩き出した。

2010/11/25

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