「ドクター」 「ラファエル?こんな早くから珍しい。怪我でもしたのかい?」 ビルの1F。ここが病院なのか、わからない外観だ。 「僕じゃないけど、怪我」 「おや、見かけない方だね」 「はじめまして」 穏やかそうな見た目の人だ。 「こんにちは。んー?中立(ここ)で治療でいいのかな?」 「ええ。ここで負った怪我ですから」 僕のことを知ってる、か。 「ついでに言うと。ラファといて大丈夫かな?」 やっぱり。僕が『北』の人間で、ラファが『南』の人間だと知っている。 「多分、ですけれどね」 「――――?」 ラファは僕とドクターを見比べて不思議そうな顔だ。 僕が誰かなんて、全く関心がなかったってことか。 「ラファは気づいてないんだね?」 ドクターが苦笑してラファに言った。 「何…?」 「僕とラファは居る所が違うって、言ったよね?」 「ん。よく考えたら、同じ場所って有り得ない」 「ラファエルは自分が幹部だなんて思ってないからねぇ」 そういうこと?だから他の人間のことも知らない、と。 「成程――」 「―――アル、偉い人なのか?」 「どうだろ?」 偉い、か。幹部なんて言われても、『北』は今は10人以上いるし 「おやおや。アルカナが何を言うのかな」 「―――」 この人は、僕の称号まで知っているのか? 「心配しなくても。何処に属してる訳でもないから」 「でも、知ってはいるんですね?」 「ここにいる以上、それなりに情報は持っているよ」 ただの医者じゃ、ないってことか? 「ま、私が知っているというよりは。ラファが無頓着すぎなのだけどねぇ」 「そう…?」 名前を出されたラファはちょっと意外そうに言う。 そっちの方が、意外だけど…な。 「確かに、否定できませんね」 「……アルもそういうなら、やっぱりそうなのか…僕」 「ラファエルはまず、自分がどうしたいのか決めないといけない」 「―――」 どうしたいのか?ここでどうしてそんな話を? 「考える、けど―――難しい」 「どうしたいのか、ってどういうこと?」 「僕が今の所にいるのは、拾って助けてもらったから。恩があって、他に行く所も…ないから」 拾って貰った?それに行く所がない、って生まれたとこが南じゃないってことか? それとも家はないから、ということなのか? 「嫌だったらはっきり断りなさい」 「うん…判ってる」 これは、居る居ないの問題じゃなくて。日々の扱いの問題の方? ドクターを探るようにじっと見たら、「そうだ」というように静かに少し頷いた。 「――――うん」 ラファもそれを判っているようで、重く、頷いた。 「自分が壊れてしまっては、元も子もないぞ?」 「そうだね。ありがとうドクター」 「君もね」 と、僕の方をいきなり向いた。 「え…?」 「真実を探したいのか、隠されているものが欲しいのか。それから、今欲しいものを手にするにはどうすればいいか」 「―――」 最後は、付け足したように言ったけれど。それは、僕のラファへの感情のことだろう…。 「ちゃんと考えてみるといいと思うね?」 「ええ。そうですね」 最後は、特に。 「年長者の、余計なおせっかいだけれどね」 またのんびりとした口調になってドクターは言った。 「いいえ。きっかけではありますが、いつまでも子供で居られる訳じゃない。考えることは必要ですね」 意味のない抗争に、命をかけるだけの気持ちが、そう。なくなっている。 「さて。君の検査をしなくてはね。CTを撮ろう」 「はい」 機械に入って、状態を撮影して。その結果は、怪我の治癒待ちでいいとのことだった。 「痛みが長引くようだったら、鎮痛剤を処方するから。遠慮なく言ってくださいね」 「わかりました。ありがとうございます。費用は後でも大丈夫でしょうか?」 「ええ。特に君は有名人ですから踏み倒すこともないでしょうしね?」 笑顔で言われてしまう。元から踏み倒す気もないけれど。 「終わった?」 ラファが扉から顔を覗かせる。 「ええ、連れて行ってあげてください」 「?ありがとうございました」 診察室を出て、廊下へ出る。 「上、行こう」 「上?」 手を引かれて階段を上がる。 使われていない病室、のようだ。 「左側使って?」 「入院するほどじゃないけど」 「僕が来る時いつも、この部屋…借りてるから」 いつも、ということはここへよく来ているということなのか。 「病人じゃないのに?」 「一応、手伝いしてるから住み込み?」 「住んでないと住み込みって言わないよ」 「う…じゃあ、間借り…かな」 「それも違いそうだけど、お言葉に甘えるよ。ありがとう」 あの人は随分と親しい、のか。 見た感じ、ラファとそういう関係には見えないし、そういう感情がありそうにも感じない。 「ラファはドクターと親しいんだね?」 「ん。助けてくれた後、ここにいていいって言ってくれたから」 「時々泊まってるんだ?」 「うん。落ち着いて、帰る前には必ず」 「帰る…か。」 聞いて、いいだろうか…? 「ラファは南の生まれじゃないの?」 「わからないから」 「わからない?」 「僕の記憶は、瓦礫から始まってて。そこから助けてくれたのが、ミカエル」 やっぱり、『南』か… 「南のリーダー、だね」 「そう、みたい。だから、僕はミカエルの所有物」 2010/11/29
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