エピローグ―依頼―

「こんにちわー。」
「か、香さん!!!今までどこにいたの?」
「へへ・・。ご心配おかけしました。」
「おかけしましたじゃないわよ!!本当に心配したんだからー!!!」
そう叫ぶと、女店主はカウンターを飛び越え女の元に駆け寄った。アルバイトの女子大生はバツが悪いのか影を潜めた。
「どうしたの?何があったの?こんなに痩せちゃって。やだ首筋に痣があるじゃない!!大丈夫なの?」
女店主が心配した痣はパートナーに愛された痕だという事実を女は口にできなかった。
「・・・・・。しょ、詳細はまた今度ゆっくり話すわ、美樹さん。とりあえず大丈夫よ。心配かけてごめんなさい。」
「とにかく無事でよかったわ。やっぱり・・・原因はあれ?」
女店主が指差す方向を見ると、パートナーが情けない顔で行き交う女性に声をかけている姿があった。
「・・・・。まあね、無きにしも非ず・・・かな。」
女はパートナーの情けない姿にがっくりと肩を落とした。
「そうよね・・・。あんなのだったら白人の紳士のほうが・・・。」
「え?美樹さん、彼を知っているの?」
「実はね、香さんがきれいな白人の男性とレストランに入っていくところみたのよ。遠目だったし、よく分からなかったけど。」
「そう・・・。」
「あの後冴羽さんのトコに戻ったの?」
「・・・?ええ・・・。」
「でも、香さんが他の男とデートしている現場に乗り込むなんて、冴羽さんも趣味が悪いわね。」
「え?僚に会ったのはレストランでじゃないわよ?」
「そうなの?あの場に冴羽さんもいたわよ?!その白人の男性と話をしていたみたいだし。
 何かカードみたいなものを渡されていたような・・・。」
「カード?」
「遠目だったからよく分からないけど。冴羽さんに聞いてみたほうがいいんじゃない?それより、そろそろ・・・。」
そういって女店主が指差す方向を見ると、嫌がる女性に執拗に迫る情けない顔のパートナーの姿があった。
「僚〜あんたって人はぁあああ!!」
そう言い放ったかと思うと、女はハンマーを携えて勢いよく表へと飛び出して行った。
「物好きね、香さんも・・・。」
「フンッ。ようやく成長したなあの二人・・・。」
「え?ファルコンどういうこと?」
図体のでかい男は頭から湯気を上げ、赤面した。女店主は何が何だかわからないといった様子で立ちつくしていた。

勢いよく男をハンマーで地面に沈めると、そこに美人刑事が艶めかしい肢体をくねらせながらやってきた。
「おかえりなさい、香さん。」
「冴子さん・・・。ご心配おかけしました。」
「物好きね、こんな男の元に戻ってくるなんて・・・。」
「こんな男とはなんだよ〜冴子〜。」
「あら僚、自覚がないのが一番よくないわよ。
 そうだ、はいこれ頼まれていたものよ、僚。あなたがこんな事するなんて正直驚いたわ。
 手数料としてツケから3発引いておいてね。」
「なにー!こんなこと1発で十分だろ。」
「あらそう?香さん、あなたがいなくなって僚ったらねぇ、取り乱しちゃってそれはもう・・・・。」
「わーったよ!!3発引いとくよ。」
「あらあ、気前がいいのね。男はそうでなくっちゃ。じゃあまたね香さん。」
そう言って女刑事は去って行った。
「ぐぞー冴子のやつ〜〜〜。」
「ふ〜ん、取り乱してたんだ〜。」
「う・・嘘だぞ!あんな雌狐の言うことなんか。信じるなよ!!」
「別に〜。で、冴子さんに何を頼んだの?」
「なーに、ちょっとした事務手続きをな。」
「事務手続き?」
女は男の顔を覗き込んで聞きだそうとしたが、のらりくらりと男にかわされ、真実を聞きだすことはできなかった。
アパートに帰る道すがら女は次々と街の人間に声をかけられた。
皆おかえりと言うのと同時に、よくぞこんな男の元に帰って来てくれたと口々に言った。
そんな様子を男は目を細め眺めていた。
「な、そんな街じゃなかっただろ?」
「うん・・・うん。」
女は胸がいっぱいになって涙をこぼした。
「僚、お前またこんな道の真ん中で香クンを泣かしてー。」
「ミック!人聞きの悪いこと言うな!!」
何処からとも無く現れた男と同類の男はそんな男の言葉に耳もかさず、素早く女の肩を抱いた。
「おかえり、香。」
同類の男は女をみつめた。女は慣れたようにふっと笑って
「ただいま。」
と言って微笑みを返した。そんな同類の男の背中に、男は銃口をつきつけた。
「ジョークもわからないのか・・・嫉妬ヤロウ。」
「ジョークとは思えんがな。」
そう言って男は同類の男の膨張した股間に銃口を向けなおした。女は呆れた。
「あ!かずえさん!!」
「え?!どこどこ?」
同類の男は女の肩に置いていた手を素早く離すとあたりをキョロキョロと見回した。
「うっそ。ミックもかずえさんにあっちゃあ、形無しね。」
そう言うと女はクスクスと笑った。同類の男はバツの悪そうな顔をした。
「元気そうでなによりだよ・・・香。今度僕と・・・・。」
そう言って再び女の肩を抱こうとしたその時、伸ばした手をつねられた。
「アゥチ!何するんだ!りょ・・・・。」
振り向くとそこには自身の手をつねる最愛の女の姿があった。
「か・・・・ずえ・・・。」
「香さん、おかえりなさい。ミック!ちょっと!!」
「ば、バァイ、香・・・。」
同類の男は最愛の女にズルズルと引きずられるようにして、去って行った。
「僚・・・、あたし二度とこの街から離れない!もちろんあんたの元からもね。覚悟しなさいよ!!」
女はそう言って男の腕に自身の腕を絡めた。
「とほほ・・・。りょうちゃんまだ囚われたくないー。」
「だ〜め〜。」
女はそう言って太陽のような笑顔を男にむけた。男はその眩しさに目を細めた。
「あ、そうだ。僚あのレストランに居たんですって?テッドから何を渡されたの?」
「ラブレターさ。」
「ラブレター?」
またもや女は男にはぐらかされてしまった。女は腑におちないといった表情のままアパートへと帰っていった。

 『 to 冴羽
   幼い頃から私はこの世界で生きるための教育をされ、CITY HUNTER超えろとよく言われたものだ。
   日本に帰る気になったのも香のこともあるが、CITY HUTER、きみに対峙するためでもあったんだよ。
   今となってはその夢も夢でしかなくなってしまった。
   この世界での地位も香も手に入れているきみを、そして自分の運命を恨んだ日々もあった。
   そんな恨みを晴らす時間も力も今の私にはもう残されてはいない。
   だから最期にせめて依頼をさせてくれ。
   報酬は$10,000,000だ。
   
   XYZ    香の笑顔を一生守り抜いて欲しい

                          Good luck!    from  Misty       』

部屋に戻りテレビをつけると各局同じニュースで盛り上がっていた。
それは差出人不明のまま、エイズ基金に$10,000,000もの寄付があったというものであった。
「奇特な人もいるものね。できたらこっちにも少し分けてもらいたいわ。」
女がそう呟くと男はバツが悪そうに苦笑いをした。


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