第八話:プレゼント

女はそわそわして待っていた。
ワンピースにパンプス、し慣れない化粧と着慣れない洋服のせいもあるがそれだけではなかった。
女を待たせている男が指定したレストランはあの街の中にあった。
(誰かに会ったらどうしよう・・・・。もしかして試されてる?)
色々な思いを巡らせていると、女を待たせいた張本人が駆け寄ってきた。
「ごめん、思ったより時間がかかってしまって。」
「もう、レディを待たせるなんて失礼よ。」
「済まない。・・・―香。」
「何?」
「とっても綺麗だよ。」
言われ慣れない言葉に女は赤面した。
「だって・・・そういう約束でしょ。」
女は照れ隠しにそう言って微笑んだ。
女は男にエスコートされレストランの店内へと足を踏み入れた。
レストランの中は夢の空間が広がっていた。
毛足の長い絨毯にシャンデリア、ずらりと並べられた銀のカトラリー、聞こえてくる楽団の生演奏・・・
以前の女の生活には無い華やかさを称えていた。
男に勧められるままに女は席についた。男は慣れたように席につき、注文をした。
「テッド、あなたここよく来るの?」
「まあね。仕事でよく使うんだよ。」
「なんだか、あたしには似つかわしくないわね。」
「そんなことないさ。君は自分の魅力をもう少し自覚したほうがいい。」
女は男の言葉に照れくさそうに笑みを浮かべた。
「香。これからもなるべくそうやって笑っていてほしい。」
「・・・・うん。」
男と女はこのレストランの贅沢な雰囲気と食事を堪能した。
女はこの男と生活してきた中で一番多くの笑顔を見せ男との時間を楽しんだ。
このレストランがあの街の中にあるのも忘れるほど。
一方男は女の笑顔を堪能すると同時に視界の端に女のかつてのパートナーの姿を捉えていた。
男は時計を見やった。
「失礼、ちょっと電話をかけてくるよ。」
そう言って男はしばし席を立った。
女は男が戻るのを待ちながら現実世界に引き戻されるような感覚に襲われた。
(こうやって少しずつ忘れていくのね・・・・。でもまだこの街に足を踏み入れるのは早かったみたい・・・・。)
女は自身の動揺から無意識のうちにテーブルの上に飾られた花を手にとっていた。

「か・・・香・・・。」
気がつくと戻ってきた男が呆然と女を見つめ立ちすくんでいた。
そんな男の視線の先、テーブルの上を見やると、女が無意識にむしりとった花の花びらが散在していた。
「アハハハハ・・・・・。」
女は乾いた笑い方をした。
「そ・・・そろそろ出ようか・・・。」
「そ、そうね。」
そう言って男と女は席を立った。
(出入り禁止になるかも・・・。まいっか・・・。)
男は苦笑し女を愛車へとエスコートした。

車が自宅マンションの前に着くと男は時計に目をやった。8時45分―。
「香、車を車庫に入れてくるから、きみは先に部屋へ戻っていてくれないか?」
「わかったわ。」
そう言って女はドアを開け車から降りようとしたその時、ふいに男が声をかけた。
「香・・・。」
「なぁに?」
「今夜は・・・ありがとう。」
「いやね、気を遣いすぎよ。こっちこそお礼を言わなきゃだわ。準備はもう済んでいるの?」
「あぁ。完璧だ。」
「そう。あなたの事だものぬかりは無さそうね。」
そう言って女が降りようとした瞬間、男の手によって女は再び車内へと戻された。
気がつくと女は男の腕の中に抱かれていた。
「本当にありがとう・・・・。」
男が女の耳元で囁いた。女は抗せず納まったままでいた。
そして恥ずかしそうに男の腕をすり抜けると“戻るわね”というしぐさをみせて車を降りて行った。
(あんなに喜んでもらえるなんて・・・。なんか、恥ずかしいな・・・。)
女はクスッと笑って肩をすくめ、足取り軽くマンションの階段を駆け上がって行った。
男はそれを見届けると再び時計に目をやった。
9時―約束の時間だ。
物陰から男が現れ、運転席側にまわった。
「本当に良いのか?」
「何を言っている。早く引き取ってくれ。」
「お前・・・・、ひねくれてるな。」
「あなたに言われたくないですよ、冴羽。」
「元気でな。」
「ふ・・・、恋敵には不釣合いな挨拶ですね・・・・Good luck 冴羽。」
そう言い残すと、男は車を走らせた。

(香。これは僕からの最後で最大のプレゼントだよ・・・。)


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