俺んチのマンションの下にあるコンビニの脇で、いつものごとく友達と地べたに座り込んでだべってた。
「ケ〜イ〜!なぁなぁ聞いてくれよ〜う! 」
チャリに乗ってやってきたのは、俺の心の友、青木慶一郎。
小学校を卒業するとき、別の中学に行く俺に青木は「俺は絶ーー対、毎日ケイに会うかんな!」と宣言して、あれからもうすぐ1年。
その言葉通り、俺と青木はホントに毎日会っていた。
休みの日は俺がヤツんとこ行って一緒に遊んでるし、青木の部活がある日は夜、チャリでこのコンビニまで青木がやって来る。
雨にも負けず風にも負けず、いつ如何なる時もチャリでやって来る、ヤツはまさにゴールデン・チャリライダーだ。
(雪の日にもチャリでやってきた時はさすがにビックリして「なんで歩いてこないんだよー!」って言ったけど、「俺の辞書にはチャリ以外の交通手段は無いのだよ!田中くん!」とか言いやがった。馬鹿め。)
俺んチと青木んチはちょっと遠いい。
歩いてくのは面倒くさくて、でもわざわざバスに乗るほどでもない非常にびみょ〜〜な距離。
それに渋滞が多くって、バスが時間通りに来るかどーかもわかんないしバスに乗っても目的地まで何分かかるかは運次第なのだ。
その点チャリは裏道通れば10分くらいで着く。
現在青木はサッカー部で鍛えた黄金の足を使って、家からココまで最速四分ちょいって記録を打ち出している。(すげぇよ、青木。さすがゴールデン・チャリライダー!)
だから青木がチャリでココにやってくるのは、珍しいことでもなんでもないのだ。
いつもの変わりばえのしない日常の光景。
ただいつもと違ったのは、その日、青木が持ってきた知らせが、俺をどーんと落ち込ます俺にとってだけの『悪い知らせ』だったって事。
「今度ウチのそばにも新しくコンビニ出来るんだぜ〜ぇ!」
青木はチャリから降りるなり、なにやら目をキラキラさせ自慢げに新情報をかましてくれた。
「今月の22日オープンだってよ!しかも俺サマんちのすぐそばなんだぜ〜い!」
ニコニコと嬉しそーにブイっ!と青木めはVサインを出して、エッヘン!ってポーズを取っている。
(なんなんだよ、そのVサインは。おめーがコンビニ建てたワケじゃねーだろーが青木よ!)クソっ なんか口惜しい。
でも、このときはまだ俺の頭はちゃんと働いてなかった。
「マジかよ?」
「マジマジ。大マジ!あ〜これで夜中でもすぐ買い物できるぜぇ〜。しっかも!出来んのはあこがれの『セッ○〜ンイレ○〜ンいい気分〜♪』なんだなコレが!」
ああ、確かに駅のほうとか行っても無いよな、その店。
ってゆーか俺は入ったことねーし、見かけたこともないよ。
だからどんな商品があるか知んないし、何があこがれなんだかぜんぜんわかんねぇーよ、青木。
いや、違う。 違うぞ俺。
俺は今重大なことを聞いたんだよ。
そう、青木はなんて言った?
『ウチのそばにもコンビニが出来る』
ガーーーーン!
頭んナカでおんなじ言葉がぐるぐる回る。
『青木んチのそばにコンビニ』『青木んチのそばにコンビニ』『青木んチのそばにコンビニ』『青木んチのそばにコンビニ』
俺を奈落の底に突き落とす呪いの呪文のように。
なんでだよ.....
何処の誰だか知らないけど、なんであんな辺鄙なとこにコンビニなんて作るんだよ!
俺のショックも知らないで、青木はニコニコしながら自分チのそばに出来るコンビニの歌を楽しそーに唄ってやがる。
クソっ、馬鹿青木め。
「あ〜お〜きぃ〜〜」
地の底から響いてくるようなひっくーい声で青木を呼ぶと、ビクビクっとして青木が唄うのをやめジリジリと後退る。
「なに?なになに???!!!ケ〜イ恐いってばよおぉ ひぃ〜〜!」
あっ!なんにもしてねぇのに逃げ出しやがった。
クソっ、ここはニッコリ笑っておびき寄せるしかねーか。
「逃げるな青木くん!恐れることはない!君に聞きたいことがあるだけなのだよ!」
極上の笑顔で行ってやる。
「ふぇっ??」
ああ、戻ってきた戻ってきた。
まぬけヅラの青木をつかまえて、どーしても聞いておかずにいられない重要事項を聞く。
「どこだよ。」
「.....へっ?」
クソっ!
「コンビニだよ。コ ・ ン ・ ビ ・ ニ !!おまえんチのそばに出来るってゆーコンビニはどこに出来んだよ!」
「へっ?あっ!ああ〜」
やっと合点がいったのか青木は、ポン!っと手を打って
「あーはいはいコンビニね〜。神社の交番の向かいの角っこだよ〜。わかるでしょ?ウチから徒歩1分!」
はいっ?マジですか?
「ウソつけ〜あんなとこ。あそこデカイ家建ってたじゃんかよ〜 民家じゃんよ〜」
「ウソじゃないもーん。知らねぇけど売ったんじゃねーの?あっと言う間に更地になって、なんか建ててると思ったら今日看板作ってたんだよ。」
ダメじゃん!
交番の前なんて言ったら思いっきり中間じゃねーか!
アイツと俺んチのちょうど真ん中じゃん!
あんなとこにコンビニなんて出来たら.....。
「ケ ・ イ ・ちゃ〜〜ん♪」
人が真剣に悩んでんのにうるせーよ青木。
俺の顔をのぞき込んですけべっぽい顔してニヤニヤ笑うんじゃねえ。
「俺サマわかっちゃったぁ〜〜。なんでケイがいきなりくっらい顔して落ち込んでんのか〜。会えなくなっちゃうと思って寂しくってグルグル考え込んじゃってんだろー?」
ギクギクギクっ!
うそ.....
なんでなんでなんで!?どーして?どーして???!!!
誰も知らないはずなのに!誰にも....本人にだって言ってないのに!
いくら青木が心の友とはいえ、このコトは秘密にしてたしコイツの前でバレるような素振りだって見せてないはずなのに!
俺がアイツを好きだってこと、まさか青木気付いてたのか?
「ケ〜イ〜。俺サマにはなんでもお見通しだぜー。」
うそっホントに!?
俺は冷や汗ダラダラで、頭んナカパニック起こしてグルグル目眩までしてきた。
俺は青木が後ろから圧し掛かってきても、ギューって腕をまわしてシメつけてきても頭んナカぐちゃぐちゃで何も理解できなくて、ぼおーっとしてしまってた。
その間ヤツにほっぺにチューされたり、耳にベロ入れられたり、されたいホーダイされてた俺を正気に返したのは、耳元で青木が俺に言った言葉だった。
「俺んちのそばにコンビニ出来ちゃったら、みんなコッチまで来なくなってケイから離れて行っちゃうかも〜〜 なんて、また前みたく思ってたんだろ〜?
安心しろよ〜 アッチにコンビニ出来たって交番の前じゃ溜まれねーし、塾あるやつは結局コッチまで来るんだし。
なにより俺サマは一日一回は愛しのケイちゃんの顔みないと落ち着かないからなぁ〜〜v 俺に会えなくなるかもなんて、寂しがることなんてねぇぜベイベー! 愛してるよ〜〜ん、ケイ〜〜〜 v v」
バキッ!ドスッ!
我に返った俺がしたことはもちろん痴漢ヤローの青木に天誅をくれてやることだったことは言うまでもない。
「うぐぅ。ひっでぇケイ...マジみぞおち入ったって...」
おまえはすでに死んでいる青木。成仏しろ。墓は建ててやらねーけど。
まったく、気色悪いことすんじゃねーよ!馬鹿!
クソっ!バレたかと思って、マジでビビったじゃねーかよ。
アイツが好きだなんて、たとえ青木にだって知られたくない。
ふーーーーー。青木の勘違いでよかった。
でも、心臓に悪いようなこと言われて変なコトされたけど、俺が暗い顔してんのすぐ気付いて心配してくれたんだよな青木。
「毎日会う」って約束を律儀に守って、部活で疲れてるときも夜コンビニまでチャリでやってくる青木。
いつもバカばっかりやってるけど、やさしい良いヤツだって。俺にはもったいないくらいの友達だってわかってる。
殴ったりしてごめん。
言ったことないけど、ホントは俺お前にすっげえ感謝してるんだ。
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