俺が小4に上がったときこのマンションが出来て、俺んチはそれまで住んでた狭いアパートから少しだけ離れたここへ引っ越してきた。
その時出来たてのこのマンションの一階に、この町で初めてのコンビニもできたわけで、そのすぐ上に住んでる俺は学校じゃ、ちょっとした羨望のマトだったのだ。
(って言うと、なんかド田舎みてーだけどココは別にそんな田舎じゃねーぞ。)
たかがコンビニだけどここいら辺は純粋な住宅地で、夜遅くまで開いてる店なんてそれまでなかった。
なぜかファミレスはポツンと一軒あるけど、そんなとこ子供だけじゃ行けねー。
だからここのコンビニは、目の前が塾なせいもあってすぐ子供達の溜まり場になった。
それまでは『おでん売ってる駄菓子屋』とか『ゲーム置いてある文房具屋』とかにみんな溜まってたけど、早くに閉まっちまうソコより24時間営業のコンビニのほーがずっと居られる。
塾に行ってるヤツラは終わんのが19時半くらいだから、俺は夕飯の時間になったら一旦家に帰って、食ってから夜またココに来て友達とだらだら菓子とかつまみながら喋って遊んでしてた。
別になにするってわけでもなかったけど、ちょっと遅い時間まで子供だけで友達同士いるのがムチャクチャ楽しくって、早めに帰ってこいって親に言われてるヤツなんかは、いっつも俺に
「いいよなぁ〜恵んちは〜 すぐ上だから最後まで居れるもんな〜」
とか言ってて、なごり惜しそーに帰ってく友達を見ては俺は優越感を感じたもんだ。
そして中学に上がった今では、俺にとってコンビニは小学校の時の友達に会える貴重な場所になっていた。
小4で引っ越したときは、ホントは学区外になって転校しなきゃならなかった。
でも、隣の学区になっただけで歩いて通えない距離じゃなかったから、転校なんてことはしなかった。
俺も学校通うのが遠くなったって言ってもせいぜい10分くらい余計に歩くだけだったし、学区が違うなんて言われてもその時はぜんぜんピンとこなかったんだ。
友達んチに遊びに行く時はいつもチャリンコだったし、下に降りればコンビニに学校のヤツがいつも誰かしら居たから、ずっと、このまんま楽しく過ごしてくんだと思ってた。
だから卒業する頃になって、俺が通う中学にウチの小学校から行くヤツが一人もいないってわかった時は、もうすっげぇショックだった。
思わず親に
「みんなとおんなじ学校行かせてくれ!行かせてくれなきゃ学校行かねー!!」
って泣きついたもん。
「しょーがないでしょ!学区が違うんだから。制服だって作っちゃったんだからムリ!絶ーー対っだぁめ!」
って速攻却下されたけど。
それから俺はずーっと暗〜く暗〜くどよ〜んと過ごすことになった。
実は俺は結構人見知りだったりする。
人からはそう見られないが....
(悩んで友達に言ったら後頭部にツッコミの嵐だったぜ。クソっ。青木だけは俺の人見知りサンをわかってくれてるのが救いだ。心の友よ!)
だからひとりぼっちで違う中学に行くのが嫌で嫌でしょうがなかった。
しかも俺の行く中学は隣に小学校があるんだ。
つまりほとんどがその小学校からの持ち上がりなヤツらなワケで。みんなすでに友達グループが出来てるなかで俺だけ一人ってことだ。
自慢じゃないが、知らないヤツに自分から話しかけるなんてことは、俺サマには絶対できない。(断言!)
だって、話しかけて友達ゲッチュ〜してくるのは青木の役目だったんだもん。(ぐあ!)
情けないけど今まで俺がいじめも受けず、小学校の6年間楽しくやってこれたのは青木サマサマが居たおかげだ。
1年から6年まで奇跡的にずっとおんなじ組であったおかげで、クラスで孤立することもなく友達いっぱい、明るい俺サマ!でいられたのだ。
ここに越してきたときは、広くて自分用の部屋もあって、すぐ下がコンビニ!なんてナイスな物件を買った親に感謝していたのに、「こんなことになるなら前のボロアパートにいたほーが良かった」なんて、真剣に思って親を恨んだ。
でも、マジでくら〜く落ち込んで、くさった死体みたいにデロデロになって触ったら毒にでも冒されそうなほど荒れ果てた俺を、みんなが心配して助けてくれた。
仲の良い友達は
「俺達コンビニの常連なんだから学校が違っても毎日会えるじゃん!」
って言って励ましてくれたし、さらには、俺と同じ中学に上がる塾の友達を何人か紹介してくれりもした。
紹介してもらったヤツらは気さくな良いヤツで
「同じクラスになれるかはわかんないけど違うクラスでも仲良くしようね〜」
って、言ってくれて友達になったし。
青木からは
「ケイちゃんってば構いたくなる顔してるから、知らない人ばっかでも絶対向こうから話しかけて来るって!すっぐに友達できるよ〜。俺サマが保証しまっす!」
って変な太鼓判を押してもらった。
(構いたくなる顔ってどんなカオだよ 青木よ....。)
ほかにも色々と泣き言聞いてもらったり、家出に付き合わせたり、あの時青木にはずいぶんと迷惑かけたし、色々元気づけてもらった。
(青木が俺に「毎日会う宣言」をしたのはこのときのことがあったからだと思う。)
そんなことが色々あって、卒業間近になる頃には、みんなのおかげで一人で別の中学に行く不安はあんまり感じなくなり、俺はだんだんと落ち着きを取り戻して「もう大丈夫!」って、思えるようにまでなったんだ。
ただ、心のなかにちょっとだけモヤモヤーっとしたもがあって、サッパリと晴れることはなかったんだけど...。
でも俺は、自分が卒業式でまさか泣いてしまうなんて思ってもいなかった。
なのに、俺は卒業式ではみっともなくもボロボロ大泣きしてしまったんだ。
俺の小学校の卒業式は、大体のヤツがみんな同じ中学に行くことになってたから、まあ、小学校が終わるだけって感じで『お別れ』って、しんみりしたムードは無かったから、しゃくりあげるくらい泣いてんのなんて俺だけだった。
おんなのコでさえ薄っすら涙を浮かべてる程度だったと思う。
春休みのあとにはまたみんな学校で会えるし、先生に会えなくなるのが泣くほど悲しい、なんてヤツもいなかったし。
でも俺は涙が出てきて止まらなかった。
俺がひとりだけ違う中学に行くことみんな知ってたから、俺が派手にボロボロ泣いててもきっと不思議には思わなかっただろう。
違う学校行くのが、みんなと別れるのが悲しいんだって、だから泣いてんだって、きっと思われてた。
でも、あのとき泣いちゃったのは本当は違うんだ。そうじゃなかったんだ。
当たってないワケじゃないし、実際そのことが嫌で悲しくもあったんだけど、卒業式のときにはもうその気持ちは大分落ち着いてきてたんだから。
卒業式の途中まで俺はぜんぜん平気で、かったるいな〜とか思ってたくらいで、
「たなか けい」
って自分の名前呼ばれた時はドキドキしたし、卒業証書を受け取る時にはさすがに緊張したけど、感動するとか悲しいとかは思わなくって、涙がでる気配なんてまるっきりなかったんだ。本当に。
でも、席に戻ってぼーとしてた俺の耳に、アイツを呼ぶ先生の声が聞こえて......。
壇上に上がったアイツの姿を見た時、胸がギュウって締め付けられた。
知らないうちに涙が出て、ノドがひりひり痛くなって。
いつも、心のどっかにポツンと引っかかってはいたけれど、その気持ちはちっちゃくって、なんなのかわからなかった。
誰にも言わなかった、親友の青木にさえ言わなかった気持ち。
いや。言わなかったってゆうより言う必要なかった。
だって、卒業式でその時のアイツを見るまで、俺は自分でもその気持ちに気付かなかったんだから。
俺もアイツも男だし、そんなことぜんぜん考えもしなかった。
あの時泣いたのは
卒業式で泣いちゃったのは
自分の気持ちに気付いたから。
なのに、
もう、学校に行ってもアイツの姿は見れないんだ。
アイツには会えないんだ。
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